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六十四  コマの存在

 さっきのマコトさんの話を理解しても納得はしていない。

きっと顔に、納得できません!って書いてある。マコトさんにも、私の気持ちは筒抜けだね。

そんな私の頭をポンポンとしながら、

「じゃあ、お留守番、よろしくね。」

そう言った。

「えっ。」

マコトさんの優しい笑顔の後ろで、ゲンさんも立ち上がり。

「では、参りましょう。」

「どこにいくんですか?私も行きます。」

「美佐枝さんのところよ。」

「私も。リコちゃんに会いたいし。私も行きます。」

そう言ったことに、いつもなら嫌味の一つでも返してくるゲンさんは、何も言わずに優しい顔をして私を見ている。

何、ちょっと気持ち悪いんですけど。

ゲンさんは行くのに私は置いてけぼり。その不満がまんま、また顔に出ていたのだろう、マコトさんは私の目を5秒ほど見つめ、

「ゲンちゃんは弁護士として行くのよ。」

そう言って微笑んだ。

「弁護士として?」

「そう。西条からリコちゃんの自由を確定する為に、ね!」

「、、、わかりました。でも、私だって行きたいです。」

マコトさんは私の頬を今度は、優しく包んで。

「リコちゃんに会うのは、祝が一休みしてから。クレで私と会ってから、毎日いろんな事が起きたでしょ。激流を泳ぐ小さな金魚みたいに、息つく事もできないくらいにね。リコちゃんは美佐枝さんの所にいるんだし。明日にはまた会える。今はここにいる事が、祝いにとって、良い事なのよ。」

そう言って、マコトさんとゲンさんは階段を降りて行ってしまった。

 確かにクレでマコトさんに会ってから今日まで激流を泳ぐ、いやもみくちゃにされながら流されている毎日だった。

マコトさんにものすごく興味を持って。翌日にはマコトさんの周りをスパイみたいに探り、美佐枝さんの存在を知った。春吉さんにも会えた。

夢ちゃん、千花ちゃんとも知り合えた。

大村奏さんと由美子さん姉妹を助けることも、千花ちゃんを助けることにも少し力になれた。そして、リコちゃんのことも。

何よりも、マコトさんが東方神様であること。

美佐枝さんが神使職、むすひさまであること。

私の神使職の力がはふる、葬る力であること。

その力が生まれた時から授かっていたことも知ることができた。

そっか、一息つくのも必要なのかもなあ。

 Pで一人になったのは、初めてじゃない。でも今は、ゲンさんのアワイの力のシャボン玉の中にいるみたいに、静かで、心が休まる不思議な感覚。

ふと、天井から吊るされたハンモックが目に止まって、

「包まれますか。」

ハンモックに乗るのは、初めて。意外と大変だった。でもスッポリとハマたら思った以上に気持ちが良く、宙に浮いている感覚が心地良い。

心地良すぎて、色々と考える間もなく寝てしまった。お手本になりそうな寝落ちだね。

 どれくらい時間がったたのだろう。目を開けると少し薄暗くなっていて、

「あ〜。お腹空いたかも。」

そういえば、朝マコトさんとリコちゃんと卵かけご飯を食べたきりだったと思い出し、お腹がぐーっとなった。

「お腹なんて、空かなきゃ良いのに。」

食べるの大好きだけど、今はまだハンモックに包まれてユラユラとしていたい気分だ。でも、お腹は空いている。

どうしたものかとウダウダしながら揺られていると、呼び鈴が鳴った。

「はあー。今ですかー。」

依頼者が来たんだろと思ったけど、スッポリハマっているハンモックから簡単に出られないし、いないことにしちゃおうかな、って本気で思ってると、

ドンドンドン

と、大きめにドアを叩く音がして、また呼び鈴がなって。

「ハニー。帰ってきたよー。いるんでしょ。」

って、駒井の声がした。

それが、自分でもビックリしたけど、

嫌じゃなかった。

嬉しかった。

「何、この気持ち。なんで?嘘でしょ。駒井だよ!」

思わず声に出して自問自答。あんなに出たくなかった、出にくかったハンモックから、体がスルリと抜け出し、足取り軽くドアまで向かっている。

「何これ。なんで?私、どうしちゃったの?」

戸惑いながらドアを開けると、

「ジャーン。」

駒井の声と共に、目の前にレジ袋が。

「あ〜。良い匂〜い。」

レジ袋の中から、紛れもない中華の匂いがしている。

「ハニー。お腹空いてるでしょ!」

レジ袋の横から駒井がひょいと顔を出しながらそう言った。

えっ、私の心臓、今ドッキってしなかった?

「ハ、ハニーじゃないけど。」

ぶっきらぼうにそう言ってけど、次の瞬間、駒井の手が私のおでこに伸びて、

「ハニー。大丈夫か?熱、あるの?」

「な、何よ!気軽に人のおでこに触んないで!」

「あ、ごめんごめん。顔が真っ赤だったから、ちょっとビックリしちゃって。ワリイ。」

って。ちょっと困った顔をしてる駒井がなんだか可愛く見える。

やっぱ、熱、、あるのかも、、、。

「だ、大丈夫。今、ハンモックでうたた寝して起きたばっかりだから。」

「うたた寝?お布団かけなかったんだろ〜。それで風邪でも引いたんじゃないの?」

心配そうに覗き込んでくる駒井の顔が、近すぎる。

「大丈夫だってばー。呼び鈴が鳴って、依頼者かと思ってビックリして飛び起きて、急いでハンモックから出てきたから。あわてたから。だから顔が赤くなっただけ。ただ、それだけ!なんでもない!」

なんか、言い訳がましいな。なんで、駒井にこんなに言い訳しなきゃいけないのよ!

「そっか。なら安心した。」

駒井はキラキラした笑顔で私を見て、リビングに歩いて言った。

「うそ、、、。今、キラキラ見えた、、。やっぱ熱、、ある、、。」

おでこに手を当てて、ボー然とドアの前に立っていると、

「ハニー。何してるの?肉まん冷めちゃうよー。」

「もー。ハニーじゃないから!」

そう呼ぶから、いつまでも顔の赤みが引かない様な気がして、リビングに行くのが恥ずかしかった。

 それでも、空腹には勝てない。中華の良い匂いに誘われてリビングに行くと、キッチンで手を洗った駒井が、勝手知ったる我が家のように、お皿を出して、中華まんと餃子を並べて、小皿にお店でもらってきた、餃子のタレを入れている。

「わあ〜。めっちゃ美味しそう〜。」

「でしょ!ここの美味いんだよ〜。まだあったかいから、さ、食べよう!」

「うん。」

吸い寄せられるように席に着くと、駒井が目の前に麦茶の入ったコップを置きながら、

「ほら、祝いちゃんも手を洗って!」

「あ、はいはい。そうでした。」

私は、洗面所に行って手を洗った。

ハニーじゃないんだ、、、。

 テーブルに戻って、席に座ろうとした時、

「あ、マコトさん達待たなくて良いのかな?みんなもお腹ペコペコだよね。」

「お腹ペコペコなのに、祝ちゃんは優しいねー。マコトさん達は美佐枝さんのところで食べてるから大丈夫。ハルさんも夏乃さんのとこ行ってると思うし。さ、食べよ!俺、腹ペコすぎて倒れそうだよー。」

「待って、待って。肉まんには酢醤油とカラシでしょ!」

「えー。このまま食べるんじゃないの?」

ちょっと深めの小皿に醤油と多めの酢を入れてカラシを溶いた。

「良いから。酢醤油とカラシつけて食べてみて!」

「う!ウマっ。マジか。良いね〜。」

「でしょ。お酢は体にも良いしね。疲れにも効くよ!」

 駒井も朝の卵かけご飯以来の食事だそうで、二人で夢中になって肉まんとあんまん、餃子を平らげた。何話したか覚えてないけど、めっちゃ笑いながら。楽しい食事、いや、安心できる食事の時間だった。

「ふー。落ち着いたー。」

「落ち着いた?お腹いっぱいじゃないの?」

「腹減り過ぎてたから、いっぱいかもだけど、まだ食べれる気がするよ。」

「あ、ごめん。私がきっちり半分食べちゃったから。コマがもっと餃子食べられる様にすれば良かったね。」

「ふふ〜ん。」

「何よ。そのニヤケ顔。気持ち悪いんですけど。」

「イケメンに対して、気持ち悪いってなんだよー。」

「イケメンて?どこにいるんでしょ?」

「ここにいるでしょ!」

「何?ニヤニヤ?キモ!コワ!」

そう言いながら両腕を寒い寒いってさすっていると、駒井がいっそうニヤけて、

「今、コマって言ったよね!」

「えっ。」

「言ったよね〜。」

「、、、。言ったよ。」

「あー。やっぱ、言ったんだ!駒井じゃなくて、コマって!」

「だ、だから何よー。」

「距離、縮まったな〜って。嬉しいな〜。」

なんだろ。そのニヤケ顔。負けた気がする。

「ふん。縮まったのは距離じゃなくて、呼び方。駒井のいー、を言うのが面倒だっただけ。」

「ふふ。そうですか、そうですか。コマって呼んでくれる仲になりましたか。いや〜幸せ幸せ。心が満たされて、お腹いっぱいになった気がしちゃう。ふふ。」

駒井の発言に、今までの私なら、ツンデレのツンが顔を出しそうな場面だけど、出てきそうにもなくて。そんな私を駒井に気がつかれたくないから、

「ふん。味噌ラーメン作ってあげようかと思ったけど、お腹いっぱいになったなら作ってあげなーい。」

って、ツン出してみた。

「えー。ツンデレ姫ー。お願いします。まだお腹いっぱいじゃありません。味噌ラーメン!ぜひお願いします!」

「ま、餃子のお礼で作りますか。」

「やったー。」

何その笑顔、子供か。

「あ、でも、インスタントだよ。」

「インスタントでも嬉しいです。」

そう言って敬礼している駒井がちょっぴり愛おしいかった。ちょっぴりね。

 フライパンと片手鍋を取り出して。食品庫から味噌ラーメン、冷蔵庫からはキャベツとニンジンを用意した。

「キャベツとニンジン?」

駒井が隣に立って、覗き込んだから、

「そ。本当はもやし入れたいんだけど、買い物も全然いけてなくて、野菜これしかないんだ。」

「え、野菜入れてくれるの?」

不思議そうな駒井。

「入れるよ。なんで?」

「インスタントって言うから、鍋にお湯沸かして、麺入れて、粉のスープ入れるのかなあって。」

ちょっと呆れて駒井を見ながら、

「それ、作ってあげるって、レベルじゃないじゃん。」

「まあ、そうかもだけど、、。インスタントってそうだし。それでも祝ちゃんが作ってくれるなら、嬉しいな〜って。」

「じゃあ、そうする?」

「あ、姫。申し訳ありません。キャベツ、よろしくお願いします。」

そう言って、キャベツを差し出すから、

「じゃあ、ニンジン切ってるから、キャベツ3枚くらい洗って。」

「ははー。かしこまりました〜。」

 ニンジンは千切り。切ったらごま油で炒める。

キャベツは洗い終わったら、少し大きめにカットして、食べ応えを残す。

お腹が空いてる時なら尚更。咀嚼はお腹を満たしてくれるからね。

まあ、今日は駒井の野菜不足であろう食生活を少しだけど補う為だから、私のいつものお腹を満たす咀嚼節約カットよりも小さめにカット。

ニンジンが少ししんなりしたところにチューブのニンニクと生姜、それとお醤油をチョイ入れて香りを出したらキャベツを投入。塩少しとコショウ多めで味を整える。

隣の鍋でそろそろお湯を沸かして、麺を投入。スープも入れたら、大きめのどんぶりに移して、野菜を盛って、七味を混ぜたニンニクをトッピングして。

「はい。召し上がれ。」

「ワオー。これ、インスタントの香りじゃないけど。店の香りじゃん!」

「でしょ!」

「おー。いただきま〜す。」

どうだろうと駒井の顔を見ていると、

「うっめー。マジで、美味い!美味いよ!野菜も味噌と合う!ウッマ!」

「もやしが入ると、もっと良い感じになるんだけど。美味しいなら良かった。」

美味しそうに食べる駒井を見てると幸せな気持ちが湧いてきた。

「あ、祝ちゃんも食べる?」

「えっ。」

「あ、ごめんごめん。そうだよね。俺が口つけてるのに、ヤダよな。デリカシーゼロでした。すみません。」

そうだよー、って言えば良かったのに。今までの私なら迷わずそう口から出てただろうに。

「そんなことないけど、野菜不足のコマから、野菜とりあげられないよ。」

「じゃあ、麺、食べる?」

「入りません。良いから、ちゃんとよく噛んで食べなさいよ。」

「姫、母ちゃんみたいだな。」

だって。

「コマの母ちゃんになるつもりなんて、これっぽっちもありません。」

「だな。」

そう言って駒井は綺麗に味噌ラーメンを平らげた。

じゃあ、私は、駒井の母ちゃんじゃなくて、何にだったらなりたいんだろう。



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