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アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第5部:世界の敵編

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第5部 第4話『許されなくても、連れて帰る』

【前回のあらすじ】

東の施設から第六居住区へ入った一行は、ライガを看病した男と、エセリアから連行された女性を見つける。ヴェルミリオンは自分が故郷を滅ぼしたと告げ、拒絶された。女性を再び処置しようとする管理者を三魔王が阻み、仲間たちは住民の避難を始める。



※本作品の執筆にはAIを活用しています。


 管理者の拳が、ヴェルミリオンの顔を突き抜けた。

 紫の光が散る。

 男は幻影に目もくれず、出口へ足を向けた。


「そっちは通行止めや」


 グリムの蹴りが脇腹を捉えた。

 男は卓を巻き込んで転がった。起き上がるより早く、グリムが胸倉を掴み、食堂の奥へ投げつける。

 壁が鳴った。

 それでも管理者の目は、出口から動かなかった。


「その女性を戻せ」


 アシュレイの腕を掴んでいた女性が、肩を震わせた。

 白髪交じりの頭が俯く。口元に深く刻まれた皺が引きつり、何か言おうとして、声にならなかった。


「行こうぜ」


 アシュレイが促すと、女性は小さく頷いた。

 二人が仕切りの下を抜ける。

 ライガは落ちてくる金属板を両腕で支え、最後の住民が通るのを待っていた。


「中は、俺らだけや!」


 グリムが叫んだ。

 ネビュロスは拘束した二人の兵士から銃を取り上げ、氷を肩まで広げた。


「ライガ、離せ!」


 支えの氷柱が砕けた。

 ライガが腕を引く。

 轟音とともに仕切りが落ち、食堂を外の通路から切り離した。


 管理者の顔が、初めてグリムへ向いた。


「邪魔をするな」

「やっと、こっち見たか」


 男の首筋に白い線が浮いた。

 次の瞬間、床が陥没した。


 グリムが腕を交差する。

 受けた拳に身体ごと持っていかれ、背中が仕切りへ迫った。


「絶対結界《アブソリュート・ウォール》!」


 斜めに立った氷の壁へ、グリムの肩が滑った。

 衝撃が横へ逃げる。管理者の二撃目は氷の面を砕き、仕切りを外れて壁に突き刺さった。

 グリムが床へ着地する。


「受け止めんのかい!」

「仕切りごと吹き飛ばされたいなら、そうするが」

「これでええ!」


 氷を踏み台に、グリムが跳んだ。

 踵が管理者の肩へ落ちる。男は片膝をつきながら、その足首を掴んだ。

 グリムの身体が宙へ振り上げられる。


 紫の蝶が、男の目の前を横切った。


「夢幻蝶《ファントム・バタフライ》」


 蝶が弾けた。

 紫煙の中から、グリムが三人、降ってきた。

 男は掴んでいた足を離し、正面の影へ拳を突き出す。

 その背後に本物が着地した。


「そいつは、殴っても手応えないで!」


 両腕を胴へ回し、持ち上げる。

 グリムは背中から反り返り、管理者の後頭部を床へ叩きつけた。

 石床が砕け、脚が跳ねる。

 男は首を不自然に傾けたまま、グリムの腕を掴み返した。


「……痛ないんか、お前」


 返事はなかった。

 皮膚の下を走る光が、裂けた上着から覗いていた。


         *


「部屋へ戻ります」


 住民の男が、避難する列を離れた。

 エルザが呼び止めても、脇の階段へ目を向けたままだった。


「戻らないと、処置に遅れる」

「今は処置を受けなくていいの」

「でも、時刻が」


 壁の掲示を指す手が震えていた。

 レクスは男の前へしゃがんだ。


「上にも、人がいるのか」


 男が頷く。


「案内してくれ。ここで何が起きたか、知らせたい」


 レクスはカイへ目を向けた。

 カイは黙ってついてきたが、階段の途中で掲示を見上げた。


「再教育を終えれば、帰されるはずだった」

「誰が帰った」


 レクスの問いに、答えはなかった。


 通路の先で、ライガが管理室の窓を叩いていた。

 白い通路へ戻る扉も閉じられている。向こうの職員は、首を振るばかりだった。


「許可が出ていません!」


 ライガは窓越しに、職員たちを見た。


「下がれ」


 二人が椅子を離れたところへ、肩から突っ込んだ。

 窓枠ごとガラスが内側へ落ちる。

 破片を踏み越え、扉の操作盤の前に立った。


「開けろ」

「ですが――」

「後ろを見てくれ。出たいと言ってる人がいる」


 職員は、割れた窓の向こうを見た。

 アシュレイのそばで、年老いた女性が壁に手をついていた。

 やがて、職員の指が動いた。


 扉が開く。

 セイジはライガに続いて管理室へ入り、もう一人の職員が閉じようとした帳簿を押さえた。


「それも置いていけ」


         *


 管理者の指が、グリムの喉へ食い込んだ。

 組みついたまま壁へ押され、黒い装甲が軋む。

 ネビュロスが男の脚を凍らせた。膝まで氷に埋まっても、掴む力は緩まない。


「お前たちは、外に出してはいけなかった」


 グリムの眼が細くなった。


「……何の話や」

「回収できていれば、こんなことにはならなかった」


 男がさらに腕を伸ばす。

 グリムはその手首を掴み、喉から引き剥がした。


「回収やと?」


 ヴェルミリオンの翅が止まった。

 ネビュロスは管理者の襟へ目を向けた。旧組織の紋章。その下で、皮膚に浮いた線が光っている。


「お前も、あの兵士たちの一人か」


 男がネビュロスを見た。


「フロスティアは、まだ凍っているのか」


 氷が男の太腿まで駆け上がった。

 ネビュロスの口元から笑みが消えた。


「何を知っている」

「帰還しない部隊の記録は、残してある」


 男は足を引き上げた。氷が割れた。

 その瞬間、ヴェルミリオンの指が頬を掠める。首筋まで走った薄い傷から、血が一筋落ちた。

 男が振り返った先に、紫の影はもういなかった。


「なら、エセリアの記録も?」

「ある」

「僕が毒を撒くより、前のものも」

「移送した者は、こちらで管理している。今も」


 出口の方へ、男の目が動いた。


「君に会わせれば、あの女性にも分かる。外に何がいるか」


 ヴェルミリオンが立ち止まった。


「そのために、僕らを入れたのか」

「君を恐れた。ここへ戻る理由には十分だ」

「戻らなければ、また頭の中をいじる?」


 男が踏み込んだ。

 ヴェルミリオンは拳を避けず、その目を見ていた。


 横から伸びたグリムの腕が、男の拳を掴んだ。


「誰にやらされとる」


 男は腕を引いた。グリムは離さなかった。


「誰が俺らの村を襲わせた!」


 通信機から、セイジの声が割り込んだ。


『グリム。管理者の記録があった。そいつは人間の職員じゃない。実験体だ』


 管理者の口元が歪んだ。


「そこへ入るな」


 男の胸が、服の下から白く光った。

 ネビュロスが顔を上げる。

 幾つも重なった輪。その内側で動く文字を、彼は見たことがあった。


「レヴェリオの術式……!」


 通信の向こうで、物音がした。

 戻ってきたカイが、セイジへ何か言っている。

 次に聞こえた声は、掠れていた。


『その写真を、見せろ』


 管理者がグリムの腕を振りほどいた。

 出口へ走る。その足元へ氷がせり上がったが、男は踏み砕いた。


『……この男だ』


 カイの声が、食堂へ届いた。


『私に技術を与えた科学者だ。なぜ、ここの記録に――』


「エルゴス博士の記録に触るな!」


 管理者が叫んだ。


 グリムは、すぐには追わなかった。

 ネビュロスも、開いた本へ手を置いたまま立っていた。

 ヴェルミリオンの翅から、紫の光が零れた。


 カイへ正義の力を与えた男。

 その男の造った者が、故郷を襲い、今もここで人を閉じ込めていた。


「……おったんか」


 グリムの声は、低かった。


「組織が潰れても、お前らは続けとったんか」


 管理者が仕切りへ拳を振り上げた。

 紫の蝶が、男と扉の間を埋める。

 そこにいたヴェルミリオンは、もう笑っていなかった。


「帰ってもらおうと思っていたけれど」


 蝶が一斉に弾けた。

 男の腕が跳ね上がり、拳が天井へ突き刺さる。


「気が変わった。君は置いていってもらう」


         *


 管理者が腕を抜いた。

 砕けた天井の欠片が降ってくる。

 その下を、ヴェルミリオンが走った。


「君の後ろにいる男まで、案内してもらうよ」


 男は低く構え、脇を抜ける紫の影へ肘を入れた。

 光が散った。

 次の影にも拳が空を切る。


「何度やっても同じだ」


 男は背を仕切りへつけた。

 周りを見ず、正面にいるグリムだけを睨む。

 その踵に、冷たいものが触れた。


「そうだな」


 ネビュロスが本を閉じた。


「お前は、同じように出口へ戻る」


 仕切りの表面に霜が広がった。

 壁を背にした男の肩、腰、踵が貼りつく。

 腕を振るって氷を砕こうとする前に、床からせり上がった氷壁が身体を両側から挟んだ。


「凍滅零界(ゼロ・アブソリュート)」


 白い冷気が管理者を包んだ。

 男が口を開く。その呼気まで凍りつき、光る線の動きが鈍っていく。

 ネビュロスの脚が、一歩、後ろへ滑った。

 氷の内側で、まだ胸の輪が光っていた。


「長くは止められん!」


「足りるわ」


 グリムが歩き出した。

 右拳の赤い炎が、白く変わっていく。


 管理者の目が動いた。

 白炎を見て、初めて出口以外の方へ逃げようとした。

 身体が軋む。氷の中で腕の線が一斉に明滅した。


「待て。それを焼けば――」

「命令が聞こえんようになるか?」


 グリムは拳を引いた。


「ほな、ちょうどええ」


 男の胸元だけ、氷が割れた。

 そこへ白い拳が入った。


「白炎断滅(ソウル・イグニション)!」


 胸の輪から、白炎が噴き上がった。

 男の背が反り、喉から声にならない息が漏れる。

 炎は上着へ燃え移らなかった。皮膚の下の線を辿り、肩へ、腕へ、首へと走った。

 輪の内側に浮いた文字が、黒く崩れていく。


 氷が内側から軋んだ。

 ネビュロスが両手を突き出し、左右の壁を支える。

 ヴェルミリオンはグリムの肩越しに、男の顔を見ていた。


 瞳が、一度だけ揺れた。


「はく、し――」


 グリムは拳を押し込んだ。


「そいつには、俺らが会いに行ったる」


 最後の輪が裂けた。

 白炎が天井へ吹き上がり、消えた。


 グリムが腕を引く。

 右の手甲に亀裂が入り、隙間から細い煙が漏れていた。

 ネビュロスが氷を緩めると、管理者は膝から崩れた。

 ヴェルミリオンが襟を掴み、床へ横たえる。


 誰も、すぐには口を開かなかった。


         *


「生きている」


 ネビュロスが男の首から指を離した。

 呼吸はある。だが、呼びかけにも、肩を叩く手にも反応はなかった。


「ライガの時とは、違うな」


 グリムは右手を開こうとして、顔をしかめた。


「命令は焼いた。せやのに、起きん」


 ネビュロスは、食堂の端に拘束した兵士へ目を向けた。

 兵士たちは、まだ動こうとしていた。管理者が倒れても止まらない。

 その手首にも、細い光が浮いていた。


「フロスティアの兵士にも、これがあった」


 ネビュロスは男の袖をめくった。


「村の封印を解いた後も、目覚めなかった。あちらでは、線は光っていない」

「動かすもんが止まっただけ、いうことか」

「まだ分からん。だが、調べる相手を間違えていたかもしれない」


 ネビュロスが立った。


「こいつを連れて帰る。記録も全部だ」


 ヴェルミリオンが通信を入れた。

 セイジの操作で仕切りが上がり、エルザが顔を出す。

 床の男を見て、すぐに膝をついた。


「グリム、その手も後で見せて」

「先にそいつや。死なれたら困る」


 グリムは壊れずに残った卓を引きずってきた。

 男を運び出す間、ヴェルミリオンは出口に立っていた。

 女性の姿は、もうなかった。


         *


 管理室の机には、開かれた帳簿が並んでいた。

 ライガは収容者名簿の上で指を止めた。リドラムの捜索願で見た名前が、幾つもあった。


「消えた人たちは、ここへ送られていたんだな」


 職員が俯いた。

 セイジは隣の処置記録を開いた。


「帰郷を訴えるたび、処置を繰り返している。帰りたいと言わなくなるまでだ」


 ライガは、食事を作っていた男の笑顔を思い出した。


「……だから、ここにいたいと」


 カイが古い移送記録へ手を伸ばした。逃亡者の行き先に、あの村の名があった。


「私たちが焼いた村だ。ここから逃げた者を匿っていた」


 グリムは机の端を握った。


「帰りたい奴を閉じ込めて、逃げた奴を助けたら村ごと焼く。……ようできた再教育やな」


 その奥にも、古い記録が積まれていた。

 フロスティアへの派遣記録。

 エセリアから連行した住民の名。

 そして、グリムの村で行われた実験。


 グリムは一枚を手に取った。

 知っている村の名の下に、死んだ人数が書かれている。

 その隣に、回収できなかった生存者。


 指に力が入った。

 紙が裂ける寸前で、手を止めた。


「これも持っていく」


 カイは、端末に残る写真を見ていた。

 白衣の男の隣には、食堂で倒れた管理者が立っている。


「私の組織とは別に、動いていたのか」

「せやから、お前のやったことが消えるわけやないで」


 グリムの声に、カイは顔を上げた。


「分かっている」

「ほな、そいつについて知っとること、残らず話せ」


 ヴェルミリオンは住民名簿を捲っていた。

 女性の夫の名を捜す。見つからない頁を閉じず、次を開く。


「君を造った男じゃない。君を利用した男なんだろう、カイ」


 頁を捲る指が止まった。


「僕らは、その男に用ができた」


 ネビュロスは兵士の番号を控え、フロスティアへ照合を頼んだ。

 セイジが持ち出す束をまとめる。その横で、グリムは潰れた右の手甲を外した。


「首洗って待っとれ、エルゴス」


 焼けた指を、もう一度握る。


「今度は、こっちから踏み込んだる」


         *

 午後、外の施設へ最初の住民たちが出た。

 門に残っていた兵士は、先に通路を戻ったライガとレクスが取り押さえていた。銃は回収され、門は開いたままだった。

 ポルクが車から水を運び、エルザは日陰に椅子を並べた。

 太陽を見上げた住民が、目元へ手を当てる。

 地面に腰を下ろしてしまう者もいた。


「戻らなくて、いいんですか」


 一人が、何度もエルザへ尋ねた。

 エルザはそのたびに、ここで休んでいいと答えた。


 ヴェルミリオンは車の陰で、頬の傷を拭いていた。

 向こう側から、女性の声がした。


「姉さん?」


 手が止まった。

 ポルクがリドラムの店へ連絡し、店主に姉を呼んでもらったのだった。つながった通信機を、アシュレイが女性へ渡していた。


「私。……分かる?」


 返事は、こちらからでは聞こえなかった。

 女性は通信機を両手で握り、俯いた。


「井戸の蓋、覚えてる? 二人で持ち上げようとして……」


 その先は泣き声になった。

 アシュレイは何も言わず、隣の椅子へ座っていた。


 ヴェルミリオンは布を畳んだ。

 車の向こうへ回ろうとはしなかった。


 しばらくして、アシュレイが通信機を持ってきた。


「姉の方が、お前と話したいってよ」


 ヴェルミリオンは受け取った。


「……会えたよ」

『ええ。聞いた。あの子だった』


 女の声は、何度も途切れた。


『あの子は、いつ帰れるの』

「迎えの車を頼む。ここまで来てもらえるように」

『あなたたちは……』


「僕らは戻らないよ」


 ヴェルミリオンは、車の向こうを見た。


「妹さんには、迎えが来るまでアシュレイについていてもらう。僕の顔を見ずに済むようにね」


 通信の向こうが静かになった。


『あの人のことも、聞いたわ』


 夫のことだった。

 ヴェルミリオンは目を伏せた。


「まだ、行方を確かめられていない」

『……そちらも、知らせて。分かったら』

「ああ」


 礼の言葉を待たず、ヴェルミリオンは通信機をアシュレイへ返した。

 アシュレイは受け取り、その場に残った。


「次は何を捜す」

「夫の記録。まだ中にいる人。それから、ここの責任者だね」

「一人は捕まえたぞ」

「上が残っている」


 ヴェルミリオンは手袋を引き上げた。


「ずいぶん長い間、待たせてくれたじゃないか」


         *


 全員を二台に乗せることはできなかった。

 ポルクが店主を通じて捜索受付につないだ。ライガは見つかった者の名と、施設までの道を伝えた。電話の向こうでは、彼の声に気づいた者が、しばらく黙っていた。


『迎えに行くとしても、お前たちまで乗せるわけにはいかない』

「俺たちは乗らない。帰りたい人を、ここで引き渡す」


 返事を待つ間、ライガは門のそばで座る人々を見た。


『……家族に知らせる。迎えの手配がついたら連絡する』

「頼む」


 迎えが来るまで、施設を離れるわけにはいかなかった。

 ライガは通信機をしまい、ポルクと水の残りを数えた。

 レクスとカイは施設の入口に残り、住民の出入りを見ている。エルザは拘束された管理者の様子を確かめてから、まだ居住区に残る人を訪ねるために戻っていった。


 食事を作っていた男も、まだ中にいた。

 外へ出るよう誘われると首を振ったが、人数分の食事を渡したいとは申し出てくれた。

 ライガはその器を受け取った。


「また、来るからな」

「うん。今度は、顔を見せて帰ってくれよ」


 男は前と同じように笑った。

 管理者を倒しても、その笑顔の奥にある記憶までは戻らなかった。


         *


 夕方、ネビュロスの通信機が鳴った。

 フロスティアからだった。


『送ってもらった番号を確かめました。同じものが、兵士の衣服に残っています。三人分、一致しました』


 ネビュロスは目を閉じ、それから開いた。


「本人たちの様子は」

『変わりません。眠ったままです』

「分かった。何も試さず、そのまま診ていてくれ」


 通信を終えると、セイジが隣へ来た。

 管理室から持ち出した資料を、両腕に抱えている。


「兵士の処置に使う術式が載っていた。君に見てほしい」


 開かれた紙に、幾つもの輪と文字が並んでいた。

 ネビュロスは途中の一行で指を止めた。


「……これは」


 腰の魔導書を外し、頁をめくる。

 幼い頃から、何度も読み返した文字だった。

 あの村の時間を止めた時も、ここから術式を組み上げた。


 紙と本を並べる。

 同じ文字の並びがあった。

 だが、紙の方には、その先に別の命令が書き足されている。


「同じものか」


 セイジが訊いた。

 ネビュロスは本から手を離さなかった。


「元は、同じだ」


 遠くで、住民が水を求める声がした。

 ネビュロスは声の方へ一度目を向け、資料を閉じた。


「これを持って、フロスティアへ戻る」


(5話へ続く)

第4話をお読みいただき、ありがとうございます。

再会できた人、まだ戻れない人。救出が進む中で、三魔王の故郷を襲った者たちの記録も見つかりました。

次回はフロスティアへ。ネビュロスの本と、目覚めない兵士たちの謎へ踏み込みます。評価・ブックマーク・感想も励みになります。


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