第4部 第17話『裁く者の名前』
【前回のあらすじ】
一人で背負い込もうとするライガに、アシュレイ、レクス、セイジは自分たちを頼れと伝えた。仲間へ役目を任せたライガは、エルザたちが完成させたゾーエを試し、小さな白炎を取り戻す。まだ変身には届かないまま、一行は公開断罪の日を迎える。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
正午を告げる鐘が鳴った。
タワー跡の前には、数十人の住民が集まっていた。
崩れ残った石段にレヴェリオが立ち、その下には命令書を積んだ机と、並ばされた元兵士たちがいる。撮影装置は、カイの顔をした彼女と、これから裁かれる者たちを各地へ映していた。
ライガたちは、住民と石段の間で足を止めた。
正面にグリム、左にネビュロス、右にヴェルミリオン。ライガは三人の少し後ろへ立つ。
左腕には、ゾーエがある。
昨日は白炎を受け取った。だが、装甲を作り、戦い続けられるかは分からない。
ライガは住民の後方へ顔を向けた。
レクスが退避路の入口に立ち、アシュレイと元兵士へ道順を伝えていた。道の先では、エルザとポルクが救護所への受け入れを準備している。
セイジは通りの角から、戦場と退避路の両方を見ていた。携帯の通信機を口元へ寄せる。
『ライガ、聞こえるか。こちらは配置についた』
「聞こえる。周りの状況は頼む」
『分かった。君は前を見ろ』
ライガは石段へ向き直った。
*
「命令した者も、従った者も、自分がしたことを話して」
レヴェリオに呼ばれ、兵士の一人が机の前へ進んだ。
連行した住民の人数を答え、命令書を差し出す。
「誰の指示?」
兵士は紙を握り直した。
答えは書いてある。それでも、目の前の顔へその名を告げることをためらっていた。
「読んで」
「……カイ・レグリオ様です」
住民の間から声が上がった。
兵士は命令書を持ち上げ、レヴェリオに向けた。
「あなたの承認が入っています。俺たちは、この命令で動きました」
「命令があったことは分かった。君自身は、何をしたの?」
「答えます。ですが……なぜ、あなたが俺たちを裁いているんですか」
レヴェリオの視線が、紙から兵士へ移った。
「今、君と話しているのはカイではないよ」
「同じ顔で、同じ身体です。別の名前で呼べと言われても、俺には……」
「彼が命じたことを、私の命令にはしないで」
兵士は紙を下ろした。
カイの命令に従ったことを問い詰めているのは、カイの身体を使う者だった。問い返しても、その矛盾に答えてはもらえなかった。
「俺も、その命令を部隊へ伝えた」
レクスが退避路の入口から声を上げた。
「住民を拘束させた。それは俺がしたことだ。カイに命じられたからといって、責任が消えるとは思っていない」
レヴェリオが彼を見る。
「だが、命じたカイにも話をさせるべきだ。お前が代わりに裁くのではなく、あいつ自身に答えさせろ」
「彼は、もう間違えた。私は同じことを繰り返さない」
今度はセイジが、通りの角から口を開いた。
「カイはタワーで話した。一つの正しい秩序があれば誰も泣かずに済むと、君が勧めたこともだ」
「彼を支えた。それが悪いの?」
「何を支えてしまったかを聞いている」
レヴェリオは答えなかった。
机の命令書を押さえ、兵士へ視線を戻した。
「そいつらの言い訳を聞きに来たんじゃない!」
住民の一人が叫んだ。
「俺の家は、その兵士に焼かれたんだぞ!」
兵士が顔を伏せた。
レヴェリオは、その住民へ向き直った。
「覚えていることを話して」
*
家を焼かれた男は、兵士に外へ追い出された後、家へ火を放たれたと話した。止めようとした時には殴られたという。
兵士は否定しなかった。
「隠れている反逆者を出すために、焼けと……」
「俺たちは、もう外にいた!」
「……はい」
レヴェリオが石段を下り、兵士の前へ立った。
「中に誰もいないと、分かっていたんだね」
「分かっていました」
「それでも焼いた」
兵士は頷いた。
レヴェリオが右手を上げた。
兵士の両腕が身体の脇へ押しつけられ、首を見えない力が締め上げる。爪先が地面を離れた。
「待て!」
レクスが一歩踏み出した。
隣のアシュレイが腕を掴む。その先では、すでにグリムが動いていた。
「殺させへん!」
グリムが腕輪へ魔力を流し込む。
ネビュロスとヴェルミリオンも、それぞれの腕輪を掲げた。
「「「魔導展開!」」」
グリムの身体から赤熱した魔力が噴き上がり、胸と肩を覆った。魔力は冷え固まった黒曜石のような重装甲となり、腕から脚へ組み上がっていく。背部の排熱口から熱気が噴き出し、装甲の継ぎ目が赤く光った。
ネビュロスの周囲では、蒼銀の氷晶が重なり合った。胸、肩、肘、膝を隙間なく覆い、全身を守る甲冑を形作る。足元に霜が走り、吐く息が白く曇った。
ヴェルミリオンには、深紫の艶を持つ外骨格がまとわりついた。昆虫を思わせる滑らかな装甲が四肢を包み、背中で半透明の翅が開く。そこから舞う細かな粉が光を曲げ、輪郭を二重に見せた。
タワーで強化された、真・魔導外殻。
三人の魔力を鎧へ変える装置が、再び全身を覆っていた。顔は隠れていない。グリムは牙を剥き、兵士へ向けられた右手に飛びついた。
装甲に覆われた両手で手首を掴み、上へ押し上げる。
兵士の首を締める力が緩み、その身体が地面へ落ちた。
「アシュレイ、兵士を!」
レクスが指示する。
アシュレイが駆け込み、咳き込む兵士の腕を自分の肩へ回した。腰を支え、引きずるように退避路へ運ぶ。
グリムは、その二人を背にして踏ん張った。
「罪を認めた相手を、すぐ殺して終わりか。奪ったもんをどう返させるか、聞く気もないんか!」
「また、傷つけられた人に待てと言うんだね」
レヴェリオが、掴まれた右腕ごと手を下ろした。
グリムの足元が陥没した。
両脚が舗装へ食い込み、膝が曲がる。真・魔導外殻が軋んだが、グリムは手首を離さなかった。
*
「全員、こちらへ! 立ち止まらないでくれ!」
レクスが退避路を指した。
元兵士たちが通りの両側へ分かれ、走り出した住民を受け入れる。
家を焼かれた男だけが、机の前に立ち尽くしていた。
「待て、俺はまだ――」
「話は聞こえた。証言をなかったことにはさせない。今は離れろ!」
レクスが呼びかける。
男は助け出された兵士を見て歯を食いしばった。それでも、地面が割れる音に身をすくめ、退避路へ走った。
ネビュロスが、戦場と住民の間へ氷壁を立てた。
直後、レヴェリオの背から紫雷が走る。壁の上半分が砕けたが、破片は残った氷へぶつかり、退避路までは届かなかった。
『避難はレクスが進めている。ライガ、右から来る!』
セイジの声に、ライガが身を伏せた。
氷壁の端を抜けた雷が、倒れた柱を削る。ライガは柱の陰へ入り、三魔王の動きを見た。
ヴェルミリオンが右から回り込んだ。
翅から散った幻影粉が、同じ姿を二つ作る。本体はその間を走り、レヴェリオの右腕へ刃の腹を当てようとした。腕を持ち上げ、グリムにかかる圧力を逸らすつもりだった。
レヴェリオは左手を向けた。
刃は肘へ届く前に止まり、柄ごとヴェルミリオンの胸へ押し戻される。紫の装甲が衝撃を受け、彼の身体が後ろへ滑った。
レヴェリオの背で、白銀の翼が開いた。
翼の縁を紫の雷が走り、前方へ放たれる。
「離れろ!」
ライガが叫んだ。
グリムは手首を放し、両腕を重ねて顔を守った。ヴェルミリオンは横へ跳ぶ。雷を受けたグリムが数歩押し戻され、その踵が舗装を削った。
レヴェリオは息を乱していなかった。
「前は、立つこともできなかったのに」
彼女は三人を順に見た。
「今度は、その鎧で止めるつもり?」
グリムが腕を下ろした。
黒い装甲の表面には、白く削れた跡が残っていた。
「止めるために、戻ってきたんや」
答えながら、呼吸を整える。
傷は塞がり、鎧も展開できた。それでも、魔力を使い切る前に決着をつけなければならなかった。
*
レヴェリオの視線が、柱の横のライガへ移った。
「君は、そこから見ているの?」
右手が伸びる。
ライガの周囲で石片が持ち上がり、一斉に胸へ向いた。
「ネビュロス、右腕を頼む!」
ライガは呼びかけ、柱の裏へ走った。
ネビュロスの氷鎖が、レヴェリオの手首を捉える。鎖の反対側は、彼女の横に立てた氷柱へ巻きついていた。
レヴェリオは右手を振った。
氷柱が根元から砕ける。しかし腕が引かれた一瞬、石片の向きがずれ、柱の側面へ突き刺さった。
「長くは持たない。動き続けろ!」
ネビュロスが叫んだ。
ライガは頷き、三人の後ろへ戻る。ゾーエへ目を落とすために、足を止めることはしなかった。
『最後の住民が通りへ入った。レクスたちは搬送を続けている』
セイジから報告が入る。
「分かった。そちらは任せる」
ライガは前を向いた。
「グリム、正面を。ヴェルミリオンは右から合わせてくれ。俺もそちらへ回る!」
「任せとけ!」
グリムが踏み込む。
拳と掌の間で圧力がぶつかり、黒い装甲の表面が削れた。それでも腕を押し込み、レヴェリオの右手を外へ向ける。
ヴェルミリオンが反対側から刃を差し入れた。
レヴェリオは左手で刃を止め、半歩下がる。その踵へネビュロスが氷を伸ばした。
氷を踏み砕こうとした足首に、白い光の輪が浮いた。
ネビュロスは目を細めた。
輪の一部に、魔導書で確かめた保存術式に似た線がある。だが、全体はまだ見えない。
「足首に術式が出た。ライガ、まだ焼くな。何をつないでいるのか、確かめる!」
レヴェリオが彼へ顔を向けた。
「私を調べながら戦えると思っているの?」
翼が大きく開いた。
右手でグリムを、左手でヴェルミリオンを押し下げ、二人の膝を地面につかせる。ネビュロスが援護の氷を伸ばすより早く、彼の足元にも圧力が落ちた。
三人を中心に、舗装が割れた。
ネビュロスは片膝をつき、魔導書を地面へ落とすまいと抱えた。
ライガは柱の横で止まった。
ここで飛び込めば、三人は自分まで庇わなければならない。
レヴェリオの指が曲がる。
グリムの肩の装甲に、細い亀裂が入った。
「手を出したんだ。君たちも、そこで裁きを受けて」
逃げ道を残す言葉ではなかった。
圧力が増し、ヴェルミリオンの翅が地面へ押しつけられる。
グリムは歯を食いしばったまま、横の二人へ声をかけた。
「打ち合わせ通りや。……合わせろ」
ネビュロスが魔導書を開く。
ヴェルミリオンは刃を持ち直し、先端を地面へ向けた。
三人はまだ動こうとしていた。
ライガは左腕を胸の前へ上げ、ゾーエの留め具を確かめた。
昨日、自分から頼んだ。
今、その三人が道を作っている。
「右へ回る。そこへ出るぞ」
ライガが声をかけると、ヴェルミリオンが顔を上げた。
「待っているよ、バーニング」
ライガは柱の右側へ踏み出した。
(18話へ続く)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
カイの命令書を前にしても、レヴェリオは裁く側に立ち続けます。罪を認めることと、彼女の処刑を受け入れることは同じではありません。
ライガが仲間へ任せた役目も、実際の行動につながり始めました。住民を守る者、状況を伝える者、前で敵を押さえる者。それぞれの働きの先で、ライガが進みます。
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