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私は二度、三十キロ痩せた  作者: かゆると


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まさか、気遣われた?

午前中の仕事が

ようやく終わり、昼休みになった。


(……車で食べていいって、言ってたよね)


朝の説明のとき

そこだけは、しっかり聞いていた。


食堂はある。


でも


ああでもない


こうでもない


そんなふうに、色々聞かれるのが嫌だった。


それに……


この会社では、必要以上に

周りと関わるつもりはなかった。


そう思って

私は、そそくさと車へ向かおうとした。


すると


「あれ? 車で食べるの?」


教育係の人が 声をかけてきた。


(……げ、見つかった)


一瞬、身構える。


「あ、はい……ちょっと電話もしたいので」


適当に理由をつけて

そのまま車へ向かおうとすると


「暑いから、ちゃんとエンジンかけなよ! 

 あと、そこの給茶機

 自由に飲んでいいからね!」


そう言い残して

教育係の人は、そのまま食堂へ入っていった。


(……え、それだけ?)


車で食べることに

何か言われると思っていた。


『協調性がない』とか


『付き合い悪い』とか


そんなふうに

何か言われるんじゃないかと

勝手に身構えていた。


だからこそ

何も言われなかったことに


少しだけ肩透かしを食らった気分だった。


車に戻り

運転席へ座った瞬間


どっと、疲れが押し寄せてきた。


「……はぁぁぁぁ……」


自然と

深いため息が漏れる。


シートを倒して横になると

午前中の仕事が頭の中を駆け巡った。


(……物流の仕事って

 思ったより、大変なんだな)


前の会社は

〘売る側〙の仕事だった。


でも、この会社は違う。


商品が店に並ぶ

前段階を支える仕事。


扱っているものは同じ日用品なのに。


前の会社では

何気なく売っていた商品。


時には

雑に扱ってしまっていた商品。


それが、実際には

こんなにもたくさんの人の手で

丁寧に扱われていた。


そんなこと

考えたこともなかった。


前の会社で働いていた頃の私は


あれが〘社会〙の全てだと

どこかで思っていた。


でも……実際は違った。


私は、本当に

小さな〘社会〙しか知らなかったんだ。


疲れているからだろうか。


そんなところまで

考えが飛んでいた。


(……とりあえず、ご飯……)


そう思ったものの


身体の疲れと

ずっと気を張っていた疲れで


食欲が、まったく湧かない。


給茶機でもらったコーヒーを

一口飲む。


それからアラームをかけて

少しだけ目を閉じた。


(……午後も、頑張らないとな)


頭の中では

教えてもらったことを、何度も反芻していた。


やがてアラームが鳴り

私は、午後の仕事へ向かった。


午後の作業中。


教育係の人が、ふいに聞いてきた。


「前の仕事って、何やってたの?」


「……ホームセンターです

 レジと、お客様窓口やってました」


そこまで話した瞬間


周りで作業していた人たちが

一斉に反応した。


「えっ、お客様窓口って大変じゃなかった?」


「ホームセンターのアレってさ~!」


「あー、レジ私も昔やってた!」


「あの仕事ってさ~!」


次々と、話しかけられる。


(……聖徳太子じゃねんだから……)


頭の中で、思わずツッコんだ。


すると……


ふと視界に入った教育係の人が

少し離れた場所で


満足そうに

うんうんと頷きながら、こちらを見ていた。


まるで、最初から周りが

食いつくって分かっていて

わざと話を振ったみたいに。


(……もしかして、わざと?

 私が、周りと話せるように……?)


そんなことを、ふと思った。


そして気づけば


午前中よりも


少しだけ……


肩の力が抜けている自分がいた。

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