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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第4章 バキラ
101/110

101 遭難

 

 通路に「て、て、撤退だぁ」という大声が響くと、それまでこちらに剣を向けて来た砂賊達が一斉に引いて行ったのだ。


 その引き際は見ていても実に見事だった。


 だが、連中を捕らえてギーザ様に関する情報を聞き出そうとしていた私は焦った。


 何とか捕まえようとしたが、既に自分達の船に戻り、離れて行ってしまったのだ。


 私は離れて行く船を危険感知で追っていたが、敵船は止まる事も無く危険感知の範囲外に出て行ってしまったのだ。


 これではもう諦めるしかなかった。


 そして次に行ったのは、生き残っている船員の捜索と、船が動くかどうかを調べる事だった。


 襲撃により船体に穴を開けられやや傾いたまま止まった船は、歩いていると平衡感覚がおかしくなりそうだったが、何とか我慢して船内を調べて行った。


 最初に向かったのはもっとも生存者が居そうな指令室だった。


 指令室に続く扉は破壊され、室内は戦闘の痕跡があちこちに残っていた。


 そこに生存者の姿は無く、運行のための装置と思われる物が破壊されているのを見て、再び動かすのは無理そうに見えた。


 それでももしかしたらと神獣様達に念話を送ってみた。


「えっと、グロウ様、モーフ様、これ、動くと思いますか?」

「無理、じゃな」

「絶対無理」


 やっぱり駄目か。


 がっかりしたが、それでも生存者を見つけようと別の場所を探すことにした。


 次に向かったのは私が監禁されていたのとは別の通路側で、破壊された扉から中を覗いたが生存者の姿は無く、物資は全て持ち去られたか、元々積み込まれていなかったようで倉庫内は何も無かった。


 中央の倉庫には大きな物資が積み込まれていたが、中身は砦の補修部材や武器、防具類や日用品等が入っていた。


 最後に向かった右側の倉庫は私達が砂賊と戦闘していたので、期待はしていなかったが、案の定誰も居なかった。


 船の中に私達以外誰も居ないのを見て深いため息をついた。


 するとモーフ様が念話を送って来た。


「そんなため息を付いたら幸せが逃げちゃうぞ」

「モーフ様、既に私は遭難しているので、幸せは逃げて行った後だと思います」

「えっ、これってそんなに拙い事態なの?」


 神獣様達からしたら、これは些細な事態にしかみえないのでしょうね。


「はい、遭難したので拙い事態だと思います。ですが、ここは多分ですが、補給船の航路上だと思いますので、待っていれば他の船が通りかかってくれると思います」

「ふうん、じゃあ、待っていればいいのね?」

「ええ、ですが、何時来てくれるのかは分からないので、暫く生き延びるための食糧と水が必要ですね」

「それはこの船にあるの?」

「先ほど見て回った時に右側通路には木樽が残っていましたので、その中に水と食料があるかもしれません」


 そして幸いなことに水と食料が入っている物を見つける事が出来た。


「ふう、これだけあれば当面生き残る事は出来きそうです」

「それは良かったわね」


 モーフ様がそう言った後で、今度はグロウ様が念話を繰って来た。


「のうアリーちゃん、遭難しているのじゃろう? これからどうするのじゃ?」


 私は危険感知を発動して直ぐに救助されそうか探ってみたが、探知範囲内に他船を示す輝点は現れなかった。


「暫くは生き残れますから、他の船に助けてもらうまで待機というところですね」

「ここでのんびりするのかえ?」

「はい、待っていれば他の船が助けに来てくれると思います。無駄にあがくよりも体力温存のため待っているのが最善だと思います」


 そして少しでも快適に待つため、中央倉庫にあった物資を固定するためのネットを使ってハンモックを作った。


 船体が傾いているので床に固定されたベッドで横になるのが難しいのだ。



 そして3日経った。


 その間、危険感知に反応したのは1回だけだったが、それは探知範囲ぎりぎりに現れたが直ぐに消えてしまったのだ。


「ねえ、全然救助されないけど、何時まで待つつもりなの?」


 モーフ様に指摘されるまでもなく、私もどうしようか考えていた。


「そうですねえ、こうなったらガイア様に聞いてみましょう」


 私はブレスレットの神黄石に触れてガイア様を呼び出してみたが、分身体は何故か不機嫌だった。


「アリソンよ、何故、私だけ石に閉じ込めておくのだ?」


 えっと、殆ど船移動だったと言おうとしたが、益々不機嫌になりそうだったので言わない事にした。


「申し訳ありませんでした」


 それから何とかガイア様に機嫌を直してもらうため、おだてたり持ち上げたりすることになったが、何とか機嫌を直してもらう事に成功した。


「ガイア様、砂賊に襲われて乗っていた船が破壊されてしまったのです。直ぐに他の船に助けてもらえると思ったのですが、全然助けてもらえないので、ガイア様の背中に乗せてもらって固い地面がある場所まで移動する事が出来るかどうか聞きたかったのです」


 私がそう言うと、ガイア様は暫く外の様子を確かめていたが、やがて口を開いた。


「砂の上は流れも速いし、気温も高そうだな」

「あ、やっぱり駄目でしたか」


 私が諦めると、ガイア様が首を横に振った。


「アリソンよ、結論を急ぐな。熱で耐えられなくなったら神域に入って休憩すればいいだろう。それよりも何処に行くのだ? どこか目的地はあるのか?」


 ガイア様にそう指摘されると、自分でも行く当ては無かった事に気が付いた。


 あるとすればチャンピに戻ってシリルとカーリーを探すくらいだが、2人の状況がまるで分からなかった。


 それでは神殿という事も考えたが、チャンピで捕まっていた時面会にも来なかった事を考えれば、ユッカの二の舞になる事も考えられた。


 行く当てもなくチャンピの町をさまよっていたら、再び捕まって要塞に送られてしまう可能性だってあるのだ。


「どこか適当に進んで陸地がある場所を探す、とか?」


 私がそう言うとガイア様に明らかに呆れられた。


「アリソンよ、バキラの地図は無いのか?」

「あ」


 ガイア様にそう指摘されて初めてその事に気が付いた私は、指令室に向けて駆け出そうとした。


「アリソン、待つのだ」


 私の行く手をガイア様に遮られて慌てて立ち止まった。


「どうかされたのですか?」


 私が尋ねると、ガイア様が言いにくそうな顔をしていた。


「グロウとモーフとは常に念話で会話をしていて、私だけ仲間外れは嫌なのだ」


 え、そう言われましても、室内とか狭い場所でガイア様を神黄石から呼び出すのはちょっと無理ですよね?


「えっと、ガイア様の大きさだといろいろ制限があるといいますか、狭い場所では難しいですよね?」

「分かっておる。それでもう1段階小さくなる事にした」


 するとゴーレム馬だったガイア様の分身体が、更に小さくなっていった。


 その大きさは、片手に収まるほど小さかった。


「え、ガイア様、ですか?」

「そうだ。これなら良いだろう?」

「か、かわいいです」


 私は思わずリスのような小動物に変化したガイア様を抱き上げてほおずりした


 確かにこの大きさなら問題なさそうね。


 私はガイア様を抱いたまま、指令室に向かって駆け出した。


 普通なら指令室に航路図がある筈なのだ。


 それを見れば固い地面がどこにあるか、ひょっとしたら別の町が記載されているかもしれなかった。


 期待を込めて指令室に入って、航路図があると思われる台座の上とかを探してみたが、それらしき物が無かった。


 落ちているのかとも思い瓦礫だらけの床を探してみたが、やっぱり無かった。


「どうして無いの?」


 普通船を運行するなら航路図は必須の筈よね?


 まさか砂賊が持っていったとか?


 私が困惑していると、グロウ様が念話を送って来た。


「遭難した事を他船に知らせる仕組みとかないのか?」


 グロウ様にそう指摘されて何かないか壊れた室内を探し回った。


 何か遭難した事を知らせる信号を出す物とか、それらしい物を探してはあちこち弄ってみたが期待できる物は無かった。


「何処にもありませんねぇ」

「船は大きいのだ。あてずっぽうに移動するより、ここで待っていた方が見つけてもらえそうではないか?」


 ガイア様のご指摘はごもっともです。


 やはり大人しく救助を待つしかないのね。


 こんなことなら、タインから乗った船で遭難船を見つけた時、どうして見つけたのか聞いておけば良かったと後悔した。


 これは持久戦になりそうだと思い、体力を温存するためハンモックに横になった。


 勿論小動物になったガイア様を抱いてである。


 私が頭をわしわししていると、ガイア様が困ったような声を上げた。


「アリソンよ、私はペットではないぞ」

「まあ、いいじゃないですか。他にやる事も無いのです。少しくらいは遊ばせてください」


 そしてガイア様で遊んでいる間も危険感知を発動して、近づいてくる船は居ないかとずっと監視していた。


 そしていつの間にか、私は深い眠りに落ちていた。


 もう少し意識を保っていれば、危険感知に船の反応が現れたのを見つけられたのだが、残念ながらそれを知る事は出来なかった。


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