第4部 第19話『君の答えを聞かせて』
【前回のあらすじ】
仲間の援護を受け、ライガはゾーエで神聖バーニングレッドへ変身した。四人の連携で白炎が術式へ届き、カイも内側から抵抗する。しかし、身体を奪い返される危険を知ったレヴェリオは変身。黒い装甲をまとい、三魔王とライガの包囲を打ち破った。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
黒い槍が、ライガの左手首を狙った。
「黒雷槍」
槍先が装甲越しのゾーエ狙い、肩の装甲を削る。
レヴェリオは突き出した槍を、そのまま横へ払った。
ライガは身を沈めた。
頭上を通った黒雷が、背後の柱を真っ二つに切断する。
「装置を失えば、もうその炎は使えない」
レヴェリオが槍を引く。
ライガは追わず、折れた柱が倒れてくる側へ跳んだ。
「炎の突撃!」
全身を白炎が包んだ。
ライガは斜めに傾いた柱を蹴り、レヴェリオの右側へ突っ込んだ。落下する石柱の陰から、白い炎が飛び出す。
レヴェリオは槍を横に構えた。
ライガの肩がその中央へぶつかる。黒雷が弾け、二人は瓦礫の上を滑った。
槍が砕けた。
ライガは足をつき、そのまま敵の胸へ右手を伸ばした。
「黒雷殲滅波!」
装甲の継ぎ目から、黒い雷が噴き出した。
至近距離で受けたライガが吹き飛ぶ。胸甲に亀裂が走り、地面へ落ちる寸前、グリムが背中を受け止めた。
二人とも踏み止まれず、瓦礫の山へ突っ込んだ。
「……近づかせる気、あらへんな」
グリムが石を押し退けた。
ライガは腕を借りて起き上がる。
「ああ。だが、槍は折れた」
立ち上がった二人の足元で、黒い線が光った。
「断罪重力領域」
レヴェリオが掌を地面へ向けた。
円形に広がった術式が四人を囲み、瓦礫を中央へ引き寄せる。
グリムの膝が沈んだ。
ヴェルミリオンは踏ん張った足ごと引きずられ、ネビュロスの身体が横へ傾く。ライガが地面へ突いた手も滑り始めた。
「一緒に来たのなら、一緒に終わればいい」
レヴェリオが左手を上げた。
四人の頭上に、黒雷が集まっていく。
ネビュロスは魔導書を開いた。
氷粒を地面すれすれに放つ。自分たちと同じく、粒は円の中央へ引かれていった。
「氷結界・金剛塵!」
レヴェリオの脚を、白い粒子が包んだ。
吸い寄せられた氷粒が黒い装甲へ付着し、膝と足首に積もる。彼女が足を動かすと、凍った継ぎ目が軋んだ。
レヴェリオは頭上の雷の一部を自分の脚へ落とした。
氷が弾け飛ぶ。
「ライガ、今だ!」
ネビュロスが叫んだ。
雷を分けさせた、ほんの一瞬。ライガは足元の黒い線へ白炎を押しつけた。
術式の一角が焼き切れた。
グリムが地面を殴り、浮き上がった石板を頭上へ蹴り上げる。
「走れッ!」
四人が円の外へ飛び出した。
直後、黒雷が石板を貫き、背後の地面を抉った。
爆風に押され、ライガは片膝をつく。振り返ると、円の中には人が立てる足場すら残っていなかった。
レヴェリオは、まだ中央に立っていた。
黒いコートの裾から、砕けた氷が落ちた。
*
『ライガ、左腕の出力が落ちている。』
セイジの声が通信機から聞こえた。
「分かった。街側の退路は」
『レクスたちが確保した。だが、これ以上戦場が広がれば避難路へ届く』
ライガは三人を見た。
グリムの肩甲は割れ、ネビュロスの指は魔導書を握ったまま震えている。ヴェルミリオンの翅も、片側の先が欠けていた。
何度もやり直せる状態ではなかった。
「装甲を割る。胸の術式を出せれば、俺がつなぎ目を焼く」
「胸を狙うんやな」
グリムが右拳を握り込んだ。
「カイごと殴り抜くなよ」
「分かっとる。殻だけ剥がしたる」
ヴェルミリオンは、空になった右手を広げた。
「なら、僕が先だ。彼女の両手を塞ぐ」
「私が動きを止める。その間に入れ」
ネビュロスが、魔導書の頁を押さえた。
敵の掌に黒雷が生まれた。
もう相談している時間はない。
「頼む。全員、つないでくれ!」
ライガの声に、三人が動いた。
*
ヴェルミリオンが、正面へ走った。
黒雷が胸を貫いた。
だが、その身体は紫の光へ崩れた。次の瞬間、右にも左にも、同じ姿が現れる。
レヴェリオは追撃を止め、足元を見た。
瓦礫の間から鏡がせり上がっていた。
一枚、二枚。
頭上にも背後にも、深紫の縁を持つ鏡が開く。映っているのは全て、黒い装甲をまとった自分だった。
「逃げ道まで、よく見ておいて」
本物のヴェルミリオンは、鏡の外にいた。
両腕を左右へ広げ、欠けた翅から残る魔力を注ぎ込む。
「万華鏡の終焉!」
全ての鏡に亀裂が走った。
次いで、数え切れない刃が内側へ飛び出した。
レヴェリオは右腕を振った。
重力に弾かれた刃が地面を削り、左手から放つ雷が頭上の鏡を砕く。
しかし割れた鏡の縁から、新たな刃が降ってきた。
肩、腰、背中。
黒い装甲に火花が連続して走った。
レヴェリオは両腕を開き、全方位へ重力を放った。
刃の群れが空中で押し止められる。鏡ごと外へ押し広げられ、ヴェルミリオンの足が後ろへ滑った。
「……っ!」
彼の左の翅が裂けた。
紫の光が漏れ、頭上の鏡が一枚消えた。
レヴェリオは、その隙間へ右手を向ける。
雷の槍が、本物のヴェルミリオンを狙った。
そこへ、白炎が飛び込んだ。
「燃焼全開!」
ライガの装甲から、赤と白の炎が噴き上がった。
胸の白銀の「B」が光り、背へ流れる炎のスカーフが大きく伸びる。
ライガは、押し返される刃の間を走った。
正面の重力を白炎で焼きながら進む。脚甲が軋み、左腕に黒雷がかすめた。それでも足を止めず、槍を構えた右腕の下へ肩から入った。
雷の槍が上へ逸れ、頭上の鏡を突き破る。
重力の壁に、一人分の穴が開いた。
「ヴェルミリオン!」
「見えてる!」
押し止められていた刃が、一斉に穴へ流れ込んだ。
ライガは身を低くして横へ抜ける。
刃の群れが肩甲と胸甲の縁に突き刺さり、レヴェリオを後ろへ押した。
黒い装甲の継ぎ目が、初めて裂けた。
レヴェリオは地面を蹴った。
上へ逃れようとした足の下で、白い魔法陣が開く。
ネビュロスは、既に魔導書へ両手を添えていた。
「凍滅零界!」
白い光が、足元から立ち上がった。
レヴェリオを囲む円柱状の空間が凍りついた。舞っていた石の欠片が氷に閉じ込められ、逃げようとした脚が宙で止まる。
黒いコートが張りつめ、その裾から氷柱が地面へ伸びた。
ネビュロスは凍結を内側へ絞った。
肩と肘、腰と膝。装甲の外側を氷で固定しながら、カイの肉体がある中心だけを残す。
魔導書を押さえた指先から血が落ちた。
狭めすぎればカイまで凍る。緩めれば、レヴェリオが抜け出す。
氷の中で、紫の光が膨れた。
「こんなもので……!」
雷が円柱の内側を走った。
一本の亀裂が、地面からネビュロスの高さまで駆け上がる。
彼は魔導書を持ち直した。裂けた氷を冷気で埋める。
「グリム、胸の前を開ける! そこへ入れ!」
グリムは既に走っていた。
ネビュロスが正面の氷だけを解いた。
その穴から黒雷が噴き出す。
グリムは左肩で受けた。
黒曜石の肩甲が砕け、剥き出しになった腕が焼かれる。身体が傾いたが、踏み込んだ右足は退かなかった。
「ここまで来て、引けるかいッ!」
「焔魔王連撃・不知火!」
右拳が、刃の刺さった肩甲を砕いた。
左拳が胸甲の下端を打ち上げ、右肘が浮いた装甲の縁へ叩き込まれる。
一撃ごとに赤い炎が噴いた。
拳、肘、膝。間を空けずに打ち込み、装甲の亀裂を胸の中央まで広げていく。
レヴェリオの右腕が氷を割った。
黒い指がグリムの喉を掴む。
「君から、潰す!」
身体が浮きかけた。
グリムは左手で敵の手首を掴み、首から引き剥がそうとした。指が食い込み、息が詰まる。
レヴェリオの肘に、紫の刃が突き刺さった。
ヴェルミリオンが、残った最後の鏡を砕いていた。
握る力がわずかに緩む。
「その手を……離せ!」
ネビュロスが叫んだ。
敵の肘へ氷が巻きつき、曲げた腕を外側へ引いた。
グリムの足が地面へ戻った。
大きく息を吸い、左足を軸に身体を回す。
「これで――剥がれろォッ!」
炎をまとった踵が、めくれた胸甲を横から捉えた。
蹴り抜いた先へ赤い炎が渦を巻き、黒い装甲を巻き取るように引き剥がした。
氷の柱が砕けた。
黒い破片と白い氷が、炎の渦に押されて左右へ飛び散る。
ネビュロスが片膝をついた。
ヴェルミリオンの鏡も、全て消えた。
煙の中で、レヴェリオはまだ立っていた。
胸を覆う装甲が失われ、二重の術式が露出している。
グリムは横へ転がった。
「ライガァッ!」
ライガの右腕に、白炎が集まっていた。
今まで全身にまとっていた炎を、一点へ絞る。
「真紅の白炎!」
赤と白が重なる奔流が、正面からレヴェリオへ届いた。
彼女も両手を突き出し、黒雷で押し返す。
二つの力がぶつかり、間の地面が裂けた。
白炎が左右へ散る。ライガの踵が土を削り、右腕が跳ね上がりかけた。
グリムが戻り、その背へ肩を入れた。
「俺もおる!」
ライガは足を踏み直した。
炎を広げればカイまで巻き込む。押し負ければ、全員が雷に呑まれる。
「ネビュロス、右腕を! ヴェルミリオン、左だ!」
ネビュロスは地面に片手をついたまま、残る氷を敵の右肘へ走らせた。
ヴェルミリオンは一本だけ幻影の刃を作り、左の手甲へ投げつける。
黒雷の向きがずれた。
ライガはその中央へ、白炎を押し込んだ。
炎が、露出した術式へ届く。
内側の輪を避け、腕と脚へ伸びる外側の線を焼いていった。
「カイ! 聞こえるか!」
*
レヴェリオの視界に、一冊の本が浮かんだ。
小さな手で、頁を押さえている。
向かい側に座るカイも、まだ子供だった。
『最後は、みんな同じ決まりを守るんだ。そうすれば、争わなくて済む』
『待ってよ。まだそこまで読んでない』
自分の口から、少年の声が出た。
カイが口を閉じる。自分は少し前の頁へ戻り、一行を指した。
『この人は嫌だって言ってる。どうするの?』
カイは顔を寄せ、指の先を読んだ。
『……そこは、もう一度考える』
否定しても、隣にいてよかった。
違う答えを言っても、カイは本を閉じなかった。
場面が途切れた。
今度は、カイが泣いていた。
倒れた自分の肩を抱き、必死に名前を呼んでいる。
『レヴェリオ!』
返事をしようとした。
息が出なかった。
そこで、何も見えなくなった。
『君は正しい』
暗闇に、別の声が響いた。
資料庫でも聞いた声。カイの声ではない。
誰なのか確かめる前に、その声も消えた。
次に思い出せるのは、鏡の向こうのカイだった。
自分は金髪の少女の姿で、彼へ名乗っていた。
少年が倒れた日と、少女として話しかけた日。
その間だけが、どうしてもつながらない。
目の前に、白い炎が戻ってきた。
その奥から、カイを呼ぶ声が聞こえる。
*
レヴェリオの右手が、ライガへ向いた。
黒雷を放とうとする指が、途中で止まる。
カイの左手が、その右手首を掴んでいた。
「……今だ」
赤と黒のマスクの下から、カイの声がした。
「ライガ!」
ライガが叫び返した。
「戻ってこい!」
白炎が、最後の線を焼き切った。
黒い装甲が外へ剥がれた。
マスクが砕け、カイの顔が現れる。その胸から金色の光が引き出され、白炎の向こうで人の形を取った。
ライガは炎を止めた。
崩れ落ちるカイへ両腕を伸ばし、グリムと二人で抱き止める。
カイの身体は、そこに残っていた。
胸が動いている。口元から、かすかな息が漏れた。
「カイ。聞こえるか」
ライガが呼ぶと、カイの瞼が動いた。
「……重い」
掠れた声が返った。
「お前たちの、腕が」
グリムが顔をしかめた。
「文句言えるなら、上等や」
ライガはカイを地面へ座らせた。
自分の膝も震えていたが、肩を支える手は放さなかった。
セイジが通信機へ叫ぶ。
『分離した! カイの呼吸を確認!』
救護側で、レクスとアシュレイが顔を上げた。
エルザは応急処置の道具をポルクへ渡し、戦場へ向かう道を見た。
まだ、駆け込めなかった。
カイの前には、金髪の少女が立っていた。
輪郭は透け、胸元には小さな光の輪が浮いている。
*
カイは、金髪の少女を見つめた。
「……レヴェリオ」
その顔を忘れたことはなかった。
鏡越しに話しかけてきた日も、科学者の手を取って振り返ると、もういなかったことも。
「お前は、私の中にいたのか」
「いたよ。ずっと」
彼女は両手を見下ろした。
触れ合わせようとすると、指先が光の粒になって崩れた。
「君が諦めたから、私が続けようと思った。君が間違いだったことに、したくなかった」
カイはライガの肩へ手を置き、身体を起こした。
「あの科学者と、世界を管理する道を選んだ。お前を失ってまで選んだのだから……正しいはずだと、思い続けた」
ライガは黙って支えていた。
かつて自分を倒したカイも、その計画を手放せずにいた。
「村で人々が殺し合うのを見た時も、そうだった。対話は無力だ。だから管理しなければならない。あの男と誓った道しかないと……惨劇さえ、自分を正しいと思う理由にした」
カイは、レヴェリオへ顔を向けた。
「そして、その計画を果たすことが、お前への約束を守ることだと決めつけた」
「誰も泣かない世界にしたかったんでしょう?」
「ああ。だが、私が泣かせた者の声を聞かなかった」
レヴェリオの口が、わずかに開いた。
返そうとした言葉が出てこない。
「……前にも」
彼女は胸元を押さえた。
「君と、本を読んだ。嫌だって言っている人がいるよって、私が言ったら……君は、読み直してくれた」
カイの指が、ライガの肩を強く掴んだ。
木の机。
折れた頁の角。
自分が先の展開を話すと、不満そうに本を引き寄せた少年。
見覚えがあった。
少女と出会うよりも前の、思い出せなかった光景だった。
「最後まで、言うなと……」
「まだ、読み終わってなかったから」
二人の言葉がつながった。
レヴェリオは自分の顔へ手を伸ばす。
「あの時、私は男の子だった。君が名前を呼んでいた。倒れた私に、何度も」
カイは息を吸った。
喉が詰まり、うまく吸えなかった。
「レヴェリオ……」
同じ名を呼び続けた記憶が戻った。
返事をしない少年の肩を抱いていた。顔を覗き込み、もう一度呼んでも、目は開かなかった。
「お前だったのか」
カイの目から、涙が落ちた。
「私は、友などいなかったと……そう思っていた。だが、確かにお前がいた」
なぜ忘れていたのか。
なぜ同じ名の少女に出会っても、気づかなかったのか。
戻った記憶だけでは、分からなかった。
カイは手を伸ばした。
レヴェリオも、その手へ指を重ねようとした。
二人の指は触れずにすり抜けた。
金色の粒が、間に散った。
「私、あの時に死んだんだと思う。でも、その後……どうして君のそばに戻れたのか、思い出せない」
レヴェリオは震える手を下ろした。
「聞こえるのは、あの声だけ。君は正しいって。資料庫で雪景色が見えた時にも、聞こえた」
「雪景色?」
ネビュロスが顔を上げた。
レヴェリオは彼へ視線を向けた。
「リドラムの地下資料庫で、突然見えたの。凍った書架と、誰かが少年へ古い本を渡すところが」
彼女は、そこで聞いた言葉を繰り返した。
「言葉を持つ者は、奪われる前にそれを残せ……」
ネビュロスの指が、魔導書の表紙を強く押さえた。
「その少年は、私だ」
レヴェリオが彼を見つめる。
「幼い頃、本を託された。その時に聞いた言葉だ。……なぜ君が、それを見た?」
「分からない。あなたの名前も、自然に出てきた。その場で呼んだんだよ」
「……あの時か。私にも、封印に触れられたような感覚があった」
ネビュロスは、彼女の胸に残った輪を見た。
「君を保つ術式と、私の封印。何かがつながって、あの光景を見せたのかもしれない」
なぜ自分の過去が彼女に見えたのか。
本を託された記憶を辿っても、今は答えが出なかった。
カイは、まだ少女を見ていた。
「戻ってきていたんだな。私はそれも知らずに……」
「一人にしたくなかった」
レヴェリオが答えた。
「あなたを支えたかった。今度こそ、間違えたまま終わらせたくなかった」
「なら、私に答えさせてくれ」
カイは涙を拭った。
「私は間違えた。人を従わせ、仲間まで道具にした。それを選んだのは私だ。お前の肯定も、あの男の言葉も、責任を預ける理由にはならない」
「私にも、間違っていたと言わせたいの?」
「私を救うために、私がしてきたことを正しくしようとするのは、もうやめてくれ」
レヴェリオは一歩退いた。
足先が崩れ、金色の光が地面へ落ちる。
「だったら、傷つけられた人たちは? 泣いて、助けてって言った人たちは?」
声が大きくなった。
「兵士を裁いた時、みんな喜んだ! 君の命令で苦しんだ人たちが、やっと笑えたんだよ!」
カイは目を逸らさなかった。
「その命令の責任を、私は負う。だが、それでお前が誰を殺してもいいことにはならない」
レクスが、通りの入口に立っていた。
「あの父親は、まだ話を聞きたいと言っていた」
彼は近づかず、そこから伝えた。
「その声も、あった」
レヴェリオは顔を背けた。
胸の輪が激しく明滅する。
*
地面に落ちた黒い装甲が、動いた。
砕けた胸甲、肩の突起、マスクの破片。
紫の雷がそれらをつなぎ、レヴェリオの足元へ引き寄せる。
「全員離れろ!」
ネビュロスが叫んだ。
ライガとグリムはカイを抱え、後ろへ退いた。
レヴェリオの輪郭が、胸から崩れ始めていた。
胸の輪が光るたび、透けた身体の縁から魔力が漏れていた。カイから離れた今、少女の姿を保つだけでも力を失っていく。
「嫌だ」
彼女が胸を押さえた。
「また、いなくなるのは嫌だ」
黒い装甲片が、その身体を囲む。
カイへつながっていた力が、今度は自分の輪郭を保つために外へ広がっていく。
レヴェリオは、空へ手を伸ばした。
「私が消えたら……また、誰も止めなくなる」
瓦礫が浮いた。
砕けた石段が、倒れた柱が、装甲片を中心に集まっていく。
「レヴェリオ、やめろ!」
カイが呼んだ。
彼女は振り向かなかった。
「私が、終わらせる」
黒雷が、空まで立ち上がった。
ネビュロスが氷壁を張り、飛んでくる破片を受け止める。
ヴェルミリオンは片膝をついたまま、残った幻影でカイの退路を覆った。
レクスとアシュレイが走り込んだ。
カイを二人へ渡すと、ライガは振り返った。
巨大な脚が、タワー跡を踏んだ。
瓦礫を骨組みに、黒い装甲が巨体を覆っている。胸の中心に紫の光が集まり、その内側にレヴェリオの小さな姿が見えた。
背から雷の翼が伸び、折れ残ったタワーの柱を左右へ押し倒す。
レヴェリオは、まだ力を使っていた。
身体から追い出すことには成功した。だが、その力まで消えたわけではなかった。
巨大な手が、街の方へ向く。
避難先の街路から、悲鳴が上がった。
「街へ行かせるな!」
ライガが走り出そうとした。
カイが、その腕を掴んだ。
「地下を……開ける」
ライガが振り向く。
カイは、戦闘で露出した搬入口を指していた。
「あそこに、五機ある。タワーとは別の電源で、封じてある」
セイジが近づいた。
「何を隠していた」
「大型の連結兵器だ。五人の操縦を前提に造らせた。だが……私は、五人に任せることをやめた」
カイは息を詰まらせ、アシュレイの肩を借り直した。
「一人で全てを制御できる兵器を選び、あれは止めたままにした。動くかは、確かめなければならない」
エルザが通信を通して聞いていた。
『入口を開けて。動かせるかどうかは、私たちが調べる』
カイが頷いた。
自分の足を地面につけ、二人に支えられながら搬入口へ向く。
「私が、乗る」
ライガが彼を見た。
「動かせるのか?」
「一人では、無理だ」
カイは、はっきり答えた。
「だから、今だけは手を貸してくれ」
ライガは頷いた。
「セイジ、エルザたちと地下を頼む。レクス、アシュレイ、カイを連れていってくれ」
グリムがライガの横へ立った。
ネビュロスとヴェルミリオンも、息を整えながら巨体を見上げる。
「俺たちは、あいつを街から引き離す」
巨大な雷の槍が、レヴェリオの手に形作られた。
四人は、街とは反対側へ走った。
背後で、地下の搬入口に小さな明かりが灯った。
(4部20話へ続く)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
三魔王の大技をつなぎ、ライガの白炎がカイへ届きました。救われたカイが最初に選ぶのは、自分も責任を負って動くこと。そしてレヴェリオも、友だった過去だけでは片づかない、自らの行いと向き合います。
地上戦は決着しましたが、街への危機は続きます。いよいよ4部クライマックス、地下に残された五機とともに、巨大戦へ進みます。
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