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アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第5部:世界の敵編

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89/100

第5部 第3話『帰りたいと言う前に』

【前回のあらすじ】


村を焼いた映像が公開され、リドラムの住民の怒りはレッドたちとカイへ向かった。説得の届かない混乱の中、グリムは仲間を渡さないと決め、力を振るって魔王を名乗る。十人は街を離れ、行方不明者の移送経路につながる東の施設へ向かった。


※本作品の執筆にはAIを活用しています。


 翌朝、林の脇で休んでいた二台の車が、街道へ戻った。

 後続の車で、アシュレイが前方を指した。


「次の分かれ道を左だ。門は、その奥にある」


 セイジが先頭の車へ伝える。後部座席のヴェルミリオンは手帳を閉じ、鞄へ戻した。隣からグリムが覗き込む。


「あの婆さんの妹か」

「左手の傷と、家の場所。それに、名前。本人に会えれば確かめられる」

「ほな、会いに行こか」


 車は舗装の割れた道へ入った。枝が窓を擦り、その先に鉄の門が見えた。

 前に来た時は閉じていた門が、今日は開いている。


「……お出迎えつきかよ」


 アシュレイが身を起こした。

 門の内側には兵士が二人いた。銃は肩に掛けたまま、入ってくる車を見ている。

 エルザが先頭の車を止めると、一人が運転席へ近づいた。


「皆さん、お降りください。お待ちしていました」


 ライガが先に降り、兵士との間へ立った。レクスもカイと一緒に反対側へ出る。兵士はカイを見ても、敬礼しなかった。


「誰の指示で待っていた」


 カイが尋ねた。


「こちらの管理責任者です」

「私は、ここの担当者へ何度も人を引き渡した。今の責任者は誰だ」

「中でお会いになれます」


 兵士は同じ調子で答え、建物の入口を示した。

 白い外壁は黒ずみ、窓の何枚かには板が打たれている。だが、入口の奥には明かりがあった。

 ポルクが車を降り、エルザのそばへ来た。後続の五人も門の内側へ入る。


「武器等は、こちらでお預かりします」


 兵士が差し出した箱を、グリムが押し戻した。


「なんでや?」

「居住者の安全のためです」

「お前らに預けた人間を捜しに来たんや。これ以上、何を渡せ言うねん」


 兵士は箱を下ろした。胸元の通信機へ短く報告し、返事を聞くと道を空ける。


「そのままお通しするようにとのことです」

「ずいぶん話が早いね」


 ヴェルミリオンが横を通った。兵士は答えず、最後に入ったネビュロスの背後へついた。

 もう一人は門に残っている。


 ライガは肩越しに仲間を見た。


「離れずに行こう」


         *


 建物の奥で、兵士が壁の端末へ手を触れた。

 分厚い扉が左右へ開く。

 その先を見たライガの足が止まった。


 白い通路だった。

 奥まで等間隔に灯りが並び、突き当たりには、見覚えのある案内板が立っている。


「……ここだ」


 ライガは扉を越えた。通路の途中から、食器の触れ合う音が聞こえた。

 開いた窓口の向こうで、男が大鍋をかき混ぜている。

 男は一行へ顔を向け、ライガを見ると柄杓を止めた。


「君、あの時の」


 ライガが窓口へ近づいた。

 寝床を貸し、食事を運んでくれた男だった。袖をまくった腕も、少し眉を下げて笑う顔も変わっていない。


「生きていたんだな」

「君こそ。急にいなくなったから、心配したよ」


 男は柄杓を鍋へ戻し、窓口から身を乗り出した。


「怪我は、もういいのかい」

「ああ。あの時は世話になった」

「それならよかった。朝は食べた? 人数分、出せると思うけど」


 グリムの腹が鳴った。

 アシュレイが横目で見る。


「お前、さっきも食ってただろ」

「パン一個やぞ」

「二個だったよ」


 ヴェルミリオンに訂正され、グリムは口を閉じた。男が笑い、棚から器を出そうとする。

 ライガはその手へ声をかけた。


「今日は、人を捜しに来た」


 男が振り返った。


「リドラムから連れてこられた人たちだ。外で、家族が待っている」

「ああ。面会なら、職員に頼むといい」

「あんたも、一緒に外へ出ないか」


 男は少し驚いた顔をした。それから、首を横に振った。


「私はここで暮らしているから」


 同じ答えだった。

 前に聞いた時も、この男は食事の心配をしてくれていた。


「ここへ来る前は、どこにいた?」


 ライガが尋ねると、男は器を持ったまま考え込んだ。


「前は……」


 通路の兵士へ目が向いた。

 男は器を棚へ戻した。


「困ったことはないよ。仕事もあるし、食べる物もある」

「俺が聞いたのは――」

「戻ってきてくれて、よかった」


 男は微笑んだ。

 ライガの横で、レクスが拳を握った。男はその手に気づき、窓口から少し離れる。

 レクスは指を開いた。


「……驚かせた。すまない」


 兵士が、一行へ先へ進むよう促した。

 ライガは窓口を離れる前に、もう一度男を見た。


「後で、また来る」

「うん。食事を取っておくよ」


         *


 通路を抜けると、住居の並ぶ一角へ出た。

 洗濯物が干され、長椅子では二人の老人が話している。壁に掲げられた「第六居住区」の文字を、エルザが見上げた。


「ここに、つながっていたのね」


 ライガが頷いた。

 前に抜けた通路とは違う。それでも、目の前の広場も、階段の脇の花壇も覚えていた。


 兵士は共同の食堂へ一行を案内した。

 中では住民が朝食の器を片づけていた。十人が入ると何人かが振り向いたが、すぐに仕事へ戻っていく。


「捜している方のお名前を」


 兵士の問いに、ヴェルミリオンが手帳を開いた。女から聞いた妹の名を伝えると、兵士は端末を確かめた。


「こちらにいます。お待ちください」


 奥の作業台へ向かい、布巾を畳んでいた女性に声をかける。

 女性はヴェルミリオンを見た。それから兵士へ何か尋ね、促されてこちらへ来た。


 左手の親指の付け根に、白い傷があった。

 ヴェルミリオンは自分から近づかず、彼女が立ち止まるのを待った。


「君のお姉さんに、頼まれて来たんだ」


 女性の目が動いた。


「姉が?」

「リドラムで暮らしている。君たちの家を調べてほしいと、僕に頼んだ」


 鞄から見取り図を出す。

 女性は受け取らず、差し出された紙を覗いた。庭に描かれた丸へ指を伸ばす。


「井戸……」

「残っていたよ」

「蓋が重くて。姉が来た時、二人でも持ち上がらなかったんです」


 指が紙へ触れた。

 ヴェルミリオンは、そのまま図を渡した。


「夫が帰ってくるまで待とうって。そうしたら姉が、待つくらいなら裏の家で借りるって……」


 女性の口元が、少し緩んだ。

 言葉が途切れた後も、井戸を見ていた。


「姉は、元気ですか」

「君に会いたがっている」


 女性が顔を上げた。

 ヴェルミリオンは手帳から、姉の今の住所を書いた紙を抜いた。


「一緒に行こう。僕たちが案内する」


 女性は紙へ手を伸ばしかけた。

 だが、その手は途中で止まり、胸元へ戻った。


「私は、ここで暮らしています」


 アシュレイが女性を見た。

 窓口の男と同じ言い方だった。


「今日すぐに決めなくてもいい」


 ヴェルミリオンは紙を近くの卓へ置いた。


「連絡だけでも取れる。声を聞いてから――」

「ここで、困っていることはありません」


 女性は見取り図を畳もうとした。うまく折り目が合わず、紙の端がずれた。

 ヴェルミリオンは手を貸さなかった。


「そうかい。では、その紙は持っていてくれるかな」


 女性は頷いた。

 畳んだ図を両手で押さえ、しばらく動かなかった。


「夫も……」


 小さな声がした。


「姉のところに、いるんですか」


 ヴェルミリオンの背後で、アシュレイが顔を上げた。


「夫は、あの家で待つと言ったんです。すぐ帰れるからって。私はここへ来て……」


 女性は食堂を見渡した。

 器を運ぶ人々。洗い場の湯気。兵士の立つ扉。


「帰ったら、話そうと思っていたことが」


 言いかけた口を閉じ、眉間を押さえた。

 ヴェルミリオンは椅子を引いた。


「座って。急がなくていい」

「夫は、どこに?」


 女性は座らなかった。

 ヴェルミリオンは彼女へ向き直った。


「見つかっていない」

「家には?」

「建物は、残っていなかった」


 女性が見取り図を開き直した。

 階段と、庭と、井戸。家のあった場所には、輪郭だけが描かれていた。


「どうして」


 ヴェルミリオンは息を吸った。


「エセリアは、毒で滅んだ」


 女性の顔が上がる。


「その毒を放ったのは、僕だ」


         *


 洗い場で、器の触れる音が止まった。

 女性はヴェルミリオンを見つめていた。彼がもう一度口を開こうとすると、見取り図を持った手が上がった。


「来ないで」


 彼は動かなかった。

 女性は卓へぶつかり、それでもさらに下がろうとした。


「どうして、あなたが……」

「君を捜している人がいる」

「夫は!」


 声が食堂に響いた。


「夫は、あなたに殺されたんですか!」


 ヴェルミリオンは、すぐには答えられなかった。

 自分が立っていた広場から、あの家は見えなかった。通りへ流した毒の先を、一軒ずつ確かめたこともない。


「……分からない。あの時、街にいたのなら、僕の毒に巻き込まれたかもしれない」

「かもしれない?」

「誰がどこで死んだのか、僕は調べなかった」


 女性の手が震えた。

 見取り図の端が破れ、短い音がした。


「帰って」


 ヴェルミリオンは彼女を見た。


「顔を、見たくない」


 彼は一歩下がった。

 アシュレイが何か言おうとしたが、ヴェルミリオンは片手を上げて止めた。

 椅子の向こうへ移り、女性から距離を取る。


「お姉さんへの連絡は、ほかの者に頼む。僕と話す必要はない」


 女性は答えず、卓へ両手をついた。

 その傍らへ兵士が来た。


「処置室へ行きましょう」


 女性が顔を向けるより早く、兵士は彼女の肘を取った。

 ライガが間へ入った。


「何の処置だ」

「落ち着いていただくためです」

「手を離せ」


 兵士は女性の腕を放さなかった。

 ライガがその手首を掴むと、奥の扉から声がした。


「彼女は、君たちに帰ってほしいと言った」


 灰色の上着を着た男が立っていた。

 胸につけた古い紋章へ、ネビュロスの視線が向く。フロスティアの兵士と同じ印だった。

 男は卓の前まで歩いてきた。


「ここを管理している。面会は終わりだ」

「連れていって、何をする」


 ライガの問いに、男は女性を見た。


「苦痛を和らげる。外の記憶で暮らせなくなる者は、少なくない」

「夫を捜したいという気持ちも、消すのか」

「君にも、ここで受けられる処置は説明したはずだ」


 ライガの手に力が入った。

 兵士は顔をしかめなかった。掴まれた手を見て、もう片方の手を腰へ伸ばす。

 レクスがカイの前へ出た。アシュレイも卓を回り、女性を押さえる兵士の横へ立つ。


「その手、止めろ」


 管理者が掌を上げた。

 兵士の手は腰の銃へ触れたところで止まった。


「人の暮らす場所だ。争いは困る」

「なら、まず放せ」


 ライガが言った。

 管理者は、答えを待つように女性へ目を向けた。


「この人たちと行きたいですか」


 女性は首を横に振った。

 ヴェルミリオンから目を逸らし、肩を縮める。


「ほら。君たちの助けは求めていない」

「僕とは行きたくないんだろうね」


 ヴェルミリオンが言った。


「そこは、君に教えてもらわなくても分かる」


 管理者が彼へ向き直った。


「では、退出してもらおう」

「その前に、その手を離して。彼女がどこへ行くかは、彼女が決める」


 女性は、掴まれた肘へ目を落とした。

 兵士の指の下で、衣服に深い皺が寄っている。


「私は……」


 管理者が言葉を継いだ。


「今は疲れている。考えるのは、処置の後でいい」


 兵士が女性の腕を引いた。

 畳み損ねた見取り図が卓から落ちる。女性はそれを追って手を伸ばした。


「待って。その紙」

「後で届けます」


 兵士は歩き続けようとした。

 ライガが手首を押し戻し、アシュレイが女性のそばへ入る。


「嫌がってんだろうが!」


 女性の肘から、ようやく指が外れた。

 兵士は一歩退くと、銃を抜いた。


         *


 ヴェルミリオンが、女性と銃口の間へ踏み込んだ。


「魔導展開(マギア・ブースト)」


 腕輪から溢れた紫の魔力が胸へ走り、艶のある外骨格となって身体を包む。肩から腕へ、腰から脚へと装甲が重なり、背中に半透明の翅が開いた。

 銃声が響いた。

 弾丸が深紫の肩甲を叩き、砕けた欠片が床へ落ちる。


 悲鳴が上がった。

 食堂の奥へ逃げようとした住民たちの前で、金属の仕切りが下り始める。


「扉を閉めるな!」


 ライガが叫んだ時には、ネビュロスが腕輪へ魔力を流していた。


「魔導展開(マギア・ブースト)!」


 蒼銀の氷晶が彼の四肢を覆い、重なり合って甲冑を作る。開いた魔導書から冷気が走り、下りる仕切りの下に太い氷柱が立った。

 金属が氷を削ったが、床まで閉じることはできなかった。


「そこから出ろ! 押すな、順に!」


 ネビュロスの声に、奥で立ち尽くしていた者が動いた。

 エルザとポルクが椅子を退け、通れる幅を空ける。セイジは入口脇の端末へ走った。


 銃を構え直した兵士の前で、紫の翅が揺れた。


「道化の舞(ミラージュ・ワルツ)」


 ヴェルミリオンが三人に分かれた。

 兵士の銃口が右の姿を追う。その腕へ本物が横から触れ、天井へ押し上げた。発砲音と同時に手首を捻り、腹へ膝を入れる。

 兵士の身体が折れた。

 ヴェルミリオンは銃を奪い、床へ蹴り飛ばした。


「僕を撃つ時は、よく狙って。他の客に当たるだろう」


 兵士は腹を押さえなかった。

 曲がった手首をそのままに、再び女性へ腕を伸ばす。

 アシュレイが卓を押し込み、間へ割り込ませた。


「しつけえな!」


 ヴェルミリオンは兵士の襟を掴み、女性から引き離した。背中から床へ叩きつけ、肩を踏んで押さえる。

 それでも兵士の顔は動かなかった。

 ネビュロスが、床を這うように氷を伸ばした。兵士の腕と脚を床へ固定する。


「生かしておけ。こいつには聞くことがある」

「そのつもりさ」


 ヴェルミリオンは足を離した。

 女性は卓の陰でしゃがんでいた。アシュレイが床の紙を拾い、彼女へ差し出す。

 女性は破れた端を合わせ、胸へ抱いた。


         *


「君たちのせいで、怯えている」


 管理者は、逃げる住民たちを見ていた。

 その右手には小さな操作器がある。

 グリムが男の前へ出た。


「銃抜かせといて、よう言うわ」

「秩序を守るための警備だ」

「手ぇ離せ言うただけで撃つんが、お前らの秩序か」


 男の親指が操作器へかかった。

 グリムがその手を掴んだ。押すより早く指ごと握り込み、操作器を砕く。

 欠片が二人の足元へ落ちた。


 男は壊れた器具を一度見ただけだった。

 握られた手を引こうともせず、グリムの顔へ視線を戻す。


「ここから出して、どうする。食事も、住居も、治療も、君たちが用意するのか」

「必要なら、用意したる」

「帰る場所のない者もいる。家族に拒まれた者も。君が全員に責任を持てるわけではない」


 グリムは男の手を放さなかった。


「せやから、お前の言いなりにしとけっちゅうんか」

「苦しまずに暮らせる」

「苦しい言う口まで塞いどるやろが」


 男の背後で、もう一人の兵士が姿を現した。

 グリムはそちらを見たまま、声を張った。


「ライガ。こっちは俺がやる。出口を押さえろ」

「分かった」


 ライガの掌に白炎が灯った。

 炎が左腕のゾーエ(変身ブレス)へ入り、白銀の光が全身を走る。


「バーニング・チェンジ!」


 深紅のスーツを白い装甲が覆い、顔にマスクが展開した。胸の「B」が輝き、背へ炎のスカーフが流れる。

 バーニングレッドは下りかけた仕切りへ走った。氷柱の隣へ肩を入れ、両腕で金属を押し上げる。


「通れる! こちらへ!」


 住民が一人、彼の横を抜けた。

 次の一人をエルザが送り出す。ポルクは通路側へ回り、転びかけた老人を受け止めた。

 レクスはカイを伴って入口を守り、セイジが端末から離れるのを待っている。


「閉鎖を止められるか」

「ここからでは無理だ。向こうで操作している」


 セイジが管理者へ顔を向けた。

 グリムの手の中で、男の指が曲がった。

 砕けた操作器を捨て、グリムの手首を握り返してくる。


 床のタイルが鳴った。

 グリムの靴が、半歩ずれた。


「……へぇぇ」


 グリムが歯を剥いた。


「事務仕事だけやないんか」

「君たちのような者も、受け入れなければならないのでね」


 男が腕を振った。

 グリムの身体が持ち上がり、卓の方へ投げ出される。

 彼は空中で身を捻り、脚から床へ着いた。踵でタイルを割りながら踏み止まり、すぐに腕輪を掲げた。


「魔導展開(マギア・ブースト)!」


 赤熱する魔力が黒曜石の重装甲へ変わり、胸と肩、拳を覆う。背部の排熱口から炎が噴く。

 グリムの真・魔導外殻《トゥルー・マギア・シェル》が、食堂の灯りを照り返していた。


 ヴェルミリオンが、管理者の右へ回った。

 ネビュロスも、出口を支える氷柱から片手を離す。

 男は三人を順に見た。


「外での暮らしに、戻れると思うかい。君たち自身、あの街を追われたばかりだろう」


 グリムが片足を前へ出した。


「追い出されたから、今度はここ荒らしに来たんや。文句あるか」


 男の背後で兵士が銃を上げた。

 ヴェルミリオンの幻影がその前を横切り、視界を塞ぐ。ネビュロスが兵士の足元を凍らせた。

 グリムは、その間に管理者へ踏み込んだ。


「まずはお前や!」


 炎をまとった拳が振り下ろされた。

 男は左腕で受けた。袖が焼け、衝撃で足元が陥没する。それでも倒れず、グリムの拳を押し返した。

 露出した腕の皮膚に、淡い線が浮かんでいた。

 線は肘から上着の奥へ走り、短く光った。


 ネビュロスの目が細くなる。

 男は焼けた袖を払い、今度は自分から拳を構えた。


         *


 アシュレイが、卓の陰へ膝をついた。


「立てるか。ここは危ねえ」


 女性は頷きかけ、紫の装甲へ目を向けた。

 ヴェルミリオンが管理者の動きを見ながら、出口と彼女の間に立っている。


「あの人とは、行きません」

「分かった。俺と来い」


 アシュレイは手を差し出したまま待った。

 女性はすぐには取らなかった。手の中の見取り図を見て、卓に置かれたもう一枚の紙へ顔を向ける。


「それも」


 姉の住所だった。

 アシュレイは紙を取り、彼女へ渡した。


「……姉と、話せますか」

「外へ出たら、つなぐ」


 女性が手を伸ばした。

 アシュレイはその手を取り、立ち上がるのを支えた。


 管理者がこちらを見た。

 向けかけた腕へ、ヴェルミリオンが蹴りを叩き込む。


「そちらは退場口だよ」


 紫の翅が開いた。

 管理者と出口の間を、同じ姿の魔王たちが塞いでいく。


「君の相手は、僕たちだ」


 女性は振り返らず、アシュレイと出口へ向かった。


(4話へ続く)


第3話をお読みいただき、ありがとうございます。

辿り着いた第六居住区には、ライガが残してきた人々と、ヴェルミリオンが向き合わなければならない相手がいました。

次回、救出を阻む管理者と三魔王が激突します。評価・ブックマーク・感想も励みになります。


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