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アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第4部:断罪と贖罪編

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第4部 第19話『君の答えを聞かせて』

【前回のあらすじ】

仲間の援護を受け、ライガはゾーエ(変身ブレス)で神聖バーニングレッドへ変身した。四人の連携で白炎が術式へ届き、カイも内側から抵抗する。しかし、身体を奪い返される危険を知ったレヴェリオは変身。黒い装甲をまとい、三魔王とライガの包囲を打ち破った。

※本作品の執筆にはAIを活用しています。


 黒い槍が、ライガの左手首を狙った。


「黒雷槍(ブラック・ランス)」


 槍先が装甲越しのゾーエ(変身ブレス)狙い、肩の装甲を削る。

 レヴェリオは突き出した槍を、そのまま横へ払った。


 ライガは身を沈めた。

 頭上を通った黒雷が、背後の柱を真っ二つに切断する。


「装置を失えば、もうその炎は使えない」


 レヴェリオが槍を引く。

 ライガは追わず、折れた柱が倒れてくる側へ跳んだ。


「炎の突撃(バーニング・チャージ)!」


 全身を白炎が包んだ。

 ライガは斜めに傾いた柱を蹴り、レヴェリオの右側へ突っ込んだ。落下する石柱の陰から、白い炎が飛び出す。


 レヴェリオは槍を横に構えた。

 ライガの肩がその中央へぶつかる。黒雷が弾け、二人は瓦礫の上を滑った。


 槍が砕けた。

 ライガは足をつき、そのまま敵の胸へ右手を伸ばした。


「黒雷殲滅波《ブラック・ライトニング》!」


 装甲の継ぎ目から、黒い雷が噴き出した。

 至近距離で受けたライガが吹き飛ぶ。胸甲に亀裂が走り、地面へ落ちる寸前、グリムが背中を受け止めた。


 二人とも踏み止まれず、瓦礫の山へ突っ込んだ。


「……近づかせる気、あらへんな」


 グリムが石を押し退けた。

 ライガは腕を借りて起き上がる。


「ああ。だが、槍は折れた」


 立ち上がった二人の足元で、黒い線が光った。


「断罪重力領域(アビス・フェイズ)」


 レヴェリオが掌を地面へ向けた。

 円形に広がった術式が四人を囲み、瓦礫を中央へ引き寄せる。


 グリムの膝が沈んだ。

 ヴェルミリオンは踏ん張った足ごと引きずられ、ネビュロスの身体が横へ傾く。ライガが地面へ突いた手も滑り始めた。


「一緒に来たのなら、一緒に終わればいい」


 レヴェリオが左手を上げた。

 四人の頭上に、黒雷が集まっていく。


 ネビュロスは魔導書を開いた。

 氷粒を地面すれすれに放つ。自分たちと同じく、粒は円の中央へ引かれていった。


「氷結界・金剛塵《ダイヤモンド・ダスト・プリズン》!」


 レヴェリオの脚を、白い粒子が包んだ。

 吸い寄せられた氷粒が黒い装甲へ付着し、膝と足首に積もる。彼女が足を動かすと、凍った継ぎ目が軋んだ。


 レヴェリオは頭上の雷の一部を自分の脚へ落とした。

 氷が弾け飛ぶ。


「ライガ、今だ!」


 ネビュロスが叫んだ。

 雷を分けさせた、ほんの一瞬。ライガは足元の黒い線へ白炎を押しつけた。


 術式の一角が焼き切れた。

 グリムが地面を殴り、浮き上がった石板を頭上へ蹴り上げる。


「走れッ!」


 四人が円の外へ飛び出した。

 直後、黒雷が石板を貫き、背後の地面を抉った。

 爆風に押され、ライガは片膝をつく。振り返ると、円の中には人が立てる足場すら残っていなかった。


 レヴェリオは、まだ中央に立っていた。

 黒いコートの裾から、砕けた氷が落ちた。


         *


『ライガ、左腕の出力が落ちている。』


 セイジの声が通信機から聞こえた。


「分かった。街側の退路は」


『レクスたちが確保した。だが、これ以上戦場が広がれば避難路へ届く』


 ライガは三人を見た。

 グリムの肩甲は割れ、ネビュロスの指は魔導書を握ったまま震えている。ヴェルミリオンの翅も、片側の先が欠けていた。


 何度もやり直せる状態ではなかった。


「装甲を割る。胸の術式を出せれば、俺がつなぎ目を焼く」


「胸を狙うんやな」


 グリムが右拳を握り込んだ。


「カイごと殴り抜くなよ」


「分かっとる。殻だけ剥がしたる」


 ヴェルミリオンは、空になった右手を広げた。


「なら、僕が先だ。彼女の両手を塞ぐ」


「私が動きを止める。その間に入れ」


 ネビュロスが、魔導書の頁を押さえた。


 敵の掌に黒雷が生まれた。

 もう相談している時間はない。


「頼む。全員、つないでくれ!」


 ライガの声に、三人が動いた。


         *


 ヴェルミリオンが、正面へ走った。


 黒雷が胸を貫いた。

 だが、その身体は紫の光へ崩れた。次の瞬間、右にも左にも、同じ姿が現れる。


 レヴェリオは追撃を止め、足元を見た。

 瓦礫の間から鏡がせり上がっていた。


 一枚、二枚。

 頭上にも背後にも、深紫の縁を持つ鏡が開く。映っているのは全て、黒い装甲をまとった自分だった。


「逃げ道まで、よく見ておいて」


 本物のヴェルミリオンは、鏡の外にいた。

 両腕を左右へ広げ、欠けた翅から残る魔力を注ぎ込む。


「万華鏡の終焉《カレイドスコープ・エンド》!」


 全ての鏡に亀裂が走った。

 次いで、数え切れない刃が内側へ飛び出した。


 レヴェリオは右腕を振った。

 重力に弾かれた刃が地面を削り、左手から放つ雷が頭上の鏡を砕く。

 しかし割れた鏡の縁から、新たな刃が降ってきた。


 肩、腰、背中。

 黒い装甲に火花が連続して走った。


 レヴェリオは両腕を開き、全方位へ重力を放った。

 刃の群れが空中で押し止められる。鏡ごと外へ押し広げられ、ヴェルミリオンの足が後ろへ滑った。


「……っ!」


 彼の左の翅が裂けた。

 紫の光が漏れ、頭上の鏡が一枚消えた。


 レヴェリオは、その隙間へ右手を向ける。

 雷の槍が、本物のヴェルミリオンを狙った。


 そこへ、白炎が飛び込んだ。


「燃焼全開《バーニング・フルドライブ》!」


 ライガの装甲から、赤と白の炎が噴き上がった。

 胸の白銀の「B」が光り、背へ流れる炎のスカーフが大きく伸びる。


 ライガは、押し返される刃の間を走った。

 正面の重力を白炎で焼きながら進む。脚甲が軋み、左腕に黒雷がかすめた。それでも足を止めず、槍を構えた右腕の下へ肩から入った。


 雷の槍が上へ逸れ、頭上の鏡を突き破る。

 重力の壁に、一人分の穴が開いた。


「ヴェルミリオン!」


「見えてる!」


 押し止められていた刃が、一斉に穴へ流れ込んだ。

 ライガは身を低くして横へ抜ける。

 刃の群れが肩甲と胸甲の縁に突き刺さり、レヴェリオを後ろへ押した。


 黒い装甲の継ぎ目が、初めて裂けた。


 レヴェリオは地面を蹴った。

 上へ逃れようとした足の下で、白い魔法陣が開く。


 ネビュロスは、既に魔導書へ両手を添えていた。


「凍滅零界(ゼロ・アブソリュート)!」


 白い光が、足元から立ち上がった。


 レヴェリオを囲む円柱状の空間が凍りついた。舞っていた石の欠片が氷に閉じ込められ、逃げようとした脚が宙で止まる。

 黒いコートが張りつめ、その裾から氷柱が地面へ伸びた。


 ネビュロスは凍結を内側へ絞った。

 肩と肘、腰と膝。装甲の外側を氷で固定しながら、カイの肉体がある中心だけを残す。


 魔導書を押さえた指先から血が落ちた。

 狭めすぎればカイまで凍る。緩めれば、レヴェリオが抜け出す。


 氷の中で、紫の光が膨れた。


「こんなもので……!」


 雷が円柱の内側を走った。

 一本の亀裂が、地面からネビュロスの高さまで駆け上がる。

 彼は魔導書を持ち直した。裂けた氷を冷気で埋める。


「グリム、胸の前を開ける! そこへ入れ!」


 グリムは既に走っていた。


 ネビュロスが正面の氷だけを解いた。

 その穴から黒雷が噴き出す。


 グリムは左肩で受けた。

 黒曜石の肩甲が砕け、剥き出しになった腕が焼かれる。身体が傾いたが、踏み込んだ右足は退かなかった。


「ここまで来て、引けるかいッ!」


「焔魔王連撃・不知火《エンマオウレンゲキ・シラヌイ》!」


 右拳が、刃の刺さった肩甲を砕いた。

 左拳が胸甲の下端を打ち上げ、右肘が浮いた装甲の縁へ叩き込まれる。


 一撃ごとに赤い炎が噴いた。

 拳、肘、膝。間を空けずに打ち込み、装甲の亀裂を胸の中央まで広げていく。


 レヴェリオの右腕が氷を割った。

 黒い指がグリムの喉を掴む。


「君から、潰す!」


 身体が浮きかけた。

 グリムは左手で敵の手首を掴み、首から引き剥がそうとした。指が食い込み、息が詰まる。


 レヴェリオの肘に、紫の刃が突き刺さった。

 ヴェルミリオンが、残った最後の鏡を砕いていた。


 握る力がわずかに緩む。


「その手を……離せ!」


 ネビュロスが叫んだ。

 敵の肘へ氷が巻きつき、曲げた腕を外側へ引いた。


 グリムの足が地面へ戻った。

 大きく息を吸い、左足を軸に身体を回す。


「これで――剥がれろォッ!」


 炎をまとった踵が、めくれた胸甲を横から捉えた。

 蹴り抜いた先へ赤い炎が渦を巻き、黒い装甲を巻き取るように引き剥がした。


 氷の柱が砕けた。

 黒い破片と白い氷が、炎の渦に押されて左右へ飛び散る。


 ネビュロスが片膝をついた。

 ヴェルミリオンの鏡も、全て消えた。


 煙の中で、レヴェリオはまだ立っていた。

 胸を覆う装甲が失われ、二重の術式が露出している。


 グリムは横へ転がった。


「ライガァッ!」


 ライガの右腕に、白炎が集まっていた。

 今まで全身にまとっていた炎を、一点へ絞る。


「真紅の白炎《クリムゾン・プロミネンス》!」


 赤と白が重なる奔流が、正面からレヴェリオへ届いた。

 彼女も両手を突き出し、黒雷で押し返す。


 二つの力がぶつかり、間の地面が裂けた。

 白炎が左右へ散る。ライガの踵が土を削り、右腕が跳ね上がりかけた。


 グリムが戻り、その背へ肩を入れた。


「俺もおる!」


 ライガは足を踏み直した。

 炎を広げればカイまで巻き込む。押し負ければ、全員が雷に呑まれる。


「ネビュロス、右腕を! ヴェルミリオン、左だ!」


 ネビュロスは地面に片手をついたまま、残る氷を敵の右肘へ走らせた。

 ヴェルミリオンは一本だけ幻影の刃を作り、左の手甲へ投げつける。


 黒雷の向きがずれた。

 ライガはその中央へ、白炎を押し込んだ。


 炎が、露出した術式へ届く。

 内側の輪を避け、腕と脚へ伸びる外側の線を焼いていった。


「カイ! 聞こえるか!」


         *


 レヴェリオの視界に、一冊の本が浮かんだ。


 小さな手で、頁を押さえている。

 向かい側に座るカイも、まだ子供だった。


『最後は、みんな同じ決まりを守るんだ。そうすれば、争わなくて済む』


『待ってよ。まだそこまで読んでない』


 自分の口から、少年の声が出た。

 カイが口を閉じる。自分は少し前の頁へ戻り、一行を指した。


『この人は嫌だって言ってる。どうするの?』


 カイは顔を寄せ、指の先を読んだ。


『……そこは、もう一度考える』


 否定しても、隣にいてよかった。

 違う答えを言っても、カイは本を閉じなかった。


 場面が途切れた。


 今度は、カイが泣いていた。

 倒れた自分の肩を抱き、必死に名前を呼んでいる。


『レヴェリオ!』


 返事をしようとした。

 息が出なかった。


 そこで、何も見えなくなった。


『君は正しい』


 暗闇に、別の声が響いた。

 資料庫でも聞いた声。カイの声ではない。

 誰なのか確かめる前に、その声も消えた。


 次に思い出せるのは、鏡の向こうのカイだった。

 自分は金髪の少女の姿で、彼へ名乗っていた。


 少年が倒れた日と、少女として話しかけた日。

 その間だけが、どうしてもつながらない。


 目の前に、白い炎が戻ってきた。

 その奥から、カイを呼ぶ声が聞こえる。


         *


 レヴェリオの右手が、ライガへ向いた。

 黒雷を放とうとする指が、途中で止まる。


 カイの左手が、その右手首を掴んでいた。


「……今だ」


 赤と黒のマスクの下から、カイの声がした。


「ライガ!」


 ライガが叫び返した。


「戻ってこい!」


 白炎が、最後の線を焼き切った。


 黒い装甲が外へ剥がれた。

 マスクが砕け、カイの顔が現れる。その胸から金色の光が引き出され、白炎の向こうで人の形を取った。


 ライガは炎を止めた。

 崩れ落ちるカイへ両腕を伸ばし、グリムと二人で抱き止める。


 カイの身体は、そこに残っていた。

 胸が動いている。口元から、かすかな息が漏れた。


「カイ。聞こえるか」


 ライガが呼ぶと、カイの瞼が動いた。


「……重い」


 掠れた声が返った。


「お前たちの、腕が」


 グリムが顔をしかめた。


「文句言えるなら、上等や」


 ライガはカイを地面へ座らせた。

 自分の膝も震えていたが、肩を支える手は放さなかった。


 セイジが通信機へ叫ぶ。


『分離した! カイの呼吸を確認!』


 救護側で、レクスとアシュレイが顔を上げた。

 エルザは応急処置の道具をポルクへ渡し、戦場へ向かう道を見た。


 まだ、駆け込めなかった。


 カイの前には、金髪の少女が立っていた。

 輪郭は透け、胸元には小さな光の輪が浮いている。


         *


カイは、金髪の少女を見つめた。


「……レヴェリオ」


 その顔を忘れたことはなかった。

 鏡越しに話しかけてきた日も、科学者の手を取って振り返ると、もういなかったことも。


「お前は、私の中にいたのか」


「いたよ。ずっと」


 彼女は両手を見下ろした。

 触れ合わせようとすると、指先が光の粒になって崩れた。


「君が諦めたから、私が続けようと思った。君が間違いだったことに、したくなかった」


 カイはライガの肩へ手を置き、身体を起こした。


「あの科学者と、世界を管理する道を選んだ。お前を失ってまで選んだのだから……正しいはずだと、思い続けた」


 ライガは黙って支えていた。

 かつて自分を倒したカイも、その計画を手放せずにいた。


「村で人々が殺し合うのを見た時も、そうだった。対話は無力だ。だから管理しなければならない。あの男と誓った道しかないと……惨劇さえ、自分を正しいと思う理由にした」


 カイは、レヴェリオへ顔を向けた。


「そして、その計画を果たすことが、お前への約束を守ることだと決めつけた」


「誰も泣かない世界にしたかったんでしょう?」


「ああ。だが、私が泣かせた者の声を聞かなかった」


 レヴェリオの口が、わずかに開いた。

 返そうとした言葉が出てこない。


「……前にも」


 彼女は胸元を押さえた。


「君と、本を読んだ。嫌だって言っている人がいるよって、私が言ったら……君は、読み直してくれた」


 カイの指が、ライガの肩を強く掴んだ。


 木の机。

 折れた頁の角。

 自分が先の展開を話すと、不満そうに本を引き寄せた少年。


 見覚えがあった。

 少女と出会うよりも前の、思い出せなかった光景だった。


「最後まで、言うなと……」


「まだ、読み終わってなかったから」


 二人の言葉がつながった。

 レヴェリオは自分の顔へ手を伸ばす。


「あの時、私は男の子だった。君が名前を呼んでいた。倒れた私に、何度も」


 カイは息を吸った。

 喉が詰まり、うまく吸えなかった。


「レヴェリオ……」


 同じ名を呼び続けた記憶が戻った。

 返事をしない少年の肩を抱いていた。顔を覗き込み、もう一度呼んでも、目は開かなかった。


「お前だったのか」


 カイの目から、涙が落ちた。


「私は、友などいなかったと……そう思っていた。だが、確かにお前がいた」


 なぜ忘れていたのか。

 なぜ同じ名の少女に出会っても、気づかなかったのか。

 戻った記憶だけでは、分からなかった。


 カイは手を伸ばした。

 レヴェリオも、その手へ指を重ねようとした。


 二人の指は触れずにすり抜けた。

 金色の粒が、間に散った。


「私、あの時に死んだんだと思う。でも、その後……どうして君のそばに戻れたのか、思い出せない」


 レヴェリオは震える手を下ろした。


「聞こえるのは、あの声だけ。君は正しいって。資料庫で雪景色が見えた時にも、聞こえた」


「雪景色?」


 ネビュロスが顔を上げた。

 レヴェリオは彼へ視線を向けた。


「リドラムの地下資料庫で、突然見えたの。凍った書架と、誰かが少年へ古い本を渡すところが」


 彼女は、そこで聞いた言葉を繰り返した。


「言葉を持つ者は、奪われる前にそれを残せ……」


 ネビュロスの指が、魔導書の表紙を強く押さえた。


「その少年は、私だ」


 レヴェリオが彼を見つめる。


「幼い頃、本を託された。その時に聞いた言葉だ。……なぜ君が、それを見た?」


「分からない。あなたの名前も、自然に出てきた。その場で呼んだんだよ」


「……あの時か。私にも、封印に触れられたような感覚があった」


 ネビュロスは、彼女の胸に残った輪を見た。


「君を保つ術式と、私の封印。何かがつながって、あの光景を見せたのかもしれない」


 なぜ自分の過去が彼女に見えたのか。

 本を託された記憶を辿っても、今は答えが出なかった。


 カイは、まだ少女を見ていた。


「戻ってきていたんだな。私はそれも知らずに……」


「一人にしたくなかった」


 レヴェリオが答えた。


「あなたを支えたかった。今度こそ、間違えたまま終わらせたくなかった」


「なら、私に答えさせてくれ」


 カイは涙を拭った。


「私は間違えた。人を従わせ、仲間まで道具にした。それを選んだのは私だ。お前の肯定も、あの男の言葉も、責任を預ける理由にはならない」


「私にも、間違っていたと言わせたいの?」


「私を救うために、私がしてきたことを正しくしようとするのは、もうやめてくれ」


 レヴェリオは一歩退いた。

 足先が崩れ、金色の光が地面へ落ちる。


「だったら、傷つけられた人たちは? 泣いて、助けてって言った人たちは?」


 声が大きくなった。


「兵士を裁いた時、みんな喜んだ! 君の命令で苦しんだ人たちが、やっと笑えたんだよ!」


 カイは目を逸らさなかった。


「その命令の責任を、私は負う。だが、それでお前が誰を殺してもいいことにはならない」


 レクスが、通りの入口に立っていた。


「あの父親は、まだ話を聞きたいと言っていた」


 彼は近づかず、そこから伝えた。


「その声も、あった」


 レヴェリオは顔を背けた。

 胸の輪が激しく明滅する。


         *


 地面に落ちた黒い装甲が、動いた。


 砕けた胸甲、肩の突起、マスクの破片。

 紫の雷がそれらをつなぎ、レヴェリオの足元へ引き寄せる。


「全員離れろ!」


 ネビュロスが叫んだ。

 ライガとグリムはカイを抱え、後ろへ退いた。


 レヴェリオの輪郭が、胸から崩れ始めていた。

 胸の輪が光るたび、透けた身体の縁から魔力が漏れていた。カイから離れた今、少女の姿を保つだけでも力を失っていく。


「嫌だ」


 彼女が胸を押さえた。


「また、いなくなるのは嫌だ」


 黒い装甲片が、その身体を囲む。

 カイへつながっていた力が、今度は自分の輪郭を保つために外へ広がっていく。


 レヴェリオは、空へ手を伸ばした。


「私が消えたら……また、誰も止めなくなる」


 瓦礫が浮いた。

 砕けた石段が、倒れた柱が、装甲片を中心に集まっていく。


「レヴェリオ、やめろ!」


 カイが呼んだ。

 彼女は振り向かなかった。


「私が、終わらせる」


 黒雷が、空まで立ち上がった。


 ネビュロスが氷壁を張り、飛んでくる破片を受け止める。

 ヴェルミリオンは片膝をついたまま、残った幻影でカイの退路を覆った。


 レクスとアシュレイが走り込んだ。

 カイを二人へ渡すと、ライガは振り返った。


 巨大な脚が、タワー跡を踏んだ。


 瓦礫を骨組みに、黒い装甲が巨体を覆っている。胸の中心に紫の光が集まり、その内側にレヴェリオの小さな姿が見えた。

 背から雷の翼が伸び、折れ残ったタワーの柱を左右へ押し倒す。


 レヴェリオは、まだ力を使っていた。

 身体から追い出すことには成功した。だが、その力まで消えたわけではなかった。


 巨大な手が、街の方へ向く。

 避難先の街路から、悲鳴が上がった。


「街へ行かせるな!」


 ライガが走り出そうとした。

 カイが、その腕を掴んだ。


「地下を……開ける」


 ライガが振り向く。

 カイは、戦闘で露出した搬入口を指していた。


「あそこに、五機ある。タワーとは別の電源で、封じてある」


 セイジが近づいた。


「何を隠していた」


「大型の連結兵器だ。五人の操縦を前提に造らせた。だが……私は、五人に任せることをやめた」


 カイは息を詰まらせ、アシュレイの肩を借り直した。


「一人で全てを制御できる兵器を選び、あれは止めたままにした。動くかは、確かめなければならない」


 エルザが通信を通して聞いていた。


『入口を開けて。動かせるかどうかは、私たちが調べる』


 カイが頷いた。

 自分の足を地面につけ、二人に支えられながら搬入口へ向く。


「私が、乗る」


 ライガが彼を見た。


「動かせるのか?」


「一人では、無理だ」


 カイは、はっきり答えた。


「だから、今だけは手を貸してくれ」


 ライガは頷いた。


「セイジ、エルザたちと地下を頼む。レクス、アシュレイ、カイを連れていってくれ」


 グリムがライガの横へ立った。

 ネビュロスとヴェルミリオンも、息を整えながら巨体を見上げる。


「俺たちは、あいつを街から引き離す」


 巨大な雷の槍が、レヴェリオの手に形作られた。


 四人は、街とは反対側へ走った。

 背後で、地下の搬入口に小さな明かりが灯った。


(4部20話へ続く)


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


三魔王の大技をつなぎ、ライガの白炎がカイへ届きました。救われたカイが最初に選ぶのは、自分も責任を負って動くこと。そしてレヴェリオも、友だった過去だけでは片づかない、自らの行いと向き合います。


地上戦は決着しましたが、街への危機は続きます。いよいよ4部クライマックス、地下に残された五機とともに、巨大戦へ進みます。


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