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アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第4部:断罪と贖罪編

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70/100

第4部 第5話『罪の記録、毒の記憶』

【前回のあらすじ】

フロスティアでレヴェリオと対峙したネビュロスとセイジ。二人を退けた彼女は、自らの判断で断罪を先送りし、粛清を命じた者たちを追って去った。傷を負ったネビュロスは、生徒たちの時間を動かすため、封印と向き合い始める。


※本作品の執筆にはAIを活用しています。


「その机は、窓際へ」


 セイジが持ち上げた机を、ネビュロスは左手で示した。


「そこは隙間風が入る」


「ミナは暗い所では本を目に近づけすぎる。窓の方を塞いでくれ」


 言ってから、ネビュロスは口を閉じた。


 ミナはまだ、氷の中にいる。


 セイジは机を窓際へ運び、壁から剥がれかけた板を調べた。


「釘が要るな」


「裏の物置にある。錆びていなければ」


「見てくる」


 戸口で一度、足を止める。


「リトの席は」


「前だ。外が見える席では、私の話を聞かん」


「分かった」


 それ以上は言わず、セイジは出ていった。


 夜が明けても、村の氷は変わらなかった。

 動くのは、この教室にいる二人だけだった。


 右腕を固定した布が、胸元で擦れる。ネビュロスは顔をしかめ、机に広げた紙へ左手を戻した。


 生徒の名前。

 凍らせた時にいた場所。

 傷の有無。近くにいる兵士。手にした武器の向き。


 一人を目覚めさせるためにも、確かめることがあった。


 リトの名の隣で、筆が止まった。


 ――姉ちゃんも、助けてくれる?


 ネビュロスは、エナの名前を同じ紙に書き加えた。

 解除の順番を決める欄には、何も書けなかった。


         *


 昼前、リドラムとの通信が繋がった。


『寝床と食料は相談できます。でも、診られる人を何人、いつ送れるかは、まだ……』


 エルザの声の向こうで、人を呼ぶ声がした。

 あちらでも、必要なものは足りていない。


「確約は要らない。必要なものを先に伝える」


 ネビュロスは紙を読み上げた。

 子供用の衣服。毛布。保存できる食料。それから、心を傷つけられた者を診られる人間。


『怪我の手当てだけでは足りないんですね』


「ああ。目覚めれば、終わるわけではない」


 エナの前では、両親が殺されたままだ。

 彼女の時間を動かしても、それより前には戻せない。


『受け入れる側にも、事情を説明しないといけません。フロスティアの名前だけでは……』


「私が村を凍らせたと伝えて構わない」


 通信の向こうが、静かになった。


「子供たちだけではない。住民も、襲った兵士もいる。封印は私の術だ。解除も、私が行う」


『……分かりました』


 セイジが端末へ手を伸ばした。


「名簿は途中だ。分かった分から送る。負傷者の情報は別にまとめる」


『お願いします。手伝える人が見つかったら、知らせます』


 通信が切れた。


 ネビュロスは、しばらく端末を見ていた。

 魔王が凍らせた村へ来いと頼んだのだ。どれだけの者が応じるか、分からない。


「来なければ、次を探す」


 セイジが言った。


「私が言う前に答えるな」


「顔に出ていた」


「……君も、ずいぶん遠慮がなくなった」


 セイジは返事をせず、記録の続きを開いた。


         *


 午後は、教室の外を回った。


 ネビュロスが一人ずつ名を告げ、セイジが位置を記録する。

 パンを焼いていた女。物置の修理を引き受けていた男。子供を背中に庇った母親。


 広場の入口で、セイジが立ち止まった。

 逃げる姿勢の男の足元に、布袋が落ちかけている。口から覗いていたのは、何冊もの本だった。


「彼も教師か」


「雑貨屋だ。教室で使えるものがあれば、取っておいてくれた」


 ネビュロスは氷越しに、男の顔を見た。


「私には、余り物だと言っていたがな」


 その隣には、兵士がいた。

 伸ばした手は、男の襟元へ届く寸前で止まっている。


 セイジは二人を別々に記録した。


「兵士の名前は」


「知らない」


「仮の番号を振る。身元不明として残す」


 端末を操作する音だけがした。


 ネビュロスは、兵士の腰の剣を見ていた。

 レヴェリオなら、この男を殺すことに迷わないだろう。

 昨日、自分が止めたものの続きを、ここで行うだけだ。


「解除するときは、武器を使わせない準備が要る」


 ネビュロスは言った。


「子供たちとは、離す」


「記録した」


「……彼の名も、調べてくれ」


 セイジは一度だけ目を上げ、頷いた。


 広場の奥には、エナがいた。


 ネビュロスは、その前で膝をついた。

 両親の姿が視界に入り、呼吸が浅くなる。


 リトを先に起こせば、姉を捜すだろう。

 エナを先に起こしても、弟の名前を呼んでくれるとは限らない。

 どちらからなら傷つけずに済むかと考えて、そんな順番はないのだと、ようやく認めた。


「ここも、記録するか」


 背後から、セイジが訊いた。


「ああ」


 ネビュロスは立ち上がった。


「ただし、子供たちに見せる資料とは分けろ。説明する時は、私がいる」


「分かった」


 今度は、黙ったまま掌を伸ばして終わらせない。


 ネビュロスはエナの名の横へ、左手で書き込んだ。


 ――弟、リト。互いの状況を確認すること。


 字はひどく歪んだ。

 それでも、読めた。


         *


 夕方、セイジは校舎の戸口に積もった雪を除けた。

 人が来ると決まったわけではない。それでも、入口を塞いでおく理由はなかった。


 教室では、ネビュロスがミナの本の続きを描いていた。

 星を結ぶ線が、途中で逸れる。


「その腕では無理だ。今日は休め」


「あと一本だ」


「さっきも聞いた」


 セイジが紙を押さえた。

 ネビュロスは彼を見て、それから筆を置いた。


「明日、続きを頼む」


「机を動かす方か」


「両方だ」


 窓の隙間は塞がった。

 名簿はまだ半分にも届かず、封印には触れられない。

 それでも教室には、二人分の作業の跡が残っていた。


 ネビュロスは凍った生徒たちへ向き直った。


「今日は、ここまでにする」


 返事はない。


「また明日だ」


 昔なら、騒がしい声が返ってきた言葉だった。


         *


 リドラム旧行政区の地下資料庫。


 レヴェリオが開いた記録には、既に結末が書かれていた。


 エセリア。

 風紀粛清が行われた、かつての歓楽街。


 彼女は粛清の報告から、その後の被害記録へと頁を送った。

 兵士たちの帰還報告はない。

 街は毒に覆われ、失われた。


 画面に残っているのは、生きた者の居場所ではなかった。


「……もう、死んでいる」


 処罰する相手を探していた指が止まる。


 続く記録では、ヴェルミリオンが街を滅ぼした魔王として扱われていた。

 粛清を受ける側だった者が、次の記録では惨劇を起こした者になっている。


 レヴェリオは、二つの記録を並べた。


 最初の暴力を取り除けば、その後は起きなかった。

 彼女には、それが明らかに思えた。

 なのに、後の記録だけを読めば、彼一人が怪物になる。


「君が、こうなった理由がある」


 指先が、画面の名に触れた。


 フロスティアで、ネビュロスは自分の言葉を受け取らなかった。

 彼は子供たちを守った。それでも、自分がしたことを消してほしくないと言った。


 ヴェルミリオンも、同じことを言うだろうか。


 レヴェリオは街の図面を開いた。

 粛清の行われた広場。そこへ集まる道。

 この記録が切り捨てたものを、現地で確かめる。


 彼に必要なものを、今度こそ見つけるために。


 画面を閉じる時も、街で死んだ者たちの人数が、隅に残っていた。


         *


 翌朝、エルザからヴェルミリオンへ連絡が入った。


 セイジの報告を受け、彼女は旧行政区の資料庫を調べていた。レヴェリオが命令の記録を追うなら、再び資料を使うかもしれない。

 そこには、カイの認証による新しい閲覧履歴が残っていた。


『最後に開かれていたのは、エセリアの記録と街の図面です』


「……そう」


 ヴェルミリオンは、短く答えた。


『向かったかどうかまでは、分かりません。でも、ネビュロスさんの次に、あなたの過去を調べているなら……』


「放ってはおけないね」


 通信を終えても、指は端末を握ったままだった。


 隣で名簿を束ねていたアシュレイが、顔を上げる。


「エセリアって、あの毒で滅んだ街か…以前記録でみた」


「有名だろう? 魔王の誕生には、ぴったりの舞台さ」


 いつもの調子で言った。

 アシュレイは笑わなかった。


「今は誰もいねぇんだろ。あいつは、そこで誰を裁く気だ」


「さあね。死んだ人間にまで判決を出すつもりかもしれない」


 ヴェルミリオンは立ち上がった。


「でも、僕が行けば、生きた当事者が一人増える」


「一人で行く気か」


「彼女が僕に用事なら、話は早い」


「ネビュロスたちがやられた相手だぞ」


「聞いているよ」


「だったら、勝手に話を早めるな」


 アシュレイは名簿を閉じた。

 その表紙を一度見下ろしてから、近くで作業する者へ声を掛ける。引き継ぐ場所と、まだ照合できていない名前を伝えた。


 ヴェルミリオンは、その様子を黙って見ていた。


「君も忙しいんじゃなかったかい」


「だから引き継いでんだろ」


「今の君を連れていっても、彼女と殴り合ってはもらえないよ」


「分かってる。連絡も運転もする。やべぇと思ったら引っ張って帰る」


「僕が帰りたくないと言ったら?」


「そん時は揉めるだろうな」


 ヴェルミリオンの口元が、わずかに動いた。


「ずいぶん頼もしい同行者だ」


「嫌味は道中で聞いてやる」


         *


 車両の手配と連絡を済ませ、二人はリドラムを出た。

 グリムたちには閲覧履歴と行き先を伝えた。接触を急がず、まずレヴェリオの所在を確かめる。


 アシュレイが運転する隣で、ヴェルミリオンは窓の外を見ていた。


 街が遠ざかり、人の姿が減っていく。


「お前、あそこで何があったか、全部はまだ話してねぇよな」


「君にはね」


 以前、仲間たちに語ったことはある。

 檻のことも、貴族のことも。自分を否定した者たちへ毒を放った夜のことも。


 あの時のアシュレイは、まだ敵だったから。


「聞きたいのかい」


「知らねぇまま、聞くわけにもいかねぇだろ」


「僕の話は、都合がいいかもしれないよ」


 ヴェルミリオンは窓へ顔を戻した。


「……街を出た時は、静かでいいと思ったんだ」


 車輪が、道の継ぎ目を踏んだ。


「笑う奴も、石を投げる奴もいない。僕を呼びつける声もない。ようやく黙った、って」


 アシュレイは前を向いたまま聞いていた。


「でも、声のする場所だけを毒で覆ったわけじゃない」


 その先は、言葉にならなかった。


 誰がどこにいたか。

 何人いたか。

 自分を見てもいなかった者が、どれだけいたか。


 知らない。

 あの夜、確かめなかった。


「……着いてからでいい」


 アシュレイが言った。


「ここで全部、話し終えなくてもよ」


 ヴェルミリオンは、返事の代わりに息を吐いた。


 やがて、道の先に街の輪郭が現れた。


 傾いた門。

 崩れた屋根。

 色の抜けた看板が、風に揺れていた。


 煙は上がっていない。

 門を通る人も、二人を見咎める番人もいない。


 アシュレイは車を止めた。


「ここから先は、歩いた方がよさそうだな」


 返事がない。

 隣を見ると、ヴェルミリオンが門を見つめていた。


「入口、あっちなのか」


「……いいや。ここで合っている」


 ヴェルミリオンは扉を開けた。


 足を地面につけた瞬間、風に揺れる看板が、短く軋んだ。

 昔、客を呼び込む声が響いていた方角だった。


 薄く笑おうとした唇が、うまく動かなかった。


(第6話へ続く)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ネビュロス編は、ここでひとまず一区切りです。

生徒たちはまだ氷の中にいますが、彼は目覚めた後の暮らしを考え、人の手を借り始めました。「また明日」と言った教室へ、これからも戻っていきます。


そして、追跡の先に浮かんだのはエセリア。

かつてヴェルミリオンが毒に沈め、今は誰も暮らしていない街です。そこへ向かうレヴェリオと、アシュレイを伴って戻るヴェルミリオン。次回から、この廃墟で彼の過去を掘り下げていきます。


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