99 砂賊戦1
傾いた床に苦労しながら起き上がった私は、扉の外から聞こえて来る怒声を聞いて切り込んできた砂賊に押されているのが分かった。
砂賊が優勢な中、私に出来る事は多くないが連中が私を探しているという話を信じて大人しく捕まって成り行きに任せるか、それとも抵抗して生き延びる方法を考えるかのどちらかだろう。
抵抗する場合、1人では流石に厳しいので何か使える物があるかと部屋の中を見回すと、奥の方に木樽があった。
その木樽を叩いて中身があるのを確かめてから蓋を開けてみると、それはタインの町でシリル達と食べたあの芋だった。
私がその芋を手に取って考えていると、頭上のグロウ様が念話を送ってきた。
「アリーちゃん侵略者に対抗するなら、その芋で兵隊を作ってやろうか?」
「え、芋で兵隊、ですか?」
「侵略者に対抗するなら手数は多い方が良いじゃろう?」
まあ、連中も大人数で制圧に来るんだろうから手数は多いにこしたことは無いが、獣人達は私を探しているのではなかったの?
それが本当なら、私を見たら保護してくれる可能性もある筈よね?
「駄目よ。何事も最悪を考えておかないと、予想が外れたら大変な目に遭うわよ」
私が考えている事が分かるのか、今度はモーフ様に注意された。
確かに何も分からないのに、勝手に相手が味方だと勘違いするのは危険よね。
「分かりました。それではグロウ様、2体作ってもらえますか」
「もっと作れるが、それだけで良いのか?」
「交渉するなら2体もあれば十分でしょう。それ以上だと、交渉する前に戦闘になると思います」
「分かった」
そう言って左腕のブレスレットの神緑石に触り、グロウ様の分身体呼び出した。
「それでは作ろうぞ。アリーちゃん、手を」
そう言ってグロウ様はどう見ても魔物にしか見えない分身体の手を突き出してきた。
私がその手に触れると、私の中の神力が分身体に流れるような感覚があった。
そして目の前には注文どおり2体のゴーレムが現れた。
「えっと、グロウ様、これ魔物に見えますけど、ここはユッカではありませんが大丈夫なのですか?」
芋で造られたゴーレムはちょっとあれな姿をしていて、どう見ても魔樹にみえた。
そしてここはバキラでグロウ様のお力が及ばないと思うので、動かないんじゃないかと思ったのだ。
「アリーちゃんの力で作ったから問題ないぞ。リドル一族の神力は共通じゃからな」
ああ、つまり、私の神力を使えば、ここがユッカだろうがバキラだろうが関係ないという事なのですね。
まあ、確かに変な制限があったら、神獣様のお世話ができないですものね。
やがて廊下の騒ぎがこちらに向かって来るのが聞こえて来ると、突然施錠された扉が大きな音を立てた。
どうやら何か重たい物で扉を叩いているようだった。
そして扉がその攻撃に耐えられなくなると、バキバキという破壊音と共に吹き飛び、その破片はグロウ様が作ったゴーレムが防いでくれた。
破壊された扉から顔を出したのは、側頭部の上の方に獣耳を付けた獣人だった。
だが、その顔はどう見ても友好的には見えなかった。
+++++
マッツオーラが天井まで積み上がった木箱の隙間を覗きながら進んで行くと、暗い影から1人の敵兵が剣を片手に飛び出してきた。
その一撃を軽やかに避けると、手に持ったメイスを敵の体に叩きつけた。
「ゴリッ」という音と主に手に肉を叩く衝撃が伝わってくると、敵兵はまるで糸が切れた人形のような動きで床に倒れた。
そして動かなくなった物体を部下の1人が掴むと、そのまま熱流砂に向けて放り投げた。
生存者を残して我々の戦術をニンゲン共に知られると今後の狩が面倒になるので、こちらの不利になる要素は全て消してしまった方が良いのだ。
その後も数回物資の隙間から飛び出してきた敵兵をメイスで叩き潰すと、亡骸を全て熱流砂に投げ倉庫の端まで到達した。
「船長、倉庫の制圧は終わりました」
「よし、半数はこのまま倉庫のお宝を船に積み込め、残りの半数は指令室の制圧に向かうぞ」
「「「おおお」」」
マッツオーラが大型倉庫区画を出てその先にある指令室に向かうと、既に左側通路を制圧した戦闘隊長の部隊が指令室の扉を破壊しようと大槌を振るっていた。
「戦闘隊長、左翼は終わったようだな」
マッツオーラが声をかけると、戦闘隊長は肩をすくめた。
「ええ、敵の抵抗が殆どなかったんで、部下達も欲求不満気味です」
「ははは、そうか、なら、この先はお前達に先陣を譲ろう」
「おお、それはありがたいですな」
そして指令室に通じる扉が吹き飛ぶと、戦闘隊長が叫んだ。
「良し、先陣は俺達だ。つづけぇ」
「「「おおおお」」」
雄たけびを上げて左通路を担当した戦闘隊長が率いる部隊が雪崩れ込むと、マッツオーラは右側通路を担当している副長の姿が見えないのに気が付いた。
「副長は何をしている?」
だがついてきた部下達も情報が無いようで、皆がお互いの顔を見合っていた。
それを見たマッツオーラは、直ぐに指示を出した。
「ガンツォ、副長の様子を見てこい」
「分かりました」
命令を受けたガンツォは一礼すると、そのまま右通路に消えて行った。
そして指令室内から戦闘隊長班が大暴れしている騒音を聞いていると、マッツオーラの体中の血がたぎってきて我慢できなくなった。
「よし、我々も突撃するぞ。着いて来い」
「「「おおお」」」
指令室内に入ると敵は船長と思しき男を中心に守備陣形を組んで抵抗しており、その陣形を戦闘隊長達が切り崩していた。
マッツオーラはその戦いを観察していたが、敵の陣形が戦闘隊長達の攻撃で乱れるのを見て一気に駆けだした。
そして敵の陣形に穴を付いて飛び込むと、後ろで指揮していた船長の頭めがけてメイスを振り下ろした。
「ふははは、覚悟しろ」
乱闘の中からマッツォーラが突然眼前に現れたことで、船長の顔には驚愕が現れていた。
その顔に向けて手に持ったメイスを叩きつけると、骨や肉が潰れる鈍い感覚が手に伝わって来た。
船長を失った人間共は組織的な抵抗が出来なくなり、後は部下達が1人ずつ始末していった。
「船長、お見事です」
戦闘隊長の誉め言葉ににんまりすると、直ぐに部下達に後始末を命じた。
「敵の躯は全て熱流砂に放り投げろ」
「「「おう」」」
そして後始末を終えた後でようやく副長の姿も様子を見てくるように命じた部下も戻ってきてない事に気が付いた。
「おい、誰か、副長の様子を」
そこまで言ったところで、息を切らしたガンツォが姿を現した。
「はあはあ、船長、大変です」
「なんだ、どうした?」
「右通路側で敵の抵抗が強すぎて手こずってます」
マッツオーラは指令室を簡単に制圧出来たことで、ガンツォが何を言っているのか分からなかった。
そんな奴が居たら指令室で抵抗している筈だろう?
だから口を突いて出た言葉は場違いなものだった。
「人間共は何か危険な荷物でも運んでいたのか?」
+++++
扉を破壊して部屋に入って来た獣人は、アリソンの姿を見た瞬間、口角を上げてまるで獲物でも見るような目を向けてきた。
私はそれを見て、話し合いは無理だと悟った。
「ちっ、小娘か。砂の連中ならたっぷり楽しんだ後で奴隷として売っぱらうんだろうが、俺達はそう言うのはやっていないからなあ。残念だが、お前は口封じのため熱流砂に放り込むことになる」
あれあれ、獣人は青髪青眼の女性を探しているのではなかったの?
こうなってくるとあのエジェオとかいう男が言っていた事は、口から出まかせだった可能性が高くなったわね。
「小娘、お前に選択肢をやろう。自分から熱流砂に飛び込むか、俺に放り込まれるか好きな方を選べ」
そんなもの勿論、どちらも嫌だ。
「お断りよ」
「なら、俺が放り込んでやる」
交渉が決裂すると、獣人は手に持ったメイスを振り上げ襲い掛かってきた。
グロウ様のゴーレムはその動きを見て私の前に立ちふさがったが、獣人が振り下ろしたメイスに頭の部分を潰され、あっけなく吹き飛ばされた。
「ぶっ」
そして私は潰されたゴーレムの破片が降りかかってきたので、怯んでしまった。
獣人はその隙を突いてメイスの間合いまで接近してきた。
「小娘、これで終いだ」
目の前に迫って来たメイスの先端を目の隅で捕らえた私は、命の危険を感じて反射的に神力弾を撃っていた。
あてずっぽうだったが、私に覆いかぶさるように接近していた獣人の体を捕らえるのは簡単だったようで、獣人の勝利を確信していた顔が信じられないといった驚愕の表情に変わると、神力弾を受けた反動で部屋の外にまで弾き飛ばされていた。
通路の方では、そのとばっちりを受けた獣人達の悲鳴が聞こえて来た。
その声で外にはまだ敵が居るのが分かったので、時間稼ぎをするためにグロウ様に入口を塞いでもらうようにお願いした。
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