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覇道戦国 ~鳳凰寺家、天下統一…その先へ~  作者: 1009


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第四十章 ―九州の声、鳳凰の本気―

一 うねり

声は——突然、現れた。

九州全土で、同時に。

市場で。港で。村の広場で。


「四国の長宗我部を毒殺したのは——実は三好だったらしい」

「それを鳳凰寺のせいにして、三好が四国を統一する腹積もりだとか」

「三好は鳳凰寺との戦に備えるつもりだ」

「四国の民たちは——その戦の準備のせいで、重税に苦しんでいるらしいぞ」


最初は小さかった。

しかし——日に日に、声は大きくなった。

大きくなりながら——一つに束なっていった。

「三好は許せねぇ」

「鳳凰寺様を陥れるやり方が汚すぎる」

「三好許すまじ」

「三好に味方する四国の連中も三好と同じだ」

「三好を討つべし」

「三好に加担する者共も一緒に成敗すべし」


九州だけではなかった。

毛利の領内——山陰、山陽の一部にまで、その声は届いていた。

声は、うねりになっていた。


二 三人の使者

七島に、三人が訪ねてきた。

大友から立花道雪。

龍造寺から鍋島直茂。

桂元澄は毛利元就の名代として。

三人が執務室に入った時、時貞は少し驚いた。

大友、龍造寺、毛利。

三家が——同時に使者を出してきた。

「殿」と道雪は言った。開口一番に。「まずいことになっています」

「聞かせてくれ」と時貞は言った。

「九州全土で——三好討つべしの声が、想像以上に大きくなっています」と道雪は言った。「俺が抑えようとしても、もう抑えが利かなくなりつつある」

直茂が続けた。

「龍造寺領でも同じです。一部では、四国との戦に備えて独自に動き始めている者まで出ています。他の大名や国人たちの中にも、同様の動きがあります」

桂元澄が静かに言った。

「毛利の領内でも——声は届いています。元就様は、時貞殿の方針をお聞きしたいとおっしゃっています」

時貞は三人を見た。

「それだけか」

道雪が少し間を置いた。

「いいえ」と道雪は言った。「俺からも、直談判があります」

「何だ」

「四国に侵攻する時は——俺たちを使ってください」

直茂も頷いた。

「龍造寺も、同様に申し上げます。ここまで民の声が大きくなると、四国との戦は避けられません。その戦に——我々を加えてほしい」

桂元澄は深く頭を下げた。

「毛利家中からも、同様の声が上がっています。元就様は今のところ静観の構えですが——時貞殿の方針次第で、対応を決めるとのことです」

時貞はしばらく、三人を見ていた。

(道雪殿が直接来た)

(直茂殿も来た)

(毛利まで動いた)

この九州で起きているうねりが、どれだけ大きなものか——この三人の顔が示していた。

「わかりました」と時貞は言った。「説明します」


三 時貞の方針

時貞は机の前に座った。

三人が向き合った。

「まず——俺たちがやったことを話します」と時貞は言った。

「はい」

「四国に侵攻を決めた後、三好と四国の国人たちに書状を送りました。戦わずに済む道があるなら、そこを選ぶという意図で」

「どういう反応でしたか」と直茂が問うた。

「無視か——鳳凰寺に対する敵意剥き出しの返答しかなかった」と時貞は言った。「四国では、帝の綸旨についても『帝は鳳凰寺に騙されているだけ』という意見が正当な主張とされている状況です」

道雪が眉をひそめた。「帝の綸旨を、そのように扱うとは」

「それが——今の四国の状況です」と時貞は言った。「久秀の謀が、それだけ深く四国に根を張っている」

「長宗我部家の状況は」と桂元澄が問うた。

「吉良親実殿から返書が届きました」と時貞は言った。


書状の内容を、時貞は三人に話した。

長宗我部家は、元親が亡くなって完全に家中が割れた。

一部は鳳凰寺に加勢して三好と戦おうとしている。

一部は——三好に加勢して鳳凰寺を追い払おうとしている。

そして吉良親実自身は——自分の決断を書いていた。

「親実殿は——どう決断されましたか」と道雪が問うた。

「親実殿の決断については、今は話せません」と時貞は言った。「しかし——動いてくれます」

三人が顔を見合わせた。

「信じているのですか。長宗我部の家老を」と直茂が言った。

「信じています」と時貞は言った。「元親殿が信じた男だから」


「方針を伝えます」と時貞は言った。

三人が聞いた。

「今回の四国侵攻は——鳳凰寺だけで制します」

三人が少し動いた。

「鳳凰寺だけで」と道雪が言った。

「はい。理由は二つです」と時貞は言った。「一つ——鳳凰寺の本気を、一度はっきりと見せる必要がある。今回の件で、俺たちの力がどういうものかを、四国の民と国人たちに直接示す。それが今後の統治を楽にします」

「二つ目は」

「皆さんの兵を、この戦で消耗させたくない」と時貞は言った。「大友、龍造寺、毛利——それぞれに、これから必要な場面があります。四国という場所で、その力を削る必要はありません」

道雪が少し間を置いた。

「しかし——我々を全く使わないと、九州の民の声が」

「そこで、お願いがあります」と時貞は言った。

「何ですか」

「観戦武官として——参加してください」

三人が、時貞を見た。

「大友、龍造寺。九州の他の大名と国人の一部。毛利の代表と一部の大名。この戦を、第三者の目で直接見てもらいたい。鳳凰寺がどういう戦い方をするか。どれだけの力があるか。それを——あなたたちの目で直接確かめてほしい」

「……それは」と直茂が言った。「俺たちへの見せしめでもある、ということですか」

「正直に言います」と時貞は言った。「そうです。隠しません。この戦で鳳凰寺の本気を見ることで——今後、俺たちと向き合う全ての者が、正確な判断をできるようになります。それは俺にとっても、皆さんにとっても、無駄のない関係を作ることに繋がります」

沈黙があった。

道雪が、ゆっくりと頷いた。

「——わかりました。俺は観戦武官として参加します」

直茂も頷いた。

「龍造寺も、同様に鳳凰寺の戦ぶりを観させていただきます」

桂元澄は少し考えてから言った。

「元就様に、この話を持ち帰ります。おそらく——毛利からも、参加を認めるかと思います」

「ありがとうございます」と時貞は言った。

「一つだけ」と道雪が言った。

「何ですか」

「この戦——鳳凰寺は、勝てますか?」と道雪は問うた。真剣な目で。

時貞は道雪を見た。

「鳳凰寺がこの戦に負けることは——絶対にありません」と時貞は言った。

言い切った。

迷いが、一つもなかった。

道雪がその目を見た。

そして——深く頷いた。

「——わかりました。信じます」


四 松永久秀への関心

三人が帰った後。

執務室に、成瀬と幹部たちが残った。

「天元」と時貞は呼んだ。

「はい」と天元が答えた。

「九州全土で起きているこのうねり——三好討つべしの声。これを作ったのは誰か、改めて分析してくれ」

「はい」と天元は言った。「分析済みです。このうねりの発生源と広がり方を追うと——複数の拠点から、計算された順番で噂が流れています。九州の主要な市場、港、街道の宿——全ての要所を押さえた形で、情報が流れています。これは偶然ではありません。意図的に設計された情報拡散です」

「設計した者は」

「松永久秀です」と天元は言った。「間違いありません。この精度で情報を設計できる人物は、久秀以外にいません」

時貞は少し笑った。

声のない、しかし——本当に感心したような笑いだった。

「久秀か」と時貞は呟いた。

「殿?」と成瀬が言った。

「いや——ここまで来たら、感心するしかない」と時貞は言った。

幹部たちが、少し驚いた顔をした。

「久秀は——最初の一手で四国を動かした。次の一手で俺たちに四国侵攻の大義名分を与えた。そして三手目で——九州全体を、三好討つべしのうねりに変えた」

「三手、全てが繋がっている」と浜村が言った。

「そうだ」と時貞は言った。「しかも——それぞれの手が、絶妙のタイミングで打たれている。早すぎず、遅すぎず。ここぞという時に、確実に」

「久秀の手足の長さが——想像を超えています」と天元は言った。「私の分析では、久秀は少なくとも一年前から、今日の状況を想定していた可能性があります」

「一年前から」と成瀬が言った。

「元親の周辺に忍を送り込んだのが一年前です。つまり——一年前には既に、今日のこの状況の輪郭が、久秀の頭の中にあった」

「実にいやらしい一手を——ここぞという時に確実に打ってくる」と時貞は言った。「久秀の手足の長さに、俺は驚いている」

「それで——久秀の真の目的は何だと、殿はお考えですか」と木島が問うた。

「まだわからない」と時貞は言った。「しかし——久秀は俺たちを潰したいわけではない。潰したければ、もっと違う手を打っている。久秀は——俺たちを利用しようとしている。あるいは、俺たちと何らかの形で繋がりたいと思っているのかもしれない」

「繋がりたい、と?」

「三好の先が見えているのかもしれない」と時貞は言った。「三好が落ち目になった後の世界で、生き残る道を探している。その道の中に——鳳凰寺が関わっている」

「久秀との関係は——将来、どうなりますか」と浜村が問うた。

「わからない」と時貞は言った。「しかし——いつか、直接向き合う日が来る。その時に、全てがわかる」


五 熊谷への命

翌日。

熊谷新兵衛が、執務室に呼ばれた。

時貞と向き合った。

「熊谷」と時貞は言った。

「はい」と熊谷は答えた。

「四国侵攻の主役は——鳳凰寺陸軍だ。お前に指揮を任せる」

熊谷の目が、わずかに光った。

「承知しました」

「命令を伝える」と時貞は言った。「二つだ」

「はい」

「第一——鳳凰寺の生存権を確保すること。俺たちが四国に向かう正当な理由を、行動で示せ」

「はい」

「第二——相手の無力化だ。相手はなるべく殺さず、被害は少なくする」

熊谷が少し間を置いた。

「なるべく、という条件は」

「ある」と時貞は言った。「それも——鳳凰寺の兵に被害がないことを前提とする。鳳凰寺の人間の無事が、全てに優先する。自分たちが傷つくことで相手を殺さないようにする、などということは求めない。わかるか」

「はい」と熊谷は言った。「我々が傷つくことを前提とした慈悲は、求めない。自分たちが無事であることが最優先。その上で——相手の無力化を最小限の被害で行うということでしょうか?」

「そうだ」と時貞は言った。

熊谷は深く頷いた。

「御意にございます」

「観戦武官が来る」と時貞は続けた。「道雪殿、直茂殿、毛利の代表、九州の大名と国人の一部。彼らが見ている中での戦になる」

「見せる戦、ということですね」

「そうだ。鳳凰寺がどういう戦い方をするかを、全員が見る。それが——今後の俺たちの立場を作る」

時貞は熊谷を見た。

「熊谷」

「はい」

「この戦に——最善を尽くせ」

熊谷は、時貞をまっすぐに見た。

そして——鳳凰寺式の敬礼をした。

「はっ、鳳凰寺軍一同、最善を尽くします」


六 四国の空

準備が、進んだ。

鳳凰寺陸海空三軍が、静かに、しかし確実に動き始めた。

七島の港では、艦が整列した。

基地では、航空機が準備を整えた。

陸軍の部隊が、装備を確認した。

熊谷が指揮を執り、全員が動いた。


観戦武官たちが、指定の場所に集まり始めた。

道雪が来た。

直茂が来た。

毛利から桂元澄が来た。

九州の大名と国人たちが、それぞれの代表を送ってきた。

全員が——鳳凰寺の準備を見た。

何かが違うことは、全員が感じていた。

しかし——何がどう違うのかは、まだ誰にもわからなかった。

それが間もなく、わかる。


四国の空に——変化が生まれたのは、早朝だった。

音が来た。

轟音だった。

四国の上空を、複数の鉄の化け物が飛んだ。

AH-64Dが、四国の各地の上空を、低く飛んだ。

城の上を。

街の上を。

三好の陣の上を。


四国の者たちが、空を見た。

腰を抜かした者もいた。

逃げた者もいた。

しかし——誰も、それを止めることができなかった。


観戦武官として来た道雪が、空を見上げた。

しばらく——動かなかった。

直茂が横で言った。

「……道雪殿」

「黙っていてくれ」と道雪は言った。静かに。「今、俺は——この光景を、自分の目に焼き付けている」

直茂も黙った。

空を見た。

鳳凰寺の鉄の化け物が、四国の空を飛んでいた。

それが——答えだった。

「なぜ時貞殿が——絶対に負けないと言い切るか…」と直茂は呟いた。

誰も、答えなかった。

答えは、空にあった。

桂元澄は空を見上げたまま、動かなかった。

元就が熊谷の言葉を信じると言った理由が——今、完全にわかった。

(毛利が十万の兵を揃えても、戦にさえならない)

(一方的な虐殺が始まるだけだ)

熊谷の言葉が、耳の中で響いていた。

(元就様は——これを知っていた)

桂元澄はゆっくりと、空から視線を降ろした。

そして——深く、息を吐いた。


七 七島の時貞

七島では。

時貞は報告を受けながら、四国の方角を見ていた。

「天元」と時貞は呼んだ。

「はい」と天元が答えた。

「久秀は今——何をしていると思う」

「…わかりません」と天元は言った。「のんびりと、茶の湯をしている可能性も考えられます」

時貞は少し笑った。

「そうか」

「時貞様」と天元は言った。

「何だ」

「久秀は——今回の戦の結果を、既に知っているかもしれません。三好が負けることを、わかった上で動いています。そして三好が負けた後に——自分がどう動くかも、既に決めている可能性があります」

「つまり——俺たちが四国を手に入れた後に、久秀が動く」

「はい。その時が——久秀の真の目的が明らかになる時です」

時貞はしばらく考えた。

「待つしかない、か」

「はい。久秀のことは——今は、四国が片付いた後に考える問題です」

「そうだな」と時貞は言った。「一つずつ、片付けていく」

四国の空に、鳳凰寺の影が差し込んでいた。

その影は——静かに、確実に、広がっていった。

この乱世で初めて、鳳凰寺が自らの意志で仕掛けた戦が——始まっていた。


(第四十一章へ続く)

いよいよ開戦しちゃいますよー٩(°̀ᗝ°́)وぉぉ~!

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