第4部 第15話『もう一度立つために』
【前回のあらすじ】
ライガの呼びかけに、カイの身体がレヴェリオの意思に逆らうような動きを見せた。レヴェリオは二日後の正午、タワー跡で命令者たちを公開の場に立たせると宣告する。カイを救うため、ライガたちは治療と白炎の検証を始めた。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
日が落ちても、広場の明かりは消えなかった。
配給に使っていた机には、今は命令書の写しが並んでいた。元兵士が一枚ずつ読み上げ、別の兵士が命令者と実行した部隊を書き取っている。
レヴェリオはその前に立ち、各地から届く返答を聞いていた。
救護所の入口では、レクスが椅子に座って紙に名前を書いていた。
自分が命令を出した部隊。命令の内容。覚えている場所。
手が止まるたび、窓の外を見た。
「分からねえところまで埋めるなよ」
アシュレイが水を置いた。
「分かっている」
「あとで違ったら、その名前の奴が殺されるかもしれねえ」
レクスは頷き、曖昧だった一行を消した。
代わりに、確認が必要だと書き添える。
「お前の分は」
「書いてる。逃げる気はねえよ」
アシュレイは奥の治療室を見た。
「ただ、あいつに誰を殺すか選ばせるために、書いてるわけじゃねえ」
机の隅には、別の紙束があった。
救護所へ相談に来た家族の名前と、帰っていない者の名前。エルザが移送記録と照らし合わせるために集めたものだった。
アシュレイは、自分の供述とは分けてその紙束を揃えた。
*
三基のカプセルが動いていた。
入口に近い一基にはグリム、中央にはライガ、窓側にはヴェルミリオンが入っていた。点検を終えた残りの二基も使い、三人を同時に治療している。
ポルクは表示を順に確かめ、時刻と数値を書き留めた。
ライガの右手を覆っていた包帯は外されていた。
傷口はまだ赤い。だが、寝台にいた時のように、指を少し動かしただけで血がにじむことはなくなっていた。
「脇腹の処置が終わるまでは、そのままです」
蓋の向こうでライガが頷く。
ポルクは、固定した画面を見やすい位置へ動かした。
ライガのサングは、カプセルへ入る前に腕から外されていた。ポルクは机の上の装置から記録を読み出し、端末へ保存していた。
「サングに残っていた動作記録です。映像ではないので、何を考えていたかまでは分かりません」
画面には、タワーで変身した時の出力の変化が表示されていた。
それまで低い位置にあった線が、ある時点から急に上がっている。
「ここからです。外の供給が戻ったんじゃありません。ライガさんの側から、装置に力が入っています」
ライガは、白炎が腕を伝ってサングへ入った感覚を思い出した。
機械が先に炎を出したのではない。
自分に生じた炎が、変身を可能にした。
ポルクは次の記録へ切り替えた。
タワーのコアを破壊する前後で、出力は大きく落ちていた。その先の記録は途切れている。
「通信が使えるからといって、変身にも使える状態とは言えません。まず、こちらから流し込む力が必要です」
「サングを直すだけでは、戻らないんだな」
カプセルの通話口から、ライガが言った。
「はい」
ポルクは画面を消さなかった。
できないことだけを伝えて、終わりにしたくなかった。
「でも、一度は動いています。この記録は残っています」
ライガは小さく頷いた。
「グリムが起きたら、話したい」
「起きたら伝えます。今は、もう少し寝てもらいます」
*
ネビュロスとセイジが救護所へ着いたのは、夜が更けてからだった。
セイジは入口で足を止め、広場を見渡した。
レヴェリオは演台の脇で、端末から流れる報告を聞いている。
こちらに気づくと、声をかけた。
「戻ったんだね」
「二日後の話は聞いた」
セイジが答える。
「君たちが見つけたことも、その時に聞かせて」
ネビュロスは答えず、救護所へ入った。
セイジも続く。追ってくる足音はなかったが、入口に立つ兵士は二人の荷物と顔を見ていた。
エルザが二人を迎えた。
「右腕を見せて」
「先に、ライガの様子を」
「奥にいるわ。腕は歩きながらでも見られるでしょう」
ネビュロスは短く息を吐き、上着を緩めた。
セイジが荷物を預かる。その中には、途中まで照合した記録とネビュロスの魔導書もあった。
「生徒たちは?」
エルザが尋ねた。
「封印に変化はなかった。戻る前に確かめてきた」
ネビュロスは治療室へ入り、カプセルの中のライガを見た。
しばらく、その前から動かなかった。
「……顔を見られて、安心した」
ライガが目を開ける。
「戻ったんだな」
「ああ。君もね」
セイジはライガの顔を見てから、装置の表示へ目を移した。
「治療は続けろ。こちらの話は、出てからでいい」
ライガは何か言いかけたが、頷いて目を閉じた。
ヴェルミリオンの治療が一区切りつくと、エルザは窓側のカプセルを開けた。脚の動きを確かめてから、ポルクと二人で支え、壁際の寝台へ移す。
「右腕の治療を先に始めるわ。次が空いたら、あなたの処置も再開する」
エルザの説明にヴェルミリオンは頷き、いったん寝台で休むことにした。
エルザは、彼が出た窓側のカプセルを整え、ネビュロスを入れた。入口側のグリムと中央のライガは、そのまま治療を続けている。
「戻った早々、寝かされるとはねぇ」
隣の寝台から、ヴェルミリオンが声をかけた。
「君も、立って出迎えるつもりだったのか」
「そのつもりだったよ。止められたけれど」
ネビュロスはわずかに笑い、右腕を固定具へ預けた。
*
深夜、入口側のカプセルでグリムの集中治療が一区切りついた。
エルザが蓋を開ける。中央のライガと窓側のネビュロスは、まだ中で治療を受けていた。
エルザが先に上体を支え、ポルクが呼吸を確かめる。
グリムは眩しそうに目を細めた後、すぐに入口を見た。
「あの親父は」
「今夜は家へ帰ったわ。息子さんの名前は控えてある」
「……そうか」
「立つ前に、足を下ろして。めまいがしないか確かめる」
グリムは言われた通りに身体を起こした。
以前より息は深く吸えた。胸の痛みも弱まっている。だが、床へ足を下ろすと、脚に自分の重さがずしりとかかった。
ポルクが肩を支えた。
「それと、グリムさん」
「なんや」
「ライガさんが、帰ってきました」
グリムはポルクを見た。
聞き違いを確かめるように口を開き、それから隣のカプセルへ顔を向けた。
中から、ライガが見ていた。
「……お前」
グリムは立ちかけた。
エルザが腕を押さえるより早く、自分で腰を戻した。
「ポルク。椅子、あっちへ寄せてくれ」
移してもらった椅子に座り、ライガのカプセルへ近づく。
蓋越しに顔を見る。額の傷も、眠そうな目も、見間違えるはずがなかった。
「生きとったんか」
「ああ」
「……遅いわ」
「すまない」
グリムは首を横に振った。
「戻ったんやったら、ええ」
左手を蓋へ置く。
ライガも内側から、左手を同じ位置へ重ねた。
ポルクは二人の間に置こうとした記録用の端末を、いったん机へ戻した。
その間に、エルザはグリムが出た入口側のカプセルを整えた。ポルクと二人でヴェルミリオンを寝台から移し、中断していた処置を再開する。
「今度は、途中で出迎えに行かなくていいのかい」
「全員帰ってきたわ。あなたは治療に専念して」
蓋が閉まり、再び三基が動き始めた。
入口側にヴェルミリオン、中央にライガ、窓側にネビュロス。グリムだけが外の椅子に座り、ライガのそばにいた。
*
しばらくして、ライガが尋ねた。
「白炎のことを、聞かせてくれ」
グリムは椅子に座り直した。
ポルクが先ほどの記録を出す。セイジも机から顔を上げた。
「タワーで出た炎が、今は出ない。傷が治れば戻るのか、それも分からない」
「俺の炎を、もう一遍受けたらええと思っとるか」
ライガは少し考えた。
「それで戻るなら、頼むつもりだった」
グリムは蓋から手を離した。
「俺がお前に撃ったんは、お前を縛っとるもんを焼くためや。変身させるために、燃料を入れたんとちゃう」
アシュレイが、入口から入ってきた。
「俺も、あれで戻った。だが、白炎を出せるようにはなってねえ」
ライガは頷いた。
「俺の中に、別の条件があったんだな」
「そこまでは分からん。ただ、タワーでお前から出た炎は、俺のをそのまま借りとるようには見えんかった」
グリムは、自分の右手を見た。
「同じことをもう一遍やったら戻る、とは言えん」
ポルクはその言葉を書き留めた。
セイジが、記録の変身時刻を指す。
「この時、君は何をしようとしていた」
ライガは目を閉じた。
倒れた床の冷たさを思い出す。三魔王の攻撃を受けても立っていたカイ。次に腕を振り下ろされたら、もう誰も防げなかった。
「止めたかった。あいつを」
「殺すために?」
「違う」
答えはすぐに出た。
「戻ってきてほしかった」
セイジは頷いたが、記録に結論は書かなかった。
「今も同じ願いはある。それだけで再現できるとは限らないな。疲弊の影響も、まだ切り分けられない」
「せやから、今晩中に出そうとすんな」
グリムがライガへ言った。
「焦ってまた身体を壊したら、出るもんも出んようになる」
ライガは右手を握りかけ、開いた。
「分かった」
*
セイジは、昼の映像を再生した。
ライガの襟をつかんだ右手を、左手が止める。
レヴェリオは自分の腕を見ていた。
映像を止めると、治療室の全員が画面へ目を向けた。
「一つの身体で、違う動きがぶつかっている」
セイジが言った。
「カイの意識が残っていると仮定するなら、身体ごと倒して終わりにはできない」
窓側のカプセルで右腕の処置を受けているネビュロスが、通話口から答えた。
「分けて救う必要がある、ということだね」
「可能か」
「今の映像だけでは分からない。彼女がどうやってカイの身体を使っているのか、そこから確かめなければ」
アシュレイはグリムを見た。
「俺たちの時みたいに、白炎で切れねえのか」
「考えとる。けど、同じやとは言えん」
グリムは画面の顔を見た。
「お前らを縛っとった仕組みと違うて、あいつは自分で考えて動いとる。まとめて焼いたら、カイに何が起こるか分からん」
「それに、撃つ前に止められるよ」
入口側のカプセルから、ヴェルミリオンが通話口を通して言った。
「僕もネビュロスも、彼女と戦っている。こちらの準備が終わるまで待ってはくれない。一度近づいて殴れば済む相手ではないねぇ」
ライガは、画面に映る自分の身体を見た。
左手が止めたのは一瞬だった。その後は椅子ごと押し戻されている。
「白炎を使えても、当てるまでが問題になる」
「当ててからもや」
グリムが続けた。
「俺が一発撃って、それで分かれる保証はない。途中で止まったら、何が残るかも分からん」
ライガは、サングを外した手首を見た。
「神聖バーニングなら、白炎をまとったまま戦えた。攻撃されても、炎を保てた」
ポルクがタワーの記録へ戻す。
変身後の出力は、一撃で途切れていない。
「この状態を、もう一度作れれば……」
「試す土台にはなる。だが、分離できると決まったわけではない」
セイジが釘を刺した。
「まず彼女の仕組みを調べる。君は治療を受けて、白炎を使える状態を取り戻す。順番を飛ばすな」
ライガは全員を見た。
「戻せなかった時は」
「今ここで、お前抜きの勝ち方まで決めようとすんな」
グリムが遮った。
「俺らも治す。お前が変身できた時、そこまで連れていけるようにな」
ヴェルミリオンはカプセルの中からグリムへ目を向けた。
「そのためにも、今夜は休もうか。四人揃って立てないままでは、相談の続きもできない」
ネビュロスも頷いた。
「調べることは残っている。セイジ、魔導書と放送記録は机に。私の処置が終わったら、もう一度確かめよう」
「その前に、君も眠れ」
セイジは映像の再生を止めた。
エルザが、机の上のサングを手に取った。
「変身装置の方は、作り直したい」
ライガが顔を向ける。
「新しいものを?」
「ええ。この装置は、奪った魔族の力を使う仕組みにつながっていた。タワーでは白炎で動かせたけれど、その成功だけで、これからも使い続けていいとは思わない」
エルザはサングを机へ戻した。
「誰かから力を奪うための接続も、組織が使用者を縛る仕組みも、引き継がない。あなた自身の白炎を受けて、装甲を作る装置にする」
「明日までに、作れるのか」
「全部を最初から発明する時間はないわ。変身時の記録と、これまで装甲を調整してきた技術は使う。手元の部材でどこまで組めるか、今から確かめる」
エルザはまだ、完成すると言わなかった。
「ただし、装置ができても白炎は生まれない。それを使えるようにするのは、別の課題よ」
ライガは頷いた。
「分かった。新しいものを頼む」
ポルクが、保存した記録を確認した。
「必要なデータは回収できています。サング本体は、もう使わないんですね」
「ああ。通信には、別の端末を借りる」
ライガは机の上の装置を見た。
「ただ、処分は俺にやらせてくれ」
ポルクの手が止まった。
「タワーへ向かう時、みんなに言ったんだ。この戦いが終わったら、スーツは自分の手で壊すと」
入口にいたアシュレイが頷いた。
「覚えてる。俺たちも賛成した」
「まだ、戦いは終わっていない。だが、これを使い続けるのは終わりにする」
ライガはカプセルの外に座るグリムへ顔を向けた。
「俺を止めた時、お前は呪いを焼いてくれた。これを捨てられるところまで、戻してくれたんだ」
「せやな。お前は、戻ってきた」
グリムは、机の上のサングを見た。
「その前は、スーツごと因縁を焼き尽くしたると思っとった。お前を動かす、あの力が許せんかった」
「地下の隠れ家で、話してくれたわね」
エルザも覚えていた。
魔族の血が燃料にされていると知った夜。グリムが、奪われた炎について語った時のことを。
「けど、お前まで焼き尽くしてええわけやなかった」
グリムはライガへ視線を戻した。
「俺が焼いたんは、お前を縛っとったもんや。そこから先、何を使ってどう生きるかは、お前が決めることやろ」
「ああ。だから、今度は俺がやる」
エルザは治療の表示を確かめた。
「傷を確認するために、一度開けるわ。起き上がらず、左手だけで。済んだら治療を続ける」
中央の一基だけが止まり、蓋が開いた。
エルザが脇腹の処置箇所を確認する間に、ポルクはサングの電源を切り、机の上で外装を外した。
取り出した制御基板を浅い作業皿に固定し、小型の切断工具と一緒にライガの左手のそばへ置く。
「ここを切れば、この装置は使えなくなります」
ポルクが基板の中央を指した。
ライガは工具を左手で握り、刃をその位置へ当てた。
これを使って人を傷つけた。
壊しても、その事実はなくならない。
グリムが、そばで見ていた。
エルザもポルクも、手を出さなかった。
ライガが工具の柄を握る。
基板が割れ、配線ごと二つに切れた。
ライガは工具を皿へ戻した。
「残りも、使えないようにしてくれ」
「はい」
ポルクが皿を引き取った。
エルザはライガの左腕を中へ戻し、蓋を閉じる。治療が再開され、三基の表示が再び揃った。
「……次は、自分の力で立つ」
ライガが言った。
「一人で立つとは、言うなよ」
グリムが返した。
ライガは彼を見て、頷いた。
「言わない。新しい装置も、みんなに頼んだところだ」
エルザは新しい紙を広げた。
まず、白炎を受け入れる部分と、装甲を形成する部分を分けて描く。セイジが隣へ座り、記録の必要な箇所を表示した。
「目指すのは、タワーで変身した姿よ。旧型の装甲を経由せず、最初から白炎を使う形にする」
「神聖バーニングを、最初からか」
ライガが尋ねた。
「ええ。あの時は強化された姿だったけれど、新しい装置では、それを標準にする」
ライガは頷いた。
ただし、白炎が戻らなければ変身はできない。そこまで装置が代わってくれるわけではなかった。
エルザは設計図の上に「ゾーエ」と書いた。
「命を意味する言葉よ。この装置の名前にしたい」
ライガはその文字を見た。
「ゾーエ……」
「誰かの命を燃料にするためのものには、もうしない」
「それで頼む」
ライガの返事を聞いて、エルザは名前の下へ「変身ブレス」と書き添えた。
ゾーエ。まだ設計図にしかない装置だった。
「回復装置の監視は止められない。ポルク、交代しながら進めるわよ」
「はい。先に三人の数値を確認してきます」
ポルクは三基のカプセルを順に回り、表示と中の三人の様子を確かめた。
グリムはアシュレイに支えられて、ヴェルミリオンが使っていた壁際の寝台へ移った。
*
明け方、広場へ最初の荷車が入ってきた。
積まれていたのは、隣の地区から運ばれた書類箱だった。付き添いの男は荷台から降りると、レヴェリオへ深く頭を下げた。
「命令書を持ってきました。責任者は、その……所在が分からず」
「最後に見た場所を教えて」
レヴェリオは箱の蓋を開けた。
束の一番上にある命令書には、カイの名が記されていた。
運んできた男は、その名と彼女の顔を見比べた。
「カイ様。これは、あなたの――」
「その命令で、何人を連れていったの?」
男の言葉は途中で止まった。
レヴェリオは紙を返さず、答えを待った。
救護所の窓から、レクスがその様子を見ていた。
自分の書いた供述を手元へ引き寄せ、最後の一行を読み直す。
命令は、自分も出した。
だが、上から受け取った命令もあった。
両方を話さなければ、何が起きたのかは残らない。
治療室では、中央のカプセルでライガが眠っていた。窓側では、ネビュロスの右腕の処置が続いている。
入口側のカプセルでは、ヴェルミリオンが追加の治療を受けながら眠っていた。三基とも動いており、グリムは壁際の寝台で休んでいた。
机には、新しい変身装置の設計図と、使えるか調べるために並べた部材があった。まだ組み立てには入れていない。
ポルクは壁の日時を見て、記録に新しい日付を書いた。
公開断罪は、明日の正午になっていた。
(16話へ続く)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
帰ってきたライガと、ようやく目を覚ましたグリム。今度は無理に立ち上がる前に、仲間と話し、治療を受ける時間を置きました。
白炎を受けたことと、自分で白炎を使えることは同じではありません。グリムがすでに焼き払った呪いと、ライガが自分の手で終わらせると誓った装置。それぞれの決意を受けて、新たな変身ブレス「ゾーエ」の開発が始まります。
各地から断罪の記録が集まる中、治療と開発が並行して進み始めます。
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