100 砂賊戦2
「アリーちゃんとりあえず塞いだが、そんなに持たぬぞ」
「はい、分かっています」
扉を塞いだ材料は一度破られた木の破片なので、それほどの時間稼ぎは出来ないだろう。
それでも少しの間、時間稼ぎができるだけでも助かるのだ。
グロウ様が塞いだ扉の向こう側からは、再び獣人達が破壊しようとしていた。
あまり時間はなさそうだ。
私は先ほどのぎりぎりの戦闘で心臓が早鐘を打っていたが、直ぐにグロウ様にあのゴーレムの性能を問い質した。
「グロウ様、あのゴーレムは何なのです。全く役に立ちませんよ。それにゴーレムのくせになんですか、あの紙で出来ているような耐久力は?」
「そんなに興奮するもんじゃないぞ。それに元が芋じゃからな、そんなに固くは作れないのは当然じゃ」
私は神獣様の中で一番常識的だと思っていたグロウ様にそう言われて、信じられない思いだった。
そしてグロウ様も神獣だったのだと、認識を改める事にした。
ま、まあ、指摘されるとおり確かにあれは芋なんだけどね。
それでも前衛として盾役程度は期待するじゃない。
こんな紙のような耐久力で、どうしろっていうのよ。
「グロウ様、もう少し何とかなりませんか?」
「そうじゃのう・・・それじゃあ、色々作ってみるか」
「え、色々ってなんですか?」
「まあ、物は試しじゃ」
そして造られたのは頭が2つゴーレム、頭部が無いゴーレム、腕が4本あるゴーレム、足が8本あるゴーレム等が次々と出来上がって行った。
「グロウ様、これ、何が違うんですか?」
「見た目、じゃな」
気のせいかグロウ様の声から、ドヤ顔しているような響きが伝わってきた。
え、それだけ?
「グロウ様、少しは頑丈になったとかは無いのですか?」
「そうは言っても、元が芋じゃしなぁ」
「じゃあ、紙装甲なのは変わらないのですね?」
「そうじゃな」
そこで私は念のためモーフ様に念話を送った。
「モーフ様、何か良い案はありませんか?」
「う~ん、僕も手伝いたいんだけど、ここって砂漠の真ん中だんだよねぇ」
そうか、モーフ様は水系でしたね。
こんな乾燥した場所だと流石に厳しいのか。
何とかならないかと考えていると、グロウ様から念話がきた。
「アリーちゃん、相手は獣人じゃろう。たしかあの連中は理解できない物を恐れるはずじゃぞ」
理解できない物を恐れる。
こちらの手駒はグロウ様に作って頂いた変な形の芋ゴーレム。
そうか、訳の変わらないものから理解できない攻撃をされたら、混乱するんじゃないか?
「グロウ様、分かりました。このゴーレムを使って連中を撃退しましょう」
「おお、アリーちゃん、何か思いついたんじゃな」
そして方針が決まったところで、グロウ様に塞いでもらっていた扉が破壊され、屈強な獣人が入って来た。
「小娘、随分と手間をかけさせてくれたじゃなか」
そしてこちらを見下すように口角を上げると、手に持ったメイスを振りかぶった。
「覚悟しろ、小娘」
直ぐにグロウ様が作ったゴーレムが割って入り、腕を獣人に向かって突き出したタイミングで神力弾を撃ち込んだ。
「ぐえっ」
うん、タイミングは完璧だ。
そして入って来た獣人をまた神力弾で吹き飛ばすと、通路側では驚きの声が上がった。
+++++
副長のクラッペッタは、敵船に切り込んでから右側の通路にある小部屋を1つずつ制圧していた。
順調に制圧していくと、部下達が入った別の部屋から物凄い音が聞こえて来た。
今までにない音に疑念を抱いたクラッペッタは、近くに居た数名を連れて現場に急いだ。
現場に到着すると、仲間が何人も泡を吹いて倒れていて、その周りを数名の味方が呆然と見下ろしていた。
「おい、しっかりしろ、大丈夫か?」
だが、すっかり目を回した部下は気絶していて、何が起きたのか聞く事ができなかった。
クラッペッタは、直ぐに立ち尽くしている部下の肩を掴んで揺すって、明後日の方向に行っていた意識を引き戻した。
「おい、何があったんだ?」
クラッペッタが揺すった仲間は、「あああ」と言いながら破壊された扉の向こう側をさししめした。
クラッペッタは直ぐに連れて来た部下に合図を送った。
その合図を受けた部下が中に入ると、直ぐに短い悲鳴を上げると通路へと弾き飛ばされていた。
何かがあの部屋の中にいる。
危険を感じたクラッペッタは、伸びて動けない部下を後方に下げさせると残った部下には間合いを取るように後ろに下がらせた。
するとその破壊された扉から何やら見た事もない変な物体が現れ、その異様さに部下達が息を飲む音が聞こえてきた。
戦場に恐怖はつきものだが、それは勇気で覆い隠すのだ。
だが、今目の前に現れたそれは、訳の分からない物体だった。
「なんだ、あれ」
するとその後からまた違う形態をした訳の分からない物が何体も現れた。
+++++
通路には、両側に獣人がメイスを構えていた。
私は芋で出来たゴーレムを操るように手を動かした。
まあ、実際は帽子に戻ったグロウ様が動かしているんだけどね。
そしてゴーレムが腕を突き出したタイミングで神力弾を撃ち込むと、相手からはゴーレムの腕から目に見えない何かが出て仲間を吹き飛ばしたように見えるだろう。
そうしたら敵が怯んでくれるのではないかと、ひそかに期待していたのだ。
すると、それを見た獣人達が怯えた表情になっていた。
「なんだ、あの怪しげな攻撃は?」
「シャーマンだ。あの小娘はシャーマンに違いない」
「シャーマンの怪しげな術で、あの人形も動いているんだ」
獣人達は私をシャーマンだと叫び、グロウ様が作った色々なゴーレムに恐怖を感じていた。
なんだか期待以上の反応に、思わず内心でほくそ笑んだ。
だが、騙されない獣人も居たようだ。
「馬鹿もの、アルドロヴァンディがそう何人も居てたまるか。あの小娘がシャーマンのはずがない」
アルドロヴァンディって誰ですか?
それでも仲間達が躊躇しているのを見たその獣人は自らメイスを握り、こちらに向かってきた。
「グロウ様」
「分かっておる」
グロウ様が選んだゴーレムは首無しだった。
首無しゴーレムが怪しげな踊りを始めたタイミングで私が神力弾を撃つと、その獣人は驚愕の表情をしたまま後ろに弾き飛ばされた。
+++++
マッツオーラが部下を率いて副長が担当している右通路に来ると、そこにはおかしな恰好をしたとても生物とは思えない物体が副長達の班を威嚇していた。
「なんだ、あれは?」
獣人は理解できない事態を恐れる傾向があった。
そして今マッツオーラの目の前では、どう見ても生命体ではない何かが動いているのだ。
その光景に戦慄を覚えたが、族長として仲間の前で弱いところを見せられないという意地でなんとか踏みとどまっていた。
そして士気を高めるため部下が吹き飛ばされた隙を突いて、その物体に急接近した。
「うおおおお」
そして剣を一閃して腕の部分を切り飛ばすと、飛ばされた破片が頬に張り付いた。
頬に張り付いたそれを指で払うと、指先から美味しそうな臭いが漂ってきた。
何だろうとペロッと舐めてみると、それはマッツオーラも良く知っているバキラ芋だった。
えっ、芋?
そしてマッツオーラが腕の部分を切り飛ばしたそれは、まだ動いていた。
何で芋が動いているんだ?
そんな疑問を浮かべたところで、腕を怪我した副長がやって来た。
「船長、この先にあれを何体も操っている人間が居ます」
「何故、そいつを仕留めないんだ?」
「それが、切り伏せようとしたのですが、突然吹き飛ばされたんです。全く訳が分かりません」
それを聞いたマッツオーラは、獣王バルボが重用しているシャーマンであるアルドロヴァンディの事を思い浮かべた。
そしてマッツオーラも、シャーマンが使う理解できない術を恐れていた。
その同類が今此処に居て、自分にその怪しげな術を使っている事に戦慄を覚えた。
だが、あんな恐ろしい術を使うシャーマンがそんなにいてたまるか。
「一気に襲い掛かれ」
「「「おおお」」」
マッツオーラは数でそのまま押して熱流砂に叩き落してやろうとした。
数で襲い掛かったマッツオーラ達は、何か目に見えないモノで吹き飛ばされた。
床に叩きつけられたマッツオーラが顔を上げると、そこには変な帽子を被った小娘が口角を上げこちらを見下ろしていた。
その姿はあのアルドロヴァンディにそっくりだった。
シャーマンは呪術も使うのだ。
我が駱駝族が呪われたら、一体どんな目に遭わされるか分からなかった。
「て、て、撤退だぁ」
恐怖にかられたマッツオーラは大声でそう命じると、同じように恐怖を感じていた部下達は文句を言う事も無く我先にと逃げ出していった。
「あ、お、おい、お前達、俺をおいていくんじゃない」
マッツオーラは腕を怪我した副長に手を貸して、航海長が待っているバンダル号に飛び込んだ。
そして驚いた顔でこちらの様子を窺っている航海長に命じた。
「航海長、急いで船を出せ」
「え、あ、はい、分かりました」
マッツオーラは私掠船バンダル号が人間のシャーマンが乗っている船から離れてようやく人心地ついたのだった。




