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アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第4部:断罪と贖罪編

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第4部 第7話『名前のある沈黙』

【前回のあらすじ】

エセリアで、ヴェルミリオンはアシュレイに自らの過去を語った。貴族の裏切りを契機に毒の力が覚醒し、街を滅ぼしたこと。その後、自ら恐怖を広め、「魔王」と呼ばれる役を受け入れたこと。そこへ現れたレヴェリオは彼を救おうとするが、拒絶されても力を引かない。未回復のヴェルミリオンは外殻を破られ、二人の退路も塞がれた。


※本作品の執筆にはAIを活用しています。


「今だ」


 紫の影が、柱の左へ走った。

 アシュレイは逆へ踏み込み、ヴェルミリオンを抱えて路地へ入る。


 直後、背後の柱が砕けた。


 幻影だけを狙った攻撃ではなかった。

 柱ごと足場を崩し、二人の逃げ口を潰していた。


「止まりなさい」


 降り注ぐ破片の向こうから、声が追ってきた。


「右だ!」


 ヴェルミリオンの声で、アシュレイが身を投げる。

 さっきまで立っていた石畳が、丸く陥没した。


 地面を削った力に、身体が触れるところだった。


「くそ……!」


 アシュレイは片膝をつき、ヴェルミリオンを抱え直した。

 路地の先へ走る。門へ戻る道は、もう使えない。


「建物の中へ。裏に、出口がある」


 扉の外れた家へ飛び込んだ。

 割れた食器を踏み越え、裏口へ向かう。


 先に、裏の壁が内側へ倒れた。


 アシュレイが足を止める。

 崩れた壁の向こうに、レヴェリオが立っていた。


「次は、避けられない」


 彼女が手を下ろした。

 瓦礫が床へ落ちる。


 通れる場所はあった。

 ただし、彼女の前を通らなければならなかった。


         *


 ヴェルミリオンは、アシュレイの肩から腕を外した。


「下がっていろ」


「立てもしねぇくせに」


「なら、倒れたら拾ってくれ」


 壁に手をつき、身体を起こす。

 レヴェリオは、逃げるための隙を与えなかった。

 指が動く。胸へ見えない力が食い込んだ。


 ヴェルミリオンの背が壁へ叩きつけられた。


「が……っ!」


 両足が浮く。

 腕を動かそうとしても、肩から押さえ込まれていた。


 アシュレイが飛び出しかける。

 その爪先の前へ、床板が突き立った。


「そこから動かないで」


 レヴェリオは、彼を見もしなかった。


「彼を連れていく。邪魔をするなら、君も拘束する」


「……誰の、許可で」


 ヴェルミリオンが喉から声を絞った。


「君は、自分を傷つける方へ戻ろうとしている」


「だから……押さえつけるのかい」


「今は、そうする必要がある」


 肩の傷が開いた。

 彼女はそれを見た。力は緩まなかった。


「君を追い詰めた者たちの罪を明らかにする。その間、君に自分を罰する真似はさせない」


 薄い紫が、ヴェルミリオンの指先に灯った。


 壁沿いに霧を広げれば、彼女の視界を塞げる。

 狭い室内だ。わずかな毒でも、吸わせる機会はある。


 アシュレイが、すぐ下にいた。

 彼には外殻も、身を守る魔力もない。


 掌から溢れかけた霧を、握り込んだ。


 あの夜は、そこで止めなかった。

 誰が吸おうと構わないと思った。


 レヴェリオの指が閉じる。

 肋骨が軋んだ。


 それでも、掌を開かなかった。


「……口を、閉じていろ」


 ヴェルミリオンはアシュレイに告げ、残った力を自分の顔の前へ集めた。

 ごく狭い範囲に、紫の霞が立つ。


 レヴェリオから、彼の輪郭が見えなくなった。

 彼女は距離を取らなかった。

 腕を振り、霞ごと壁を押し潰した。


 ヴェルミリオンの身体が、崩れた壁の外へ落ちる。


 圧力から逃れたのは、落ちる一瞬だけだった。


「掴まれ!」


 アシュレイが床を蹴った。

 瓦礫の上を滑り、ヴェルミリオンの上着を掴む。そのまま二人で外の斜面を転がり落ちた。


 上から石が降ってきた。

 アシュレイの額が切れた。顔を拭う暇もなく、相手を引き起こす。


 崩れた家の向こうに、門の側面が見えた。

 その外に、車があった。


         *


 助手席へヴェルミリオンを押し込み、アシュレイは運転席へ飛び乗った。

 扉を閉める前に、エンジンをかける。


 車が走り出した。


 背後で、金属が裂けた。

 後部が持ち上がり、窓に亀裂が走る。


「伏せろ!」


 アシュレイがハンドルを切った。

 掴まれた後部の部材が引き千切れ、車体が激しく跳ねた。


 背後の門に、レヴェリオが立っている。

 引き剥がされた金属が、彼女の脇へ落ちた。


 追ってくる。


 アシュレイはアクセルを踏み込んだ。

 車は進んだが、後輪の辺りから異音がした。長く走れる状態ではない。


 助手席で、ヴェルミリオンが息を詰めた。


「この先……曲がった所に、道の下へ抜ける水路がある」


「そこに隠れんのか」


「車を追わせる。僕らは、降りる」


 アシュレイは前方を見た。

 道は下り、崩れた石壁の陰へ曲がっている。そこを越えれば、門からは見えなくなる。


「動く車から、お前を放り出せねぇぞ」


「一度だけ、止めてくれ」


 ヴェルミリオンは上着を脱ぎかけ、肩の痛みで動きを止めた。

 アシュレイが片手で袖を引いた。


「何秒、誤魔化せる」


「……数えたくないね」


「十分だ。やれ」


 車が曲がり角へ入った。

 アシュレイはブレーキを踏み、車体を石壁の陰へ寄せる。


 ヴェルミリオンが上着を助手席へ残した。

 紫の光が一度だけ走る。

 座席に、頭を垂れた二人の姿が重なった。


 走る分身は作れない。

 窓越しに見える顔と肩だけを、座席に留めた。


 アシュレイが彼を抱えて降りる。

 ブレーキを解いた車を押し出すと、車輪が坂を転がり始めた。


 二人は道の縁から、水路へ身を滑らせた。


 冷たい泥が背中へ入った。

 アシュレイは息を殺し、ヴェルミリオンを暗い開口部へ引き込んだ。


 頭上を、足音が通った。


 次の瞬間、坂の下で轟音がした。


         *


 車の前輪が、地面へ沈んでいた。

 後輪だけが空回りしている。


 レヴェリオが歩み寄り、助手席の扉へ手を掛けた。

 扉は蝶番から外れた。


 座席の人影が、薄紫の粒になって消えた。


 残ったのは、血のついた上着だけだった。


 レヴェリオは振り返った。

 道の曲がり角を見た。


「……そこまでして、拒むんだね」


 車から手を離す。

 壊れた車体が落ち、ガラスが砕けた。


 彼女は、来た道を戻り始めた。


         *


 水路の天井から、砂が落ちた。


 アシュレイがヴェルミリオンの口元を見た。

 呼吸が荒い。自分の息も、うるさかった。


 上で、石を動かす音がする。

 続いて、何か大きなものが地面へ落ちた。


 捜している。


 アシュレイは端末の音を切り、画面を胸へ伏せた。

 今、ここで光を漏らすわけにはいかない。


 ヴェルミリオンが、暗がりの奥を指した。


 水路は道の下で曲がり、その先へ続いていた。

 立ち上がれる高さはない。


 アシュレイは片腕を相手の胸へ回し、泥の中を這った。

 止まれば、連れ戻される。


 曲がり角の向こうに、細い光が見えた。

 出口だ。


 アシュレイは相手を引きずった。

 膝が石に擦れた。構わず進み、草の生えた縁へ手を掛ける。


 ヴェルミリオンを外へ押し出した時、背後から鈍い衝撃が伝わってきた。

 入口の石が、引き剥がされる音だった。


 見つかった。


 アシュレイは水路を振り返らず、相手を抱えて窪地へ下りた。

 道からも、水路の入口からも見えない、低い草地へ。


         *


 空が赤くなり始めていた。



 アシュレイは草の陰へヴェルミリオンを横たえ、初めて端末を開いた。


 現在地。車両喪失。二人とも負傷。

 レヴェリオは近くにいる。接近せず、まず連絡を待ってほしい。


 短い報告を送り、すぐ画面を消した。


「……派手に、負けたね」


 ヴェルミリオンが呟いた。


「喋るな。まだ近くにいる」


 アシュレイは傷を押さえる布を当てた。

 額の血が目に入り、袖で拭う。


 ヴェルミリオンが、その赤い染みを見た。


「すまない」


「そりゃ、帰ってから聞く」


 布を結ぶ手が、一度止まった。


「さっき、建物ん中で毒を止めたよな」


 ヴェルミリオンは目を閉じた。


「君が、いたからね」


「俺をどかせばよかっただろ」


「どく前に……吸わせるかもしれなかった」


 声が途切れる。


 あの夜と同じように放てば、少なくとも、部屋を毒で満たすことはできた。

 それがレヴェリオに効くかは分からない。

 アシュレイを巻き込むことだけは、分かっていた。


「今度は、分かっていてやるところだった」


 アシュレイは、結び目を締めた。


「やらなかっただろ」


 ヴェルミリオンは返事をしなかった。

 過去が変わったわけではない。

 だが、隣の男は生きている。

 まだ、その息が聞こえる。


 遠くで、石の崩れる音がした。


 二人とも顔を上げた。

 アシュレイが肩を差し出す。


「歩けるか」


「……君の衣装まで、泥だらけだね」


「お前より安物だ。気にすんな」


 ヴェルミリオンは、その肩へ腕を回した。


 道へは戻らなかった。

 低い地形を辿り、互いの足音が聞こえる距離で進む。


 背後には、まだレヴェリオがいた。


(第8話へ続く)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


二人はレヴェリオを退けられず、車も失いました。僅かな幻影と地形を使って視線を外せても、追跡は続いています。


かつて「誰が巻き込まれても構わない」と毒を放ったヴェルミリオンは、今回は隣にいるアシュレイを巻き込まないため、毒を止めました。それで過去が清算されることはありませんが、同じ選択を繰り返さなかったことは、今ここに生きている相手へ繋がっています。


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