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覇道戦国 ~鳳凰寺家、天下統一…その先へ~  作者: 1009


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第四十三章 ―西日本、鳳凰の翼の下に―

一 帰国する者たち

四国の戦が終わった。

観戦武官たちは、それぞれの領国へ帰っていった。

馬に乗り、船に乗り——それぞれが、見たものを胸に抱えて帰った。


豊後、大友家。

立花道雪が帰還した。

家臣たちが出迎えた。

「道雪殿。四国の戦はいかがでしたか」と家臣の一人が問うた。

道雪は馬から降りた。

しばらく——何も言わなかった。

「道雪殿?」

「……静かにしてくれ」と道雪は言った。「俺は今、頭の中を整理している」

家臣たちが黙った。

道雪は空を見た。

四国の空を飛んでいた鉄の化け物が、まだ目の前にあるようだった。

城が夜のうちに落ちた光景が、まだ見えるようだった。

敵の負傷兵を手当てする鳳凰寺の医療班が、まだそこにいるようだった。

「——全部、本当だった」と道雪はようやく言った。

「何が、ですか」

「毛利で熊谷殿が言ったということが。全部、事実だった」


肥前、龍造寺家。

鍋島直茂が帰還した。

龍造寺隆信が待っていた。

「どうだった」と隆信は問うた。

直茂は座った。

「……殿」と直茂は言った。「俺は今まで、様々な戦を見てきました」

「そうだな」

「しかし——あれは、戦ではありませんでした」

隆信が眉を動かした。

「戦ではない、とはどういうことだ」

「相手が攻撃できる距離に、鳳凰寺の兵がいません。しかし鳳凰寺からは一方的に攻撃される。城は夜のうちに裏から落とされる。空から声が降ってくる。海は完全に塞がれる」

直茂は少し間を置いた。

「戦ではなく——狩りです。鳳凰寺が俺たちを、圧倒的な力で狩る。そういうものでした」

隆信は黙った。

「それで——直茂。お前はどう判断した」

「鳳凰寺には——絶対に逆らってはならない」と直茂は言った。即座に。「しかしそれ以上に——」

「以上に?」

「鳳凰寺と共に動ける者は、この乱世で最も良い位置に立てます。敵にすれば終わり。しかし——本当の意味で共に動ければ、俺たちにとっても大きな利益になります」

隆信はしばらく考えた。

「……そうか」


吉田郡山城。

桂元澄が帰還した。

毛利元就が、広間で待っていた。

元春と隆景も同席していた。

桂元澄は座った。

「見てきたものを、全て話せ」と元就は言った。

桂元澄は話した。

空を飛ぶ鉄の化け物。

見えない距離からの砲撃。

夜の城への降下。

敵の負傷兵への手当て。

全てを話した。

広間が——静まり返った。

元春が、拳を握っていた。

しかし——何も言わなかった。

元就は桂元澄の話を、最後まで黙って聞いた。

「——以上です」と桂元澄は言った。

元就はしばらく目を閉じた。

「元春」と元就は言った。

「はい」

「お前は今、何を思っている」

元春は少し間を置いた。

「……悔しい、と思っています」と元春は言った。「しかし父上。俺は今日、桂の話を聞いて——初めて理解しました」

「何を」

「熊谷殿が言っていた言葉の意味を」と元春は言った。「戦にさえならない、と。俺はあの言葉を、誇張だと思っていました。しかし——」

「違った、ということか」

「はい」と元春は言った。「事実の描写でした」

元就は目を開けた。

「隆景」

「はい」

「毛利はこれからどう動く」

隆景は少し間を置いた。

「……鳳凰寺に、改めて臣従します」と隆景は言った。「今まで恭順という言葉を使ってきました。しかしそれでは不十分です。臣従します。無条件で、全面的に」

元就は頷いた。

「それがワシの判断でもある」


二 書状、届く

七島の執務室。

成瀬が、書状の束を持ってきた。

分厚い束だった。

「殿」と成瀬は言った。「また届きました」

「全部で何通だ」と時貞は問うた。

「現時点で——大名・国人合わせて、六十七通です。まだ届いていない分もあります」

「内容は」

「全て——同じです」と成瀬は言った。「鳳凰寺への臣従の申し出です。今まで恭順という立場でしたが、改めて臣従すること、これからは鳳凰寺と共に歩み続けること、鳳凰寺の取り決めに無条件で全面的に従い協力することを——それぞれが誓っています」

時貞は束を手に取った。

一通、一通、確認した。

大友宗麟。

龍造寺隆信。

鍋島直茂。

立花道雪。

毛利隆元。

吉川元春。

小早川隆景。

九州の国人たち。

中国地方の国人たち。

全員の名前が、そこにあった。


「天元」と時貞は呼んだ。

「はい」と天元が答えた。

「今この瞬間——西日本の全ての大名と国人が、鳳凰寺に臣従したと言えるか」

「はい」と天元は言った。「現時点で確認できている全ての勢力が、臣従の意を示しました。未確認の小規模な国人が数名いますが——大勢に影響はありません。実質的に——西日本の全ての大名・国人が、鳳凰寺の臣下となりました」

参謀室が、静かになった。

誰も、何も言わなかった。

「……」

時貞は書状の束を机に置いた。

しばらく——動かなかった。

(西日本の全ての大名と国人が、鳳凰寺の臣下になった)

この乱世に来て——四年。

十二歳だった時貞は、今、十六歳になっていた。

四年で——ここまで来た。

しかし。

(まだ、やることがある)

時貞は顔を上げた。


三 吉良親実、再び

その翌日。

吉良親実が、四国の代表として時貞の前に現れた。

「四国の全ての大名・国人を代表して——参りました」と親実は言った。

「聞かせてください」と時貞は言った。

「四国の全ての勢力が——鳳凰寺に臣従いたします」と親実は言った。「今まで抵抗した者も含めて、全員が、鳳凰寺の取り決めに従うことを誓います」

時貞は親実を見た。

「親実殿」と時貞は言った。

「はい」

「元親殿の墓参りの後——親実殿が動いてくれたからこそ、こうなりました。感謝します」

親実は少し間を置いた。

「……元親様が動かせなかったことを、俺が引き継いだだけです」と親実は言った。「それが——元親様への俺の答えです」

時貞は深く頷いた。

「四国の統治について——親実殿の力を借りたい。長宗我部家が四国の民を長年治めてきた経験を、鳳凰寺の統治に活かしたい」

「はい」と親実は言った。「喜んで」


四 天元の報告

その夜。

天元が、全幹部を集めた報告を行った。

「西日本の全ての大名・国人の臣従が確認されたことを受けて——今後の統治について、三つの方針を提案します」

時貞が「聞かせてくれ」と言った。


「一つ目——統治制度の整備案です」と天元は言った。

「はい」と浜村が続けた。「統治研究部門と天元が共同でまとめた案です。基本構造は三層です」

浜村は図を広げた。

「頂点は帝です。これは変わりません。その下に鳳凰寺政務府を置きます。帝の承認のもとで西日本全体の政を動かす実務機関です。その下に三つの層を置きます。直轄領、恭順大名、国人・地侍の三層です」

「直轄領では代官制度を導入します。各地に代官を置き、その上に監察官、さらにその上に地方総督を置きます。九州総督・四国総督・中国総督の三名体制です」

「恭順大名には五つの条件を課します。法の統一、監督者の受け入れ、軍役の義務、教育と医療の導入、直訴制度への参加です」

「直訴制度は重要です。民が大名の不当な扱いを鳳凰寺に直接訴えられる仕組みです。これにより大名が横暴にならないよう牽制します」

成瀬が言った。「税制は」

「収穫量に応じた一律の農業税を基本とします。現在の戦国の税より低い税率にします。民が豊かになれば市場が活性化し、流通税・港湾税で補えます」

「それに加えて」と浜村は続けた。「以下の制度を段階的に導入します」

浜村は一覧を示した。

政教分離。兵農分離。宗教の信仰の自由。廃刀令。一揆の禁止。宗教団体の武装解除。

「全て一度にはやりません」と浜村は言った。「優先順位をつけて、段階的に進めます。最優先は宗教団体の武装解除と廃刀令です。民が安全に暮らせる環境を作ることが先です」

「わかった」と時貞は言った。「この方針で進める」


「二つ目——軍政整備案です」と天元は言った。

成瀬が地図を広げた。

「統合総合指令部の下に、四つの方面指令部を置きます。七島総合指令部、九州方面総合指令部、四国方面総合指令部、山陰山陽方面総合指令部の四つです」

「装備について説明します。七島本軍は現代最新装備を維持します。各方面軍の陸軍は三八式歩兵銃を主力とし、海軍は蒸気機関搭載の第二次世界大戦期の日本艦をモデルとした艦艇を配備します」

「なぜその装備か」と朝比奈が問うた。

「方面軍が強くなりすぎれば、謀反のリスクが生まれます」と成瀬は言った。「本軍との絶対的な格差を維持することで、どの方面軍が反旗を翻しても、本軍が必ず鎮圧できる構造を作ります」

「それに加えて」と天元が言った。「各方面軍には武士団を編成します。近代軍に馴染めない老将や武士たちのための部隊です。役割は補助・地域連絡・治安維持の補助に限定します。しかし彼らへの教育として——西洋の軍事戦略書を翻訳して学ばせます。クラウゼヴィッツの戦争論、孫子の新解釈など、乱世の武将に新しい視点を与えます」

「道雪殿に武士団に入ってもらうのは——どうですか」と倉橋が言った。

「道雪殿には九州方面の武士団の長を依頼したいと思っています」と時貞は言った。「その話は直接、道雪殿に。吉川元春殿には山陰山陽武士団の長を。吉良親実殿には四国武士団の長を依頼します」


「三つ目——西日本統治の本拠地についてです」と天元は言った。

「現在、九州本拠地が鹿児島の北に建設中です。この施設は九州方面の軍事・行政の中心として維持します。天道もここに設置されます」

「西日本全体の統治の中心として——博多・筑前を本拠地として整備することを提案します」

「博多を選ぶ理由は三つです」と天元は続けた。「一、海外戦略との一致。琉球・台湾・アラスカへの航路の起点として博多は最適です。二、経済的価値。博多はすでに西日本最大の貿易都市です。三、政治的中立性。博多は特定の大名の色が薄く、新しい政治の中心として受け入れられやすい」

「将来的には広島・安芸への移転も視野に入れます。地理的に西日本の中心であり、統治が安定した段階で本拠を移すことを計画します」

「つまり三拠点体制です」と浜村がまとめた。「七島が鳳凰寺の心臓部。鹿児島北部が九州の軍事・行政の中心。博多が西日本の政務・経済・外交の中心です」

時貞は頷いた。

「全て採用する。段階的に進める。急がない」

「御意」と全員が応えた。


五 建設、進む

四国では。

宿毛湾の軍港建設が進んでいた。

太平洋に面した天然の良港が、少しずつ形を変えていった。

地元の民が雇われた。

銭が渡った。

港の形が、日に日に変わっていった。

徳島の平野では。

航空基地の滑走路の基礎工事が進んでいた。

平坦な地形が、建設を助けていた。

「殿」と工兵部長が時貞に報告した。「宿毛の軍港は——来年の春には第一期が完成します。徳島の滑走路は——秋までに基礎が完成します」

「わかった」と時貞は言った。「急がなくていい。しかし止まるな」


六 前久からの急報

夜。

七島に、前久からの書状が届いた。

今まで届いた前久の書状の中で——最も急いで書かれたものだった。

字が乱れていた。


時貞殿へ。急報。一刻を争う。

義昭殿が——ついに動いた。

信長への包囲網が、表面化した。

武田信玄が西上を開始した。

朝倉義景が動いた。

浅井長政が動いた。

本願寺が兵を挙げた。

各地で信長への包囲が形成されつつある。

信長は苦境に立っている。

東に武田。北に朝倉・浅井。西に本願寺。

四方を囲まれた形だ。

帝は——深く憂慮されている。

京が戦場になることを、最も恐れておられる。

時貞殿。

帝の御身が危ない。

鳳凰寺は——どう動くか。

俺は今夜、帝のそばを離れない。

近衛前久より。


時貞は書状を読んだ。

読んで——机に置いた。

全幹部が、時貞を見た。

「天元」と時貞は呼んだ。

「はい」と天元が答えた。「状況を分析済みです。武田信玄の西上が最大の脅威です。信長は三方ヶ原方面に軍を向けざるを得ません。その間、京の防備が手薄になる可能性があります」

「信玄の健康状態は」

「西上作戦を継続できる状態ではない可能性があります。しかし——それが判明するのは、まだ先です」

「帝の御身は」

「前久殿がそばにいます。しかし——もし京が本格的な戦場になれば、前久殿一人では守れません」

時貞は立ち上がった。

「成瀬」と時貞は言った。

「はい」と成瀬は言った。

「前久殿に返書を書く。そして——七島本軍に、準備を命じてくれ」

「準備、とは?」

「帝の御身に何かあれば——即座に動ける部隊編成の準備だ」と時貞は言った。「今すぐ動くわけではない。しかし——準備だけは、即座に整える」

「御意」

「それと」と時貞は言った。「信長へも書状を書く」

「信長殿に何を」

「今の状況を、俺は全て知っている。その上で——鳳凰寺は帝を守ることだけを考えると伝える。信長の助けには動かない。しかし——帝が危険な状況になれば、鳳凰寺が動くと」

「信長殿は——その言葉をどう取りますか」

「わかっている男だ」と時貞は言った。「正確に理解する」


時貞は筆を取った。

前久への返書を書いた。


前久殿へ。

書状、受け取りました。

帝のそばにいてください。

それが今、前久殿にできる最善です。

鳳凰寺は——準備します。

帝の御身に何かあれば、即座に動きます。

しかし今すぐ動くわけではありません。

信長殿が今の状況を打開するまで、俺たちは待ちます。

前久殿。一つだけ聞かせてください。

帝は——今、何をお望みですか。

時貞より。


封じた。

成瀬に渡した。

時貞は窓を開けた。

夜の海が広がっていた。

西日本の全ての大名と国人が、臣下になった夜に——京から急報が来た。

(乱世は——止まらない)

時貞は空を見た。

(急がない。しかし——止まらない)

(帝を守ること。それが今の俺の答えだ)

夜の風が、鳳凰寺の旗をはためかせた。

西日本の全てが、その旗の下にあった。

そして——その旗が、次にどこへ向かうかを、乱世が問いかけていた。


(第四十四章へ続く)

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