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覇道戦国 ~鳳凰寺家、天下統一…その先へ~  作者: 1009


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第三十三章 ―毛利の決断、九州の礎―

一 隆景、帰還

吉田郡山城。

小早川隆景が戻ってきた。

長い旅だった。

しかし——隆景の足取りが重かったのは、疲れのせいではなかった。

元就は広間で待っていた。

隆景の顔を見た瞬間——元就は何かを読みとった。

息子の顔が、変わっていた。

怒りがあった。

しかし怒りの下に——別のものがあった。

それが何かを、元就はすぐに理解した。

しかし——すぐには口にしなかった。

「十万貫は、届けたか」と元就は言った。

「はい」と隆景は答えた。「確かに」

「同盟の打診は」

隆景は少し間を置いた。

「——断られました」

「そうか」と元就は言った。表情を変えなかった。

「書状を預かってきました」

隆景が書状を差し出した。

元就が受け取った。

開いた。

読んだ。


恭順か、族滅か。選べ。

鳳凰寺時貞。


広間が静まり返った。

元就はその書状を、しばらく見ていた。

それから——静かに、机に置いた。

「隆景」と元就は言った。

「はい」

「鳳凰寺時貞という男を——直接見た感想を、聞かせろ」

隆景はしばらく沈黙した。

元就は待った。


「——若武者の形をしていました」と隆景はようやく言った。

「形をしていた、か」と元就は繰り返した。

「はい。形は十五~六歳の青年です。しかし——」隆景は言葉を探した。「得体が知れませんでした。計り知れない何かが、あの体の中にある。俺には——それが何なのか?最後までつかめませんでした」

元就は黙って聞いた。

「同盟を断られた時——俺は怒りを感じました。あの無礼な態度に、はらわたが煮えくり返る思いでした」

「そうか」と元就は言った。

「しかし——それ以上に」と隆景は言った。声が、少し変わった。「怖くて、仕方がなかった」

広間が静かになった。

隆景は続けた。

「震えが——止まりませんでした。『恭順か族滅か』と言われた時。あの目で見られた時。まるで——抜き身の真剣を、首筋に突きつけられているようでした。距離があるのに。向こうは座っているのに、青年の形をしているのに。それでも——全身が、危険を感じていました」

元就が——唸った。

低い、腹の底からの声だった。

「隆景」と元就は言った。

「はい」

「怒りより怖さが勝った、ということだな」

「……はい」と隆景は言った。認めることが、悔しそうだった。「怒りで動けなかった。しかし怖さの方が、それ以上でした」

元就はしばらく黙っていた。

それから——恵瓊に視線を向けた。

恵瓊が、その視線を受けて、わずかに体を縮めた。

(余計なことをしてくれた)

元就は何も言わなかった。

ただ——苦々しく、見た。

その目が、全てを語っていた。

我々毛利は——触れてはならないものに、触れてしまったかもしれない。

決して起こしてはならないものを——起こしてしまったかもしれない。


二 元春の問い

吉川元春が進み出た。

「父上」と元春は言った。

「何だ」

「熊谷殿が言った言葉について——お聞きしたいことがあります」

「言え」

「『鳳凰寺が本気になれば、毛利が十万の兵を揃えても戦にさえならない。鳳凰寺による一方的な虐殺が始まるだけだ』——あれは」元春は少し間を置いた。「嘘か、ハッタリの類いではないでしょうか。いくらなんでも、あれは——」

「元春」と元就は言った。

「はい」

「お前は熊谷殿の何を見ていた」

元春が黙った。

元就は続けた。

「あれは嘘やハッタリが言える男ではない」

「しかし——」

「それに」と元就は言った。「あれは脅しでも誇張でもなかった。ただ事実を述べていただけにすぎない」

元春が、目を見開いた。

「……父上は、あの話を信じると、おっしゃいますか」

「ワシは信じとる」と毛利元就は静かに言った。

元春が——言葉を失った。

毛利の猛将として西国に名を轟かせる吉川元春が、言葉を失った。

「あの鉄の化け物を見ただろう」と元就は言った。「あれが空を飛んだ。轟音を立てて、城の上を飛んだ。城の兵が腰を抜かした。あれは——俺たちの知っている何かではない。全く別の何かだ」

「それは——確かに驚きましたが」と元春は言った。「しかし戦となれば、こちらには地の利が——」

「地の利が何の役に立つ」と元就は言った。静かに。しかし——切るように。「上から火を降らせる相手に、地の利など意味をなさん。山に籠もろうと、平野で戦おうと——上から来る者には関係がない」

元春は何も言えなかった。

「島津を見よ」と元就は言った。「薩摩は古来より難攻不落と言われた土地だ。しかし——鳳凰寺は三ヶ月で降した。島津の兵が弱かったからではない。島津義弘は勇将だ。それでも——戦にならなかった」

「……」

「熊谷殿の言葉は正確だった」と元就は言った。「あの男は、正確な言葉しか使わない。だから——ワシは信じる」

元春は深く息を吸った。

そして——何も言えなかった。


三 毛利元就の決断

元就は息子たちを見回した。

隆元。隆景。元春。そしてその場にいる毛利の重臣たち。

「毛利は——残す」と元就は言った。

広間が静まり返った。

「残すためには——恭順するしかあるまい」

「父上」と元春が言いかけた。

「黙れ」と元就は言った。怒鳴らなかった。しかし——その一言で、元春が止まった。

「毛利を残すことだけを考えよ。それが、ワシの判断だ」

誰も、何も言わなかった。

「今すぐ返事は返さん」と元就は続けた。「急いで返答を出す必要はない。しかし——方針は決まった」

元就は息子たちを見た。

「お前たちに時間をやる。それぞれが——自分を納得させろ」

元春の顎が、わずかに動いた。

何かを言いかけた。

しかし——元就の次の言葉が、それを止めた。

「ただし——間違えるな」と元就は言った。声が、低くなった。「毛利を残すことだけを考えよ。決して——鳳凰寺に復讐しようと思うな」

広間に、重い静寂が落ちた。

「これから——毛利は鳳凰寺に恭順するのだからな」

誰も口を開かなかった。

毛利の重臣たちが、それぞれの胸の中で、何かと向き合っていた。

誇りか。

屈辱か。

あるいは——生き残ることの意味か。

長い沈黙だった。


「恵瓊」と元就は言った。

「はい」と恵瓊が答えた。声が、かすかに震えていた。

「貴様には——今回の責任を、取ってもらう」

恵瓊が静かになった。

「毛利家中を納得させるためには——誰かが責任を取らなければならない。それが貴様だ」

「……はい」

「腹を切ってもらう」と元就は言った。

広間の空気が、変わった。

元就は続けた。

「貴様は頭が良い。外交の才もある。…せっかく拾った命だった」

恵瓊は動かなかった。

「しかし——毛利のために、その命を使わせてもらう」

元就は——頭を下げた。

七十を超えた毛利元就が。

西国最大の勢力を束ねてきた老将が。

安国寺恵瓊に、頭を下げた。

「済まない。恵瓊」

広間が、完全に静まり返った。

隆景が目を伏せた。

元春が、正面を向いたまま動かなかった。

恵瓊は——しばらく、動かなかった。

それから——ゆっくりと、深く、平伏した。

「この命——毛利のために使えと、元就様がおっしゃるならば」と恵瓊は言った。

声は、震えていなかった。

「この恵瓊は——本望でございます」

最後まで、声が揺れなかった。

「ありがとうございます」と恵瓊は言った。

元就は顔を上げた。

何も言わなかった。

ただ——目を閉じた。


安国寺恵瓊は、翌朝、静かに腹を切った。

毛利家中への通達は短かった。

「今回の九州における一件の責任を取り、安国寺恵瓊、自刃」

それだけだった。

しかし——毛利の者たちは全員、その意味を理解した。

元就が頭を下げた相手が、元就のために命を差し出した。

恵瓊の死が——毛利家中の口を塞いだ。

鳳凰寺への恭順に反発する声は、その日から急速に、静まっていった。


隆景は、恵瓊の亡骸の前で、しばらく座っていた。

誰もいない部屋で、一人で。

(恵瓊殿)

隆景は心の中で呼んだ。

(あなたの死で——毛利が残る)

(しかし——あの男を、俺はまだ許していない)

(許せるかどうか、俺にはわからない)

ただ——恵瓊の死を、無駄にしない。

それだけが、今の隆景にできることだった。


四 九州の礎

永禄七年、春。

鹿児島の北。

小高い丘の上に、礎石が置かれた。

鳳凰寺九州本拠地の建設が、始まった。


朝から、民が集まってきた。

近隣の村から。薩摩の各地から。

雇用の知らせを聞いて来た者たちだった。

男も、女も、老人も来た。

できることをする、という顔をして来た。

成瀬が指揮を取った。

「道路班。石材運搬班。掘削班。それぞれ担当に申し出てくれ。名前と村の名を教えてくれ」

読み書きのできない者には、担当者が代わりに書いた。

学舎で学んだ若者たちが、その役を担った。

「字が読めるということが——こういう場で役に立つのか」と一人の若者が呟いた。

「学舎に行かせてくれた親父に感謝だな」と横の男が言った。


礎石が据えられた瞬間。

時貞は丘の上に立っていた。

風が強かった。

眼下に、鹿児島の街が広がっていた。

錦江湾が光っていた。

桜島が、遠く霞んでいた。

「天元」と時貞は呼んだ。

「はい」と天元が答えた。

「ここが——九州の根っこになる」

「はい。この地から、九州全体を動かす基盤を作ります」

時貞は風の中で、丘の景色を見た。

礎石が置かれた。

最初の石が、地面に据えられた。

それが——全ての始まりだった。


建設は大規模だった。

城の基礎工事と並行して、軍港の掘削が始まった。

港に面した崖を削り、船が入れる水深を作る作業だった。

毎日、何百人という民が働いた。

賃金は、鋳造所から出た銭で払われた。

民の手に、銭が渡った。

その銭が、市場で使われた。

市場が活性化した。

物が動き、人が動き——九州が動き始めた。

「建設そのものが、経済を動かしています」と浜村が報告した。

「計算通りだ」と時貞は言った。


五 兵学校の若者たち

春の終わり。

兵学校の最初の生徒たちが集められた。

七島から選ばれた者が二十名。

九州各地から選ばれた者が三十名。

そして——義弘の推薦で来た薩摩の若者たちが、十名。

合わせて六十名の、最初の期生だった。


義弘の推薦状には、こう書かれていた。

殿へ。

薩摩の若者を十名、送ります。 全員、読み書きができ、体が丈夫で、頭が良い者を選びました。 島津の血は引いていませんが——薩摩の誇りは持っています。 どうか、鳳凰寺の将として育ててください。 この者たちが育てば——薩摩は、もっと強くなります。

島津義弘より。


時貞は推薦状を読んで、静かに頷いた。

「義弘殿は——薩摩を本当に愛している」と時貞は言った。

「薩摩の若者に最高の場所を与えようとしている」と成瀬は言った。

「そうだ。かつての敵の子が、鳳凰寺の将になる。それが——本当の意味での統治だ」


入校式。

六十名の若者が、整列して立っていた。

それぞれの顔があった。

七島の者は——慣れた顔をしていた。

九州各地の者は——緊張した顔をしていた。

薩摩の者は——様々だった。

誇らしそうな者。不安そうな者。そして——複雑な顔をした者。

時貞は彼らの前に立った。

「お前たちに——一つだけ言う」と時貞は言った。

全員が聞いた。

「ここで学ぶのは——戦い方だけではない。なぜ戦うか、を学ぶ。何のために戦うか、を学ぶ。そして——戦わなくて済む方法も、学ぶ」

薩摩の若者の何人かが、意外そうな顔をした。

「力は——持つためにある。使うためではない。しかし——使わなければならない時に、使えない者は、守るべきものを守れない。その両方を、ここで身につけろ」

一人の薩摩の若者が、まっすぐに時貞を見ていた。

十六、七歳の若者だった。

目が——真剣だった。

複雑な何かを、その目の奥に持っていた。

時貞はその目を、一瞬だけ見た。

(何かを、抱えている)


入校式の後、その若者が時貞に近づいてきた。

「時貞様」と若者は言った。

「何だ」

「一つだけ、聞いてよいですか」

「言ってみろ」

若者は少し間を置いた。

「時貞様は——俺の兄の仇、ということになります」

時貞は若者を見た。

「兄の名は」

「島津家の家中にいた者です。串木野の浜の戦で——足を撃たれました。死んではいませんが、もう戦えない体になりました」

「そうか」と時貞は言った。

「それでも俺は——ここに来ました。義弘様に推薦していただいて、ここに来ました。なぜ来たかを、時貞様に知っていただきたくて」

「なぜ来た」と時貞は問うた。

若者は少し間を置いてから言った。

「兄の足の傷を、鳳凰寺の医師が手当てしてくれました。足を失うかもしれなかったのに——足が残りました。今、兄は畑を耕しています。それは——鳳凰寺の医師がいたからです」

時貞は黙って聞いた。

「恨む気持ちは、あります」と若者は続けた。「しかし——感謝する気持ちも、あります。その両方を持って、俺はここに来ました。それが——俺の正直なところです」

時貞はその若者を、しばらく見た。

「名は」

「有村五郎と申します」

「有村」と時貞は言った。「正直に言ってくれた、感謝する。その正直さが——今後お前の一番の武器になるだろう…」

有村は深く頭を下げた。

時貞は有村の頭の上を、静かに見た。

(こういう若者が育てば——九州は、変わる)

恨みと感謝の両方を、正直に持てる者。

それが——この時代の日本に、最も必要なものかもしれなかった。


六 前久の奮闘

京。

前久はこの数ヶ月で、顔に刻まれた線が深くなっていた。

信長と義昭の亀裂は——表に出ていなかった。

しかし前久には、はっきりと見えていた。

義昭が武田信玄に書状を送った。

朝倉義景に送った。

浅井長政に送った。

本願寺にも送った。

信長を囲い込む包囲網を、将軍自らが作ろうとしていた。


前久は帝に参内した。

「義昭殿の動きは——止められますか」と帝は問われた。

「難しゅうございます」と前久は答えた。「義昭殿は将軍として動いています。大名に書状を送ることは、将軍の権限として行使できます。俺には、それを止める立場がありません」

「信長は」

「信長は——今はまだ動いていません。しかし義昭殿の動きが本格化すれば、必ず対応します。その時に——京が戦場になる可能性があります」

帝は静かに考えられた。

しばらく、沈黙があった。

「時貞の書状には——帝の御身の安全を最優先にしてくれ、とあった」

「はい」

「時貞は——京には来ないのか」と帝は問われた。

「今は九州の基盤を固めていると思います」と前久は言った。「しかし——帝の御身に何かあれば、必ず動くと書いてきました」

帝は静かに頷かれた。

「時貞を——待とう」

その言葉に、前久は深く頭を下げた。


前久は信長のもとへ向かった。

信長は部屋で書類を見ていた。

前久を見ると、すぐに顔を上げた。

「義昭様の件か」と信長は言った。前久が何も言わないうちに。

「そうです」と前久は言った。

「もう知っている」と信長は言った。「武田にも、朝倉にも、本願寺にも——義昭様は書状を送った。俺を囲い込もうとしている」

「どうするのだ?」問う前久。

信長はしばらく何かを考えていた。

「前久」と信長は言った。

「はい」

「時貞は——この件を、どう見ている」

前久は少し驚いた。

「なぜ時貞殿のことを」

「あいつは先が見える」と信長は言った。「今何が起きているかを、俺より正確に見ているかもしれない。何か言ってきていないか」

「帝の御身の安全を守ること。朝廷が中立の立場を保つこと。それだけを言ってきました」

「中立か」と信長は言った。

「はい」

「——賢いな」と信長は言った。静かに、しかし確かめるように。「今すぐは動かない。しかし帝を守る準備はしている。そういうことか」

「おそらく」

信長は少し笑った。

声のない笑いだった。

「あいつは——本当に、どこまで見えているのか」と信長は呟いた。

独り言のような声だった。

「信長殿」と前久は言った。

「何だ」

「一つだけお願いがあります」

「言え」

「どんなことがあっても——帝と御所を、戦場にしないでください。それだけは」

信長は前久を見た。

「当然だ」と信長は言った。即座に。「帝に手をかける気は——俺にはない」

「わかっています。しかし——確かめたかった」

信長は少し黙った。

「時貞に伝えておけ」と信長は言った。「帝は俺が守る。お前が動く必要はない、とな」

前久はその言葉を受け取った。

「必ず伝えます」


御所に戻る途中、前久は空を見た。

冬の京の空が、高く澄んでいた。

信長と義昭の亀裂は——これからさらに深まる。

その中で帝を守ること。

朝廷の主体性を保つこと。

それが自分の仕事だ。

(時貞)

前久は心の中で呼んだ。

(お前が九州を固めている間——京はワシが守る)

冬の風が、京の街を吹き抜けた。

その夜、前久は書状を書いた。


時貞殿へ。

信長は——帝を守ると言った。 その言葉は本物だと俺は見ている。

義昭と信長の亀裂は、これから深まる。 しかし——当面、京の安全は保たれると判断している。

お前は九州を固めろ。 基盤のない動きは砂上の城だ。 お前が言っていた言葉を、お前自身に返す。

一つだけ知らせておく。 信長は——お前のことを、何度か自ら口にする。 珍しいことだ。信長が他者の名を自ら出すのは。

お前たちは——正反対のようで、どこか似ている。 それが何かは、まだわからない。

近衛前久より。

追記——冬姫が時貞殿への手紙を、毎月書いている。 嬉しそうな顔で書いている。 兄として複雑な心境だが——まあ、よしとする。


前久は書状を封じた。

ほんの少し、笑った。

複雑な心境だが——時貞のことを信じている。

それは、最初に会った日から、変わっていない。

冬の京の夜が、静かに更けていった。


鳳凰寺七島では。

前久の書状を読んだ時貞が、最後の追記のところで——少し止まった。

「毎月、書いている、か」

成瀬が横で咳払いをした。

「何だ」と時貞は言った。

「いいえ」と成瀬は言った。「何でもありません」

時貞は書状を机に置いた。

窓の外に、冬の七島の海が広がっていた。

「天元」と時貞は呼んだ。

「はい」と天元が答えた。

「冬姫殿からの手紙は——来ているか」

「はい。先日、届いています。まだお読みになっていませんでした」

「持ってきてくれ」

成瀬がわずかに微笑んだのを、時貞は見ないふりをした。

冬の夜が、静かに更けていった。


(第三十四章へ続く)

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