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私は二度、三十キロ痩せた  作者: かゆると


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牛丼バトル

「……もしかして、ダイエットしてる?」


そう聞かれたあと

彼は、少し考えるようにしてから言った。


「無理して、痩せなくても良いよ」


——その一言。


でも、それって

どっちにも取れる言い方で。


(ああ……痩せてほしいけど

 無理はしないでってことか)


そのときの私は、そう受け取った。


でも、後から知った。


彼が言いたかったのは

痩せる必要はないと思っている。


でも——


私が痩せたいと思っているなら

止めない

でも、無理はしないでほしい。


そういう意味だったらしい。


ただ

このときの私は、まだそれを知らない。


だから、その一言で——


もっと頑張ろう、と思ってしまった。


その後

もっとご飯を減らそうと

食欲とのバトルが続いた。


ある日のこと。


母が珍しく

牛丼をテイクアウトしてきた。


——私の分も。


でも、その日はすでに

彼とご飯を食べてきたあとだった。


「明日食べる」


そう言って、部屋に持ち帰った。


そこから……

私と牛丼との、長い長い戦いが始まった。


机の上の牛丼が

じっとこちらを見ている。


『温かいうちに食べて』


そんな声が、聞こえた気がした。


でも、今食べたら確実に太る。


我慢だ。我慢。


……なのに

部屋中に漂う、あのいい匂い。


「一口だけなら……」


思わず、手が伸びそうになる。


でも——


『無理して、痩せなくても良いよ』


彼の言葉が、頭の中でエコーする。


「いや、我慢我慢……」


視界から外そうと、ゲームを始める。


しかし

このときやっていたのは、RPG。


頭を使うゲームは——


糖分が欲しくなる。


するとまた

机の上から、声がする。


『まだ食べないの?

 温かいうちが美味しいよ』


「……やっぱり一口」


「せめて、肉だけ……」


手が伸びる。


——でも、やめる。


ゲームをやる。


また、牛丼を見る。


また、我慢する。


その繰り返し。


気づけば

ろくに眠れないまま

朝を迎えていた。


トイレに行って

顔でも洗おうと思い、部屋を出る。


すると、姉と出くわした。


「おはよ……って、アンタ何その顔!」


「その顔って何……?

 朝から大きい声出すなよ、うるさいなー」


「ひっどい顔してるって!

 鏡見てみなよ。

 なに、彼と喧嘩でもした?」


「朝から人の顔に難癖つけんな……

 げ……」


そう言いかけて、鏡を見る。


クマはひどい

目は血走っている。


(……うわぁ)


自分でも、そう思う顔をしていた。


牛丼一つで……この顔って

ダイエットって、思ったより辛い。


——そう、思った。

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