ありがとうは言ってやらない
お姉さん一家とは
たまに会う程度の付き合いだったが
交流は続いていた。
その中で知ったのは
お姉さんが、胃下垂だということ。
食べると、妊婦かと思うほど
お腹が出る。
さらに厄介なことに
食べたあと
胃が痛くなることもあるらしく
一緒にご飯に行っても
お腹を押さえながら帰ることもあった。
そのときの私は
まだ、胃下垂というものを
よく分かっていなかった。
(もしかして
痩せているのは、胃下垂だから?)
(だったら……
自分も胃下垂になれば
痩せるんじゃない?)
そんなことを、思ってしまった。
そして
姉に聞いてみることにした。
「ねぇ、胃下垂って知ってる?
どうやったらなれるの?」
「……何いきなり」
「実はさ……」
これまでの話をすると
姉は、呆れたようにため息をついた。
「……アンタさ
それ、彼のお姉さんに
言ってないでしょうね?」
「普通に失礼だから、やめなよ」
「え……」
「要はさ
太りたくても太れないんでしょ?」
「好きなもの食べても
胃が痛くなることもあるんでしょ?」
「……うん。痛そう……だけど」
「本人は、それで苦しんでるんだよ
逆に考えてみなよ」
そう言われて
(……あ)
自分がどれだけ
失礼なことを考えていたのか
そのとき、ようやく気づいた。
続けて、姉は言った。
「まあ、アンタの気持ちは
分からんくもないよ」
「要は、お姉さんみたいに
なりたいんでしょ?
……憧れてんだよ、アンタ」
「胃下垂になりたいとかは
ちょっと置いといてさ
目標を、お姉さんにしたら?」
そう言って、肩をポンと叩かれた。
少しため息をつきながら、姉は続ける。
「……普通さ
姉に憧れるもんじゃないの?」
「なーんで、そっちにいくかねぇ
靴も服も貸したのになぁ~
お姉ちゃんは悲しいぞ!」
……本気かどうかは分からない。
でも
その泣き真似は
正直かなり気持ち悪かった。
今思い出しても、だ。
(……憧れ、か)
確かに、そうなのかもしれない。
気を使ってくれているのもあるだろうけど
あの穏やかな笑顔は、彼によく似ていて
性格も、とても優しい。
「こうしてあげなよ」
「ああしてあげなよ」
そうやって、彼に声をかけてくれる。
自分がしてほしかったこと。
自分が、欲しかったもの。
——私が、同じ思いをしないように
そんな願いが、そこにはあった。
そんなこと
弟の彼女相手に
ましてや
数回しか会ったことのない相手に
普通、思えるだろうか。
損得勘定なしに
ただ、相手を気遣える。
そんな人に
私もなりたいと——
そう、思えた。
そこに気づかせてくれた姉には
感謝はしている。
……している、けれど。
調子に乗りそうだから
——言ってあげない。




