第4部 第18話『命を灯す炎』
【前回のあらすじ】
タワー跡で始まった公開断罪。カイの素顔をしたレヴェリオが兵士を殺そうとし、三魔王が真・魔導外殻を展開して阻止した。レクスたちが住民を逃がす一方、レヴェリオは変身せず、重力と雷だけで三人を圧倒する。ネビュロスは彼女の足首に術式を見つけたが、その正体を確かめる前に、三魔王は地面へ押さえ込まれてしまう。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
グリムの膝が、舗装へめり込んだ。
押し返そうとした肩にも重力がかかり、黒い装甲に亀裂が走る。
「黒曜鎧……!」
装甲から噴き出した溶岩が冷え固まり、肩と背中に分厚い防御層を作った。
だが、レヴェリオが指を曲げると、その表面にもひびが入った。
「もっと厚くするの?」
彼女は三人を見下ろしていた。
「支える力が、先になくなるよ」
ネビュロスが魔導書を開く。
頁を押さえる指が震えている。彼は膝の下へ氷を広げ、グリムとヴェルミリオンの足元までつないだ。
「右へ滑れ。私が手を逸らす」
「分かった。……合わせるで」
グリムが氷の端へ爪先をかけた。
ヴェルミリオンは、手にしていた短い刃を地面へ突き立てた。幻術で実体を持たせた刀身が紫に揺れる。彼は形を保つために魔力を注ぎ、柄を握り直した。
「氷晶弾!」
ネビュロスの頭上に、鋭い氷の槍が生まれた。
三本が異なる角度から、レヴェリオの右手へ飛ぶ。
彼女は右の掌を返した。
氷の槍が空中で止まり、そのまま砕ける。
「今だ!」
グリムを押さえる力が弱まった一瞬、三人は氷を蹴った。ヴェルミリオンが刃を支えに身体を押し出し、ネビュロスも右へ滑る。
レヴェリオは左手で三人を追った。
掌から紫雷が走る。
「絶対結界!」
ネビュロスが、三人の前へ厚い氷壁を立てた。
雷は壁の中央を貫き、裏側まで亀裂を走らせる。三人が立ち上がった直後、結界が砕けた。
グリムが前へ出た。
両腕を交差させ、残った雷を追加装甲で受け止める。黒曜石の防御層が剥がれ、その下の腕まで衝撃が抜けた。
「ぐっ……!」
踵が滑る。
グリムは踏みとどまり、右へ目を向けた。
ライガが、柱の陰から走り出していた。
*
「ヴェルミリオン、頼む!」
「いいよ。君は止まらずに進んで!」
ヴェルミリオンの翅が開いた。
「道化の舞!」
紫の粉が散り、彼と同じ姿が二つ生まれる。
一体は正面へ走り、もう一体は大きく左へ回った。本体は右側でライガと並び、刃を構えた。
レヴェリオが、正面の一体へ雷を放つ。
分身は胸を貫かれて崩れた。彼女はその消失を見届けず、右手を本物のヴェルミリオンへ向ける。
「そこだね」
足元の石片が持ち上がり、ライガたちへ殺到した。
ヴェルミリオンがライガの腕を掴み、身体を低く引いた。
左へ走った分身が戻り、二人の前へ飛び込む。石片を受け止めたその胸が大きくへこみ、紫の粉となって散った。
破片は止めきれなかった。
ヴェルミリオンの肩へ石が当たり、紫の装甲を砕く。
「っ……行って!」
彼はライガの腕を放した。
ライガは止まらず、その横を抜ける。
レヴェリオの掌が、今度はライガへ向いた。
身体が沈んだ。
走っていた足が止まり、片膝が地面を打つ。腕をついても、その腕ごと押し潰されそうになる。
「力もないのに」
レヴェリオが言った。
「君まで、来るんだね」
ライガは歯を食いしばった。
地面についた左腕には、ゾーエがある。昨日、小さな炎を受け止めた装置だった。
『ライガ、聞こえるか!』
通信機からセイジの声がした。
『レクスたちは住民を逃がした。退避路も空いている。君は前へ進め!』
ライガは顔を上げた。
ヴェルミリオンは傷ついた肩を押さえながら、敵の右側へ回っている。ネビュロスも魔導書を開き直していた。
正面から、グリムが走り込んだ。
「紅蓮拳!」
炎をまとった拳が、レヴェリオの左腕へ迫る。
彼女は左の掌で重力を放った。グリムの拳が止まり、足元の舗装が後ろへ削れる。
「そこまでして、守りたいの?」
レヴェリオが尋ねた。
グリムの腕から、炎が横へ流される。肩の装甲が割れても、彼は踏み込むのをやめなかった。
「こいつと……帰る約束しとんねん!」
ライガの目が、グリムへ向いた。
昨日、自分が言った。
明日は全員で帰る。その中には、自分も入っていると念を押された。
一人残るために、ここへ来たのではない。
「セイジ。そっちは頼む」
『任せろ』
ライガは地面についた手を握った。
「グリム、俺も行く。あと少し、支えてくれ!」
「おう……!」
グリムの足が止まった。
押し戻されていた踵を踏み込み、もう一度、拳を前へ押し出す。
ライガの指先に、白い炎が灯った。
地面を焦がすことなく、手の甲から腕へと広がっていく。
ライガは左足を立てた。
重力が肩へ食い込む。息が詰まる。それでも、足を踏み締め、腰を上げた。
炎がゾーエへ届いた。
白銀の枠の中央で、光が消えずに灯り続ける。
『入力、継続! 装甲形成まで上がります!』
ポルクが叫んだ。
エルザの声が続く。
『ライガ、今なら使えるわ。私たちが作った想いを信じて!』
レヴェリオが右手を強く突き出した。
ライガの両脇で舗装が陥没する。
だが、彼は怯むことなく立っていた。
白炎が肩を覆い、身体を押し潰していた力を焼き切っていく。
「……その炎は」
レヴェリオが、ライガの手元を見た。
ライガは左腕を胸の前へ掲げた。
腕から立ち上がった白炎を、右手で包むように握る。
「バーニング――チェンジ!」
白い炎が、一気に全身を駆け上がった。
深紅のスーツが身体を覆い、胸から肩へ白い装甲が組み上がる。握った拳を白い手甲が包み、踏み締めた足にも装甲が重なった。
胸の「B」が白銀に光る。
赤いスカーフが背へ伸び、炎をまとって翻った。
レヴェリオは右手から雷を放った。
光が収まるのを待たず、ライガの胸を狙った。
ライガは左腕で受けた。
紫雷が白い装甲に弾け、足元へ散る。踵が半歩滑ったが、彼は倒れなかった。
炎の中で、最後にマスクが顔を覆った。
神聖バーニングレッド。
誰かから奪った命ではなく、ライガ自身の白炎で動く装甲が、再びその身を包んでいた。
レヴェリオが左の掌を返す。
グリムの身体が、地面へ叩きつけられた。さらに雷を落とそうと、彼女が指を開く。
その前へ、ライガが入った。
「爆熱剛拳!」
白炎をまとった右拳を、グリムの頭上へ振り抜く。
押し潰す重力と降り注ぐ雷に、炎が正面からぶつかった。
白い火が広がり、圧力を切り裂いた。
雷は左右へ分かれ、二人の脇の舗装を砕く。
グリムが顔を上げた。
ライガは左手を差し出し、彼の前腕を掴んで立たせた。
「待たせたな」
「……ほんまや待たせやがって」
グリムは息を吐き、口の端を上げた。
「きっちり今までの分、働いてもらうで」
「ああ。一緒に帰ろう約束する」
ライガは手を離し、レヴェリオへ向き直った。
ネビュロスとヴェルミリオンが、その左右へ並ぶ。
レヴェリオが右手を突き出した。
ライガは白炎を前へ広げ、一歩踏み込んだ。重力は消しきれず、装甲を押す。それでも、前へ進める。
右からヴェルミリオンの幻影刃が迫り、左から氷の鎖が地面を走った。
レヴェリオは掌を引き、石段まで後退した。
四人が並んだまま、彼女の立っていた場所へ進んだ。
*
ライガは構えを崩さず、敵の両手を見た。
変身しても、体力まで戻ったわけではない。三魔王の呼吸も荒い。この四人で動ける間に、カイへ届かなければならなかった。
「その炎は……」
レヴェリオが右手を見た。
指先から紫の光が散る。もう一度掌を握り、ライガへ視線を戻した。
「カイを取り戻す」
ライガが告げた。
「命令したことも、俺たちがしたことも、本人たちが答える。その身体を返せ」
「カイに、また決めさせるんだね」
「お前一人に決めさせるために、ここへ来たんじゃない」
レヴェリオが、両手を下ろした。
四人の足元で地面が陥没する。
「散らばれ!」
ライガの声に、三魔王が跳んだ。
グリムは後ろへ、ヴェルミリオンは右へ。ネビュロスは左へ氷の足場を張り、崩れた舗装を越える。
ライガは白炎を足元へ流し、沈みかけた地面を蹴った。
肩を紫雷がかすめる。白い装甲に焦げ跡を残しながら、グリムの横へ着地した。
陥没した穴の底に、厚い金属板が見えた。
タワーの基部から奥へ続く、地下区画の天井だった。側面には、土に埋まった大型の搬入口がある。
セイジが通りの角から位置を確かめた。
『基部の下に別区画がある。だが、今は近づけない』
『位置だけ控えて。退避路が崩れるなら、すぐ知らせて』
エルザの返事を聞き、セイジは戦場へ目を戻した。
レヴェリオは穴の向こうに立っていた。
掌を開くと、砕けた舗装がいくつも浮き上がる。
「また、押し潰してあげる」
「その前に、捕まえる」
ライガは三人へ顔を向けた。
「ネビュロス。術式を見る時間を作る。ヴェルミリオンは狙いを分けてくれ。グリム、一緒に前へ出るぞ」
「待っとったわ!」
グリムが拳を打ち合わせた。
ヴェルミリオンは傷ついた肩を回し、レヴェリオへ笑いかけた。
「さっきのだけで、僕の出し物が終わったと思ったかい?」
*
「夢幻蝶!」
ヴェルミリオンの周囲から、紫の蝶が飛び立った。
蝶は地面すれすれと頭上へ分かれ、レヴェリオを囲む。彼女が雷を振るうと、一群が光を散らして消えた。
その光の向こうから、グリムが走り込んだ。
レヴェリオが右手を向ける。
グリムの姿が、紫の粉へ崩れた。
蝶が作った偽物だった。
本物のグリムは、低い姿勢で左から踏み込んでいた。ライガは正面から迫る。
レヴェリオは右手をライガへ、左手をグリムへ向けた。
グリムの拳から赤い炎が噴き出す。
左手が作る圧力へ、腕ごと突っ込んだ。
「紅蓮拳!」
同時に、ライガがレヴェリオの右の掌へ白炎を放った。
彼女は炎を避けようと上体をひねった。左手の向きがずれた隙に、グリムの拳がその前腕へ届き、外へ弾いた。グリムはすぐに手を開き、左手首を掴む。
ネビュロスが氷を走らせた。
「氷鎖・零結陣!」
六本の鎖が足首と膝へ巻きつき、左右に立てた氷柱へ張られた。
レヴェリオは後ろへ跳べず、上体をひねる。
ヴェルミリオンが右側から飛び込んだ。
刃の腹を彼女の右腕へ当て、掌を上へ押し上げる。
「今だよ、ライガ!」
グリムは左手首を掴んだまま、正面を空けた。
ライガが入る。
今度は拳を開き、白炎をまとった掌を胸へ押し当てた。
レヴェリオの身体から紫雷が噴き出した。
グリムの腕を雷が伝い、ヴェルミリオンの刃が震える。
ライガは顔を背けず、胸に当てた手へ炎を集めた。
「ネビュロス!」
「見ている!」
白炎に照らされ、カイの胸に二重の輪が浮かんだ。
外側の輪から、腕と脚へ細い線が伸びている。内側の輪は、その中心で小さく明滅していた。
「外へ伸びる線だ。中心は焼くな!」
ライガは炎を絞った。
右肩へ続く線に白炎が触れると、レヴェリオの腕が大きく跳ねた。
「……やめて」
レヴェリオの声から、笑みが消えた。
この炎は、身体を焼こうとしているのではない。
自分がカイの手足を動かすためのつながりへ、触れている。
レヴェリオは右腕を強く引き、ヴェルミリオンの刃を弾いた。
空いた手が、ライガの喉へ伸びる。
グリムは、掴んでいた左手首が内側へ動くのを感じた。敵の掌を自分から外す動きだったため、握る力を緩める。
自由になったカイの左手が、ライガへ伸びる右腕を掴んだ。震えながら、その腕を胸元へ引き戻そうとしている。
「カイ……?」
ライガが呼んだ。
目の前の唇が動く。
「……離れろ」
かすれた声だった。
直後、カイの身体を紫の光が包んだ。
「皆下がれ!」
ライガが叫び、掌を離した。
グリムは左手首を放し、ヴェルミリオンも弾かれた刃を引いて跳び退いた。足元の鎖が砕け、全身から放たれた雷が四人を襲った。
ネビュロスが、割れた地面の手前へ氷壁を立てた。
「絶対結界!」
ライガたちは壁の後ろへ飛び込んだ。
雷が結界の上部を突き破り、頭上で氷を砕いた。全員が身を伏せる。残った下半分の氷に守られ、その上を光が通り過ぎた。
*
ライガが片膝をついた。
白い胸甲に焦げ跡が走っている。腕にも痛みがあった。
それでも、掌の白炎は消えていなかった。
「今の、カイやろ」
グリムが息を吐きながら立った。
「あいつ、自分で止めよったぞ」
「……ああ」
ライガも立ち上がった。
「カイ! 聞こえるなら、もう少し待ってくれ!」
向こうでは、レヴェリオが胸を押さえていた。
白炎の触れた場所から、小さな光が散っている。
彼女は右腕を持ち上げた。
左手が勝手についてこないことを確かめてから、ライガを見る。
「その炎で、私を追い出すんだね」
「カイを返してもらう」
レヴェリオは、四人との距離を見た。
グリムの拳、ネビュロスの魔導書、ヴェルミリオンの翅。そしてライガの白炎へ、順に目を向ける。
もう、近づかせるつもりはなかった。
「ジャスティス……チェンジ!!」
紫の光が噴き上がった。
深紅のスーツを黒い装甲が覆い、肩から背へ刃のような突起が並ぶ。継ぎ目を紫の光が走り、腰から黒いロングコートが広がった。
カイの素顔が隠れる。
マスクの左半分はユナイトレッドの赤。右半分には黒い有機装甲が食い込み、口元に牙のような突起が並んでいた。
タワーで全員を倒した姿が、再び目の前に立った。
「来るぞ!」
ライガの声と同時に、レヴェリオが地面を蹴った。
グリムが両腕を交差させる。
「黒曜鎧!」
新たに固まった防御層へ、黒い拳が突き刺さった。
厚い黒曜石が割れ、グリムの身体が後ろへ飛ぶ。ライガが受け止めたが、二人まとめて数歩押し戻された。
「絶対結界!」
ネビュロスが右へ氷壁を立てる。
レヴェリオは掌で押し潰し、その破片をヴェルミリオンへ飛ばした。紫の蝶が散る前に雷が走り、退く先の地面まで砕かれる。
ヴェルミリオンは横へ転がり、刃を地面へ突き立てて止まった。
四人の包囲は崩れていた。
先ほど白炎が届いた場所には、もう黒い装甲がある。
レヴェリオが右手を上げた。
「今度は、その炎から消す」
ライガはグリムを立たせ、白炎を拳へ集めた。
「やらせない」
グリムが隣で拳を上げる。
ネビュロスとヴェルミリオンも、二人の左右へ戻った。
カイの声は届いた。
その身体を取り戻すために、四人はもう一度、前へ出た。
(19話へ続く)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
仲間に任せ、任された役目へ進む。その中で、ライガが再び神聖バーニングレッドへ変身しました。四人の連携はレヴェリオへ届き、内側にいるカイからも反応が返ります。
しかし、白炎の危険を知った彼女は、ついにタワーで見せた姿へ変身しました。次回、カイを取り戻すための戦いが本格化します。
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