↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンチジャスティス -魔王戦隊ダークトリニティ-  作者: DD22
第4部:断罪と贖罪編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/101

第4部 第4話『止めた時間の、その先へ』

【前回のあらすじ】

レヴェリオを追い、セイジとともに故郷フロスティアへ戻ったネビュロス。そこには十年前、襲撃と洗脳から生徒たちを守るため、禁術《時葬氷獄》で村ごと時間を止めた過去があった。兵士も住民も教え子さえも凍らせたその姿を、人々は恐れ、「氷の魔王」と呼んだ。


※本作品の執筆にはAIを活用しています。


 広場のエナに背を向け、ネビュロスは教室へ歩いた。

 入口を塞ぐ氷に掌を当てる。二人が通れるだけの隙間が開いた。


 リトは、まだ顔を上げていた。

 ミナは、焼けた本を胸に抱いていた。


 ネビュロスは少女の前に膝をつき、片眼鏡越しに封印を確かめた。

 自分の外套が、小さな肩を覆っている。


「……命は失われていない」


 セイジが隣に屈んだ。


「時間そのものを止めたのか」


「《時葬氷獄(クロノス・コキュートス)》だ。氷だけを砕けばいい、というものではない」


「では、触れずに調べる」


 端末を取り出したセイジの手が、不意に止まった。


「君たちは、また一緒に立つんだね」


 倒れた机の向こうに、人影があった。

 長い黒髪。カイの顔。

 その目だけが、二人を初めて見るもののように眺めていた。


 セイジが立ち上がった。


「レヴェリオ」


「タワーでもそうだった。傷ついて、勝てる力も残っていないのに」


 彼女はミナへ目を移した。


「ここにも、守りたいものがあるんだね」


 ネビュロスも立った。弟子と彼女の間に、半歩だけ身体を入れる。


「何をしに来た」


「記録を見た。書物の焼却も、子供への処置も。……誰も責任を問われないまま、片づけられていた」


 カイの手が、教室の外を指した。


「君を追い詰めた者たちを見つけ、裁く。そのために来た」


         *


 戸口の外に、銃を構えた兵士がいた。

 十年前、最後の氷壁を破って踏み込んできた男だった。

 銃口は今も、教室の奥へ向いている。


 レヴェリオは、その前で足を止めた。


「この者も、生きている」


「ああ」


「なら、まだ裁ける」


 彼女の指先に、細い紫の光が灯った。

 光は凍った兵士の胸元へ集まり、鋭い一点になる。


「待て」


 ネビュロスが手首を掴んだ。


 触れた瞬間、指の先が痺れた。

 タワーで叩き伏せられた時と同じ力が、その細い光の中にあった。


 レヴェリオは手を振り払わなかった。

 掴まれた手首を、不思議そうに見た。


「なぜ?」


「その一撃で、兵士の身体まで砕くつもりか」


「この者は、君の生徒へ銃を向けた。裁かれるべきだよ」


「見えている」


「許せるの?」


「許してなどいない」


 ネビュロスは兵士の顔を見た。

 引き金にかかった指。その向こうに、リトがいる。


 掴んだ手に力が入った。


「今でも、憎い」


 レヴェリオの表情が、わずかに和らいだ。


「そうだろう。君は間違っていない」


 慰めるような声だった。


「君を追い詰めた者たちが悪い。あの子たちを凍らせるしかなかったことも、君が魔王と呼ばれたことも。君が背負わなくていいものだ」


 ネビュロスは答えなかった。


 その言葉を聞きたかった夜が、なかったわけではない。

 教室を離れても、掌には弟子の体温が残った。誰かに正しかったと言われれば、それを握り締めていられたかもしれない。


「この者を裁いて、リトは姉と話せるようになるか」


 レヴェリオの目が、教室へ動いた。


「……その前に、奪った者へ報いを与えるべきだ」


「その前、か」


 ネビュロスは、静かに繰り返した。


「私も、そう考えてきた。正義を根絶やしにするまでは、あの子たちを目覚めさせられないと」


「危険を残して戻すわけにはいかない。君の判断は正しい」


「十年だ」


 声が低く落ちた。


「あの子たちの次の朝を、私は十年待たせた」


 レヴェリオの指先で、紫の光が揺れた。


「守るためだった」


「ああ。だが、守ったと言えば、それで私のすることが終わるわけではなかった」


 ネビュロスはリトを見た。


 姉ちゃんも、助けてくれる?


 少年が求めたものを、まだ返していない。


「敵を倒す。その後で、この子たちに向き合う。……私は、その順番にしていた」


「君まで自分を責めなくていい」


「君に、私を責めてほしいのではない」


 ネビュロスは彼女へ視線を戻した。


「この子たちのためにするべきことを、これ以上、後に回したくない」


         *


「カイも、悲しむ者をなくそうとしていた」


 レヴェリオが言った。


「けれど、最後には人の心ごと管理しようとした。私は、傷ついた者にそんなことはしない。傷つけた者に、報いを受けさせる」


 彼女は、掴まれていない方の手を見た。


「今は、私にもできる。誰かの中で、言葉を返すだけではなく」


 手を握る。

 それを確かめるように、ゆっくりと。


「自分で選んだ答えか」


「そうだよ」


「なら、私の答えも聞け」


 ネビュロスは手首を離した。

 兵士との間からは、退かなかった。


「私は、この子たちを目覚めさせるために動く。襲った者の罪も、凍らせた私の責任も、そのために調べ、残す。ここで殺して終わりにはしない」


「目覚めた子供たちが、君を責めるかもしれない」


 彼女は、穏やかなまま言った。


「守った君が、なぜそんな言葉まで聞かなければならない?」


「私が、あの子たちの先生だからだ」


 ネビュロスは答えた。


「質問を許して、答えが気に入らなければ黙らせる。そんな授業をした覚えはない」


 レヴェリオは、彼を見つめていた。


 その傍らへ、セイジが進み出た。


「私も、記録を調べる」


「君は、カイに利用された」


 レヴェリオの声には、確信があった。


「私は知っている。カイ自身が、そう認めていた」


「聞いていた。だが、私が出した指示も、切り捨てた人間も消えていない」


 セイジは端末を開いた。

 リドラムで集めた名前が、画面に並んだ。


「向こうが悪かった。それだけで終えれば、私はまた、この人たちを見なくて済む」


 レヴェリオの視線が、文字列を辿った。


「それでも君たちは、自分の傷を後にするんだね」


 セイジは少し黙った。


「傷つけられたことと、傷つけたことが、両方ある」


 レヴェリオは、二人の顔を順に見た。


「……だから、苦しみ続けるんだね」


 指先の光が伸びた。

 ネビュロスの肩越しに、凍った兵士の胸を指す。


「もう、その必要はない」


 彼女の手首を掴んでいたネビュロスの腕が、紫の圧に弾かれた。


「ネビュロス、下がれ! 魔力が集まっている!」


 セイジは生身のまま、端末を抱えて教室の内側へ退いた。

 レッドに変身できず、今の彼にできるのは、ネビュロスを支え、記録を守ることだけだった。


 ネビュロスの身体を蒼い魔力が覆う。

 氷晶の装甲が肩から背へ組み上がった。


 《魔導外殻(マギア・シェル)》。


 それを展開できるのは、魔王だけだ。

 ネビュロスは装甲の内側で魔導書を開く。


「《氷鎖・零結陣(グレイシャル・チェーン)》!」


 足元から走った鎖が、レヴェリオの腕を跳ね上げた。

 紫雷が空を裂く。教室の屋根を越え、遠くの雪を白く噴き上げた。


 セイジは端末を戸口の内側へ滑らせ、教室の陰へ退いた。

 生身の自分が前に出れば、ネビュロスの足手まといになる。

 その代わり、レヴェリオの動きを見極める。


「左だ! 避けろ!」


 レヴェリオの視線が動くより先に、ネビュロスが鎖を引く。


 彼女を、教室から離す。


 氷の道に靴底が細い跡を刻んだ。

 レヴェリオは腕に絡んだ鎖を見た。


「君を傷つけに来たのではないよ」


「ならば、その手を下ろせ」


「君が止めるからだ」


 鎖が、不自然に沈んだ。


 次の瞬間、ネビュロスの身体が前へ引き倒された。

 石畳に膝を打つ。鎖一本が、村の鐘楼ほどの重さになっていた。


 セイジが叫んだ。


「鎖を切れ! 重力が伝っている!」


 ネビュロスは即座に鎖を断ち切った。

 氷が石畳にめり込み、砕ける。


 セイジは攻撃には加わらない。

 教室の陰からレヴェリオの腕と足元を見て、次の動きを伝える。


「背後、足元だ!」


 魔導書の頁が翻った。


 彼女の背後で、二本目の鎖が跳ねた。

 足元を走らせておいた鎖だった。手首を巻き、掌を閉じさせる。


 銃口も、教室も、攻撃の先から外れた。


 レヴェリオの瞳が、わずかに動いた。


「……生身で、よく見ているね」


 セイジは答えず、端末を抱えたまま、さらに教室の奥へ退いた。

 前線に立つ力はなくても、記録を失わせるわけにはいかなかった。


 教室の床が軋んだ。

 セイジは端末を胸に抱え、倒れた机の陰へ身を投げた。


 机ごと、床へ叩きつけられる。

 肺から息が抜けた。端末は、腕の中に残っていた。


 レヴェリオが手を開く。紫の光が鎖を伝い、ネビュロスへ走った。


 切り離すより、速かった。


 右腕が跳ねた。

 紫雷が胸部の氷晶装甲を打ち砕いた。

 魔導書を取り落とす。衝撃に、声さえ出なかった。


 倒れながら、教室へ手を伸ばす。

 戸口に薄い氷壁が立った。


 それ以上、指が動かなかった。


 レヴェリオは、その壁を見た。

 次に、石畳へ頬をつけたネビュロスを見下ろした。


「自分を守ればよかったのに」


 教室の陰で、セイジが肘をついた。

 立とうとした背を、見えない重みが押し伏せた。


 彼女は、もうそちらを見ていなかった。


 ネビュロスは左手で地面を掻いた。

 弟子たちへの道を塞ぐには、あと半歩、身体を動かさなければならなかった。


 届かない。


 レヴェリオの靴が、その手の前で止まった。


「君は、あの子たちを目覚めさせられるんだね」


「……そのために、やるべきことがある」


「君がここで動けなくなれば、それも遅れる」


 彼女は屈み、落ちた魔導書を拾った。

 開いた頁を揃え、彼の左手の届く場所へ置く。


 ネビュロスは、彼女の手を睨んだ。

 いま自分を叩き伏せた、その手を。


「この者の裁きは、今は保留する」


 レヴェリオが言った。


「君が言ったことが、あの子たちに何を返せるのか。私が見届ける」


 ネビュロスは魔導書を掴んだ。


「君の……許しを、求めた覚えはない」


 レヴェリオは一瞬、黙った。

 それから、教室を見た。


「それでも、今日は待つよ。君たちが私を止めたからではない。私が、そう決めた」


 背にかかっていた重みが消え、セイジが激しく咳き込んだ。


 止めたのではなかった。

 彼女が、やめただけだった。


「命じた者たちの所在と記録を調べる。見つけたら、必ず裁く」


 レヴェリオは立ち上がった。


「君はもう、あの子たちのそばを離れなくていい」


 労わるように告げ、凍った広場へ歩いていく。

 自分が与えた傷よりも、彼らをここまで苦しめた者への怒りを胸に。


 ネビュロスは呼び止めようとした。

 口から漏れたのは、浅い息だけだった。


         *


 気配が遠ざかっても、しばらくは起き上がれなかった。


 先に膝を立てたセイジが、ネビュロスへ肩を貸した。

 数歩進んでは止まり、二人で教室の戸口まで戻る。


「私の支援では、彼女の動きを止められませんでした」


 セイジが呟いた。


 ネビュロスは答えず、差し出された布を右手に巻いた。

 指はまだ震えている。


 村の外では、彼女を遮る者がいない。


「街へ知らせてくれ。レヴェリオは、命令を出した者を追うつもりだ」


 セイジは拾い上げた端末で、エルザへ短い報告を送った。

 その間に、ネビュロスは左手で魔導書を開いた。


「休んでからでいい」


「読むだけだ。……今日はまだ、封印には触れない」


 セイジは彼の右手を見て、頷いた。

 隣に腰を下ろし、端末に新しい記録を開く。


「今すぐ解除できるのか」


「一度に解くわけにはいかない。外の兵士も動き出す。それに、エナたちの受けた処置は、時間を戻しただけでは消えない」


「停止を解くことと、暮らしを取り戻すことは別か」


「ああ。まず、生徒たちの封印を個別に解けるか調べる。街へ戻れば、受け入れ先と、処置の記録を探したい」


 セイジが項目を入力した。


「名簿はあるか」


「焼かれた」


 ネビュロスは、白紙を一枚取り出した。


「だが、覚えている」


 左手に持ち替えた筆が、ぎこちなく動いた。

 リト。ミナ。エナ。

 ほかの弟子たちの名も、一人ずつ書いた。


 数字の横に名前を足すのではなかった。

 名前から、始めた。


 セイジはそれを受け取り、最初の欄へ打ち込んだ。


 ネビュロスはミナの前に屈んだ。

 焼けた本から、布の栞が覗いている。


 続きを問われた頁を、まだ覚えていた。


 空いた紙に、星を一つ描く。

 次の星を置き、その下に名前を書いた。


 氷の中の少女は、まだ読めない。


 それでも、書き始めた。


(第5話へ続く)


ここまでお読みいただきありがとうございます。


ネビュロスの前に現れたのは、彼を責める言葉ではなく、「君は間違っていない」という肯定でした。その言葉に救われることもあるはずです。それでも彼は、先生として残してきた仕事へ戻ることを選びました。


カイの身体を得て、自分の答えを選び始めたレヴェリオ。二人の抵抗を力で退けたうえで、レヴェリオは「自分が裁きを保留する」と決めます。命じた者を探し出す意思は変わっていません。


まだ氷は解けていません。書き始めた星の頁が、いつかミナの手へ届くのか。見守っていただければ嬉しいです。


評価・ブックマーク・感想も、執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。