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アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第4部:断罪と贖罪編

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76/100

第4部 第11話『忘れられる街』

【前回のあらすじ】

レヴェリオはリドラムの広場を封鎖し、過去の加害を問い始めた。グリムの治療が始まる一方、レクスは自分の責任を話すと答える。同じ頃、フロスティアではネビュロスの魔導書に異常な反応が現れていた。


※本作品の執筆にはAIを活用しています。


「君が命令した時、従わなかった者はいた?」


 レヴェリオは救護所の入口に立ち、椅子に座るレクスを見下ろしていた。

 レクスは、通りをふさぐ兵士たちへ目を向けた。帰りたいと訴える住民を前に、誰も持ち場を離れようとしない。


「……俺は、従うことを求めた」


「どうやって?」


「命令は正しいと信じていた。従わない相手の理由を聞く前に、間違っていると決めつけた」


 広場の住民がレクスを見た。撮影装置も、入口へ向けられている。


「カイに命じられたからかい?」


「それを理由に、自分の判断を正当化した。俺の責任だ」


 レヴェリオは頷いた。


「なら、命令した内容と、従った者の名前を話して」


「俺が命じたことは話す。だが、その名前を聞いて、また本人の話が終わる前に殺すのか」


「責任を認めると言いながら、仲間を守るんだね」


「生かして話を聞くことが、罪を許すことになるのか」


 救護所の中で、父親が足を止めた。エルザに案内されて入ってきたばかりだった。

 父親は演台にかかった毛布を一度だけ見て、奥の椅子へ歩いていった。


 レヴェリオはその背中を目で追ったが、呼び止めなかった。


「話を聞くためにも、記録が要る。君たちだけに任せておけない」


 レヴェリオは入口から離れ、撮影装置の前へ戻った。映像を確認してから、各地の受信者へ語りかける。


「ジャスティスフェイスの命令に関わった者は、リドラムへ来て。命令書と搬送記録を持ってきてほしい。命じた者も、従った者も、ここで話してもらう」


 通りを見張る兵士たちにも、その言葉は聞こえた。


「記録を捨てたり、人を隠したりしないで。来ない者は、私が捜す」


 広場から拍手が起きた。

 配給台を手伝っていた兵士の一人は、手を上げかけて止めた。自分も呼ばれている側だと気づいた顔だった。


 レヴェリオは演台の前へ戻った。店から品物を奪った兵士が、まだ膝をついている。


「運び込んだ倉庫の場所を、もう一度」


 兵士は震える指で通りの先を示した。

 レヴェリオは別の元兵士を呼び、その場所を書き取らせる。逃げ道を見張らせた者たちを、今度は取り調べの手伝いに使い始めていた。


 アシュレイが救護所の奥から戻り、レクスのそばにしゃがんだ。


「グリムは治療に入った。ポルクがついてる」


「そうか」


 レクスは、兵士が書きつける紙を見ていた。


「俺たちが話す間に、負傷者を休ませろ。住民を巻き込むな」


「お前も負傷者だろうが」


「ここにいる」


 レクスは椅子の肘掛けから手を離した。肩は痛み、立つだけの力も戻っていない。それでも、兵士だけを残して奥へ下がるつもりはなかった。


         *


 リドラムで断罪の放送が続いていた頃。


 ライガは、見知らぬ部屋の寝台で目を覚ました。


 身体を起こそうとして、右脇腹に痛みが走った。息を止め、寝台へ肘をつく。服の下には包帯が巻かれ、右手にも白い布が当てられていた。


「……ここは」


 窓の向こうに、白い建物が並んでいる。

 タワーの瓦礫も、リドラムに立ち上っていた煙も見えなかった。


 胸へ手を入れると、ドッグタグが指に触れた。

 あの少女から奪ったものだ。鎖を確かめ、服の内側へ戻す。


 最後に覚えているのは、コアを砕いた時の手応えだった。


 計画の停止を告げる音声。落ちてくる天井。

 その後、足元の床が裂けた。


 ライガは下の階へ落ちるはずだった。ところが、裂け目の下に見えたのは、タワーの床ではなかった。白い灯りの並ぶ通路だった。

 落下した瓦礫と一緒に、身体をその奥へ引き込まれた。


 思い出せるのは、そこまでだった。


「ポルク。聞こえるか」


 応答はない。仲間の名を続けて呼んでも、通信はつながらなかった。


 ライガは足を床に下ろした。両脚で体重を支えられるのを確かめ、壁に手をついて戸口まで歩く。

 机の上には水差しと空のコップがあり、椅子には埃まみれの上着が掛けられていた。


 上着を取ったところで、扉が開いた。


「ああ、起きたんですね」


 青い作業着を着た中年の男が、盆を手に立っていた。盆にはパンと、湯気の立つスープが載っている。


「まだ横になっていた方がいいですよ。運ばれてきた時は、ひどい怪我でしたから」


「誰が俺を?」


「保守員が西側の通路で見つけたそうです。治療はこちらで済ませました」


 男は盆を机へ置き、椅子を引いた。


「俺は何日、寝てた」


「その記録は診療所にあります。食べたら聞きに行きましょう」


 男は穏やかに答えたが、日数は言わなかった。


「ここはどこだ?」


「第六居住区です」


「何という街の?」


「詳しいことは、診療所で聞いてください」


「リドラムへ戻りたい。仲間がいるんだ」


 男の手が、椅子の背で止まった。


 すぐに笑顔へ戻ったが、ライガはその一瞬を見ていた。


「まずは食事を。帰り道のことは、それからです」


         *


 水と食事を取ると、少し身体が楽になった。


 ライガは男に付き添われて外へ出た。道路は掃除され、家々の壁にも焼け跡や亀裂はない。小さな広場では、住民が花壇に水をやっていた。


 ライガが立ち止まると、作業中の女性が顔を上げた。


「おはようございます。よい一日を」


「ああ……おはよう」


 女性は笑い、じょうろを傾け直した。


 ライガは男と並んで歩いた。脇腹はまだ痛んだが、一人でも歩けた。


「戦いは、ここまで来なかったのか」


「ここは安全です。食べる物も、住む場所もあります」


「そうか。それはよかった」


 男は頷いた。


 角を曲がると、道路の先に金属の門が見えた。左右を高い壁に挟まれ、門の上には白い灯りがついている。

 門の脇の案内板には、『定期補正まで あと一分』と表示されていた。意味は分からなかったが、その数字は少しずつ減っている。

 ライガは門を指さした。


「向こうが出口か?」


「診療所は反対です」


「俺を見つけた通路も、あっちなんだろう。場所だけでも見ておきたい」


 男はライガの袖をつかんだ。


「行かないでください」


 食事を運んできた時とは違う声だった。


「門に近づくと、戻されます」


「誰に?」


 男は答えず、道路脇の柱を見上げた。柱の先には、丸い装置が取りつけられている。


「……妹も、出ていこうとして」


 そこで口を閉じた。

 自分の言葉に驚いたように、唇を押さえる。


「妹さんがいるのか」


「いたんです。ここに。一緒に……」


 男はライガの袖を強く握った。


「忘れたくないんです」


 案内板の数字がゼロになった。


『定期補正を開始します』


 柱の装置から音声が流れ、続いて短い音が鳴った。通りに並ぶほかの柱でも、同時に白い灯りがついた。


 男の身体が硬くなった。ライガは男の肩をつかみ、顔を覗き込む。


「おい。どうした」


 男は目を見開いたまま動かない。

 道路の向こうでは、花壇の女性もじょうろを持った姿勢で止まっていた。傾いた注ぎ口から、水だけが流れ続けている。


 柱の白い灯りが消えた。


 男が一度まばたきをして、ライガの袖から手を離した。


「おはようございます。よい一日を」


 男は、初めて会った相手に向ける笑顔で言った。


「……何を言ってる。さっきまで、一緒に歩いてただろ」


「そうでしたか。すみません。何かお困りですか?」


「妹さんの話だ。門の向こうへ行ったんだろう」


「妹?」


 男は首を傾げた。


「私に妹はいませんよ」


 ライガは男の顔を見つめた。怖がって嘘をついているようには見えなかった。


 花壇の女性が、再びじょうろを動かし始める。足元には水たまりが広がっていたが、女性は気にせず、同じ花へ水を注いでいた。


 ライガは男の肩から手を離した。


「俺を看病してくれたことも、覚えてないのか」


「あなたを?」


 男は包帯に目を留めた。


「怪我をされているんですね。診療所なら、ご案内しますよ」


         *


 ライガは診療所へ向かいながら、男と柱から離れた。

 建物の角を曲がり、装置が見えなくなってから、声を落とす。


「さっき、妹さんを忘れたくないと言ったんだ」


「人違いではありませんか」


 男は困った顔をした。


 ライガはそれ以上、問い詰めなかった。男は本当に覚えていないようだった。

 さっきの音は、表示されていた時間に鳴った。次も同じことが起きるのなら、その前に何をされているのか確かめたかった。


 路地の壁には、薄い金属板がはめ込まれていた。上部の小さな灯りが点滅し、文字が表示されている。


『第六居住区 定期補正完了』


 ライガは足を止めた。


『対象住民 安定』


 その下に、一行だけ別の表示が現れた。


『未登録個体 一名』


 ライガが読み終えると、表示は消えた。


「どうかしましたか?」


「……いや」


 ライガは男と歩き続けた。

 壊された道路も、泣いている人も見当たらない。すれ違う住民は笑顔で挨拶する。

 だが、隣の男は妹のことを忘れていた。自分を助けたことさえ、覚えていない。


「案内、助かるよ」


 ライガが言うと、男は嬉しそうに頷いた。


「困っている人は、助けないと」


 それは、誰かに言わされている言葉なのか。

 それとも、記憶を消されても残っている、この男自身の気持ちなのか。


 ライガには分からなかった。ただ、見知らぬ自分へ食事を運んでくれた手を、覚えていた。


 出口を探すだけでは済まなくなった。


 まず、あの装置が何をしたのか確かめる。妹がどこへ行ったのかも。

 それから、仲間のいる場所へ帰る。


 ライガは服の上からドッグタグを握り、診療所の扉をくぐった。


 受付には誰もいなかった。男は壁際の椅子を示した。


「ここで待っていてください。職員を呼んできます」


 男が奥へ入ると、ライガは椅子に腰を下ろした。受付の台には書類箱があり、『移送票』と書かれた紙が何枚も積まれている。


 一番上の紙に、見覚えのある紋章があった。


 ジャスティスフェイス。


 その下に『再教育対象者』、移送元の欄には『リドラム』と記されていた。


 ライガは紙へ手を伸ばしかけ、止めた。

 自分が戦ってきた組織の書類が、なぜここにある。


 箱の隣には、茶色く変色した古い帳簿が開かれていた。そこには別の紋章が押されている。ライガには、どこの組織のものか分からなかった。

 ただ、帳簿の管理番号と新しい移送票の番号は、同じ並び方をしていた。どちらにも、受け入れ先は『第六居住区』とある。


 奥で足音がした。


 ライガは手を膝へ戻した。まだ書類には触れていない。

 リドラムから、ここへ人が送られている。それだけは読めた。


 戻ってきた男が、ライガの隣に座った。


「もうすぐ来ますよ」


 ライガは頷き、男の顔を見た。


「あなたも、誰かに連れてこられたのか?」


 男は答えようとして口を開いたが、そのまま黙った。

 少しして、不思議そうに首を傾げた。


「……いつから、ここにいたんでしょうね」


(12話へ続く)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


リドラムでは、レヴェリオが断罪を続けるための拠点を作り始めました。一方、ライガが目覚めた街には、争いの跡も、生活に困っている人の姿もありません。

けれど、その穏やかな暮らしの中で、失われているものがあります。


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