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アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第4部:断罪と贖罪編

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第4部 第20話『この街で生きていく』

【前回のあらすじ】

三魔王がレヴェリオの装甲を破り、ライガの白炎がカイとレヴェリオを分離した。再会した二人には、少年だった頃の記憶が戻る。しかしレヴェリオは断罪をやめず、瓦礫と黒い装甲を集めて巨大化。街へ迫る彼女を止めるため、カイは地下に封じていた五機の存在を明かした。


※本作品の執筆にはAIを活用しています。


 地下格納庫の天井が揺れた。


 落ちてきた埃が、カイの黒髪へ積もる。

 レクスとアシュレイに両肩を支えられ、彼は五機の白い巨体を見上げていた。


 かつての五人のレッドに合わせて造らせた機体。

 その誰にも存在を知らせないまま、封じた兵器だった。


 地上から、グリムの声が響いた。


『まだか! こっちは、踏まれんように走るだけで精一杯やぞ!』


 続いて爆音。

 通信が途切れ、カイが顔を上げた。


「……手を離してくれ」


「立つのもやっとだろうが!」


 アシュレイが支える腕に力を込める。

 カイは首を横に振った。


「その通りだ。だから、ここまで運んでもらった」


 レクスの肩から、片手を離す。

 片足を前へ出した途端、膝が折れかけた。

 それでも、もう一方の足を踏み直す。


「私の命令で、人が死んだ。私を救うために、あいつらが傷ついた」


 カイは掌を見た。

 震える指先に、小さな光が生まれる。

 レヴェリオが去っても、その光は残っていた。


「見ているだけで、終われない。……私の責任を果たす」


 両腕を胸の前で交差させた。


「ジャスティス・チェンジ!」


 白銀の閃光が格納庫を照らした。


 深紅のスーツが身体を包み、その上へ白い胸甲と肩甲が重なる。顔をマスクが覆った。

 最後に背中へ光翼が開いた。


 ユナイトレッド。


 その右膝が、床へ落ちた。

 装甲の下で傷が痛む。変身しても、失った体力は戻らない。


 カイは床に手をついた。

 立ち上がろうとしたところへ、レクスの手が差し出される。


「戦うと言うなら、必ず戻ってこい」


 カイはその手を取った。


「ああ」


 レクスとアシュレイが昇降台へ送り出す。

 エルザは制御盤の前で、主電源を押し込んだ。


「ポルク、上を開けて!」


「開きます! 全機、発進できます!」


 五機を留めていた固定具が外れた。

 白い翼を持つ機体の胸が開き、カイを迎え入れる。


         *


 グリムは、目の前へ落ちてきた巨大な足を避けた。

 跳んだ先の地面まで崩れ、肩から転がる。


 頭上に、雷の槍が見えた。


「……もう一本、走れ言うんかい」


 起こそうとした脚が動かなかった。

 槍先が、こちらへ落ちてくる。


 横から光が撃ち込まれた。


 雷槍の先が跳ね上がり、グリムの数歩先へ突き刺さった。

 その上を、白い翼の機体が飛び越えていく。


『乗れ! 四機、そちらへ送る!』


「カイか!」


 グリムが顔を上げる。

 地下から上がった白い四機が、瓦礫を押し退けて近づいてきた。


 ライガは中央の機体へ走った。

 開いた搭乗口から光が伸び、身体を包む。引き上げられた先には、一人分の座席があった。


 座った瞬間、前の壁が透けた。

 レヴェリオの巨体が正面に見える。

 腕を上げようとすると、機体の腕も持ち上がった。


『姿勢の補助は機体がする。自分の身体を動かすつもりでいい』


 カイが通信で伝えた。


「……分かりやすいな」


 ライガが拳を握ると、巨大な拳が音を立てて閉じた。


 隣では、グリムが同じように右腕を突き出していた。

 だが、彼の機体だけは動かない。


『適合する魔力を確認できません』


「確認しとる場合か! 上や、上!」


 レヴェリオが再び槍を振り上げていた。

 ネビュロスとヴェルミリオンの機体にも、同じ警告が鳴っている。


『三機とも止まってるわ! 今、接続を――』


 エルザの声を、グリムが遮った。


「魔力が要るんやな? ほな、くれてやる!」


 グリムは両拳を握り、炎を噴き上げた。

 まとっていた真・魔導外殻《トゥルー・マギア・シェル》の赤熱した継ぎ目から、機体へ魔力が流れ込む。


 白い腕甲が、内側から黒く染まった。

 肩が張り出し、拳の装甲が一回り大きくなる。排気口が開き、黒い炎が噴き出した。


 巨腕が跳ね上がった。

 迫る雷槍を横殴りに弾き飛ばす。


 槍が地面へ落ち、土と石が噴き上がった。


「……動いたで」


 グリムは画面に映る黒い腕を見た。


「色まで変わったけどな」


「無茶をするからだ!」


 ネビュロスも両手を接続部へ押し当てた。

 蒼い光が機体を駆け抜け、白い外装に黒い氷結晶が伸びる。


「お前も変わっとるやろ!」


「止まっているよりはいい!」


 ヴェルミリオンが笑った。


「僕だけ白いままじゃ、仲間外れだね」


 紫の魔力が盾を覆った。

 鏡のような黒紫の表面に、翅を思わせる紋様が浮かび上がる。


 ライガの画面へ、五機の姿が並んだ。

 白いはずの三機が、すっかり別物になっていた。


「……いけるんだな?」


「今、動いたやろ!」


 グリムの返事に、ライガが笑った。


「よし。カイ、合体だ!」


         *


 カイが合体を起動した。


 五機に光が灯り、互いを結ぶ線が走る。

 ネビュロス機が前へ滑り出し、左右に分かれた。双剣を外側へ収めた二本の脚が、地面を踏む。


 ライガ機が上昇した。

 底部が開き、脚部の上へ降りる。


 地面が揺れた。

 腰の固定具が噛み合い、黒い装甲が胸へせり上がる。


 右へグリム機が回り込む。

 重なった装甲が巨大な肩と拳を作り、右腕として接続した。

 左側には盾を抱えたヴェルミリオン機が収まり、指先まで紫の紋様が走る。


『合体シークエンス進行。ジャスティスガーディアンへ移行します』


「ちょい待て! この面子でジャスティスは無理あるやろ!」


 グリムが叫んだ。


「今、名前を気にしてる場合か!」


「俺らみたいな魔王が正義語ってどないすんねん! 大事やろが!」


「魔王も正義も乗ってるんだ。片方だけじゃ、確かに足りないね」


 ヴェルミリオンの声に、カイが前を見た。

 白い機体のために用意した名称が、画面に残っている。


「……なら、新しい名で呼べばいい」


 カイ機が背中へ降りた。

 白い翼の基部が固定され、胸の二本の発光線が交わる。


 黒い兜が閉じた。

 左右へ白い角が伸び、白銀の顔が上がる。


 その目の前へ、雷槍が迫った。


「名前は後や! 受けろォッ!」


 グリムの叫びに、左腕が跳ね上がる。

 盾の骨格へ氷が張った瞬間、巨大な穂先が激突した。


 轟音。

 氷片が飛び散り、巨人の両足が地面を削る。


「脚を止めろ! 後ろは搬入口だ!」


 ネビュロスが足元を凍らせた。

 黒い巨人の踵が氷へ食い込み、ようやく止まる。

 だが、槍は押し込まれ続けていた。


「グリム、噴かせるか!」


「やっとる!」


 背中と両脚から黒炎が噴いた。

 カイの光翼が開き、前へ傾いた機体を支える。


 盾の向こうで、レヴェリオが力を込めた。

 氷に太い亀裂が走る。


「このままじゃ割れるよ!」


「分かっとる! ……何がジャスティスガーディアンや。魔王が三人も踏ん張っとるぞ!」


「俺たち二人もいる!」


 ライガが返した。

 剣を求めて右手を下げると、両脚の外側に収められていた双剣がせり出した。


 右手が片方の柄を掴む。

 もう一振りが固定具から離れ、引き寄せられるように重なった。二枚の刀身が背中合わせに噛み合い、柄を覆う留め具が閉じる。


 黒い幅広の大剣が、一本になって持ち上がった。


「ほな、両方や!」


 グリムは、胸で交差する二本の光を見た。


「魔王も正義も、ごちゃ混ぜで――クロスガーディアン! それでええ!」


「決まりだ!」


 ライガの白炎が、大剣の両刃を先端まで包んだ。


『機体呼称を更新。クロスガーディアン』


「そこは聞くんかい! 先にこいつ押し返せや!」


「それは僕たちの仕事だよ!」


 ヴェルミリオンが左腕を突き出した。

 ネビュロスの氷が盾を補強し、グリムの黒炎が一段と強く噴く。


 雷槍が、押し上がった。


「今だ!」


 カイが叫んだ。

 敵の胸が空く。


「魔正合体――クロスガーディアン!」


 ライガの声に、グリムが吠えた。


「初仕事や! ぶちかましたれェッ!」


 白炎の大剣が、黒い胸甲へ振り下ろされた。


         *


 黒い胸甲が裂けた。

 レヴェリオの巨体が後ろへよろめき、踏み抜いた地面から土煙が噴き上がる。


「まだや! もう一丁!」


 グリムの声とともに、脚部から黒炎が噴いた。


「黒炎爆進(ヘルブースト)!」


 クロスガーディアンが踏み込んだ。

 巨体に似合わぬ速さで間合いを詰め、盾ごと敵へ体当たりする。


 レヴェリオの足が地面を離れた。

 背中から倒れ、折れた塔の基礎を砕く。


 地下の画面を見ていたアシュレイが、拳を突き上げた。


「よっしゃあ! そのまま行け!」


 レヴェリオは倒れた姿勢から黒雷を放った。

 クロスガーディアンの胸を撃ち抜く。


 その胸が、紫の光へほどけた。


「残念。そこじゃない」


 ヴェルミリオンが指を動かす。


「幻影装甲(ミラージュ・シェル)」


 装甲の紋様から剥がれた残像が、左右へ走る。

 本物は右側へ回っていた。


 レヴェリオが槍を薙いだ。

 ライガは剣を下から合わせる。


「白炎剣(クロスブレイザー)!」


 黒雷と白炎が擦れ合い、火花が横一列に散った。

 槍を弾き上げ、返す刃で敵の右肩を斬る。

 腕の装甲が裂け、瓦礫が滝のように落ちた。


 レヴェリオが雷翼を広げた。

 地面を離れ、黒い雲の下へ舞い上がる。


 上空から雷の槍が投げ下ろされた。


「盾を前へ!」


 ネビュロスが腕を突き出した。


「氷獄盾(コキュートス・ガード)!」


 氷が厚みを増し、槍を受け止める。

 穂先が表層を砕いた瞬間、左腕を斜めに振った。

 槍は盾を滑り、誰もいない塔の跡へ突き刺さった。


「上を取るぞ、カイ!」


 ライガが空を見た。

 カイも両腕を広げた。


 光翼が大きく伸びた。

 黒炎が背中と踵から噴き上がり、巨体が地面を離れる。


 黒い炎の尾を引いて、クロスガーディアンが空へ駆け上がった。

 白い翼が進路を変え、黒雷の間を縫う。


 レヴェリオが腕を交差させた。

 重力が正面から押し寄せる。


 カイは反射的に押し返そうとした。

 だが、かつての重力は生まれなかった。

 機体の速度が落ち、胸が軋む。


「……重力が、出ない」


 カイが自分の手を見る。

 そこに灯るのは光だけだった。


「分離してから……私の力が変わっている」


「光は出とるんやろ!」


 グリムが怒鳴った。


「そっちで舵取れ! 押すんは俺がやる!」


 黒炎が膨れ上がった。

 カイは翼を傾け、真正面からの進路を横へずらす。

 重力の壁の端をかすめ、機体が敵の頭上へ抜けた。


 ライガが剣を振りかぶる。


「落とす!」


 上からの一撃が、レヴェリオの左の雷翼を断った。

 姿勢を失った巨体へ、続けて右足を叩き込む。


 レヴェリオが落ちた。

 背中から荒れ地へ激突し、土煙が波となって広がる。


 クロスガーディアンは両足で着地した。

 黒炎が吹き消え、白い翼が静かに揺れる。


 グリムが、荒い息のまま笑った。


「……いけるやないか」


 ライガも剣を構え直した。


「ああ。いける!」


         *


 土煙の中で、紫の光が膨らんだ。


 レヴェリオが起き上がる。

 斬られた肩や胸へ、周囲の瓦礫が吸い寄せられていく。


 再生するたびに、胸の光が細くなった。


『無限には直せない!』


 セイジの声が通信へ飛んだ。


『胸の核を守るために、残る力を使っている!』


 レヴェリオは片腕を胸へ当てた。

 外側の修復が止まる。

 その代わり、残った雷翼が鋭く伸びた。


「君たちは、また私を消す」


 翼が地面へ突き立った。

 黒い線が地中を走り、クロスガーディアンの足元で円を描く。


「苦しんだ人たちの声ごと、なかったことにする!」


 両脚が沈んだ。

 ライガが踏み出そうとしても、膝が曲がらない。


「断罪重力領域(アビス・フェイズ)!」


 地面が大きく陥没した。

 機体の腰が落ち、剣先が土を抉る。


 頭上に、黒雷が集まった。


 ネビュロスが盾を持ち上げた。

 雷が落ちる。

 氷が一枚ずつ砕け、左腕へ衝撃が突き抜けた。


「っ……!」


 ヴェルミリオンが座席へ叩きつけられた。

 左腕の表示が赤く染まる。


 レヴェリオは雷翼の一部を引き抜き、槍へ変えた。

 氷結盾を押さえつけたまま、その下から突き上げる。


 盾の骨格が折れた。

 胸甲が抉れ、紫の紋様が途切れる。


 五人の視界が激しく揺れた。

 カイのマスクの内側へ血が伝い、グリムは歯を食いしばって身体を支えた。


「さっきまでの元気はどうしたの?」


 レヴェリオが槍を引いた。


「カイ。君は、そちらで何を守っているの」


 カイは正面を見た。

 壊れた装甲の奥で、少女がこちらを見ている。


「お前が、今から傷つける人たちだ」


「君が傷つけた人たちでしょう!」


「ああ」


 カイは答えた。


「だから、これ以上増やさせない」


 槍が突き出された。

 ライガが大剣で受ける。

 刃が横へ押され、右肩から火花が噴いた。


『ライガ、右腕も限界よ!』


 エルザが叫ぶ。

 ライガは剣を離さなかった。


「レクス! 東側は!」


『最後の組が抜けた! もう誰もいない!』


 避難路から返事が届いた。

 ライガは剣越しに、敵の槍を見た。


「カイ、右へ傾けてくれ。受け流す!」


「分かった」


 カイは光翼を片側だけ開いた。

 機体の上半身が傾く。


 ライガも刃を斜めに寝かせた。

 槍が滑り、肩の上を抜ける。敵の重心が前へ流れた。


「今や!」


 グリムが黒炎を噴いた。

 機体は右へ倒れ込みながら、動かせる右腕を振った。

 剣が地面を走り、足元の黒い線を白炎で焼き切る。


 脚が動いた。

 ネビュロスが右足の下を凍らせ、崩れた地面に足場を作る。


 クロスガーディアンは、片膝で踏み止まった。

 カイが光翼を前へ向ける。


「光翼砲(フェザー・レイ)!」


 翼から束ねた光が放たれた。

 槍を引き戻そうとする敵の腕を撃ち、身体を後ろへ押す。


 射撃で薄くなった翼が消えかける。

 カイは両手を握り、残る光をつなぎ止めた。


「……今、立てる」


 ライガが右足を踏み出した。

 黒い巨人が、再び立ち上がった。


         *


 右腕はまだ動いた。

 だが、大剣の刀身には深い亀裂が入っていた。


『次に槍を受けたら、折れるわ』


 エルザが言った。


「なら、次で終わらせる」


 ライガは剣を腰の横へ引いた。

 白炎が刀身へ集まり、亀裂から噴き出す。


 グリムが機体の右肩へ熱を送った。

 ネビュロスが、その内側の関節を冷やす。


「燃やすのは外だけにしろ! 中まで焼けば腕が落ちる!」


「分かっとるわ! お前も凍らせすぎんなよ!」


「二人とも、喧嘩は帰ってからにしてくれる?」


 ヴェルミリオンの声には、もう余裕がなかった。

 それでも、残った紋様に紫の光を灯す。


「最後の一回。見失わせてあげる」


 カイは胸の奥の少女を見た。


「レヴェリオ。お前の声も、聞く」


「……今さら?」


「今さらだ。それでも、聞かせてくれ」


 少女の顔が歪んだ。


「君が間違っていたら……私がそばにいたことまで、間違いになるじゃない」


 カイは首を横に振った。


「ならない」


 レヴェリオの手が止まった。


「お前がいて、私は嬉しかった。少年だったお前も、鏡の向こうのお前も。それは、私が何を間違えても変わらない」


 彼女は唇を噛んだ。

 胸に抱えた両手へ、黒雷が集まっていく。


「だったら……私を、否定しないで」


「お前が人を殺すことには、頷けない」


 カイの光翼が、もう一度開いた。


「そばにいたいからこそ、止める」


 レヴェリオが叫んだ。

 両手の雷が、巨大な一本の槍へ変わる。

 残る雷翼を全て引き寄せた穂先が、黒い巨人へ向いた。


 ライガは剣を握り直した。


「行くぞ!」


 五人が、同時に前を向いた。


「魔正交刃(クロスブレイク)!」


 黒炎が噴き上がった。

 白い翼の間を炎が吹き抜け、クロスガーディアンが地面すれすれを飛ぶ。


 紫の紋様が装甲から離れた。

 剣を頭上へ振り上げた幻影が、本体より一歩先へ出る。


 レヴェリオは槍を上げた。

 幻影の胸を貫く。


 紫の光が弾けた。

 その下から、本物の白炎剣が斬り上がる。


 雷槍が断ち切られた。

 白い刃が胸の外殻まで走り、厚い装甲を肩から脇腹へ裂く。


 剣が悲鳴を上げた。

 刀身の先が折れ、白炎の中へ飛んでいく。


「まだ――!」


 ライガは供給を止めなかった。

 折れた先へ炎が伸び、白い刃を作る。


 グリムが右側の黒炎を噴いた。

 カイの光翼が機体をひねり、ネビュロスの冷気に守られた肘が動く。


 返す二太刀目が、逆の斜めから入った。


 露出した術式を白炎が横切った。

 巨体へ伸びる線が、一斉に焼き切れる。


 レヴェリオの胸に、白い十字が刻まれた。


 クロスガーディアンが、その脇を抜けた。

 黒炎が止まり、両足が地面へ着く。


 背後で、巨大な腕が崩れ落ちた。

 瓦礫をつなぐ力が消え、黒い装甲が次々と剥がれる。


 カイは振り返った。


 胸の光の中に、少女がいた。

 もう槍は持っていない。

 自分の両手を見てから、こちらへ顔を向けた。


「……あの本」


 小さな声が、届いた。


「最後まで、読めなかったね」


 カイの喉が詰まった。

 少年と挟んだ一冊の本。その先を、二人で読み直すはずだった。


「……ああ」


 レヴェリオが、手を伸ばした。

 カイも片手を上げる。


 届く距離ではなかった。


 少女の指先が光へほどけた。

 次いで腕が、髪が、顔の輪郭が消えていく。


 胸の光が内側へ縮んだ。


 巨大な身体が爆ぜた。


 白炎が黒雷を包み、砕けた装甲が空へ舞い上がる。

 カイは上げた手を握り、光翼を爆風へ向けた。

 街へ飛ぼうとした破片を受け、無人の荒れ地へ散らす。


 爆風が過ぎた。


 黒い巨人が立っていた。

 片腕の盾は砕け、右手には折れた剣だけが残っている。


 白い顔が、ゆっくりと上がった。

 その背後で、最後の黒雷が消えた。


         *


『敵の反応、消失』


 セイジの声がした。


『……五人とも、聞こえるか』


 グリムは座席へ頭を預けた。


「聞こえとる。もう、走れ言うなよ」


『言わない。そこで待て』


 ヴェルミリオンが笑おうとして、咳き込んだ。

 ネビュロスは震える手を接続部から離す。冷却を終えた右腕が、重そうに下がった。


 クロスガーディアンは一歩だけ進んだ。

 それから片膝をつき、白炎の消えた剣を地面へ置いた。


 カイは、少女がいた場所を見続けていた。


 光も、声もない。

 マスクを解くと、頬へ涙が伝った。


「……今度は、忘れない」


 返事はなかった。


 ライガは、その言葉が終わるまで待った。


「帰ろう、カイ」


 カイは目を閉じた。

 やがて、小さく頷いた。


         *


 避難路にいた人々が、黒い巨人を見上げていた。


 子供が母親の袖を引いた。

 母親は子供を抱き寄せ、動かなくなった機体へ何度も頭を下げた。


 その隣で、兵士に家を焼かれた男は黙って立っていた。

 助かったことと、許せることは、まだ一つにはならなかった。


 機体各部の昇降口が開く。

 レクスとアシュレイが駆け寄り、降りてくる仲間へ手を伸ばした。

 地下から出たエルザとポルクも、担架を運んでくる。


 最後に地上へ降りたカイは、変身を解いた途端に膝をついた。

 レクスが肩を支える。


 少し離れた場所で、元兵士が彼を見ていた。

 カイも、その視線に気づいた。


 今度は、目を逸らさなかった。


 ライガが隣へ立った。


「……ここからだな」


「ああ」


 カイは、差し出された手を取った。


 黒い巨人の背で、光翼が静かに消えた。


 遠くの瓦礫の間に、輪の形をした小さな欠片が落ちていた。

 内側で、かすかな光が一度だけ瞬く。

 風が煤をかぶせ、その光を隠した。



(21話へ続く)

【後書き】

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


正義のために造られた白い機体は、三魔王と二人のレッドを乗せ、黒い守護者へ変わりました。五人それぞれの力が交わる、魔正合体・クロスガーディアン。


レヴェリオとの戦いは決着しました。しかし、帰ってきた者たちが向き合うべき人々と、過去は残っています。次回、4部最終話です。


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