↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/22

御所の闇

六月七日――安土城。

明智光秀は、この日、朝廷からの使者を迎えていた。


使者として指名されたのは――

吉田兼見だった。


光秀は下座に控え、上座には誠仁親王《さねひとしんのう》よりの御使(みつかい)として、吉田兼見が座していた。誠仁親王は正親町《おおぎまち》天皇の嫡男だった。


光秀は、誠仁親王より『禁裏守護』。すなわち、京の都を守護せよとの命を受けた。併せて、親王からの祝儀も届けられた。


一連の儀式が終わると、兼見は柔らかく笑みを浮かべた。


「下がってよい」

兼見は朝廷近習の者たちを下がらせた。


そして、上座から静かに降り、光秀へ歩み寄った。

「光秀殿、堅苦しい挨拶は無用じゃ」


その様子に、光秀もわずかに笑みを返した。


「お一つ、確かめたい儀がございます――」


光秀の言葉に、兼見は快く頷いた。


「誠仁親王様からの御命ということであったが、帝は此度(こたび)の混乱、すべてをご存じなのか。やはり帝が――」


「光秀殿、それは申されるな」

兼見の声は低く、鋭かった。


「いえ、申します。もし帝がご存じないとすれば――公家のどなたの仕業であったか…… そうお尋ねすればよろしいか」


兼見の眉がわずかに動いた。

「光秀殿、何を申されておるのか。分かっておいでか」


光秀は静かに頷いた。


「分かっております。信長様は近衛様と昵懇《じっこん》の間柄。それを良しとせぬお方が、企てたのでは――と。信長様は朝廷に無理難題を吹きかけ、皇位を誠仁親王様に譲れとまで申された。これに耐えかねたお方が、延暦寺の残党、雑賀衆、伊賀者を雇い、武具を揃え、信長様・信忠様を襲った。しかも――我が明智の旗印までご用意して」


吉田兼見の顔は、みるみる赤みを帯びていた。

「たわけたことじゃ――」


光秀は、じっと目の前の男を見続けた。まったく目を逸らさなかった。


「公家衆の誰かが企てたと申すか!」

兼見は息を荒げ、その直後、口を固く閉ざした。


光秀は静かに続けた。


「そのお方――次は我が明智を滅ぼすおつもりであろう。明日は坂本に居る。いつでもお待ち申すと、お伝えくだされ」


兼見は震える声で問うた。

「誰に伝えればよいと申す……」


光秀は、わずかに笑みを浮かべた。

「この光秀には分かりかねます。兼見様が、ようご存じのはずじゃ」


「光秀殿、血迷ったか!」

兼見は立ち上がりざまに叫び、大きな足音を響かせ、その場を立ち去った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。