六十三 大人になりたくないかも
ゲンさんの本当の姿『アワイ』その力を聞いて、納得できたような、できないような私だった。
マコトさんが帰って来たからアワイのことを詳しく聞こうって思っていたけど、事態は私が考えているほど甘くはないようだ。
リコちゃんとその母親、咲子さんのことを思い、大人達も私と大して歳の違わない駒井も、先を読んで動いている。
私だけが蚊帳の外、、、いや違うな。
ひよっ子過ぎて、今起きていることについていくのが精一杯なだけだ。目の前の事だけにただ、ただ流されるようについて行っているだけ。
何やってんだ私!
そんな自分に急に腹が立って、
「あーーーー。」
思いっきり叫んで、両手でバンバン頬を叩いた。ゲンさんが、
「ホホー。」
と小さく声をあげた。マコトさんは、
「祝ー。女の子がそんなことしなの!」
と言って、頬にある私の手の上に手を重ね、その手をグリグリ回しながら
「そんなことしたって、気持ちは上がんないわよ〜。」
マコトさんの手のヒラで潰され、タコになってる口で、
「だって、私だけが自分で考えて動いてないんですよ。あんなに小さなリコちゃんだって、自分で考えて動いてここに来たのに。私は何にも考えられてなくて。」
そこまで行ったら涙が浮かんできそうで。それはもっと、もっと悔しいから顔全体にグッと力を入れて涙を抑え込んだ。
マコトさんにはそんなことしたってお見通しなんだよね。
頬にあったマコトさんの手がスーッと私の背中にまわって、
「祝はまだまだ、始まったばっかりでしょ。」
優しく包み込んでくれる。
そんなことされたら、我慢した涙がこぼれちゃう。
一粒だけ涙をこぼしたけど、息を思いっきり吸こんで
「考えます!自分で考えて動きます!」
そう、宣言した。だけど、
「ま、しばらくは待機、かな。」
マコトさんが優しい微笑みと共にそういった。
「た、待機、、ですか?」
「そ。待機。」
「えー。」
出鼻を思いっきり挫かれた。
「どうして待機なんですか?」
私がそう問いかけると、ゲンさんが
「おやおや、ご自分でお考えになるのでは?」
ふん。やっぱり嫌味なおっさんだ。
「そうでした!考えます!ちゃーんと自分で!もーーー。」
私の口は、再びタコ口。マコトさんがそんな私を見て、
「祝、女の子なんだから、そんな変な顔しないのよ。」
マコトさんの言葉にゲンさんのニヤケ顔がいっそうニヤケたから、腹が立つのもマシマシになったけど、
「祝。冷静に考えて。どうして、祝とゲンちゃんを二人でPに帰したと思う?」
そうマコトさんに言われて、確かにどうしてだろうと思った。
会ったばかりでお互いに何者なのかよく理解していないし、相性だってさして良くない。
美佐枝さんの所にリコちゃんと咲子さんを連れて行くなら、同じ神使職同志の私でも大丈夫。運転だって春吉さんなんだから、なんの問題もない。
なのになぜ?
私とゲンさんって組み合わせに意味があるってことだ。
「うーん。」
ゲンさんの本当の姿は弁護士じゃない。異空間を操るアワイであること。
私は、はふる力をもつ神使職。
そうだ、ゲンさんは、黒服達はまだ来ていないと言ってた。
「そっか。黒服達が舞い戻って来た時の為に、私とゲンさんの組み合わせなんですね!私一人で黒服達にラリアットしたら、黒服達の記憶、全てをはふる、葬ってしまうから。異空間を作るアワイの力で黒服達の中にある、リコちゃんを連れ戻す記憶だけをはふる。そのために仲良くもない私とゲンさんが二人でPに帰って来たってわけですね!」
「まあ、、そんな感じよ。言い方にはちょっとだけどね。」
そう言ってマコトさんは苦笑いをしている。
「祝とゲンちゃんの組み合わせはバッチリなんだから、仲良くやってよ。」
「それは、祝さま次第かと。私は、仲良しのつもりでございます。」
ホホホって、目は笑ってませんけど。
やっぱ腹立つ。
心の中では、ゲンさん次第でしょって思いながらも。
「マコトさんのお願いなら、、、。はーい。」
イヤイヤでっす!って心を込めて返事をした。
「あ、そっか。黒服は戻って来てないから、待機なんですね。」
閃いた!って声が少し高揚した私に、
「やっとお分かりですか。だいぶお時間が必要でしたな。」
いつでも嫌味たっぷりジジイの言い方に、
「んーーー。マコトさーーん。こんなんですよーー。仲良くってどうやってなるんですかーー。」
思いっきり文句をぶつけたら、
「ゲンちゃん。可愛いからって、あんまりからかわないで。」
だって。ゲンの野郎、めっちゃ笑ってる。ふーーんっだ。
膨れっ面の私の気をそらすかの様に、
「ゲンちゃんのことはいいから。ね。祝、黒服が戻ってこないってことは、どう言うことだと思うの?」
「えっと、、、一つは、まだ囮のGPSを追っている。もう一つは、西条がリコちゃんを取り戻すって命令を取りやめた。ですか?」
「そうね。どちらかしら?」
「うーん。時間的に命令を取りやめた、、、。でしょうか。私の希望がだいぶ入っちゃってますけど、、、。」
「私もそうだと思う。西条は、記憶の中に黒く突き刺さった棘を浄化され、西条本来が持つ、子供達に向けた思いを正直に出すことができるようになって来た。少しずつでしょうけどね。」
「少しずつ、、、。」
「ええ。人は簡単には変わらない。変われない。変わることもとっても勇気のいることだからね。」
「勇気、、ですか。」
「そう。周りからどう思われているのか、人はそれを気にして行動するものよ。歳を重ねると尚更ね。だから、今までの自分を変えて行動することにためらいがある。」
「、、、。良い方向に変わることでも、ためらうんですか?」
「人は自分の行動を間違っていると思って動いたりしないでしょ。」
「そうですね、、確かに。日常の行動ってそうですね。あとで後悔することはあっても、今進行中の行動を後悔する事はない。後悔するなら、その場で修正するはず。自分は間違っていないと思っていることを変えるのって、自分を否定すること、、、。そっか、だから、変えることをためらう。」
マコトさんは少し微笑んで、
「西条は一代であれだけの会社を作り上げた頭のキレる人間。きっと自分の残りの人生がどれくらいあるのかも分かっている。その時間の中で、今するべき事を整理して、すぐに行動に移した。」
「今までの自分変えることは勇気が必要なことだけど、西条はもう切り替えた。黒服達にリコちゃんを連れ戻す命令を取り下げた、、って事ですか?」
「ええ。すぐに行動に移せるってとこは、さすが!と言うべきかしら。」
マコトさんの話は、理解した。一応。
だけど、そうなの?子供の私には、いまいち納得いかない。
間違いを犯したのなら、謝ればいい。
謝って正しい方向に歩き出せばいい。それだけのはず。
なんでそれができない?なぜ、勇気がいる?
大人になると、謝ることが難しくなっちゃうなんて、変な話だ。
そん大人になんか、なりたくないや




