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六十  ダダ漏れです

 ゲンさんの告白は、どこかでわかっていたような、意外すぎて飲み込めないような、気持ちがごちゃごちゃして、その後、ゲンさんと話ができなかった。

ゲンさんが、私のことを『はふり』呼んだ。

マコトさんと深縹こきはなだの話を自然にしていた。

そして何より、ゲンさんが西条の部屋の扉を閉めた瞬間に、西条の時間が止まったようだったことを考えると、マコトさんという東方神様に仕える存在なのはそうなのであろう。

でも、ゲンさんは、自分も神使職だとは言わない。

それに『むすひ』である、美佐江さんに会った時とまるで違う感覚をどうしても拭い去ることができなかった。

「驚いたような、やっぱりのような気持ちですか?」

ゲンさんが喋らない私を気遣うように問いかけてきた。それに無性に腹がったって、

「なんで疑問形で聞くんですか。本当は、私が思ってることなんて、手に取るようにわかっているんじゃないんですか!」

思わずそう声に出たが、そうだ!きっとそうに決まってる。会った時から私を見透かすようにバカにした言い方をしていた。きっと『アワイ』ってゲンさんの本来の力には、人の心を読む力があんだ。ゲンさんは前を向いたまま、小さく息を吐くと、

「まさかと思いますが、私にあなたの心を読む力でもあると思っているのですか?」

「違うんですか!今だって、」

「ほほ、やはりそう思っていましたか。」

「、、、。」

ゲンさんは、車を止めて。

「ありませんよ、アワイの私にそんな力。はふりさんは、ただ単純にあなたのお気持ちが、とっても分かりやすーく顔に出ているだけでございます。私じゃなくても、きっとリコさんにだってわかるくらいにね。」

腹たつ。なんで、リコちゃんが出てくるのよ。

本当に腹が立つ!私がそれだけ単純だってこと!

頭にきたから、心の中であるったけの悪口を言ってやった。

「ご安心を。さぞ私の悪口を思いつくまま叫んでいらっしゃるのでしょうが、本当に聞こえていませんので、どうぞ心置き無くお続けください。ただ、到着いたしましたので、次のミッションを遂行いたしますが、よろしいですか。」

「あ。」

そう言われて我に帰ると、いつの間にかPの前に車は止まっていた。

 車を降りるゲンさんに慌てて続き、

「あ、あの。次のミッションてなんですか。マコトさんたちも戻って、」

そこまで話すと、ゲンさんの目がキッと光ったように見えて、口を噤んだ。

「Pに戻りますよ。」

私は、頷きで返すしかできず、そのままPの階段を登った。

 Pのリビングに入ると、とてつもなくホッとして、床だって良いから、大の字になって寝っ転がりたい。

「おっ。おかえり。守備よくいったみたいだな。」

「はい。抜かりなく。」

ガンさんが、とびきりの笑顔でゲンさんと私を迎えてくれる。

一人、留守番をしているガンさんだって、ゲンさんと同じにさっき会ったばっかりの人。一緒にいる時間は、行動を共にしていた、ゲンさんよりも短いはずなんだけど、なんだろう、めちゃめちゃ安心できちゃう。なんなら、お父さ〜んって言ってその胸に飛び込みたいくらい。

「うん?祝ちゃん。どうした?疲れたか?」

ガンさんが優しい声で、私を気遣ってくれる。本当にお父さんって叫んで、抱きついたい。そんな気持ちをグッと抑えて、

「はい。理解できないうちに、話がどんどん進んで。頭がついていかなすぎで、、、。脳みそも体もヘトヘトです、、、。」

私がガンさんに愚痴をこぼしている横で、マグカップにコーヒーを注いでいるゲンさんの口元がニヤリとしたように見えたから、嫌味を言われる前に、

「私にだって、疲れるくらいの脳みそはありますから!」

そう叫んだら、ガンさんが

「おい、おい。祝ちゃん。どうした、どうした。よっぽど大変だったんだな。まあ、まあ、落ち着いて。とにかく座れ、座れ。な。」

そう言って椅子をひいて私を座らせてくれた。

「そうです。一息ついてください。とりあえず、コーヒーを。ミルクたっぷりアンドお砂糖たっぷりでございます。」

大きめのマグカップからは、コーヒーの良い香りと、ミルクとお砂糖の甘い香りが立ち上っていた。

あー、このシーン。前にもあったな。

リコちゃんを追ってきた黒服たちを追っ払って、Pに戻ってきた時、腰が抜けそうなくらいヘロヘロの私に、マコトさんがコーヒーにミルクとお砂糖たっぷり入れてくれたっけ。

「あーーーー。美味しいーーー。」

甘さと、マグから伝わる温かさがホッとさせてくれる。

頭が整理できていないまま突っ走ったからなのか、自分が思うよりも緊張していたみたい。

温かさに溶けるように心がほぐれて緊張が解けていく。

「このミルクとお砂糖たっぷりコーヒーって、神様の世界では、緊張ほぐす定番のアイテムなんですか?」

マグに顔をうずめるようにしながらコーヒーを飲んでいた私が、気持ちをそのまま言葉にして、そう口にすると、ガンさんが、

「神様の世界?」

あっ!あっ!あーーーーー。

しまった!コーヒーの甘さで、気が緩んだーーーーー。

ヤバイヤバイ!絶対にヤバイ!神様の世界なんて!

もーーなんてこと言っちゃったんだろうーーーー。

私ったら、ガンさんの前で、なんてこと口走っちゃったんだ!

「ああ、それくらいうまいってことか?ゲンさん、祝ちゃんがお前さんを気に入ってくれたようだ。よかったな〜。」

「ええ。神コーヒーなんて、サイコーの褒め言葉でございます。ガンさんもいかがですか。」

「いやー。甘いのはちょっとなー。ブラックでいただくよ。」

「ブラックですか。そう言えばコーヒーを入れたくれたのはガンさんですよね。私はミルクとお砂糖を足しただけにございます。」

「ってことは、神コーヒーは俺ってことか!」

「で、ございますね。」

「ほー。店でも出すか。岩の神コーヒーってな。な、祝ちゃん。」

どうしよー!

って、自分の何気なく言っちゃった言葉の回収の仕方がわかんなくて、おじさんたちの会話をマグを口に当て、顔をマグで隠すようにしたままで聞いていたけど、

「そ、そうですね。ははは、、毎日通わせていただきます。」

やっとこさっとこマグを口から離して、愛想笑いでそう言ったけど、ゲンさんの視線はめっちゃ冷たかった。氷の眼差し。

刺される。視線がガンガン刺してくる。

イヤ、メガトン級に氷河作ったデッカいヤリで思いっきり貫く感じで刺してくる。

 ガンさんが、

「じゃあ、二人が戻ってきたことだし。署に報告もなく突っ走っているコマの尻拭いしてやらないと。署に戻るとするよ。マコトさんによろしくな。」

ガンさんが、少し休めよって、私の頭をくしゃくしゃと撫でてPを後にした。

 ガンさんが階段を降りる音がだんだん小さくなって、持っていたマグをそーっとテーブルに置いて、

「すいませーーん。ゲンさんのおっしゃる通りです。気持ちがダダ漏れです。未熟者です。すみませんでしたーー。」

私は椅子から立ち上がって、おでこが膝に着くぐらいゲンさんに頭を下げた。

「はあーー。マコト様も先が思いやられますね。」

って。偉そうにコーヒー飲みながら、足組んで偉そうに椅子に座って、思いっきりため息も吐かれたけど、返す言葉はありません。1ミリも反論できません。

おっしゃる通り、その通り。私は気持ちがダダ漏れ女です。

すみませんでした。以後ものすごーく気をつけます。


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