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私は二度、三十キロ痩せた  作者: かゆると


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予想外の自己紹介

生活リズムを戻し始めてから

二週間後


ついに

初出勤の日を迎えた。


何年かぶりの


〘初出勤〙


朝から、想像以上に緊張していた。


(……は、吐きそう)


そう思いながらも、会社へ向かった。


会社に着くと

人事担当の人が出迎えてくれた。


そのまま

今日の流れを説明されながら


エプロンや手袋

カッターなどを支給される。


「今からラジオ体操を行います」


「その後、朝礼がありますので

 そこで自己紹介をお願いします」


そう言われた瞬間


(……聞いてねぇし!)


予想外すぎて

頭が真っ白になった。


(ど、どうしよう……)


この自己紹介で

変な人だと思われたら……


また、同じことになるんじゃないか。


そんな不安まで 頭をよぎる。


何年ぶりかも分からない

ラジオ体操をしながら


私は、ずっと


〘何を言おう〙


そればかり考えていた。


そして迎えた、朝礼。


「では、本日から入られる方です、どうぞ」


そう促され

私は、一歩前へ出た。


ずらりと並ぶ

従業員の人たちに向き合う。


「お、おはようございます!

 今日から、お世話になります!」


続けて名前を言い、深く頭を下げる。


そして


「ひ、人一倍物覚えが悪いですが!

 どうぞ、よろしくお願い致します!」


そう言った瞬間。


人事担当の人が

目を丸くしたあと


顔を伏せて、肩を震わせていた。


笑っている。


その姿を

私は、見逃さなかった。


自己紹介のあと


一度、事務所へ戻り

会社紹介のビデオを見るように言われた。


その間


人事担当の人は席を外していたが

ビデオが終わる頃になると戻ってきて


「じゃあ、現場へ行きましょうか」


そう言われた。


(……ピッキングか

 どんな感じなんだろ)


少しドキドキしながら

現場へ入る。


すると、人事担当の人が

一人の女性を呼んだ。


「この方が教育係です」


「分からないことは

 僕に聞いてもいいですけど

 基本は、この方に聞いてくださいね」


そう言い残して

人事担当の人は去っていった。


「よ、よろしくお願いします」


そう頭を下げると


「こちらこそ、よろしくね!」


「じゃあまず、機械の使い方からやろっか」


そう言って、初仕事が始まった。


でも……

想像していたより、ずっと難しかった。


商品を オリコンと呼ばれる箱へ詰める。


それ自体よりも


機械操作を覚えることに

頭がパンクしそうになる。


教育係の人は

丁寧に教えてくれる。


でも


「あれも、これも、それも」


と、次々説明が入ってくる。


待ったなしだ。


聞くだけで精一杯になっていた私に

教育係の人が言った。


「あのさ、メモ取らないの?」


少しだけ、口調が強かった。


その瞬間


(……言い方、あの上司に似てる)


前の会社の記憶が

頭をよぎる。


(……あの人も、教え方こんな感じだったな)


そう思いながらも

私は慌ててメモを取り始めた。


でも、早すぎてメモ取りが追い付かない


書いた文字は

ミミズがのたくったみたいになっていた。


(……これ、あとで絶対読めないやつだ)


そう思ったら

少しだけ、自分で笑えた。


すると、それを見た教育係の人が


「あ、そっか」


と、小さく声を漏らした。


そして


「ごめんごめん!

 人一倍、物覚え悪いって言ってたもんね~」


「ゆっくり言うね!」


そう言って

肩にぽんっと手を置き

ニシャッと笑った。


(……いや、アンタね)


(そういう問題じゃねぇよ?)


心の中で、思わずツッコんだ。


でも、そのあとから

教育係の人は、本当に一から十まで

ゆっくり教えてくれるようになった。


(……あの上司なら

 きっと、2回も3回も教えないから!って

 ヒステリックに言ってただろうな……)


でも


(教え方はともかく…

 この人は、違う……みたい)


そう思えたことが

少しだけ、嬉しかった。

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