六十二 神も仏も
「あ、マコトさん!」
「あ、マコトさん、じゃないわよ。今、様って言ったでしょー。」
「わ、私じゃありません。」
そう言ってゲンさんを指差した。マコトさんがイタズラっぽくゲンさんに文句を言ってる。なんか、和むな〜。
「何よ。祝ー。何、ニヤニヤしてるのよ。」
ちょっぴり膨れっ面のマコトさんも美しい。
「私、さっきまで、訳が分からないまま、お母さんに引っ張り回される子供みたいだったけど。Pに帰ってきて安心だなーって。」
マコトさんを見ていると、本当にそう思えた。
「アラ、馴染むの早くてよろしい。ここが祝の我が家になったのね。」
我が家か。確かにどこにいても家に帰るとホッとする、そうだあの感覚。
「あ、そう言えば、リコちゃん、どこにいるんですか?」
「もちろん、美佐江さんのところよ。」
「なるほど!あ、でも、、、。」
言葉を濁した訳じゃないけど、なんて言ったらいいのか困ってると、
「でもって何よ。」
「えっと、、。」
「何?」
どうしようか迷う気持ちが少し湧いてきが、神様のマコトさんに隠し事してもと、
「ハルさんも一緒ですよね?」
「ええ、もちろん。ハルの運転で美佐江さんの家に行ったんだし。」
「ですよね。」
「ですよ!それが?」
「ハルさん、美佐江さんのことあんまり知らないみたいだから、どうしてるのかな〜っと。」
「、、、。へ?」
へ、だって。可愛い〜。
「ハルが、美佐江さんをあんまり知らない?なんで?」
「ハルさんが言ってました。確か美佐江さんに会ったこともない、、と。」
マコトさんはキョトンとして、そして、
「あー!そうだった。いつかいつかって思ってたんだけど。思っただけで終わってたー。」
「へー。マコトさんでもそんなことあるんですね。」
やらかしたーって顔のマコトさんもチョー可愛い。
「だからかー。ハルが美佐江さんに初めましてって言ってた。あー、だからかー、そっかー、今理解したー。」
神様のマコトさんが困ってる様子は面白く、ゲンさんも右の口角上げながら
「ハルさんには初めてでしょうから、正しいご挨拶かと。」
私に対して、いつも嫌味なおじさんで、しょっちゅう腹も立ってたけど、今のは良き。
「で、美佐江様はなんと返されたのでしょう?」
「えー。初めましてって。やだー。二人とも言ってよー。もーやだー。」
いつも隙のないマコトさんが、悶絶する様子をまだこのまま見ていたかったけど、事態はまだ動いてる途中だ。ゲンさんが
「まあ、それはさて置きです。ハルさんはあちらに向かわれたのですか?あと黒服たちですか、まだこちらに戻っていないようでございます。」
マコトさんは、ゲンさんの言葉に、はーっと一ついくを吐き、うんうんと頷くと
「そうね、、、そうそう。やる事やらないと。ハルは夏乃さんのところに向かったわ。そんなにかからずに合流する。」
「夏乃さんと?ですか?」
ゲンさんは知らないのかって顔で私を見てるけど、知らないんだから仕方ない。
「ええ。夏乃さんとコマちゃんは、リコちゃんのお兄さん貴政さんのところに行ったの。」
「へー。」
ゲンさんは呆れ顔で私に視線を送ってくる。
「そんな目で見ないでくださ。本当に何も知らないんです。起きたら、そのまま出かけるって感じで。」
「卵かけご飯は、しっかりといただいていらっしゃたようですが。」
「、、、。そうですよ。しっかり食べました!お腹、パンパンになるくらいに!もーマコトさーん。なんとか言ってください。」
「そうそう。ゲンちゃん、祝はリコちゃんについていてくれたから、ほとんど何も伝えてないの。」
ゲンさんはそうですかって言ったけど、どうせ聞いていても変わらんだろうって顔したから、
「どうせ聞いてたってか分からないくせにって思ってたでしょう!」
て、いやみを返し、してやったら、
「おや。祝様も人の心を読む能力をお持ちとは。ほほほ。」
だって。腹たつ。マコトさんが、まあまあ落ち着いてってなだめながら教えてくれた。
夏乃さんは、リコちゃんを診察した時、新しいマルク(骨髄穿刺)のあとがあることから、もしかしたら貴政の病状に変化がきているかもと考えた。
私たちが西条のところに向かうと同時に貴政のところに出向いて、現在の病状を把握しようとした。一人でいきなり押しかけたら拒絶されるだろうと、刑事の駒井も一緒に向かった。
夏乃さんの先輩の勤務する病院が、骨髄移植の実績が高かい事から、なんとか貴政を説得してその病院に駒井と三人で向かった。
簡易検査であるが、残念なことに貴政の病状は骨髄移植を考えた方が良さそうな状態に進んでいるらしい。夏乃さんと駒井は、長く貴政の元にはいられないため、春吉さんが引き継ぎに向かったそうだ。
「そんな、、。じゃあリコちゃんがドナーに?」
緊急事態になってきてるとはいえ、結局西条がしている事と変わらない。
命に変えられないってわかっているけど、モヤモヤする。私はまた、思いっきり気持ちが顔に出ていたのだろう、ゲンさんが、
「同じではありませんよ。」
「えっ。」
「西条と同じではありません。貴政様はリコちゃんからの提供は拒んでいらっしゃるのです。あくまでも骨髄バンクに登録し、順番を待たれた上での移植に同意されたのです。」
「あ、、、。」
そっか。確か咲子さんと凛子ちゃんに逃げろと言ったのは貴政だ。稀な血液型を持つ自分のためにだけ生まれてきた妹を不憫に思う、優しい兄。
「でも、それで間に合うんですか?」
「分からない。詳しく検査して細かいことは、それからだそうよ。ただ、夏乃さんの話からすると早い方が良いらし。」
せっかく西条から逃れ、それぞれの人生を歩けると思ったのに。辛い思いをしていたリコちゃんと貴政にまたしてもピンチが襲いかかる。
神様のマコトさん目の前に、こんなこと思っちゃいけないし、私だってまだ見習いだけど、神様に仕える神使職。でも、でもでも、、
神様も仏もいないのかー!
って、思いっきり、思っちゃうよー!




