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アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第4部:断罪と贖罪編

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第4部 第9話『誰のための断罪』

【前回のあらすじ】

ヴェルミリオンとアシュレイは、レクスの救援でリドラムへ帰還した。一方、フロスティアでは、十年前に村を襲った前身組織が既に存在しないと判明する。リドラムでは、帰らない息子を捜す父親が、連行に関わった兵士を見つけていた。そこへ追跡を続けていたレヴェリオが現れ、制止するレクスを地面へ押さえつける。兵士を宙に吊り上げた彼女は、人々の前で断罪を始めようとしていた。


※本作品の執筆にはAIを活用しています。


「降ろせ……!」


 レクスの指が、石畳を掻いた。

 宙に浮いた兵士の靴が、その先で揺れている。


 レヴェリオが手首を返すと、兵士の身体は広場の中央へ運ばれた。

 足が地面へ触れる。だが、逃げようとした腕も脚も、動かなかった。


「命令だったんです」


 兵士が、息を吸い込みながら言った。


「搬送しろと……それだけで、私は、その後は」


「家族の前で、人を殴って連れていった」


 レヴェリオは父親の顔を見た。


「違う?」


 頷き直そうとして、唇を噛んだ。


「……こいつだ。間違いない」


「なら、君がこれ以上怯える必要はない」


 レヴェリオは、男と兵士の間へ立った。


 その時、レクスの背を押す力がわずかに緩んだ。

 息が吸えた。


 彼は片脚を引きつけた。

 膝に痛みが走り、立ち上がれない。それでも、腕で身体を引きずった。


「その男を……殺させはしない」


 兵士の上着の裾を掴む。


 次の瞬間、レクスの腕が地面へ押し戻された。

 手の甲が石に打ちつけられ、指が開く。


「君も、同じことをしていたね」


 レヴェリオが見下ろしていた。


「罪を決めて、裁いて、命令だからと立ち去った」


「……ああ」


「その君が、なぜ止めるの?」


 レクスは血の滲む手を、もう一度伸ばした。


「同じことを……させたくないからだ」


「それで、この人の家族は戻った?」


 答えは出なかった。

 兵士の裾へ伸ばした指だけが、震えていた。


         *


「どけ、ポルク」


 救護所の奥で、寝台が軋んだ。


 グリムは両足を床へ下ろしていた。

 背後では、開いたカプセルの側板から配線が垂れていた。

 三人をタワーへ送り出すために限界まで回した装置は、冷却系が焼けていた。あれからポルクが部品を集め、ようやく一基だけ組み直せたところだった。


「循環試験が終われば、入れます。ここでまた傷を増やしたら――」


「外の奴は、その試験が終わるまで待ってくれるんか」


 ポルクの手が止まった。


 今は、横になっていられなかった。


「外にいるんでしょう? 今の身体で行ったら――」


「聞こえとる」


 立ち上がった途端、膝が折れた。

 ポルクが咄嗟に肩を入れる。二人で寝台の縁へぶつかった。


 グリムは息を詰め、床を睨んだ。


「……肩、貸せ」


「戦えませんよ」


「分かっとる。入口まででええ」


 ポルクは返事をせず、グリムの腕を自分の首へ回した。


 仕切りの向こうで、ヴェルミリオンが寝床から顔を向けた。

 傷を押さえる布の下に、赤い染みが広がっている。


「グリム……あれは」


「ああ」


「カイの身体だよ」


 ヴェルミリオンは、傷を押さえる指に力を込めた。


「僕らが止めたい相手と、傷つける身体は同じだ。……中にカイが残っているかも、まだ分からない」


「せやな」


 グリムは入口を見た。


「せやけど、それで目の前の奴を死なせるわけにもいかん」


 ポルクの肩を借り、歩き出した。

 アシュレイが振り返り、反対側から腕を取る。


「お前まで出てきて、どうすんだよ」


「お前も、ひどい顔やな」


「元からだ」


 いつもなら笑えた言葉だった。

 誰も笑わなかった。


         *


 広場の中央には、かつて命令を読み上げていた低い演台があった。

 側面の制御盤に、レヴェリオが掌を置く。


 兵士は、その前から動けなかった。


『管理者権限、確認』


 機械の声と共に、演台の撮影装置が起き上がった。

 タワーとは別系統で残った街の放送設備だった。エルザたちが電源を戻し、物資や行方不明者の情報を各地へ送り始めたばかりだった。


 救護所で、エルザの端末が鳴る。

 画面に表示された配信元を見て、彼女は顔を上げた。


「放送を使う気……?」


 端末から停止を送った。

 操作は受け付けられなかった。画面の隅に、カイの管理者認証が点灯している。


 エルザは端末を置き、演台へ走った。

 停止レバーまで、あと数歩。


 足元の石畳が沈んだ。

 踏み出しかけた靴が穴の縁で止まる。演台の脇にいたレヴェリオが、彼女を見ていた。


「そのまま見ていて」


 制御盤の金属蓋が、内側へ押し潰された。

 レバーごと。


 広場の壁面に、映像が浮かんだ。

 そこに立つ者と同じ顔が、人々を見下ろした。


「私はレヴェリオ」


 広場の拡声器から、声が重なった。


「この街で、人が連れ去られた。家族は行方も知らされず、待たされ続けた」


 各地の受信先を示す表示が、一つずつ灯った。


「その苦しみを、これ以上放置しない」


「待たんかい」


 救護所の入口から、声がした。


 レヴェリオが顔を向ける。

 グリムは柱へ肩を預けていた。


 彼が見ていたのは、彼女ではなかった。

 名前を書いた紙を落としたまま、立ち尽くしている父親だった。


「あんた。そいつに、まだ聞きたいことがあるんやろ」


 男の視線が、ゆっくり動いた。


「……お前は」


「俺のことはええ。息子、捜しとったんちゃうんか」


 男は兵士を見た。

 その喉が動いた。


「捜してる」


「ほな、言え。今、言わな間に合わん」


 男が一歩踏み出した。


「待ってくれ」


 レヴェリオへ、掌を向ける。


「こいつは許せない。許せるわけがない。だが、まだ……息子がどこにいるのか、聞いていない」


 レヴェリオの返答より先に、救護所の入口で端末が鳴った。

 ポルクが受ける。フロスティアのセイジからだった。


『映像を見ている。音を外へ出せ』


 ポルクは端末の音量を上げた。


『レヴェリオ。ネビュロスには待つと言ったな。この人の話も聞け』


 レヴェリオは、端末へ顔を向けた。


「待ったよ。君たちが何を返せるのか、見ようとした」


『なら――』


「その間にも、この人は待たされていた」


 父親へ視線を戻す。


「ネビュロスの封印は、彼が解かなければならない。でも、記録は私が調べる」


 レヴェリオは父親に答えた。


「ほかに関わった者も捜す。この人を恐れて、頼み続けなくていい」


「そういうことじゃない!」


 父親は、捕らえられた兵士へ手を伸ばした。


「こいつは息子が連れていかれた先を知ってるかもしれないんだ。まだ殺さないでくれ!」


 兵士が、必死に頷いた。


「話します。覚えていることは全部……だから」


「今になって?」


 レヴェリオの目が、兵士へ戻った。


「裁かれると分かるまで、この人を待たせていた」


『聞き出してからでも遅くはない』


 セイジの声を、彼女は遮った。


「また、その後でと言うんだね」


 兵士を見つめる目が、動かなくなった。


「ヴェルミリオンにも、私が何をできるのか、見せるべきだった。言葉だけでは、君たちは苦しい方へ戻ってしまう」


「俺の話をしてくれ!」


 父親が叫んだ。

 レヴェリオは、ようやく彼を見た。


「だから、これ以上待たせない」


 グリムが柱から身体を離した。


「お前、聞いとんのか。そいつを今、殺すな言うとるんや」


「聞いている」


「聞いてへん。自分の答えしか喋ってへんやろうが」


 アシュレイの腕を借り、一歩進んだ。


「俺も母ちゃんを殺された。やった奴らを焼き殺したいと思った。……せやから、あんたに許せなんぞ言えん」


 父親がグリムを見た。


「けどな。何を聞きたいかまで、こいつに決めさせんな」


 男は拳を握った。

 今度は、兵士の方へ歩こうとした。


 その前へ、レヴェリオが腕を伸ばした。


「下がっていて」


 男の足が止まった。

 見えない壁へ触れたように、身体が押し返される。


「すぐに終わるから」


         *


 レクスは石畳に膝をついたまま、演台へ手を伸ばした。レヴェリオに首をつかまれている兵士の脚を、両腕で抱える。


 引き離そうと、全身の重みをかけた。


 レヴェリオが、空いている手を横へ振った。


 見えない力がレクスの脇腹を打った。兵士の脚から腕が外れ、演台の脇へ投げ出される。

 

 肩を石畳に打ちつけた。口を開けても、すぐには息を吸えなかった。


「レクス!」


 アシュレイが駆け寄ろうとした。その隣で、グリムが拳を握る。

 

 指の間に炎が生まれた。だが、拳を固めるだけで傷が開き、包帯に血がにじんだ。

 炎は小さく揺れ、消えた。


 グリムは拳を下ろさず、演台へ踏み出した。


「やめろ……!」

 

 レヴェリオが、今度はグリムへ手のひらを向けた。


 両肩を上から押さえつけられ、グリムの膝が折れる。


 アシュレイが脇を抱えたが、支えきれず、一緒に膝をついた。


 ポルクも反対側から腕を取った。それでも、グリムの身体は起こせなかった。


「カイ!」


 石畳に倒れたまま、レクスが叫んだ。


 演台にいるのは、仲間だった男の身体だ。その顔を見上げ、もう一度呼びかける。


「聞こえるなら、止めろ! お前の手だ!」


 レヴェリオは兵士の首をつかんだまま、レクスへ目を向けた。


「今、動かしているのは私だよ」

 

 カイからの返事はなかった。


 聞こえていないのか。聞こえていても、応えられないのか。レクスには分からなかった。

 

 レヴェリオが兵士を持ち上げる。靴先が演台の縁をこすり、宙に浮いた。


「私は……命令に……」


「君に殴られた人には、それで何が変わるの?」


 兵士は、首をつかむ指を両手で引き剝がそうとした。


「死にたく、ない」


 父親が演台へ駆け寄った。


 しかし、目の前の空間に阻まれ、足が止まる。見えない壁を両手で押しても、レヴェリオには届かなかった。


「待て! 俺は、まだ息子の――」


 レヴェリオが、兵士の首を握りつぶした。

 骨の折れる音がした。


 兵士の手が垂れた。レヴェリオが指を放すと、その身体は演台に崩れ落ちた。

 

 父親は口を開けたまま、動かなくなった兵士を見つめた。

         *

 フロスティアの教室で、セイジは端末を握りしめていた。


 通話はつながっている。父親が兵士に呼びかける声も、返事がないことも、聞こえていた。

 

 隣のネビュロスが、窓の外へ目を向けた。


 生徒へ銃を向けた兵士は、今も氷の中にいる。レヴェリオは、その処罰を待つと言った。


「……私には待つと言い、あの父親には待たない」

 

 ネビュロスは左手で魔導書を押さえた。


「本人が何を望もうと、最後は自分が決めるのか」

         *


 リドラムの広場で、誰かが手を叩いた。

 

 「……やっとだ」


 人垣の後ろから、声が上がる。


「あいつらも、同じ目に遭うんだ」

 

 別の拍手が重なった。


 泣きながら手を叩く者がいた。周りを見回し、おずおずと加わる者もいた。

 

 父親だけは、兵士を見つめたままだった。


 グリムを押さえつけていた力が消えた。急に身体が傾き、アシュレイが抱え直す。

 

「……あの親父のとこ、連れてってくれ」


 アシュレイとポルクに支えられ、グリムは父親のそばまで歩いた。

 

 その足元に、息子の名前を書いた紙が落ちていた。

 

 拾おうと膝をついたが、傷ついた指ではつまめなかった。父親が屈み、自分で拾い上げた。


 「まだ、聞いてなかった」

 

 紙を見たまま、父親が言った。


 「どこへ連れていったのか。それだけでも……」

 

 グリムには、返す言葉がなかった。

 

 演台の脇では、レクスが縁に手をかけて身体を起こしていた。兵士へ手を伸ばし、息がないことを確かめる。

 兵士の目を閉じさせると、救護用の毛布を指さした。


「……それを、くれ」


 近くにいた者が、ためらいながら毛布を渡した。


 「そいつにかけるのかよ」

 

 人垣から声が飛んだ。


 レクスは答えず、兵士の顔まで毛布をかけた。


 撮影装置は、その様子も映し続けていた。脇の端末に、別の街からの接続を知らせる表示が増える。

 

 レヴェリオは撮影装置へ向き直った。


「傷つけられた者が、黙って耐える必要はない」


 拍手が強くなった。


「私は、訴えを聞く。誰に何をされたのか、話してほしい」


 父親が顔を上げた。


「俺は――」

「あいつもだ!」


 人垣から上がった声が、父親の言葉をかき消した。


 一人の住民が、配給台の脇にいる元兵士を指さしていた。


「うちの店に踏み込んだ。何もかも持っていったんだ!」


 指された兵士が後ずさる。隣にいた者たちが離れ、彼の周りだけが空いた。


 レヴェリオが演台を下り、兵士へ歩き出した。


 グリムは立ち上がろうとした。だが、膝に力が入らない。アシュレイの腕をつかんでも、身体を起こせなかった。

 

 隣では父親が、息子の名前を書いた紙を胸に押し当てていた。

 

 もう、レヴェリオを呼ぼうとはしなかった。


(第10話へ続く)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


救うために待つと言った者が、今度は救うために待たないと言う。父親が求めていたのは、そのどちらでもなく、自分の息子について聞く時間でした。


カイの身体へ呼びかけても、返事はありません。それでも、その手で起きたことは人々の前に残りました。


次回も、この広場から続きます。

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