出した条件、会社の本質
私が出したい条件。
まだ入って短い期間だったけれど
この会社の特徴が
少しずつ見えてきていた。
長く働くつもりではあるものの
そこは、どうしても
気になっていた部分だった。
この会社は
『アットホームで
和気あいあいとしていて
上司とパートの壁もほとんどない
誰とでも話しやすい会社』
そう聞けば
きっと、多くの人は
〘働きやすそうな会社〙だと思うのだろう。
実際、居心地は悪くなかった。
でも、私は
〘アットホーム過ぎる〙
そこが、この会社の
問題点でもあるように感じていた。
パートも社員も
みんな、友達みたいに話している。
社員に敬語を使うパートさんは
ほとんどいない。
理想と言えば
理想の形なのかもしれない。
でも……
仲が良すぎるが故に
個人の情報が
すぐに広がっていく。
本人たちは
〘ここだけの話〙のつもりでも
『人の口に戸は立てられない』
話は少しずつ広がり
やがて、伝言ゲームみたいに
尾ひれや背びれまで付いていく。
そして、もう一つ。
この会社には
〘新しく入った人への当たりが強い〙
そんな空気もあった。
もちろん
本人たちに悪気はない。
むしろ
良かれと思って言っているのだと思う。
でも、入ったばかりの人間からすれば
それは時々
キツく感じることもあった。
分かりやすく言うなら
〘昔ながらの田舎みたいな会社〙
そんな空気感だった。
今回の
時給の話も、そうだった。
村長みたいな存在の人や
その取り巻きの時給は
誰も知らない。
でも、何故か
他の人たちの時給だけは
みんな知っている。
「○○さん、時給上がったらしいよ」
「△△さん、今いくらなんだって」
そんな話が
普通に飛び交っていた。
どこから伝わったのか……
考えれば
答えは、一つしかなかった。
最初に入った時から
私は、この会社に
〘人の入れ替わりが激しい〙
そんな印象を持っていた。
決して、悪い会社ではないと思う。
実際、上司たちも
ちゃんと現場を見てくれていたし
こうして面談でも
一従業員でしかない私に
丁寧に話をしてくれている。
気遣おうとしてくれているのも
ちゃんと伝わってきていた。
それなのに……
人は、短い期間で辞めていく。
その理由が、今なら少しだけ
分かる気がしていた。
「今回の時給のお話……
ここだけのお話に、していただきたいのと……」
少し間を置いて
嫌味にならないように
言葉を選びながら
私は続けた。
「もし、誰かに伝わったとしても
一番安い時給だと
伝わるようにしてください」
その瞬間、上司たちの眉が
少しだけ動いた。
その変化を
私は見逃さなかった。
(……嫌味に聞こえたかな)
(私の時給が広まったら
あなたたちから漏れたとしか
思えませんって、言ってるようなものだし……)
心の中で、苦笑いする。
でも……
条件を変えるつもりはなかった。
小さな条件。
それさえ守られないなら
この会社で
長く働くのは……難しいと思った。
会議室が静まり返る。
私は、そのまま
上司たちの答えを待った。




