第4部 第16話『明日へ渡すもの』
【前回のあらすじ】
公開断罪まで、残り一日。三基のカプセルで治療が進む中、ライガは自分の手で旧サングを破壊した。グリムが呪いを焼き払った先で、今度は他人の命を奪わずに戦うため、エルザたちは新たな変身ブレス「ゾーエ」の開発を進める。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
朝、エルザはライガの脇腹から包帯を外した。
傷口は塞がっている。寝台から立たせ、数歩歩かせても、出血はなかった。
「今日は休んで。傷が閉じたからって、使い切った力まで戻ったわけじゃないわ」
「分かっている」
窓側のカプセルを出たネビュロスは、椅子に座って肩を回していた。入口側から出たヴェルミリオンも、グリムの隣の寝台で追加の処置を受けている。
三基とも治療を終えたが、ポルクは再び使える状態にしておいた。
エルザは四人の状態を書き留めると、隣室の作業机へ戻った。
机の中央には、外装を取りつける前のゾーエが置かれていた。
*
エルザが回路図を指し、ポルクへ部品の位置を伝えた。
その隣では、セイジがサングから取り出しておいた資料を整理している。
「装甲を作るために必要な部分は、こちらだ。組織の命令を受ける部分は分けた」
「ありがとう。取り込む力が途切れた時の処理も確認して。使用者から無理に引き出す動作は残したくない」
「分かった」
エルザは新しい図面へ書き込み、ポルクと組み立てを進めた。
入口にライガが立ったのは、その時だった。
「エルザ。少し、いいか」
「どうしたの?」
「間に合わなければ、俺が先に出る。その間に仕上げてくれ」
エルザの手が止まった。
「何をするつもり?」
「カイに呼びかける。少しでも時間を――」
「またそれかよ」
入口の脇にいたアシュレイが、壁から背を離した。
「戻ってきたばっかりで、今度は一人で先に行くのか」
「誰かが時間を稼がなければならない」
「だったら、その誰かを勝手に自分に決めるな」
ライガが黙った。
アシュレイは作業机を指した。
「こいつらが何のために作ってると思ってんだ。お前が生身で殴られに行くためじゃねえぞ」
「分かっている。だから、完成までの時間を――」
「分かってねえから言ってんだろ!」
アシュレイの声が部屋に響いた。
ポルクが手を止める。アシュレイはそちらを見て、口を閉じた。
レクスが廊下から椅子を運んできた。
「ライガ、座ってくれ。ここで倒れられたら、エルザの仕事が増える」
ライガは少しためらってから、椅子に腰を下ろした。
レクスが隣に座る。アシュレイは入口に立ったまま、腕を組んだ。
エルザはライガの顔色を確かめ、工具を取り直した。
「装置は私が仕上げる。できることと、できないことは、はっきり伝えるわ。だから、私が失敗した時の埋め合わせを、先に一人で決めないで」
「……すまない」
「謝るより、話して」
エルザは作業を再開した。
*
「白炎が戻らない…」
ライガは膝の上に置いた手を見た。
「身体は治してもらった。装置も作ってもらっている。それでも、俺が炎を出せなければ、カイを救う手段がない」
「だから、自分だけでも何かしようとしたのか」
レクスの問いに、ライガが頷いた。
「明日までに、必ず使えるようにする。だが、もし――」
「その先も、お前が何とかする話だろ」
アシュレイが口を挟んだ。
「お前たちには、これ以上無理をさせたくない」
ライガが顔を上げた。
「俺たちだって同じだ、これ以上お前に無理させたくねえんだよ」
アシュレイは、ライガの前まで来た。
「変身できねえのは分かってる。今のまま殴りかかったって、足手まといだ。それくらいは、俺だって分かる」
そこで一度、言葉を詰まらせた。
「けどな。だから俺達に何も任せずに、お前だけ行くってのは違うだろ」
ライガは返事ができなかった。
レクスが静かに続けた。
「俺も、何かしなければと思うと、先に身体が動く。正しいことをするなら、それでいいと思ってきた」
包帯を巻いた肩を動かし、わずかに顔をしかめる。
「今も直っていない。だから、一人で行くと言われて、分かったとは言えない。俺もついていこうとする」
「その傷では――」
「お前も、同じことをしている」
ライガの言葉が止まった。
セイジが端末を机へ置いた。
「ライガ。君ができないことを挙げるたびに、自分の仕事を増やしてどうする」
「だが、白炎は俺にしか……」
「ああ。だから、それを君に任せたい。そのために私たちが何をするか、決めようと言っている」
セイジはライガを見た。
「私は資料を調べ、エルザを手伝える。戦いが始まれば、状況を見て伝えることもできる。アシュレイにもレクスにも、任せられる仕事はある。君が全部できるようになるまで、私たちを待たせるな」
作業机で、小さく工具の音がした。
エルザは会話を遮らず、ポルクと部品を組み続けていた。
ライガは三人を見た。
自分の力が戻るかどうかを確かめることばかり考えていた。その間も、彼らは明日のために動いていた。
「……頼みたいことは、ある」
「だったら遠慮なく言えよ」
アシュレイがすぐに返した。
「俺たち、ここにいるだろ」
*
ライガはレクスへ向き直った。
「明日、住民を会場から逃がしてほしい。兵士もだ。俺たちが戦っている間、誰も取り残さないよう、そちらの指揮を頼む」
レクスは頷き、作業机の端から紙を取った。
「救護所までの道を先に確かめる。運べる人数も、ポルクと相談しておく」
「アシュレイ。レクスを支えてくれ。レクスが負傷者を背負おうとしたら、代わってやってほしい」
「そこまで言わなくても分かってる」
アシュレイはレクスの肩を見た。
「聞いたな。明日、勝手に突っ込むなよ」
「お前もだ」
二人が顔を見合わせた笑った。
ライガも緊張が解け、ようやく少し笑った。
「セイジは、エルザと戦闘状態を見ていてくれ。異常があれば知らせてほしい。」
「ああわかってる」
ライガは、今度は作業机へ顔を向けた。
「エルザ。完成を待つ。俺が焦っても、必要な確認は省かないでくれ」
「そのつもりよ」
「ポルクは、戻ってきた者を頼む。俺たちも、住民も」
「はい。受け入れられるようにしておきます」
レクスが紙へ道順を書き始めた。
アシュレイがその横から覗き込み、荷車の置かれている通りを指す。二人は、何を先に片づけるか相談していた。
ライガは口を挟まず、二人に任せた。
セイジが、声を落として尋ねた。
「ライガ、タワーで白炎が出た時、出し方を知っていたのか?」
「いや。あの時は、使えることさえ知らなかった」
「何をしようとしていた」
「グリムたちを助けたかった。カイを止めて、連れて帰りたかった」
答えてから、ライガは自分の手を見た。
「……決戦までに炎が出なかったらどうするかばかり考えていたな」
「だが、出せるようになるまで君一人で背負う必要はない」
セイジはそれだけ言い、エルザの隣へ戻った。
*
午後、レクスとアシュレイは退避路を確認し、通りを塞ぐ荷車を兵士たちと移した。
戻った二人から報告を受け、ライガは会場から救護所までの道を確かめた。
その後、グリム、ネビュロス、ヴェルミリオンとも話した。
「皆にはサポートしてほしい。白炎を当てられても、一瞬でカイを分けられるとは限らない」
「せやな。触れたところで弾き飛ばされたら、やり直しや」
グリムが紙に描かれた会場を見た。
「近づくまでと、触れてから。両方、俺らで押さえる」
「一人に攻撃が集中しないようにしよう。僕も位置を変えるよ」
ヴェルミリオンが、自分の立つ場所を示した。
ネビュロスは魔導書を膝に置き、二人の動きを確認した。
「私は、彼女が力を使う時の変化を見たい。カイの中に別の意識を留める術式があるなら、分離の手掛かりになる」
「まだ仮説だが、何がカイを縛っているのか、確かめずに焼くわけにはいかない」
「分かった。」
ライガは三人と動きを確認した。
誰かが倒れた時の援護も決め、一人だけで前へ出ないことを約束した。
*
夕方、エルザが白銀の腕輪を持って治療室へ来た。
「完成したわ。ゾーエよ」
ライガは椅子から立ち、腕輪を受け取った。
「あなたの炎を受け止めて、装甲へ変える新しい力。」
「今は無理に引き出すこともできないから出せる分で、試してみて」
「ああ」
ポルクが測定器をつなぎ、セイジが表示を確かめた。
レクスとアシュレイも、部屋に残っていた。
ライガは掌を開いた。
明日、カイを連れて帰る。
自分が受け持つのは、白炎でカイを解放することだ。
できるかどうかは、まだ分からない。だが、その不安まで一人で隠す必要はなかった。
ライガは、ゆっくり息を吐いた。
掌に、小さな白い炎が灯った。
ゾーエが白く光る。
ポルクが測定器へ身を寄せた。
「来てます!」
炎は二度揺れ、消えた。
装甲は現れなかった。
ライガは掌を下ろし、エルザを見た。
「どうだった?」
「ゾーエは確かに動いたわ。けど変身を保つには、もう少し長く炎を出す必要があるわね。」
アシュレイが隣へ来て、白炎の灯っていた手を見た。
「前に進んだじゃねえか」
「ああ」
ライガはアシュレイ、セイジ、レクスへ顔を向けた。
「皆ありがとう、助かった。明日は頼む」
「任せろ」
レクスが答えた。
セイジは測定結果を保存し、端末を閉じた。
「今日はもう休め。私たちも休む」
「そうだな」
ライガは部屋を見回した。
「明日は全員揃って帰るぞ」
「お前も入ってるんだからな」
アシュレイがすぐに言った。
「分かっている」
今度は、ライガも思いっきり笑って答えた。
(17話へ続く)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
エルザたちがゾーエを作る一方、三人のレッドは、一人で背負い込もうとするライガに声をかけました。助けられるだけでも、全部を引き受けるだけでもなく、仲間を信じて役目を任せる。その先で、白炎が小さく戻ります。
次回、公開断罪の日。それぞれが引き受けた役目を胸に、決戦へ向かいます。
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