努力の〘記憶〙
〘勉強資料〙
その文字が目に入った瞬間
思わず、手がビクッと震えた。
私は、しばらく
引き出しへ入ったままの資料を見つめる。
(……あ……そう、か……)
当時の私は
前の会社のものを見ては泣き
話を聞いては泣き
そんな毎日を過ごしていた。
きっと、見兼ねた旦那が
前の会社のロッカーから
引き取ってきた荷物を
代わりに片付けてくれていたのだろう。
私の目に入らないように
わざわざ、隠してくれていたんだ。
「……ごめん、ね」
思わず、そこにいない旦那へ向かって
謝罪の言葉が漏れた。
当時の私は
泣いて
怒って
感情がぐちゃぐちゃで
そんな私を
旦那は、文句一つ言わずに
支え続けてくれていた。
「……マック、私が買いに行けばよかったな」
思わず、そんな後悔が口から漏れた。
でも……
あとで謝ろう
そう思いながら
私は、まだ少し震える手で
勉強資料を手に取った。
そこには、当時の勉強内容が
ビッシリと書き込まれていた。
例の、あの人ではない人へ
何度も
何度も
同じことを聞いて
教えてもらって
そのたびに
どうしたら効率良く出来るのか
どうしたら
資料を見なくても
スムーズな接客対応が出来るのか
必死に考えていた。
新しいレジへ変わった時は
操作手順を覚えるだけでも
本当に大変だった。
お客様対応の書類手順も
一から十まで
細かく書き込んである。
間違えないように
お客様へ
迷惑を掛けないように。
そこには
大きめの付箋や
メモの切れ端が
何枚も、何枚も貼られていた。
そして、何度も何度も
書き直した跡のあるノート。
例の、あの人の教え方は
一から十まで
順番通りに手順を
教えてくれるタイプではなかった。
一から五まで説明したかと思えば
突然、八から十へ飛ぶ
そしてまた、三から五へ戻る。
そんな感じだった。
だから私は、頭の中で
手順を組み立てるだけでも必死だった。
しかも
お客様対応をしている最中でも
横から怒られることがあった。
そのたびに
私は、お客様へ謝って
そして
例のあの人へも謝る。
例のあの人が居なくなった隙を見て
また別の人へ
手順を聞きに行ったり確認したりする。
そんなこともあった。
今思えば……
あの人は〘人に教えること〙が
あまり得意では なかったのだと思う。
旦那へ話した時も
「そいつ、教え方下手だね~
アンタが悪いわけじゃないよ」
そう言ってくれていた。
でも、当時の私は
覚えられない自分が悪い
そう、自分を責め続けていた。
だからこそ
何度も
何度も
資料へ書き足して
その分厚い資料の束を
休憩室へ持ち込んでは
ご飯を食べながら
何度も
何度も
見返していたのだ。
一枚
また、一枚と
私は、ゆっくり資料をめくっていく。
付箋だらけのページ
書き直した跡
何度も書き足されたメモ
その全部に
当時の自分が残っていた。
そして
…気が付けば
目の前が滲んで
資料の文字が
よく見えなくなっていた……




