守りたい、でも―
結局、その夜
父は来なかったらしい。
気づけば
朝まで、姉と手を繋いだまま眠っていた。
そっと手を離し
姉の様子を確認する。
規則正しい寝息
顔色も、悪くない。
(……よかった)
小さく、安堵する。
起こさないように
静かに、部屋を出た。
台所では
祖母が、お粥を作っていた。
出汁の、やさしい匂いがする。
どうやら、姉の分のようだ。
母と父のことを聞くと
朝早くに、どこかへ出かけたらしい。
顔を合わせずに済んで——
……せいせいした。
部屋に戻り
携帯を確認すると
彼から、連絡が入っていた。
(そうだ……
今日、デートの約束してたんだっけ)
思い出したものの
昨日、母に叩かれた頬は
まだ、腫れている。
それに
姉のことも、気がかりだった。
(……こんな顔で、会いたくない
きっと、心配する)
そう思って
メールで断りの連絡を入れた。
彼には
家の事情を、少しだけ話してある。
これまでも、彼の前で
親のことで泣いてしまうことがあった。
そのたびに
彼は、私を元気づけようと
あれこれ気を使ってくれた。
申し訳なさが
じわじわと、込み上げてくる。
初めて
心から大事にしたいと思った人。
初めて
心から、大事にしてくれる人。
だからこそ……
正直これ以上、巻き込みたくなかった。
なぜなら
母に、言われたことがある。
『彼を大事にしたいなら
私を怒らせないで』
今思えば
母に、何ができるわけでもない。
無視してしまえば、よかった。
でも——
当時
親の言葉は、絶対だった。
逆らえば
彼に何をされるか、分からない。
そんな怖さが
ずっと、あった。
きっと
何かあったとしても
彼は、私には言わない。
そう思った。
だから
巻き込まない方法を
常日頃から、必死に考えていた。
普通の家に生まれていたら——
何度、そう思ったか分からない。
でも。
普通の家って、どんなだろう。
当時の私には、分からなかった。




