第4部 第20話『この街で生きていく』
【前回のあらすじ】
三魔王がレヴェリオの装甲を破り、ライガの白炎がカイとレヴェリオを分離した。再会した二人には、少年だった頃の記憶が戻る。しかしレヴェリオは断罪をやめず、瓦礫と黒い装甲を集めて巨大化。街へ迫る彼女を止めるため、カイは地下に封じていた五機の存在を明かした。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
地下格納庫の天井が揺れた。
落ちてきた埃が、カイの黒髪へ積もる。
レクスとアシュレイに両肩を支えられ、彼は五機の白い巨体を見上げていた。
かつての五人のレッドに合わせて造らせた機体。
その誰にも存在を知らせないまま、封じた兵器だった。
地上から、グリムの声が響いた。
『まだか! こっちは、踏まれんように走るだけで精一杯やぞ!』
続いて爆音。
通信が途切れ、カイが顔を上げた。
「……手を離してくれ」
「立つのもやっとだろうが!」
アシュレイが支える腕に力を込める。
カイは首を横に振った。
「その通りだ。だから、ここまで運んでもらった」
レクスの肩から、片手を離す。
片足を前へ出した途端、膝が折れかけた。
それでも、もう一方の足を踏み直す。
「私の命令で、人が死んだ。私を救うために、あいつらが傷ついた」
カイは掌を見た。
震える指先に、小さな光が生まれる。
レヴェリオが去っても、その光は残っていた。
「見ているだけで、終われない。……私の責任を果たす」
両腕を胸の前で交差させた。
「ジャスティス・チェンジ!」
白銀の閃光が格納庫を照らした。
深紅のスーツが身体を包み、その上へ白い胸甲と肩甲が重なる。顔をマスクが覆った。
最後に背中へ光翼が開いた。
ユナイトレッド。
その右膝が、床へ落ちた。
装甲の下で傷が痛む。変身しても、失った体力は戻らない。
カイは床に手をついた。
立ち上がろうとしたところへ、レクスの手が差し出される。
「戦うと言うなら、必ず戻ってこい」
カイはその手を取った。
「ああ」
レクスとアシュレイが昇降台へ送り出す。
エルザは制御盤の前で、主電源を押し込んだ。
「ポルク、上を開けて!」
「開きます! 全機、発進できます!」
五機を留めていた固定具が外れた。
白い翼を持つ機体の胸が開き、カイを迎え入れる。
*
グリムは、目の前へ落ちてきた巨大な足を避けた。
跳んだ先の地面まで崩れ、肩から転がる。
頭上に、雷の槍が見えた。
「……もう一本、走れ言うんかい」
起こそうとした脚が動かなかった。
槍先が、こちらへ落ちてくる。
横から光が撃ち込まれた。
雷槍の先が跳ね上がり、グリムの数歩先へ突き刺さった。
その上を、白い翼の機体が飛び越えていく。
『乗れ! 四機、そちらへ送る!』
「カイか!」
グリムが顔を上げる。
地下から上がった白い四機が、瓦礫を押し退けて近づいてきた。
ライガは中央の機体へ走った。
開いた搭乗口から光が伸び、身体を包む。引き上げられた先には、一人分の座席があった。
座った瞬間、前の壁が透けた。
レヴェリオの巨体が正面に見える。
腕を上げようとすると、機体の腕も持ち上がった。
『姿勢の補助は機体がする。自分の身体を動かすつもりでいい』
カイが通信で伝えた。
「……分かりやすいな」
ライガが拳を握ると、巨大な拳が音を立てて閉じた。
隣では、グリムが同じように右腕を突き出していた。
だが、彼の機体だけは動かない。
『適合する魔力を確認できません』
「確認しとる場合か! 上や、上!」
レヴェリオが再び槍を振り上げていた。
ネビュロスとヴェルミリオンの機体にも、同じ警告が鳴っている。
『三機とも止まってるわ! 今、接続を――』
エルザの声を、グリムが遮った。
「魔力が要るんやな? ほな、くれてやる!」
グリムは両拳を握り、炎を噴き上げた。
まとっていた真・魔導外殻の赤熱した継ぎ目から、機体へ魔力が流れ込む。
白い腕甲が、内側から黒く染まった。
肩が張り出し、拳の装甲が一回り大きくなる。排気口が開き、黒い炎が噴き出した。
巨腕が跳ね上がった。
迫る雷槍を横殴りに弾き飛ばす。
槍が地面へ落ち、土と石が噴き上がった。
「……動いたで」
グリムは画面に映る黒い腕を見た。
「色まで変わったけどな」
「無茶をするからだ!」
ネビュロスも両手を接続部へ押し当てた。
蒼い光が機体を駆け抜け、白い外装に黒い氷結晶が伸びる。
「お前も変わっとるやろ!」
「止まっているよりはいい!」
ヴェルミリオンが笑った。
「僕だけ白いままじゃ、仲間外れだね」
紫の魔力が盾を覆った。
鏡のような黒紫の表面に、翅を思わせる紋様が浮かび上がる。
ライガの画面へ、五機の姿が並んだ。
白いはずの三機が、すっかり別物になっていた。
「……いけるんだな?」
「今、動いたやろ!」
グリムの返事に、ライガが笑った。
「よし。カイ、合体だ!」
*
カイが合体を起動した。
五機に光が灯り、互いを結ぶ線が走る。
ネビュロス機が前へ滑り出し、左右に分かれた。双剣を外側へ収めた二本の脚が、地面を踏む。
ライガ機が上昇した。
底部が開き、脚部の上へ降りる。
地面が揺れた。
腰の固定具が噛み合い、黒い装甲が胸へせり上がる。
右へグリム機が回り込む。
重なった装甲が巨大な肩と拳を作り、右腕として接続した。
左側には盾を抱えたヴェルミリオン機が収まり、指先まで紫の紋様が走る。
『合体シークエンス進行。ジャスティスガーディアンへ移行します』
「ちょい待て! この面子でジャスティスは無理あるやろ!」
グリムが叫んだ。
「今、名前を気にしてる場合か!」
「俺らみたいな魔王が正義語ってどないすんねん! 大事やろが!」
「魔王も正義も乗ってるんだ。片方だけじゃ、確かに足りないね」
ヴェルミリオンの声に、カイが前を見た。
白い機体のために用意した名称が、画面に残っている。
「……なら、新しい名で呼べばいい」
カイ機が背中へ降りた。
白い翼の基部が固定され、胸の二本の発光線が交わる。
黒い兜が閉じた。
左右へ白い角が伸び、白銀の顔が上がる。
その目の前へ、雷槍が迫った。
「名前は後や! 受けろォッ!」
グリムの叫びに、左腕が跳ね上がる。
盾の骨格へ氷が張った瞬間、巨大な穂先が激突した。
轟音。
氷片が飛び散り、巨人の両足が地面を削る。
「脚を止めろ! 後ろは搬入口だ!」
ネビュロスが足元を凍らせた。
黒い巨人の踵が氷へ食い込み、ようやく止まる。
だが、槍は押し込まれ続けていた。
「グリム、噴かせるか!」
「やっとる!」
背中と両脚から黒炎が噴いた。
カイの光翼が開き、前へ傾いた機体を支える。
盾の向こうで、レヴェリオが力を込めた。
氷に太い亀裂が走る。
「このままじゃ割れるよ!」
「分かっとる! ……何がジャスティスガーディアンや。魔王が三人も踏ん張っとるぞ!」
「俺たち二人もいる!」
ライガが返した。
剣を求めて右手を下げると、両脚の外側に収められていた双剣がせり出した。
右手が片方の柄を掴む。
もう一振りが固定具から離れ、引き寄せられるように重なった。二枚の刀身が背中合わせに噛み合い、柄を覆う留め具が閉じる。
黒い幅広の大剣が、一本になって持ち上がった。
「ほな、両方や!」
グリムは、胸で交差する二本の光を見た。
「魔王も正義も、ごちゃ混ぜで――クロスガーディアン! それでええ!」
「決まりだ!」
ライガの白炎が、大剣の両刃を先端まで包んだ。
『機体呼称を更新。クロスガーディアン』
「そこは聞くんかい! 先にこいつ押し返せや!」
「それは僕たちの仕事だよ!」
ヴェルミリオンが左腕を突き出した。
ネビュロスの氷が盾を補強し、グリムの黒炎が一段と強く噴く。
雷槍が、押し上がった。
「今だ!」
カイが叫んだ。
敵の胸が空く。
「魔正合体――クロスガーディアン!」
ライガの声に、グリムが吠えた。
「初仕事や! ぶちかましたれェッ!」
白炎の大剣が、黒い胸甲へ振り下ろされた。
*
黒い胸甲が裂けた。
レヴェリオの巨体が後ろへよろめき、踏み抜いた地面から土煙が噴き上がる。
「まだや! もう一丁!」
グリムの声とともに、脚部から黒炎が噴いた。
「黒炎爆進!」
クロスガーディアンが踏み込んだ。
巨体に似合わぬ速さで間合いを詰め、盾ごと敵へ体当たりする。
レヴェリオの足が地面を離れた。
背中から倒れ、折れた塔の基礎を砕く。
地下の画面を見ていたアシュレイが、拳を突き上げた。
「よっしゃあ! そのまま行け!」
レヴェリオは倒れた姿勢から黒雷を放った。
クロスガーディアンの胸を撃ち抜く。
その胸が、紫の光へほどけた。
「残念。そこじゃない」
ヴェルミリオンが指を動かす。
「幻影装甲」
装甲の紋様から剥がれた残像が、左右へ走る。
本物は右側へ回っていた。
レヴェリオが槍を薙いだ。
ライガは剣を下から合わせる。
「白炎剣!」
黒雷と白炎が擦れ合い、火花が横一列に散った。
槍を弾き上げ、返す刃で敵の右肩を斬る。
腕の装甲が裂け、瓦礫が滝のように落ちた。
レヴェリオが雷翼を広げた。
地面を離れ、黒い雲の下へ舞い上がる。
上空から雷の槍が投げ下ろされた。
「盾を前へ!」
ネビュロスが腕を突き出した。
「氷獄盾!」
氷が厚みを増し、槍を受け止める。
穂先が表層を砕いた瞬間、左腕を斜めに振った。
槍は盾を滑り、誰もいない塔の跡へ突き刺さった。
「上を取るぞ、カイ!」
ライガが空を見た。
カイも両腕を広げた。
光翼が大きく伸びた。
黒炎が背中と踵から噴き上がり、巨体が地面を離れる。
黒い炎の尾を引いて、クロスガーディアンが空へ駆け上がった。
白い翼が進路を変え、黒雷の間を縫う。
レヴェリオが腕を交差させた。
重力が正面から押し寄せる。
カイは反射的に押し返そうとした。
だが、かつての重力は生まれなかった。
機体の速度が落ち、胸が軋む。
「……重力が、出ない」
カイが自分の手を見る。
そこに灯るのは光だけだった。
「分離してから……私の力が変わっている」
「光は出とるんやろ!」
グリムが怒鳴った。
「そっちで舵取れ! 押すんは俺がやる!」
黒炎が膨れ上がった。
カイは翼を傾け、真正面からの進路を横へずらす。
重力の壁の端をかすめ、機体が敵の頭上へ抜けた。
ライガが剣を振りかぶる。
「落とす!」
上からの一撃が、レヴェリオの左の雷翼を断った。
姿勢を失った巨体へ、続けて右足を叩き込む。
レヴェリオが落ちた。
背中から荒れ地へ激突し、土煙が波となって広がる。
クロスガーディアンは両足で着地した。
黒炎が吹き消え、白い翼が静かに揺れる。
グリムが、荒い息のまま笑った。
「……いけるやないか」
ライガも剣を構え直した。
「ああ。いける!」
*
土煙の中で、紫の光が膨らんだ。
レヴェリオが起き上がる。
斬られた肩や胸へ、周囲の瓦礫が吸い寄せられていく。
再生するたびに、胸の光が細くなった。
『無限には直せない!』
セイジの声が通信へ飛んだ。
『胸の核を守るために、残る力を使っている!』
レヴェリオは片腕を胸へ当てた。
外側の修復が止まる。
その代わり、残った雷翼が鋭く伸びた。
「君たちは、また私を消す」
翼が地面へ突き立った。
黒い線が地中を走り、クロスガーディアンの足元で円を描く。
「苦しんだ人たちの声ごと、なかったことにする!」
両脚が沈んだ。
ライガが踏み出そうとしても、膝が曲がらない。
「断罪重力領域!」
地面が大きく陥没した。
機体の腰が落ち、剣先が土を抉る。
頭上に、黒雷が集まった。
ネビュロスが盾を持ち上げた。
雷が落ちる。
氷が一枚ずつ砕け、左腕へ衝撃が突き抜けた。
「っ……!」
ヴェルミリオンが座席へ叩きつけられた。
左腕の表示が赤く染まる。
レヴェリオは雷翼の一部を引き抜き、槍へ変えた。
氷結盾を押さえつけたまま、その下から突き上げる。
盾の骨格が折れた。
胸甲が抉れ、紫の紋様が途切れる。
五人の視界が激しく揺れた。
カイのマスクの内側へ血が伝い、グリムは歯を食いしばって身体を支えた。
「さっきまでの元気はどうしたの?」
レヴェリオが槍を引いた。
「カイ。君は、そちらで何を守っているの」
カイは正面を見た。
壊れた装甲の奥で、少女がこちらを見ている。
「お前が、今から傷つける人たちだ」
「君が傷つけた人たちでしょう!」
「ああ」
カイは答えた。
「だから、これ以上増やさせない」
槍が突き出された。
ライガが大剣で受ける。
刃が横へ押され、右肩から火花が噴いた。
『ライガ、右腕も限界よ!』
エルザが叫ぶ。
ライガは剣を離さなかった。
「レクス! 東側は!」
『最後の組が抜けた! もう誰もいない!』
避難路から返事が届いた。
ライガは剣越しに、敵の槍を見た。
「カイ、右へ傾けてくれ。受け流す!」
「分かった」
カイは光翼を片側だけ開いた。
機体の上半身が傾く。
ライガも刃を斜めに寝かせた。
槍が滑り、肩の上を抜ける。敵の重心が前へ流れた。
「今や!」
グリムが黒炎を噴いた。
機体は右へ倒れ込みながら、動かせる右腕を振った。
剣が地面を走り、足元の黒い線を白炎で焼き切る。
脚が動いた。
ネビュロスが右足の下を凍らせ、崩れた地面に足場を作る。
クロスガーディアンは、片膝で踏み止まった。
カイが光翼を前へ向ける。
「光翼砲!」
翼から束ねた光が放たれた。
槍を引き戻そうとする敵の腕を撃ち、身体を後ろへ押す。
射撃で薄くなった翼が消えかける。
カイは両手を握り、残る光をつなぎ止めた。
「……今、立てる」
ライガが右足を踏み出した。
黒い巨人が、再び立ち上がった。
*
右腕はまだ動いた。
だが、大剣の刀身には深い亀裂が入っていた。
『次に槍を受けたら、折れるわ』
エルザが言った。
「なら、次で終わらせる」
ライガは剣を腰の横へ引いた。
白炎が刀身へ集まり、亀裂から噴き出す。
グリムが機体の右肩へ熱を送った。
ネビュロスが、その内側の関節を冷やす。
「燃やすのは外だけにしろ! 中まで焼けば腕が落ちる!」
「分かっとるわ! お前も凍らせすぎんなよ!」
「二人とも、喧嘩は帰ってからにしてくれる?」
ヴェルミリオンの声には、もう余裕がなかった。
それでも、残った紋様に紫の光を灯す。
「最後の一回。見失わせてあげる」
カイは胸の奥の少女を見た。
「レヴェリオ。お前の声も、聞く」
「……今さら?」
「今さらだ。それでも、聞かせてくれ」
少女の顔が歪んだ。
「君が間違っていたら……私がそばにいたことまで、間違いになるじゃない」
カイは首を横に振った。
「ならない」
レヴェリオの手が止まった。
「お前がいて、私は嬉しかった。少年だったお前も、鏡の向こうのお前も。それは、私が何を間違えても変わらない」
彼女は唇を噛んだ。
胸に抱えた両手へ、黒雷が集まっていく。
「だったら……私を、否定しないで」
「お前が人を殺すことには、頷けない」
カイの光翼が、もう一度開いた。
「そばにいたいからこそ、止める」
レヴェリオが叫んだ。
両手の雷が、巨大な一本の槍へ変わる。
残る雷翼を全て引き寄せた穂先が、黒い巨人へ向いた。
ライガは剣を握り直した。
「行くぞ!」
五人が、同時に前を向いた。
「魔正交刃!」
黒炎が噴き上がった。
白い翼の間を炎が吹き抜け、クロスガーディアンが地面すれすれを飛ぶ。
紫の紋様が装甲から離れた。
剣を頭上へ振り上げた幻影が、本体より一歩先へ出る。
レヴェリオは槍を上げた。
幻影の胸を貫く。
紫の光が弾けた。
その下から、本物の白炎剣が斬り上がる。
雷槍が断ち切られた。
白い刃が胸の外殻まで走り、厚い装甲を肩から脇腹へ裂く。
剣が悲鳴を上げた。
刀身の先が折れ、白炎の中へ飛んでいく。
「まだ――!」
ライガは供給を止めなかった。
折れた先へ炎が伸び、白い刃を作る。
グリムが右側の黒炎を噴いた。
カイの光翼が機体をひねり、ネビュロスの冷気に守られた肘が動く。
返す二太刀目が、逆の斜めから入った。
露出した術式を白炎が横切った。
巨体へ伸びる線が、一斉に焼き切れる。
レヴェリオの胸に、白い十字が刻まれた。
クロスガーディアンが、その脇を抜けた。
黒炎が止まり、両足が地面へ着く。
背後で、巨大な腕が崩れ落ちた。
瓦礫をつなぐ力が消え、黒い装甲が次々と剥がれる。
カイは振り返った。
胸の光の中に、少女がいた。
もう槍は持っていない。
自分の両手を見てから、こちらへ顔を向けた。
「……あの本」
小さな声が、届いた。
「最後まで、読めなかったね」
カイの喉が詰まった。
少年と挟んだ一冊の本。その先を、二人で読み直すはずだった。
「……ああ」
レヴェリオが、手を伸ばした。
カイも片手を上げる。
届く距離ではなかった。
少女の指先が光へほどけた。
次いで腕が、髪が、顔の輪郭が消えていく。
胸の光が内側へ縮んだ。
巨大な身体が爆ぜた。
白炎が黒雷を包み、砕けた装甲が空へ舞い上がる。
カイは上げた手を握り、光翼を爆風へ向けた。
街へ飛ぼうとした破片を受け、無人の荒れ地へ散らす。
爆風が過ぎた。
黒い巨人が立っていた。
片腕の盾は砕け、右手には折れた剣だけが残っている。
白い顔が、ゆっくりと上がった。
その背後で、最後の黒雷が消えた。
*
『敵の反応、消失』
セイジの声がした。
『……五人とも、聞こえるか』
グリムは座席へ頭を預けた。
「聞こえとる。もう、走れ言うなよ」
『言わない。そこで待て』
ヴェルミリオンが笑おうとして、咳き込んだ。
ネビュロスは震える手を接続部から離す。冷却を終えた右腕が、重そうに下がった。
クロスガーディアンは一歩だけ進んだ。
それから片膝をつき、白炎の消えた剣を地面へ置いた。
カイは、少女がいた場所を見続けていた。
光も、声もない。
マスクを解くと、頬へ涙が伝った。
「……今度は、忘れない」
返事はなかった。
ライガは、その言葉が終わるまで待った。
「帰ろう、カイ」
カイは目を閉じた。
やがて、小さく頷いた。
*
避難路にいた人々が、黒い巨人を見上げていた。
子供が母親の袖を引いた。
母親は子供を抱き寄せ、動かなくなった機体へ何度も頭を下げた。
その隣で、兵士に家を焼かれた男は黙って立っていた。
助かったことと、許せることは、まだ一つにはならなかった。
機体各部の昇降口が開く。
レクスとアシュレイが駆け寄り、降りてくる仲間へ手を伸ばした。
地下から出たエルザとポルクも、担架を運んでくる。
最後に地上へ降りたカイは、変身を解いた途端に膝をついた。
レクスが肩を支える。
少し離れた場所で、元兵士が彼を見ていた。
カイも、その視線に気づいた。
今度は、目を逸らさなかった。
ライガが隣へ立った。
「……ここからだな」
「ああ」
カイは、差し出された手を取った。
黒い巨人の背で、光翼が静かに消えた。
遠くの瓦礫の間に、輪の形をした小さな欠片が落ちていた。
内側で、かすかな光が一度だけ瞬く。
風が煤をかぶせ、その光を隠した。
(21話へ続く)
【後書き】
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
正義のために造られた白い機体は、三魔王と二人のレッドを乗せ、黒い守護者へ変わりました。五人それぞれの力が交わる、魔正合体・クロスガーディアン。
レヴェリオとの戦いは決着しました。しかし、帰ってきた者たちが向き合うべき人々と、過去は残っています。次回、4部最終話です。
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