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アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第5部:世界の敵編

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第5部 第1話『あの村で、俺たちは』

【前回のあらすじ】


レヴェリオとの戦いを終え、ライガたち五人はリドラムに残った。カイは拘束を受け入れ、監視下で証言を続けている。ネビュロスとセイジはフロスティアへ、ヴェルミリオンとアシュレイはエセリアへ。それぞれの場所で人々と向き合い、行方不明者を捜し続けてから、半年が過ぎた。


※本作品の執筆にはAIを活用しています。


 フロスティアの朝に、食器の割れる音が響いた。

 廊下を歩いていたネビュロスが食堂へ入ると、床に椀が落ちていた。その前で、一人の少年が両手を握りしめている。


「怪我はないか」


 ネビュロスが近づこうとすると、少年は肩を跳ねさせた。後ろの椅子へぶつかり、倒れかけた背もたれを掴む。


「ご、ごめんなさい。僕、わざとじゃ――」

「分かっている。そこを動かないでくれ。破片がある」


 少年は俯き、返事をしなかった。ネビュロスはその場で足を止め、後から来たセイジへ顔を向けた。


「頼めるか」


 セイジが頷いて少年のそばへ行く。ネビュロスが扉まで下がると、ようやく少年は顔を上げた。隣の子が手を伸ばし、割れた椀のない側へ連れていく。

 ネビュロスは廊下から箒を持って戻り、二人から離れた場所で破片を集めた。


「先生、僕がやるよ」


 別の生徒がちり取りを持ってきた。ネビュロスは礼を言い、床に残った細かな欠片を指した。


「こちらを押さえてくれ。素手では触らないように」


 封印は、すでに全員分を解いていた。食堂には朝食が並び、窓際では本の取り合いが始まっている。一方で、部屋から出られない子もいた。夜中に悲鳴を上げる子や、ネビュロスを見ると身体を強張らせる子もいる。

 片づけを終えると、セイジが廊下へ出てきた。


「怪我はなかった。今は食べている」

「そうか」

「君が離れたのを、自分が追い出したせいだと思っていた。仕事に戻っただけだと伝えた」


 ネビュロスは食堂の入口を見た。今すぐ声をかけ直すべきか迷っていると、セイジが先に歩き出す。


「返事を急がせるな。君にも、あの子にも」


 ネビュロスは頷き、箒を片づけた。

 出発前に、二人は別棟の部屋を訪れた。生徒たちを襲った兵士が寝台に横たわっている。こちらも封印は解かれていたが、一人として意識を取り戻していなかった。

 呼吸はしている。脈もある。それでも、声をかけても目を開けない。


「留守の間に変化があれば、すぐ知らせてくれ」


 ネビュロスは世話を頼んでいる者へ告げ、寝台を見渡した。聞かなければならないことは山ほどある。だが、今日も返事はなかった。


         *


「ライガ、今日の夕方は空いてるか」


 リドラムの店へ入るなり、ライガは入口脇の男に呼び止められた。頬に古傷のある男が、向かいの椅子を引いている。


「娘の誕生日なんだ。お前も呼べって、昨日からうるさくてな」

「俺が行っていいのか」

「駄目なら誘わねえよ」


 半年前、この男はライガが隣へ座るだけで席を移った。それが今では、娘が転んだとか、父親の言うことを聞かないとか、顔を合わせるたびに話しかけてくる。ライガは腰を下ろし、何時に行けばいいか尋ねた。


「日が暮れる前だ。手ぶらでいいからな」

「何か好きな物は?」

「菓子にしとけよ」


 厨房から店主が口を挟んだ。


「前に子供へやってた、あの分厚い手袋はなしだぞ」

「あれは荷物を運んでくれた礼だ。誕生日には渡さない」

「お前、丈夫で長持ちする物ばっかり選ぶからな」


 父親まで笑い、娘の好きな菓子を教えてくれた。ライガが席を立つと、遅れる時は知らせろよ、と背中へ声がかかる。


「あいつ、入口で待つからな」

「分かった。待たせないようにする」


 奥の卓へ向かうと、グリムがにやにやしていた。ライガは隣へ座りながら先に言った。


「お前も誘われるかもしれないぞ。また腕にぶら下がりたいらしい」

「俺は遊具ちゃうぞ」

「昨日も三人乗せていましたよね」


 ポルクが器を置くと、グリムはそちらへ顔を向けた。


「勝手に乗ってきよるんや。落ちたら危ないやろ」

「それで店の前を二往復したのね」


 エルザにまで言われ、グリムはパンへかじりついた。隣の卓からも笑い声が上がる。店主は焼きたての皿を持ってきて、今度はグリムから遠い場所へ置いた。


「戻ってくる連中の分もあるんだ。食い尽くすなよ」

「俺だけ見て言うな!」


 笑っていたレクスが、窓の外へ目を向けた。店を覗いた女が彼に気づき、向かいの店へ歩いていく。レクスは呼び止めず、器へ手を伸ばした。

 女はライガには挨拶をし、ポルクには家族の話をする。レクスとは、まだ話せない。


         *


 昼過ぎ、店の前へ二台の車が着いた。

 アシュレイが運転席から降りて大きく背を伸ばす横で、ヴェルミリオンはグリムの腕を眺めていた。


「子供を三人乗せるとはね。僕の留守に、ずいぶん評判がよくなったじゃないか」

「誰が喋ったんや」


 グリムが振り返ると、ポルクは荷物を取りに行ってしまった。ヴェルミリオンは笑いながら鞄を下ろし、入口で待つ年配の女へ近づいた。

 出発前に、エセリアにあった妹夫婦の家を調べてほしいと頼んだ女だった。


「家の場所は確かめられたよ。君が話してくれた井戸も残っていた。ただ、二人の物だと分かる品までは見つからなかった」


 見取り図を受け取った女が、石段の描かれた場所を指でなぞった。ヴェルミリオンはそれを待って、次の紙を渡した。


「街の外に残っていた名簿に、妹さんと同じ名前があった。僕が毒を放つ前に、再教育施設へ連れ出された人たちの記録だ」

「妹は、その時には街にいなかったの?」

「名前と年齢は合っている。本人かどうか、ほかの特徴も確かめたい」


 女は左手にある傷のことを話し、それから妹の夫を捜して紙へ目を走らせた。ヴェルミリオンは、夫の名前は見つからなかったと伝えた。


「妹が生きてるって、まだ決まったわけじゃないのね」

「ああ。でも、送られた先は分かった。そこを調べに行く」


 女は頷き、紙を丁寧に畳んだ。


「お願い。分かったことは、悪いことでも知らせて」

「必ず」


 女が店へ入ると、アシュレイが隣に来た。


「妹が見つかったら、旦那のことを聞かれるぞ」

「分かっているよ」


 ヴェルミリオンは、書き留めた傷の特徴へ目を落とした。しばらくして手帳を閉じ、アシュレイを見た。


「だから、見つからない方がいいとは思いたくない」

「なら、見つけるぞ」


 アシュレイは鞄を一つ押しつけ、残りを取りに戻った。

 もう一台の車の前では、ネビュロスが生徒から預かった絵を広げていた。グリムが覗き込んだ途端、不満げな声を上げる。


「なんで俺だけ口から火ぃ噴いとんねん」

「君がよく怒鳴ると話したら、こうなった」

「説明の仕方やろ!」


 ライガが横から絵を支えると、紙いっぱいに描かれた仲間たちが見えた。笑いながら誰が描いたのか尋ねるライガへ、ネビュロスも少しだけ表情を緩める。


「会ってみたいと言っていた。次に来る時には、君から話してやってくれ」

「ああ。今は、何をして過ごしてるんだ?」

「本を読む者もいれば、外へ出たがる者もいる。食事のたびに喧嘩もする」

「賑やかそうやな」


 グリムの言葉に頷いてから、ネビュロスは声を落とした。


「まだ部屋を出られない子もいる。私が近づくと、怯える子もな」


 エルザがそばへ来た。


「あなた一人で見ているわけじゃないでしょう?」

「ああ。私では駄目な時は、ほかの者に頼んでいる」

「では、今日は君が食べる番だ」


 荷物を下ろし終えたセイジが、店の扉を開けた。ネビュロスが何か言う前に、グリムがその背を押す。


「ほら入れ。俺らが食うてまうぞ」


         *


 食事が済むと、ヴェルミリオンは地図を卓へ置いた。指したのは、リドラムの東にある古い施設だった。


「エセリアから連れ出された人たちは、ここへ送られていた」


 レクスが顔を上げた。ポルクも自分の鞄を開け、調査に使っている地図を取り出す。同じ道に印がついていた。


「リドラムからの移送も、この先で引き渡されていたんだ」


 レクスが言うと、エルザは二枚を並べた。


「私たちが調べていたのは途中まで。あなたたちは、その先を見つけたのね」

「門の前までは行った。使われていない施設にしては、車の跡が新しかったぜ」


 アシュレイは門の位置へ印を足した。中に人がいるかもしれないため、二人だけで踏み込まず戻ってきたという。

 ヴェルミリオンはもう一枚、古い記録の写しを出した。


「それと、グリム。あの村へ行った時の噂は、間違っていなかった」


 グリムは紙を受け取り、そこに書かれた村の名を見た。隣のネビュロスも覗き込み、二人の顔から笑みが消える。

 ライガには、その村名に覚えがあった。自分たち五人が焼いた村だった。


「お前たちは、そこで何かを捜していたのか」

「エセリアの粛清を知る者がいると聞いたんだ。僕が二人に付き合ってもらった」


 ヴェルミリオンが答えると、グリムは紙を卓へ戻した。


「一人で行こうとしよったからな。組織の罠かもしれへんのに」

「そう言いながら、君が一番先を歩いていたが」


 ネビュロスに指摘され、グリムは鼻を鳴らした。


「行かへんとは言うてへんやろ」


 ヴェルミリオンは二人を見て少し笑ったが、すぐに紙へ視線を戻した。


「会う前に村が焼かれたから、誰だったのかも分からなかった。今回見つけたのは、その村へ逃げ込んだ人間を捜すための記録だ」

「逃げ込んだ?」

「再教育施設からだよ。エセリアが滅ぶ前に連れ出され、その後で逃げた人たちがいた。あの村は、そういう人を匿っていたんだ」


 ライガは村の光景を思い出した。転送を終えて顔を上げると、家々の間に住民が立っていた。何が現れたのか分からず、隣の者へ尋ねている。その中に、自分たちの装備を見て逃げた者もいた。


「俺たちは、危険な魔族が集まる村だと聞かされていた」


 レクスが低い声で続けた。


「俺は魔力の値を見て、有罪だと言った。誰を匿っているのかも、なぜ逃げたのかも聞かなかった」


 ネビュロスは写しの端にある印を指した。


「これは、私たちの村へ来た組織の印だ」

「エセリアに来たのも、そいつらだった」


 ヴェルミリオンが答えると、エルザは鞄から別の紙を出した。ライガが第六居住区から持ち帰った、古い帳簿の写しだった。


「同じ印ね」


 グリムは二枚を見比べ、古い印へ指を置いた。


「俺の村へ来た奴らも、これをつけとった」


 ヴェルミリオンが顔を上げた。グリムは襟元を引き、首から胸に残る火傷の痕を見せた。


「危険な魔力を管理する言うて、村の連中に薬を打ちよった。逃げた後も終わらへん。俺を追っかけ回して、炎を出させては記録を持って帰りよった」

「回収班ですね」


 ポルクの言葉に、グリムは頷いた。


「お前らレッドには俺の顔も知らせんと、裏でな」


 ライガは口を結んだ。最初の村でグリムに向かって何者だと問うた自分の声を、覚えていた。

 グリムは襟から手を離し、今度はリドラムからの移送先を指した。


「昔の実験も、今ここから人をさらうてんのも、まだ続いとる同じ連中の仕事かもしれんのやな」

「少なくとも、使っている道はつながった。あの居住区へ戻る入口が、この施設にあるかもしれない」


 エルザが地図の門へ指を置いた。ライガは自分が歩いた白い通路を思い出した。食事をくれた男も、妹のことを思い出しかけた男も、その先にいる。

 セイジは古い印を見たまま言った。


「組織はなくなったはずだ。誰が動かしている?」


 誰もすぐには答えなかった。ネビュロスが、持参した治療記録をエルザへ渡した。


「襲撃兵にも聞こうとした。しかし、封印を解いても意識が戻らない。生徒たちは目覚めたのに、兵士だけが全員だ」

「生きてはいるのね?」

「呼吸も脈もある。傷の手当ても済んでいる。それでも、声をかけても反応しない」


 エルザが記録へ目を通す間に、ライガは地図を畳んだ。


「カイに確かめよう。この施設と、あの村を襲った理由を」


         *


 面会の許可を受け、ライガと三魔王はカイの部屋へ入った。見張りが扉の外に立つ中、ライガは机へ地図を置いた。

 カイは施設の位置と古い印を見て、頷いた。


「ここは再教育の引き渡し先だ。私の組織が直接管理していたわけではない」

「なら、誰の管轄や」


 グリムが尋ねると、カイは印へ指を置いた。


「私が組織を作る以前から続いている施設だ。あの科学者が紹介した担当者へ、人を引き渡していた」

「前の組織は滅んだはずだろう」


 ネビュロスの問いに、カイは少し考えてから答えた。


「組織がなくなっても、再教育は続けられる。私は、そう説明された。施設を維持する人員が残っているのだと思っていた」


 ヴェルミリオンは村の記録を地図の横へ置いた。


「その施設から逃げた人間が、あの村にいた。君は知っていたのか」


 カイは紙を読み、ライガを見た。


「知っていた。引き渡しを拒んでいるという報告を受けて、制圧を決めたのは私だ」

「俺たちには、周囲へ被害を広げる危険な村だと説明したな」

「ああ。逃亡者を匿い、管理を拒むこと自体を危険だと判断した」


 グリムが机へ手をついた。


「逃げてきた奴を突き出さへんかったから、焼いたんか」


 カイは頷いた。グリムはしばらく睨みつけていたが、机を殴る代わりに、村の名が書かれた紙を引き寄せた。

 ライガはカイから目を逸らさずに尋ねた。


「逃げた者が、施設で何をされていたかは?」

「確かめなかった。再教育を拒んだ者、という報告で済ませた」


 ライガの隣で、ヴェルミリオンが椅子を引いた。


「今もそこに人がいるかもしれない。入口と、担当者について知っていることを教えてくれ」


 カイが紙を手に取ると、ネビュロスは意識の戻らない襲撃兵のことも話した。カイは筆を止め、兵士たちの状態を一つずつ聞いたが、理由までは答えられなかった。


「兵士に何か処置をするという話を、その科学者から聞いていないか」


 ネビュロスが尋ねると、カイは記録へ目を落とした。


「この兵士たちについては、知らない。私に渡された技術だけで、彼がほかに何をしていたかまでは分からない」

「なら、分からないままで残してくれ。生徒と兵士で、何が違うのかを調べたい」


 カイは頷き、治療記録の写しを机の脇へ置いた。グリムがその手元を見たまま言った。


「俺を追ってた回収班の行き先も調べろ。炎の記録を、どこへ送っとったんか」

「分かった。私の側に残った記録と照合する」


 カイは新しい紙を取り、施設について覚えていることから書き始めた。


         *


 夕方、店へ戻ると、レクスとエルザが出発の準備をしていた。翌朝、ヴェルミリオンとアシュレイに同行し、施設を調べる。ネビュロスとセイジは、エルザと兵士の検査について相談してからフロスティアへ戻ることになった。

 ライガがカイの書いた紙を渡すと、レクスは入口の位置を確かめた。


「帰る時刻を過ぎても連絡がなければ、ここへ来てくれ」

「分かった。俺とグリムで動く」


 ライガが控えを受け取った時、外で鋭い雑音が鳴った。街頭の拡声器だった。通りを歩いていた人々が足を止め、広場の方を振り向く。


『現地座標確認。文明レベル、低。思想統一、未達成。――これより“浄化”を開始する』


 ライガは椅子を蹴るように立ち上がった。

 自分の声が、通りの向こうからも聞こえていた。レクスが紙を置き、アシュレイが入口へ走る。セイジとエルザも後に続いた。

 広場の大型画面には、夜の村が映っていた。半年前に修理され、捜索の知らせや配給案内を映していた画面だった。その中で、五人の赤い戦士が並んでいる。


『魔力反応が規定値を超過。この村の存在自体が、世界秩序へのノイズと認定。判決、有罪』


 レクスが広場へ出た時、自分の宣告が響いた。

 セイジの声、アシュレイの笑いが続く。カイの命令の後、家々が炎に包まれた。逃げる住民を見た女が、連れていた子供の目を手で覆う。その横では、荷物を下ろすのも忘れた男が画面を見上げていた。

 セイジは近くの表示端末へ駆け寄った。画面の隅に触れて操作を試みたが、映像は止まらない。


「通常の案内放送ではない。管理側を調べる」

「私も行くわ」


 エルザとセイジが走り出す。その後ろから、住民の声が飛んだ。


「消すつもりか!」


 エルザが足を止めた。ライガはそちらへ向かいかけたが、目の前へ別の男が出てきた。


「あれは、お前たちなのか」


 ライガが答える前に、映像が一度終わった。次に映ったのは、昼間のリドラムだった。住民と荷物を運ぶライガ、子供に腕を引かれるグリム。その上に、大きな文字が重なった。


『あなたの街の英雄を、ご覧ください。』


 再び、村が燃え始めた。


「聞いてるんだ。お前か!」

「ああ。あの赤い戦士は、俺だ」


 男がライガの胸を掴んだ。レクスが一歩出たが、ライガは片手を上げて止めた。


「ここを助けたら、ほかでやったことは終わりか!」

「終わっていない。俺が――」

「じゃあ、なんで普通に歩いてるんだよ!」


 男の背後で、別の住民が声を上げた。


「待てよ。こいつらがいなかったら、俺たちだって死んでたんだぞ」

「だから、この村の奴らは死んでいいのか!」

「そこまで言ってないだろ!」


 二人の間へ人が入り、広場のあちこちで声が重なった。端末を取り出して映像を確かめる者も、ライガたちへ向ける者もいた。

 グリムは押されて転びかけた子供を受け止め、母親の方へ戻した。ヴェルミリオンは店先の椅子を脇へ退け、通りを塞いでいた人々へ道を空けるよう声をかける。アシュレイは言い争う二人の間に立った。


「殴るな。そいつと喧嘩してどうすんだ」


 ライガの胸を掴んでいた男は、しばらくして手を離した。言葉を待つように睨んでいたが、近くでまた叫び声が上がると、そちらへ振り向いた。

 その向こうに、朝の父親がいた。手には菓子店の包みを持っている。ライガは男のそばへ行こうとして、相手が一歩下がるのを見た。


「娘には、俺から言う」


 父親は包みを持ち直し、ライガの目を見た。


「今日は来ないでくれ」

「……分かった」


 父親が人混みを抜けていく間も、頭上ではライガの声が繰り返されていた。

 ポルクが店から出てきて、レクスへ地図の入った鞄を渡した。


「明日の準備、店の奥へまとめておきました」


 レクスは受け取った鞄を握った。ヴェルミリオンが通りの先から戻ってきて、ライガの隣へ立つ。


「捜索は続けるよ。君たちも、ここで必要なら残ってくれ」

「行く」


 レクスが答えた。


「連れていかれた人たちは、まだ向こうにいる」


 ライガは頷き、住民たちへ向き直った。画面の中の自分が、また浄化の開始を告げた。


         *


 第六居住区では、その夜も決まった時刻に明かりが落とされた。

 居住棟から離れた管理室で、兵士が一人の人物へ報告していた。


「外の施設に、接近した者がいます。二名。門を確認して引き返しました」


 机の向こうで、指揮官が顔を上げた。壁には、滅んだはずの組織の紋章が残っている。


「戻ってくるだろう。受け入れる準備を」

「拘束ですか」

「必要なら。まだ、ここで学ぶことがある人たちだ」


 兵士が退出すると、机の通信機から声がした。


『無理に壊すな。彼らは貴重だ』

「承知しています、エルゴス博士」


 指揮官は椅子へ座り直した。机の端に置かれた管理票には、所属も階級もなく、実験体番号が一つだけ記されていた。


(2話へ続く)


第5部が始まりました。半年後の再会から、エセリア、フロスティア、リドラムに残された問題がつながり始めます。

これまで読んでくださった皆さま、ありがとうございます。評価・ブックマーク・感想も励みになります。第5部も、よろしくお願いいたします。

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