第12話:魔導具が救った命――否定派の学者が沈黙した日
学会壇上での発表から一夜明け、俺は控え室で一息ついていた。
会場の外ではまだざわめきが続いているらしい。
何人もの研究者が「もう一度話を聞かせてくれ」と訪ねてきたが、正直、疲れた。
そんな中――
「セイル……お前、やっぱり本物だったんだな」
その声に、俺は顔を上げた。
立っていたのは、かつて俺を“無能”と罵り、研究成果を横取りした元同僚・ダリス=モーンだった。
「なにしに来た。皮肉でも言いに?」
「……違う。ただ、お前に謝りに来たんだ」
「へぇ、太陽でも落ちたのか?」
ダリスは苦笑いを浮かべて、椅子に腰を下ろした。
「なぁ、覚えてるか? お前が“生体魔導フィルター”の実験してた頃、周囲からどれだけ笑われてたか」
「笑われたっけな。爆発もしたしな」
「でも――お前が試作したそのフィルター、今、王都の病院で“魔導器過敏症”の治療に使われてるんだよ。お前の名は消されてたが、構造式は、まんまあれだった」
「……盗んだんじゃなくて、パクったって言い訳?」
「違う。本当に知らなかった。お前の追放後に引き継いだ研究室に残ってた資料を、“自分たちの功績”として処理してたんだ……。俺も、それを知って、やっと全部つながった」
ダリスの顔には、言いようのない疲労が刻まれていた。
傲慢で、自信過剰で、周囲を蹴落としていた頃の彼ではない。
「で、今さら謝って、俺に何を求める?」
「……弟子にしてくれ、とは言わねぇ。でも……一緒に、何かを作りたい。今度は正しく、堂々と、名前を並べて」
俺はしばらく黙ってから、冷めた茶に口をつけた。
「じゃあ……その時は、まずは**“現場”に来いよ**。俺のギルドに。話はそれからだ」
「……本当に行ってもいいのか?」
「うちには今、子どもや元軍人や精霊の声が聞こえる少女までいる。優秀な奴は歓迎するよ。誰でもな」
ふっと、ダリスが涙をこぼしながら、頭を下げた。
その後、学会の研究報告会では、セイルの魔導具を用いた“実地での症例”が次々に提出された。
・魔導病の抑制に“魔力拡散装置”が効果あり
・共鳴核を用いた魔導災害の予兆感知
・風精霊共鳴装置による気象予測の実用化
それらの事実が、「魔導具は玩具にすぎぬ」と断じていた保守派の学者たちの口を、徐々に閉ざしていった。
やがて、議長席にいた重鎮がこう述べた。
「評価とは何か。“学会の定義”ではなく、“命の現場”で問うべきではないか」
この日を境に、《魔導具工学》という分野の再評価と見直しが進むことになる。
そしてその中心にいたのが、かつて“評価ゼロ”だった男――セイル・アーヴであった。




