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私は二度、三十キロ痩せた  作者: かゆると


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『明日から、お仕事行ける?』

強張る身体で運転をして

なんとか、息子を送り届けたあと。


私は、そのまま

心療内科へ向かった。


予約なしでも受け入れてくれると

聞いていた場所だった。


人生で、初めての心療内科。


正直……

病院の扉の前で、足が止まった。


(……いいの?私なんかが)


甘えているんじゃないか。


社会を舐めていると

思われるんじゃないか。


大したことないと

追い返されるんじゃないか。


それに——


もっと大変な人がいるのに

こんな自分が来ていいのか。


この程度で

来てよかったのか。


そんな考えばかりが

頭をよぎった。


今思えば……


会社で否定され続けていたことで


そういう考えしか

できなくなっていたんだと思う。


それでも。


この状態を

明日も、明後日も

続けるわけにはいかない。


そう思って


私は、勇気を出して

扉を開けた。


受付を済ませると

医師に会う前に

面談のようなものがあった。


そこで、これまでのことを

詳しく聞かれる。


泣くつもりなんて、なかった。


でも、話しているうちに

涙が、勝手に溢れてきた。


面談が終わり


ついに

医師のいる部屋へ入る。


でも……


目が、見れなかった。


顔を上げることができない。


うまく、話せない。


そんな私に、医師は

優しく話しかけてくれて

話を聞こうとしてくれる。


それでも


やっぱり

顔を上げることも

目を合わせることもできなかった。


そんな私に

医師は、言った。


「しばらく、お仕事休もうか」


「……休めません」


「なんで?なんでそう思うの?」


「……人もいないし

 迷惑かけるし……

 社会人として……どうなのか……」


「そっか。じゃあさ……」


少し間を置いて

医師は続けた。


「明日から、あなたお仕事行ける?」


「…………」


答えられなかった。


〘会社に行く〙


そう考えた瞬間……


無意識に身体が

小刻みに震えた。


言葉が、出ない。


顔も、上げられない。


ただ、黙っている私に

医師は静かに言った。


「よし、診断書出しておくね」


「そうだな……

 二ヶ月くらいお休みしよっか」


「え……でも……」


医師は、私を覗き込むように続ける


「僕はね

 あなたは休むべきだと思うよ」


「大丈夫、たくさん人はいるんだから

 いる人で仕事なんかやればいいんだよ」


「……はい」


その一言を返すのが

精一杯だった。


診察が終わり


受付で、診断書を受け取るように言われ

私は部屋を後にした。


(……これで、いいのかな)


待っている間


頭の中では、同じ問いが

何度も繰り返されていた。


でも


『明日から、仕事行ける?』


その言葉が、何度も

頭の中で、響いていた。


診断書を受け取り

車に戻る。


スマホを手にして


しばらく


画面を見つめたまま動けなかった。


会社に電話をして

休むことを、伝えなければいけない。


分かっている。


それでも……


指が、動かない。


しばらく悩んだあと

ようやく、電話をかけた。


声が震え

冷や汗が止まらない。


それでも、なんとか話して

電話を切った。


(……情けないな

 何やってるんだろう、自分)


どっと押し寄せる疲れ。


しばらく運転席を倒し、目を閉じる。


(はぁ……とにかく…帰ろう)


なんとか身体を動かし

家路についた。

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