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アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第4部:断罪と贖罪編

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第4部 第8話『消えた旗の下で』

【前回のあらすじ】

エセリアでレヴェリオに敗れたヴェルミリオンとアシュレイ。車を失った二人は、わずかな幻影と地形を使って拘束を逃れ、救援を求める報告を送った。しかし、負傷した二人の背後には、まだレヴェリオがいた。


※本作品の執筆にはAIを活用しています。


 端末に届いた返事を、アシュレイは二度読んだ。


『レクスだ。エセリア手前の分岐まで来ている。接近せず待機する。合流できる場所を知らせろ』


 現在地と、草地の先に見える小道を送る。

 それから、肩に回された腕を掴み直した。


「迎えが来た。あと少しだ」


「……それは、助かるね」


 ヴェルミリオンの声は、息に混じって消えた。


 小道へ辿り着く頃には、日が落ちかけていた。

 車から降りたレクスが駆け寄り、ヴェルミリオンを抱き取った。荷台へ寝かせ、膝をついたアシュレイも引き上げる。


「追手は」


「見えてねぇ。だが、まだ近くにいる」


 レクスは頷き、すぐ運転席へ戻った。


 車が走り出しても、アシュレイは後ろを見続けた。

 空いた片手で、ヴェルミリオンの傷口を押さえる。


「布を……替えた方がいい」


「分かってる。お前は喋んな」


 押さえている指が震えていた。

 もう、担いで走れる力は残っていなかった。


         *


 草地を見下ろす斜面に、レヴェリオは立っていた。


 救援車が小道を抜け、リドラムへ続く街道に入る。

 荷台には、二人の姿が見えていた。


 彼女は車へ向けかけた手を下ろした。


 ネビュロスは拒み、ヴェルミリオンは逃げた。

 言葉を尽くしても、身体を押さえても、彼らは自分の救いを受け取らなかった。


 ならば、先に見せなければならない。

 自分が何を終わらせられるのかを。


 帰ろうとするあの街で。

 彼らを庇う者たちも、一緒に見ている場所で。


 レヴェリオは斜面を下りた。

 街道の砂に、新しい車輪の跡が続いていた。


         *


 フロスティアの教室で、セイジが端末から顔を上げた。


「二人を回収した。レクスがリドラムへ運んでいる」


 ネビュロスの左手が、机の上で止まった。


「傷は」


「手当てが必要だ。詳しい報告は着いてからになる」


「……そうか」


 背もたれへ身体を預けようとして、右肩が痛んだ。

 固定した腕には、まだ力が入らない。


 窓の向こうには、氷に閉じ込められた村があった。

 助けに行くと言って立ち上がることも、この村を今すぐ動かすこともできない。


 セイジが机へ一枚の紙を置いた。

 広場にいる兵士の、装備と徽章を写したものだった。


「こちらも、照合結果が出た」


「名が分かったのか」


「いや。現在の兵籍にはない。この徽章は、前身組織のものだ」


 ネビュロスは紙へ目を落とした。

 十年前、教室の戸口に立っていた兵士の胸にも、同じ印があった。


「その部隊の記録は、どこにある」


「引き継がれた記録を探すしかない。組織そのものは、私の入隊より前に消滅している」


 ネビュロスが顔を上げた。


「消滅?」


「ああ。既に存在しない」


「カイは、科学者が前身組織を持っていたと言ったな」


「タワーで聞いた。それまでは、その科学者のことも知らなかった」


 セイジは椅子へ座った。


「私が教えられた沿革では、旧組織は活動を終え、技術と資料の一部が引き継がれた。それだけだ」


「活動を終えた、か」


 ネビュロスは、紙の端を押さえた。


「誰が終わらせた。なぜ滅んだ」


「知らない」


 セイジは目を逸らさなかった。


「必要だとも思わなかった。使える技術があるなら、その出所より性能を見ていた」


 窓を、風が叩いた。


 広場の兵士は、今も雑貨屋の男へ手を伸ばしている。

 子供たちは逃げる途中の姿勢のまま、凍っている。


 彼らを襲った組織は、もうない。

 この村では、襲撃の日がまだ終わっていなかった。


「確認できたことと、分からないことを分けて残せ」


 ネビュロスは言った。


「この兵士が誰なのかも、調べ続けてくれ」


「分かった」


 セイジが紙を引き寄せる。

 その下から、受け入れ準備の一覧が覗いた。


 毛布。食料。負傷者を診られる者。

 人の名前を書き込む欄は、空いたままだった。


         *


 夜になって、エルザから連絡が入った。


『二人は着きました。今、手当てを受けています。ヴェルミリオンさんも、問いかけには答えています』


「アシュレイは」


『自分より先に診てくれって、さっきまで言い張っていました』


 セイジが短く息を吐いた。

 ネビュロスも、机を握っていた手を緩めた。


 だが、エルザの声は明るくならなかった。


『フロスティアへの人手なんですが……すみません。まだ、出せません』


「二人が戻ったばかりだ。無理は言わん」


『それだけじゃないんです』


 通信の向こうで、怒鳴り声がした。

 遠くで何人もの声が重なっている。


『連行された人たちの名簿を照合しているんですが、まだ帰ってこないのかと、家族の方々が集まっていて……』


「搬送先は分かったのか」


 セイジが訊いた。


『途中の集積所までは追えても、その先で途切れている人がいます。施設を訪ねても、既に誰もいなかったり……』


 ネビュロスは、リトの名前を見た。

 同じ紙のすぐ下に、エナの名前がある。


 どこへ連れていった。

 いつ帰ってくる。


 その問いを、何年も答えのないまま抱えている者たちが、リドラムにはいる。


『救護所からも、今は人を減らせません。待っている方々を、そのままにして行くわけには……』


「こちらの名簿は送る。来られる者が決まるまで、解除は進めない」


 セイジが言った。


 ネビュロスは頷いた。


「ひとつ、追加してくれ」


「何だ」


「受け入れ先が遅れた場合も、この教室で休めるようにする。窓だけでなく、奥の部屋も使えるか調べたい」


「明朝、私が見る。君は腕を休めろ」


「見るだけなら、左手も要らん」


「物を動かすなと言っている」


 ネビュロスは口を閉じた。

 エルザが、通信の向こうで小さく息をつく。


『毛布は、確保した分を取り置きます』


「頼む」


 通信が切れた後、セイジは二枚の紙を別々に置いた。

 前身組織についての記録と、生徒たちを迎える準備の一覧。


 ネビュロスは、後の一枚を自分の方へ引き寄せた。


「奥の部屋は、机が倒れている。戸を開ける時は気をつけろ」


「先に言え」


「今、言った」


 筆先が紙を擦った。

 不揃いな字で、寝床の数が書き足された。


         *


 リドラムの救護所で、アシュレイは額の傷を縫われていた。


 隣の寝床では、ヴェルミリオンの肩から血のついた布が外されている。傷を洗われても、軽口ひとつ返らなかった。


 外で、男が怒鳴った。


「いたぞ! こいつだ!」


 アシュレイが顔を上げる。


「動かないで」


 手当てをしていた者に肩を押さえられた。

 布の仕切りの向こうを、レクスが通る。


「俺が行く。お前たちはそこにいろ」


         *


 広場では、毛布の束が地面へ落ちていた。


 運んでいた元兵士の襟を、一人の男が掴んでいる。

 男のもう片方の手には、折り目だらけの紙があった。連行された者の名前を書いた紙だった。


「俺の息子を覚えているか」


 兵士は答えなかった。


「こっちを見ろ。あの晩、俺を殴った顔だ。忘れるかよ」


 レクスが二人の間へ入った。


「手を離してくれ。話を聞く」


「お前らには何度も話した!」


 男が紙を突きつけた。


「名前を書けって言われたから書いた。待てって言われたから待った。なのに、連れていった奴がここで飯を食ってる!」


 周りにいた住民が足を止めた。

 作業をしていた兵士たちも、荷を下ろす。


 レクスは、襟を掴まれた兵士を見た。


「この人の息子を連行したのか」


「……はい」


 男の手が震えた。


「なら、どこにいる」


「私は集積所までしか……そこで、別の搬送班へ」


「どこの集積所だ」


 レクスが尋ねた。

 兵士は場所を答えかけたが、男の声が重なった。


「そこは捜した! もう誰もいなかった!」


 誰かが、兵士の腕を掴んだ。

 別の者が背後へ回る。


 レクスは兵士を自分の側へ引き寄せた。


「引き渡した相手を確かめる。まだ聞くことがある」


「また待てって言うのか」


 男の声が低くなった。


「この街に来て六年。好き勝手に連れていって、塔がなくなったら、もう知りませんか」


 レクスは口を開いた。

 その前に、広場の入口で悲鳴が上がった。


 人垣が割れていく。

 走って逃げる者も、立ち尽くす者もいた。


「……カイ」


 誰かが、その名を呼んだ。


 黒い長髪が、街灯の下を通った。

 カイの顔をした者が、まっすぐ歩いてくる。


 レクスの背中に、冷たいものが走った。


 帰還の報告をしたばかりだった。

 二人の傷も、まだ塞ぎ終わっていない。


「皆、下がれ」


 レクスは兵士を背後へ押した。


 レヴェリオの目が、その動きを捉えた。

 次に、男の手にある紙と、地面へ落ちた毛布を見た。


「その人が、君の家族を連れていったの?」


 男は答えなかった。

 相手の顔を見たまま、後ずさった。


「怯えなくていい。カイの命令を伝えに来たんじゃない」


 レヴェリオが、一歩近づく。


「話して。何をされたのか」


「近づくな」


 レクスが間に立った。


 レヴェリオの視線が戻る。


「さっきまで、聞いていた」


 声は静かだった。


「連れていったと、その人は認めた。家族は戻っていない。それでも、まだ待たせるんだね」


「殺せば帰ってくるわけではない」


「だから、何もされずにいられるの?」


 レクスは答えようとした。

 足元で、石畳が鳴った。


 両膝が地面へ叩きつけられる。


「ぐっ……!」


 手をついた石が割れた。

 立ち上がろうとしても、背中を押す力が緩まない。


 住民が悲鳴を上げ、後ろへ退いた。


 レヴェリオは、その間を通り抜けた。

 逃げようとした兵士の足が、地面から浮く。


「待て!」


 レクスが腕を伸ばした。

 指先は、兵士の靴に届かなかった。


 救護所の仕切りが開いた。

 額にまだ糸を残したアシュレイが、入口で足を止める。


 レヴェリオは、彼を見た。


「ヴェルミリオンにも、見ていてもらって」


 アシュレイの口から、声が出なかった。


「これから私が、何をするのか」


 兵士が宙で喉を鳴らした。

 男の手から、名前を書いた紙が落ちた。


 誰も拾えなかった。


(第9話へ続く)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ヴェルミリオンとアシュレイはリドラムへ帰り着きました。しかし、レヴェリオの追跡は終わっていませんでした。傷の手当ても終わらないうちに、今度は人々の暮らす広場で、その力が振るわれます。


フロスティアでは、前身組織が既に存在しないと分かりました。組織が消えても、凍った村も、帰らない家族も残されています。ネビュロスが目覚めた後の暮らしを準備する一方で、レヴェリオは人々の前で断罪を始めようとしています。


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