第5部 第14話『九人で、その先へ』
【前回のあらすじ】
九人はエルゴスの第二形態を破り、六区の解放を迫った。だがエルゴスはノクタリア全土を指定し、自らをデジタル・エデンの器とする。巨人の胸にリドラムの広場が取り込まれ、地上からは町の灯が次々に消えていった。
※本作品の執筆にはAIを活用しています。
*
ズズンッ……!
六区の門を叩く音が、重い地鳴りとなって谷底に響き渡る。エルゴスの巨大な指が、山を丸ごと削り取るように迫っていた。一本、また一本。空が黒く塗り潰されていく。
「開かせるで! あの手首や!」
グリムの咆哮を合図に、九人の反撃が始まった。
「凍滅零界!」
ネビュロスが放つ蒼い冷気が、荒れ狂う川を一瞬で絶対零度の氷河へと変えた。跳ね上がった氷柱が巨人の手首を岩壁に挟み込む。
「万華鏡の終焉!」
すかさずヴェルミリオンが指を鳴らすと、氷の表面に無数の紫色の鏡面が展開された。一斉に放たれた幻影刃が、手首の内側――黒い筋の走る一点へと集中砲火を浴びせる。
「焔魔王連撃・不知火!!」
「真紅の白炎!!」
グリムの黒炎を纏った連打と、ライガの右腕から放たれた白炎の奔流が、同じ黒い筋へ叩き込まれた。鏡の刃が捉えた一点に、二色の炎が爆炎を巻き起こす。
「聖翼断光!」
炎の隙間を縫うように、カイが光剣を構えて突撃。さらにアシュレイの旋棍によるブーストを受けたセイジが、空中から独楽のように回転しながら落下する。
「双流螺旋断!!」
蒼い螺旋の双剣が、一点集中で敵の手首へ打ち込まれた。
「こんだけまとめて返すのは、俺も初めてだぞ……!」
レクスの盾が、手首を回り込んできた火と光をすべて受け止めた。護光剣の二枚刃を盾の中央へ噛ませる。盾を鍔にして振り下ろした剣から、山の端まで届く黄金の刃が立った。
「終極裁断!!」
巨人の掌へ黄金の刃が落ちる。その懐へ、アシュレイが飛び込んだ。左の旋棍を掌に突き当て、噴射で身体を一回転。振り抜いた右の旋棍で左の杭の尻を叩く。
「獄炎撃滅杭ッ!!」
二本ぶんの爆炎が杭の先へ通った。金の斬撃と橙の火柱が交わったその真上から、レヴェリオが黒雷槍を振り下ろした。
「黒雷墜星!!」
ドゴォォォォォンッ!!
九人の全力を結集したコンビネーション。特大の爆炎が谷を真昼のように照らし出した。完璧な連携。過去最大の破壊力。誰もが手応えを感じていた。
だが――煙が晴れた直後、絶望が谷を覆った。
エルゴスの手は、微塵も止まっていなかった。
黒い筋には、傷一つ、煤一つの跡さえない。ごく当たり前のように五本目の指が閉じられ、空は完全に遮断された。虫けらの足掻きなど気にも留めなかったかのように。
*
「グリムさん、いったん退いてください! ……エルザさん、五機を出します!」
ポルクの悲痛な声が通信機に響く。管制車のモニターでは、海沿いの集落がノイズに塗れ、次々と「白紙」へ還元されていた。
「お願い、みんなを拾って!」
エルザの声にポルクが発進レバーを押し込む。
『システム・オールグリーン。ジャスティスマシーン、発進!』
リドラムの格納庫のゲートが開き、半年かけて修復した五つの白い鋼鉄の巨兵がカタパルトから射出された。
轟音を立てて着陸した盾機が、崩落する道ごと管制車と九人を掬い上げる。五機が採石場の棚に降り、盾機が皆を下ろした。
「えらい男前に戻ったな、お前」
グリムが拳機を見上げる。かつて魔王仕様の禍々しい装甲を纏っていた機体は、本来の白銀の輝きを取り戻していた。
「修復のとき、魔王仕様の装甲は外したわ。本来の五人で動かせる。乗って!」
エルザの叫びに呼応し、パイロットたちがコクピットへ飛び込む。
暗いコクピット内に次々と火が灯り、メインモニターが起動する。
『システム起動。生体リンク、正常』
「半年前は外で、お前の搭乗口が閉じるのを見てた。……今日は俺も行けるぞ、カイ」
レクスが操縦桿を握り込む。アシュレイ機が油圧の駆動音を響かせてシャドーボクシングを見せた。
「グリムの奴、こんないい拳で殴ってやがったのか。たまんねえな!」
セイジの双剣機が、地を滑るように旋回してみせる。
「半年前の映像で見たより、切り返しが速い。……いい調整だ」
五つの席に、五人の息遣いが揃う。
上空から戦況を見下ろすカイが叫んだ。
「レクスは左から敵を引きつけろ! アシュレイは盾の陰からその手を叩け! セイジとライガは両側から走れ。合図で一気に抜けるぞ!」
五機のジャスティスマシーンが、地響きを鳴らして巨人に突撃する。囮となったレクスの盾に巨人の意識が向いた瞬間、アシュレイ機の拳が死角から指の関節を打ち据えた。わずかに浮いた隙間を、セイジ機とライガ機が限界駆動のブーストで駆け抜ける。
「今だ! 全機、合体ッ!」
「「「「正義合体ッ!!」」」」
カイの号令にライガたち四人が応え、五機が一斉に宙へ舞う。
先頭の双剣機がガシャンと左右に分離し、堅牢な両脚部を形成。その上部へライガの胴体機がスライドしながらドッキングし、ロックボルトが火花を散らして固定される。
右からアシュレイ機が変形して右腕となり、左からはレクス機が堅牢な盾を構えた左腕として合体。
「揃ったぞ!」
背後からカイの白翼機が合流。背骨のジョイントにガコンッ! と重厚な音を立てて接続されると、背中に巨大な白い翼が展開された。
最後に胸部の装甲が左右に開き、真紅のエンブレムがせり上がる。バイザーが発光し、白銀のフェイスが巨人を睨み据えた。
「「「「「ジャスティスガーディアン!!」」」」」
「さっきの借りを返すぜ!」
アシュレイの咆哮と共に、右腕のタービンが猛回転する。放たれた右ストレートが、エルゴスの親指の付け根に深々とめり込み、装甲を陥没させた。
「護盾昇撃ッ! ライガ、胸が空いたぞ!」
レクスが盾で巨人の腕を弾き上げる。その一瞬の隙に、ライガが両脚のホルスターから巨大な双剣を抜き放ち、合体させた。
「白翼天断!!」
背中の白翼から莫大なエネルギーが噴出。振り抜かれた刃が、広場を避けてエルゴスの肩から脇腹へ強烈な斜めの一撃を刻み込む。特大の火花が吹き上がり、無敵の巨人が初めてその膝を地に折った。
*
だが、巨人は倒れない。
傷口から滴り落ちた黒い血液が川面に触れた瞬間、それはおぞましい肉塊へと膨張し、巨大な怪獣の姿へ変異した。背から伸びる六本の長い腕には、それぞれ鋭い鉤爪。胸の複眼の下には、短い両腕が一対あった。
『お前に預ける。その剣が二度と私に届かぬように』
無機質な声を残し、エルゴス本体は背を向けた。両手を大地へ差し入れると、街道を走るエデン化の光がふたたび勢いを増した。
それを追おうとしたガーディアンの前に、分身巨獣が立ちはだかった。巨獣が短い両腕で「パンッ」と柏手を打つ。
――瞬間、視界が歪んだ。
ガーディアンの両足が川原を離れ、横向きに落ちた。落ちた先で巨獣の六本の腕が、四方八方から機体を拘束した。
「こいつ、重力を横に……! レクス!」
「こいつでも抱いてろ!」
シールドをねじ込むが、圧倒的な質量とパワーで装甲が軋む。ピィィィン! とコクピットに危険を知らせるアラートが鳴り響き、計器から火花が吹き飛んだ。
そのまま遥か上空へと持ち上げられたガーディアンは、巨獣が再び手を打った途端、真っ逆さまに川底へと叩きつけられた。
ズドォォォォォンッ!!
凄まじい水柱が上がり、メインモニターがノイズに塗れる。
「ぐあぁぁッ!」
「機体ダメージ30%! まだ来るぞ!」
泥水の中から起き上がろうとするガーディアンへ、巨獣の六本の爪が容赦なく襲い掛かる。一本斬り落としても、残る五本が次々と関節を押さえ込み、機体がミシミシと悲鳴を上げた。
完全に押さえ込まれ、巨獣の複眼が不気味な光を放ったその時。
ズドンッ!!
巨獣の胸板に、漆黒の雷を纏った槍が突き刺さった。鉤爪が開く。
採石場でレヴェリオが翼を広げた。投げた槍の上に黒紫の輪が開き、銀に縁取られた黒翼がせり出した。細身の人型機が川原に降り立つ。その胸から伸びた光へ、レヴェリオは自分で踏み込んだ。
黒い両腕がガーディアンを川底から抱き起こした。白翼の付け根はまだ水の中だった。
「カイ。飛ぼう」
白翼がひと打ちして川面を割った。二機が飛び立ったあとを五本の鉤爪が薙ぐ。爪がつかんだのは、翼から落ちた水だけだった。
「みんな、背中は私に預けて」
「任せた、レヴェリオ!」
ライガが盾を引き、機体を空で返した。カイが白翼を高く上げる。その下へレヴェリオ機が頭から滑り込み、腕を胸に、両脚を腰に折り畳んだ。黒翼を閉じた六機目が、丸ごとガーディアンの背へ収まる。二つの操縦席に、背中合わせに座ったような震動が届いた。
「ライジング合体ッ!!」
レヴェリオが操縦桿を開いた。白い翼の下から、ひとまわり長い黒翼が左右へ走った。川に映った一対の翼の影が、初めて四枚に分かれる。銀の顔が敵を向き、右手を伸ばした。呼び戻された黒雷槍が、音を立ててその手に収まった。
「「「「「「ライジング・ジャスティスガーディアン!!」」」」」」
ぱん、と巨獣が手を打った。またも白い巨体が胸元の鉤爪へ引き寄せられる。今度は、レヴェリオが水面すれすれで黒翼を立てた。横へ落ちていた機体が直角に跳ね上がる。そこへカイの白翼が加速を乗せた。巨獣が爪を閉じたときには、ガーディアンの膝が真下からその顎を打ち抜いていた。
巨獣が顔から川へ倒れ込む。セイジが背に降りて五本の腕の付け根を両足で踏み押さえ、アシュレイが黒雷槍で、柏手を打つ短い両腕を地面へ縫い留めた。
「槍は預けて。みんな、今だよ!」
レヴェリオの声で、ガーディアンは巨獣の背を蹴った。正面へ着地し、両腰の双剣を抜き放つ。二振りの刃が噛み合い、赤い留め金が閉じた。
「中央が開く。踏み込みは任せてくれ!」
セイジが川底を蹴る。巨獣が五本の鉤爪で胸を覆ったところへ、レクスが盾をねじ込んだ。
「こじ開けたぞ! アシュレイ、持ってけ!」
「おう! こいつが俺たち六人の、とっておきだ!」
大剣が白銀の頭上に立った。黒翼を伝った紫電が、切っ先まで走る。
「全翼、全開! ライガ、決めろ!」
カイが白翼を開ききった。ライガの白炎が刀身を包み、白炎と紫電の刃が天を衝くほどの長さにまで伸びていく。
「行くぞ、みんな! 必殺ッ!!」
「「「「「「六翼一閃ッ!!」」」」」」
白黒の閃光が、巨獣を頭頂から真っ二つに両断した。ズッ……とずれる巨獣の身体。
ライジング・ジャスティスガーディアンが剣を振り抜き、ゆっくりと背を向けて立ち上がる。その背後で、巨獣の内部から白炎と紫電が噴出し――川の水を金色に染め上げるほどの大爆発を引き起こした。
*
爆発の閃光の中、エルザは足元を見て息を呑んだ。
管制車の床が……ポルクの足が、サラサラと無機質な白い文字列へと変換され、空中に溶けていく。
「ポルク!?」
グリムが運転席の扉をもぎ取り、エルザを車外へ引き上げた。反対側からヴェルミリオンがポルクを引きずり出した瞬間、管制車は完全にデータの海へと還元され、消滅した。
採石場の足場が次々とブロックノイズのように崩壊していく。
ネビュロスが氷の橋を架けた。対岸まで届いた橋のたもとに両手をつき、崩れゆく岸を支える。エルザが先に渡り、ポルクを背負ったグリムが続いた。
その背後にエルゴスの巨大な指が静かに迫っていた。まるでチェスの駒を退けるような、感情の一切ない動き。ヴェルミリオンが川面にもう一本の橋を映す。巨大な指が幻を掬った。その間にグリムが本物の橋を走った。
「グリム! こっちよ!」
エルザが向こう岸から手を伸ばす。
氷の橋に触れていたネビュロスの身体が青い文字になり、それを支えようとしたヴェルミリオンの身体にも同じ現象が広がっていく。
「行けぇっ!!」
グリムがポルクをエルザの腕へ放り投げた。二人がもつれて対岸に倒れたのを見届け、グリムは橋を引き返した。
ズドォォンッ!
ライジング・ジャスティスガーディアンが大地を揺らして着地した。ライガは剣を手放し、盾を外した左手を三人へ差し出した。
「乗れっ!」
グリムが、崩れゆくネビュロスとヴェルミリオンに腕を回し、最後の力でガーディアンの指先へ飛びついた。
――掴んだ。
巨大な鋼の指が、確かにグリムたちを包み込んだ。
だが、ライガのモニターには、装甲の隙間からサラサラと零れ落ちる赤い文字が映っていた。エルゴスの胸で赤い光が一度だけ明滅する。
閉じたはずの巨大な掌を開くと、そこにはもう誰もいなかった。
「グリムゥゥゥゥッ!!」
(第15話・最終話へ続く)
【後書き】
第14話をお読みいただき、ありがとうございます。
9人の連携にジャスティスガーディアンの活躍、そして最後3魔王はエデン化してしまいこのあとどうなるか?
長く続けた本作品は次回で最終話になります。
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