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アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第4部:断罪と贖罪編

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第4部 第10話『肯定の向こう側』

【前回のあらすじ】

リドラムの広場で、レヴェリオは兵士の処刑を各地へ放送した。息子の行方を聞くために待ってほしいという父親の願いも、レクスたちの制止も届かなかった。拍手が広がる中、別の住民が配給を手伝っていた元兵士を告発する。


※本作品の執筆にはAIを活用しています。


「うちの店に踏み込んだのは、あいつだ!」


 住民に指された元兵士が、手にしていた椀を落とした。


「俺は、品物を運べと言われただけで――」


「何も残さなかっただろうが!」


 兵士は言い返せず、配給台から離れた。背後の通りへ逃げようとした瞬間、レヴェリオがそちらへ指を向けた。

 紫の光が兵士の足元を打ち、石畳を砕いた。兵士は顔をかばい、その場に立ちすくんだ。


「まだ、話は終わっていないよ」


 レヴェリオは兵士に近づき、片腕を取った。その腕を背中へ捻り上げ、上半身を配給台に押しつける。台の上の椀が落ち、兵士の悲鳴に混じって割れた。


 演台のそばにいたレクスが、立ち上がろうとした。だが、起き上がる途中で膝が崩れた。

 アシュレイはグリムをポルクに任せ、レクスの脇へ腕を差し入れた。


「肩を貸す。つかまれ」


「兵士を……」


「分かってる。だが、その脚じゃ近づけねぇ」


 二人の見ている前で、レヴェリオが兵士の腕をさらに持ち上げた。


「誰の命令だったの? 品物はどこへ運んだ?」


「倉庫だ! 東の、倉庫に……!」


「一緒に運んだ者の名前も教えて」


 兵士は台に頬を押しつけられたまま、名前を挙げ始めた。周囲で聞いていた元兵士の一人が、住民の視線を避けるように俯いた。


         *


 レヴェリオが兵士を問い詰めている間に、アシュレイはレクスを救護所の入口まで連れていった。椅子へ座らせると、外からポルクもグリムを支えて戻ってきた。


 入口のすぐ内側には、ヴェルミリオンの寝台がある。彼は肘をつき、開いた戸口から広場を見ていた。


 エルザはポルクから通話中の端末を受け取り、入口の机に置いた。スピーカーからセイジの声が聞こえる。


『負傷者を奥へ移せ。広場に近すぎる』


「そうする。放送はまだ止められない。操作盤を壊されたわ」


『受信している街には、こちらからも連絡する』


 エルザは通話をつないだまま、ポルクへ振り向いた。


「カプセルは使える?」


「はい。一基だけですが、修理後の循環試験も終わりました」


「グリムを入れて」


「待てや」


 グリムが、ポルクの肩から腕を外そうとした。


「外でまだやっとるやろ。俺だけ寝とるわけには――」


「その身体で、もう一度止めに行ける?」


 エルザは、血のにじんだグリムの包帯を見た。


「今度は治療を最後まで受けて。次に戦えるようにするの」


 グリムは戸口の外を見た。演台には兵士の遺体が横たわり、その前では父親が息子の名前を書いた紙を握っていた。


「……あの親父、一人にすんなよ」


「私が声をかける」


 エルザの返事を聞いてから、グリムはポルクに体重を預けた。ポルクはアシュレイと二人で彼を支え、奥の治療室へ運んだ。


         *


「レヴェリオ」


 ヴェルミリオンが寝台から呼びかけた。


 声に気づいたレヴェリオは、兵士の腕をつかんだまま救護所へ顔を向けた。


「僕に、君の救いを見せたかったんだろう?」


「見てくれていたんだね」


「あの父親も、見ているよ」


 ヴェルミリオンは演台の前を指した。


「君に頼んだことは、かなえてもらえなかったようだけど」


「息子は私が捜す。あの人はもう、兵士に怯えて頼まなくていい」


「本人は、殺すなと言った」


「今はまだ、これでよかったと分からないだけだよ」


 ヴェルミリオンは、寝台の縁を握った。


「僕を屋敷に閉じ込めた男も、僕のためだと言っていたよ」


「私は君を閉じ込めない」


「相手が嫌がっても、自分の言うとおりにさせる。そこは変わらないね」


 レヴェリオの手に力が入り、押さえつけられた兵士が呻いた。


『君は、カイにも同じことをした』


 机の端末からセイジが言った。エルザが音量を上げると、その声は戸口を通して広場まで届いた。


『一つの正しい秩序があれば、誰も泣かずに済む。カイはタワーで、君からそう言われたと話した』


「……そうだよ」


『フロスティアで君は、カイが人の心まで管理したと責めた。だが、その考えを支えた君には、責任がないのか』


「私は、彼を一人にしたくなかった」


『だから、何をしても正しいと言ったのか』


「誰も彼の苦しみを理解しなかった。私は、ずっとそばにいた」


『カイが自分の間違いを認めた時にも、君は聞かなかった。その身体を奪った』


 レヴェリオは救護所を睨んだ。


「カイは私を必要としなくなった。でも、私は彼を見捨てなかった。彼が正しくあろうとしたことまで、間違いには――」


『君は正しい』


 レヴェリオだけに、別の声が聞こえた。


 端末のスピーカーからではない。頭の中で、誰かが自分に話しかけていた。


『君は正しい』


 リドラムの資料保管庫で聞いたのと、同じ声だった。あの時は閲覧を拒まれた直後に声が聞こえ、端末の画面が勝手に切り替わった。そして、雪原や凍った書架の光景が、彼女の視界へ流れ込んできた。


 だが、この声の主は、その光景にも映っていなかった。カイの記憶をたどっても見つからない。自分が誰かにこう言われた覚えもない。


 それなのに、言葉の続きを待ってしまった。


 繰り返す声に混じって、カイの名が聞こえた気がした。誰に何を告げようとしたのか、聞き取る前に声は途切れた。


 レヴェリオは兵士から手を離し、自分のこめかみを押さえた。


「……黙って」


 広場にいる者には、その声の正体も、彼女が誰へ言ったのかも分からなかった。兵士は自分が叱られたと思い、口を閉じた。


 頭の中の声が止んだ。


 レヴェリオは、兵士を殺した手を見下ろした。先ほど指を閉じた時、この声に命令されたわけではない。父親に止められても、自分で殺すと決めた。


 それでも、間違っていたとは言えなかった。


「カイが間違えたのは、人の心を消そうとしたことだよ」


 顔を上げ、救護所へ言い返した。


「私は、傷つけた者に責任を取らせる」


『君自身の責任を聞いている』


 セイジの問いには答えず、レヴェリオは配給台の兵士を見た。


「続きを話して」


 兵士は腕を抱えたまま頷いた。逃げようとはしなかった。


         *


 フロスティアの教室では、ネビュロスが魔導書を机に置いていた。


 表紙を巻く鎖が鳴り、縁に薄い霜が広がった。ネビュロスは左手で本を押さえた。


「どうした」


 セイジが通話のマイクを一時的に切り、隣を向いた。


「以前、名を呼ばれたと感じた時にも、似た反応があった」


「ここへ来るきっかけになった時か」


「ああ。あの時は、フロスティアから呼ばれたと思った。だが、誰かの姿を見たわけではない」


 ネビュロスは表紙の霜を指で拭った。拭いた場所に、再び白い霜が浮かんだ。


「私を呼んだ者の居場所ではなく、この村の封印に触れられたのを感じたのかもしれん」


「レヴェリオが触れたと?」


「そこまでは分からん。彼女だと思ったのも、あの時は推測だった」


 ネビュロスは魔導書を開き、封印の術式を確かめた。窓の外では、生徒たちを守る氷も、兵士を閉じ込めた氷も崩れていない。


「封印は保たれている。今の反応の原因は分からん」


「彼女が口を閉じた時と、ほぼ同時だった。関係があるかは、まだ分からないな」


 セイジは時刻を控え、マイクを戻した。


「エルザ。今の放送記録を残せ。彼女が黙った頃、こちらの魔導書に反応があった。後で時刻を照合する」


『分かった。映像は残す。封印は大丈夫なの?』


「今は異常ない。こちらでも確認を続ける」


 端末の向こうから、レヴェリオの声が聞こえた。


「君たちが持っている記録を、ここへ運んで」


         *


 レヴェリオは、配給台から兵士を引き離した。襟首をつかんで演台の前まで連れていき、その場に膝をつかせる。

 兵士は、すぐ上にある毛布を見て顔を背けた。その下には、先ほどまで生きていた仲間がいる。


 レヴェリオは救護所へ向き直った。


「連行された人の搬送記録と、指示を出した者の名簿。集めているんだよね」


「被害に遭った人の情報も入っているわ」


 入口に立つエルザが答えた。


「だから私が調べる。家族を捜して、関わった者に責任を取らせる」


「今度も、話の途中で殺すのか」


 椅子に座ったレクスが言った。


「さっきの父親は、まだ聞きたいことがあった」


「調べると言ったよ。君たちが記録を渡せば、すぐに始められる」


 レヴェリオは兵士に「そこで待って」と告げ、救護所へ近づいた。兵士は毛布のかかった遺体の前で、膝をついたまま動かなかった。

 エルザの前で足を止めると、レヴェリオは椅子のレクスを見下ろした。


「渡さないなら、君から聞く。カイの下で、何をしたの? 兵士たちに、何を命じた?」


「俺がしたことは話す」


 レクスは痛む肩を押さえ、顔を上げた。


「だが、家族を捜している人たちの情報まで、お前の裁きには使わせない」


 レヴェリオが、入口の脇にある無人の長椅子へ手を向けた。


 長椅子が横へ滑り、戸口をふさいだ。次に彼女が手を下ろすと、座面が折れ、脚が石の床へ食い込んだ。

 エルザはレクスの椅子を後ろへ引き、飛び散った木片を避けた。


 入口には、人が一人ずつ通れる隙間しか残らなかった。


「話が終わるまで、ここにいて」


 レヴェリオは広場にいる元兵士たちへ振り返った。


「通りを見張って。誰も広場から出さないで」


 兵士たちは、すぐには動かなかった。

 レヴェリオが一人の顔を見ると、その兵士は慌てて通りへ向かった。ほかの者も続き、広場から出ようとした住民の前に立った。


「どいてくれ。帰りたいだけなんだ」


 住民に頼まれても、兵士は退かなかった。


「……すみません」


 レクスには、その小さな声が聞こえた。

 今朝まで配給や瓦礫の片付けを手伝っていた兵士たちが、処刑されることを恐れ、また住民の行く手をふさいでいた。


         *


 救護所の奥で、ポルクがグリムの治療カプセルを起動した。


 グリムは中に横たわり、蓋越しにポルクを見た。


「外で何かあったら……」


「知らせます。でも、治療の途中では出しません」


 ポルクは計器を確認し、カプセルのそばに椅子を置いた。


「俺がここで見ています」


 グリムはしばらく天井を睨んでいたが、やがて目を閉じた。


 治療室の外では、アシュレイがヴェルミリオンの寝台を奥へ運ぶ準備をしていた。エルザは机の端末を取り、通話が続いていることを確かめて寝台の上へ置いた。それからアシュレイと二人で寝台を押した。

 レクスは入口の椅子に残った。レヴェリオに問われたことへ答えながら、広場の住民たちを見ていた。


 寝台を奥の壁際で止めると、エルザは端末を取り上げた。放送を受信した街から連絡が届き始めていた。


『今の処刑は、誰の命令だ』


『こちらにも来るのか』


 続けて、別の街から短い訴えが届いた。


『裁いてほしい者がいる』


 エルザは画面を見つめた。処刑を恐れる人だけでなく、自分の街でも同じことをしてほしいと望む人がいる。


 寝台を運び終えると、エルザは広場へ戻った。壊れた長椅子の脇を通り、演台の前にいる父親へ声をかける。


「中で座りませんか。息子さんの話も、聞かせてください」


 父親は握っていた紙を開いた。何度も握りしめたせいで、息子の名前に折り目がついていた。


「この名前も、あの人に渡すのか」


「勝手には渡さないわ」


 父親は紙を折り、胸のポケットへしまった。エルザに付き添われ、ゆっくりと救護所へ歩き始めた。


 その間も撮影装置は広場を映し続けていた。元兵士たちは通りをふさぎ、レヴェリオは入口に座るレクスへ次の質問をした。


「君が命令した時、従わなかった者はいた?」


(第11話へ続く)


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


被害者のためだと言いながら、本人の願いを聞かなくなったレヴェリオ。カイを支えた自分の責任にも、まだ答えられません。

グリムの治療が始まる一方で、広場では新たな命令に従う兵士たちの姿がありました。

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