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私は二度、三十キロ痩せた  作者: かゆると


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頭をフル回転させた日

ご飯を食べたあと

どこに行こうかという話になった。


「どこ行きたい?どこでもいいよ」


そう言われたものの


当時の私は家とバイト先の往復だけの毎日で

休みの日もほとんど外に出ない

いわゆる引きこもり生活だった。


(困ったな……知らないんだよな)


頭をフル回転させて

ようやく思い出したのが

幼い頃に祖父母と行った鍾乳洞だった。


「えーと……鍾乳洞に行きたいです」


そう言うと


「じゃあ、そこに行こう」


あっさり決まった。


今なら分かるが

ご飯を食べた場所とは

真反対の方向だった。


——よく行こうと思ったな、と。


鍾乳洞までは高速で向かった。


当時はナビもなく

料金所では係員にお金を手渡ししていた時代。


彼も詳しい行き方は知らなかったようで

係員に道を聞きながら、なんとか到着した。


中に入ると、幼い頃に見た景色が

そのまま残っていて、少しだけ感動した。


しばらく進むと

金属でできた階段に差し掛かった。


そのときだった。


彼が、スッと手を差し出してくれた。


「……あ、ありがとうございます」


少し遠慮がちに手を取ると

しっかりと握り返される。


「危ないからね」


そう言って、彼は下を見た。


(……ん?)


つられて足元を見ると——

ヒールのブーツだった。


そういえば。


いつもの靴で行こうとしたとき、姉が


「アンタ!これ履いてきな!

 サイズ一緒でしょ!」


と、ニヤニヤしながら

押し付けてきたやつだった。


そのまま手を引かれて、階段を降りる。


離そうとしたけれど

そのまま前に引かれて

後ろからついていく形になった。


(周りはこんなに寒いのに……)


(手汗、やばい)


普通なら

ドキドキしたとか、ときめいたとか

そういうことを思うんだろう。


でも私は——

それどころじゃなかった。


と、に、か、く

手汗のことしか考えていなかった。


じっとり程度ならいい。


でも私は汗っかきで

場合によってはヌルっとする。


それが心配で、心配で——


そのあとの鍾乳洞の記憶は

ほとんど残っていない。


鍾乳洞を出てすぐ、私は言った。


「トイレ、行きましょう」


もちろん

自分が行きたかったのもあるけれど。


それよりも——

手を、洗いたかった。


そしてできれば

彼にも洗ってほしかった。


トイレを見つけて中に入ると

彼も一緒に入っていった。


(これで……なんとかなる)


(手汗、リセット)


そう思って、少しだけホッとした。


そのあとは、時間もいい頃合いで

帰りながら夕飯を食べよう、という話になった。


——ようやく


少しだけ落ち着いて話せそうだった。

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