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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第4章 バキラ
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98 私掠船

 

 私掠船(しりゃくせん)バンダル号の船長マッツォーラは、獲物を求めて熱流砂の中を航行していた。


「船長、連中の補給線に到着しましたぜ」


 航海長のブランダがそう言ってきたので、マッツォーラは遠見のマジック・アイテムを持って、船の上部に出るハッチを開けた。


 ハッチをくぐり船の天井に上ると、途端に熱風が頬を撫でた。


 マッツォーラは熱風を気にすることも無く遠見のマジック・アイテムを目に当てて周囲を見回したが、見えるのは熱流砂と砂が舞い上がった赤みを帯びた大気だけだった。


 隣に副長の気配がしたので周囲の状況を知らせてやった。


「獲物は居ない」

「船長、そんな直ぐに獲物が見つかれば苦労しませんぜ」

「ふん、俺は気が短いんだ」

「その割に、この船は待ち伏せ専用ですがね」


 そう言って副長は笑っていた。


「当たり前だろう。船足が敵船とほぼ変わらないんだから、逃げられたら追いつけないだろう」

「それで、どこらへんで待ち伏せますか?」

「そうだなあ」


 周囲を見回したマッツォーラは、待ち伏せに丁度良さそうな熱流砂の盛り上がりを見つけた。


「あそこの影に入ろう」

「了解」


 副長はハッチを覗き込むと大声で進行方向の指示を出した。


 そして私掠船バンダル号が熱流砂の影に入ると、再び副長がハッチに怒鳴った。


「待機姿勢」


 命令を実行するようにバンダル号が振動すると、本体が地面に向けて降下し、その両側に6本の足を折り畳まれた。


 それは港でよく見る停止の姿勢と同じだったが、違う点はここが熱流砂のど真ん中だという事だ。


 私掠船バンダル号は熱流砂の中に溶け込むように赤黄色に塗装されていて、それが保護色になり動かなければ殆どの見張り員の目をごまかす事が出来た。


 だが、熱い熱流砂の中姿勢を低くした状態でじっとしていると、当然船内に熱がこもって蒸し風呂のような状態になる。


 だが、熱さに強い駱駝族にとっては何でもない事だった。


 姿勢を低くすると当然、視界が狭まって敵を見つけられないと思うだろうが、この船にはそれを解決するための装備があった。


「よし、観察鏡を上げよ」


 マッツォーラの命令で副長が船体上面に格納されている細長い筒がゆっくりと立ち上がっていった。


 この筒の内部に反射鏡があって外の様子が見えるようになっていて、船が待機姿勢になった時でも、移動時と変わらない視界を確保できるのだ。


 そして相手からは砂が舞い上がる中、細い棒にしか見えない観察鏡を見つけるのはほぼ無理なので、一方的に敵を観察できる。


 マッツォーラは、のぞき穴の両側に延びる取っ手を握り360度全周を精査した。


「周囲に敵影なしか」


 マッツォーラがそう言うと副長がにやりと笑みを浮かべた。


「くくく、連中、こんな仕組みになっているなんて夢にも思っていないでしょうね」

「だからいいんじゃないか。獲物が勝手に死地に飛び込んできてくれるんだからな」


 マッツオーラがそう言うと、指令室に居る全員から笑い声が上がった。


「船長、我々の方が砂の連中よりも稼ぎがいいのはこうやって待ち伏せるからですぜ。お陰でかかあの機嫌も良くて助かってまさぁ」


 その言葉に指令室の全員が笑みう浮かべながら頷いていた。


 部下が砂といったのは、同じように私掠船で獲物を狙っている砂狐族の連中だ。


 連中は主に人間共の町間を運行している船に乗っている人間を狙っていて、夜襲が得意な連中だった。


 金目の物をかっさらい、体は奴隷として売っぱらうのが連中のやり方だ。


 だが、我々は白昼堂々襲い掛かるのだ。


「ふん、俺達は栄えある駱駝族だ。砂の連中みたいに夜中に駆けまわるなんて無様な事はせんさ」


 皆が集まっている指令室では、その光景を思い浮かべて同族の仲間達が笑い声をあげていた。


 後は何も知らずに近づいてくる獲物を奇襲するだけだった。


「よし、私掠船バンダル号はこれから待ち伏せシフトに入る。当直員以外は休憩に入れ」

「「「はい」」」

「では副長、最初のシフト頼む」

「はい、お任せください」


 熱流砂の中を移動する船の航続距離は、積載した水の量で決まる。


 それは私掠船でも同じだが、駱駝族は両肩に水をため込んだこぶを持っているので、熱流砂の中で長時間の待機が出来るのだ。



 バンダル号の船長室は、ベッドと机、それに衣装ダンスがあり、隅には小さなキッチンもあった。


 船長室に戻ったマッツォーラは、キッチンでお湯を沸かすとカップにお茶を注いだ。


 獣人族の国家は各部族が手を結んだ連合国家であり、現獣王バルボも族長会議で選出されていた。


 マッツォーラもバルボを支持した1人だが、それはこうやって人間の船を合法的に襲って良いという許可をくれるからだ。


 そしてのんびりお茶を楽しんでいると、扉がノックされた。

「入れ」

「失礼します」


 顔を出したのは当番兵だった。


「船長、副長から伝言です。敵発見」

「よし、分かった」


 駱駝族の族長であるマッツォーラは、私掠船に乗っている時だけは自分を船長と呼ぶように命じていた。


 マッツォーラは船長を示す豪華な三角帽を被ると、指令室に向かった。


 指令室の中では、当直の副長が観察鏡を覗き込んでいた。


「副長、どうだ?」


 マッツォーラが声をかけると、副長が観察鏡から目を離してこちらを見た。


「連中、まっすぐこちらに向かって来ていますよ。待ち伏せされているなんてこれっぽっちも思っていないようですぜ」 


 副長はそう言うとニヤリと笑った。


 マッツォーラは監視鏡を覗き込んで、やって来る獲物を観察した。


「あれは・・・要塞に物資を運ぶ補給船に見えるな。偽装軍船ではなさそうだ」

「はい、そう見えます」


 この流域で私掠船が出るようになってしばらくして、人間どもは補給船と見せかけて騎士を乗せた偽装軍船を運行していた。



 敵発見から襲撃出来る距離まで近づくまでの時間が、マッツォーラには一番つらい時間だった。


 だが、その待ち時間もそろそろ終わりに近づいていた。


「良し、乗組員に戦闘用意を命じろ」

「はっ」



 獲物は何も知らずにこちらに向けて近づいていた。


 そしてこちらの衝角の攻撃範囲内に入った瞬間、マッツォーラが航海長のブランダに命じた。


「よし、バンダル号急速起動、敵船にぶちかませ」

「「「おおお」」」


 指令室内の同胞が歓声を上げる中、それまで眠っていたバンダル号が急速に覚醒すると足元が急上昇する何時もの感覚があった。


 そして指令室の真正面に敵の船が現れると、一気に加速すると敵船が目の前に迫った。


「激突するぞ。何かに掴まれ」


 航海長の怒声にマッツオーラも観察鏡に捕まると、船首の衝角が敵船の船体に激突した。


 激しい衝撃音と共に振動が伝わって来た事で、奇襲が成功した事を確信したマッツォーラはメイスをひっつかむと号令を発した。


「野郎ども、切り込めぇ」

「「「おおお」」」


 マッツオーラの号令が飛ぶと、部下達が武器を掴むと船首に向けて駆け出していった。


 マッツオーラは見事に衝角を激突させた航海長に頷いた。


 言葉にする必要も無く、航海長は私掠船バンダル号に残り、マッツオーラ達が仕事をしている間、敵の援軍が来ないかを見張る事になっていた。


 航海長が頷いて了解したのを見て、今度は副長を見てから船首に向けて駆け出した。


 副長も視線を向けるだけで意思が通じていて、マッツオーラの直ぐ後を付いてくるのが足音で分かった。


 バンダル号の船首に辿り着くと、既に部下達が敵船に乗り込み橋頭保を確保しているところだった。


 まあ、襲った船は補給船なので船員はそれほどいるはずも無いので、制圧は簡単だろう。


 既に何隻も敵の補給船を襲っているので、船内構造は頭の中に入っていた。


「副長は右通路、戦闘隊長は左通路、俺は中央の大型倉庫を制圧する。行け」

「「はっ」」


 副長と戦闘隊長がそれぞれ1隊を率いて離れて行くと、マッツオーラは残った1隊を見回した。


「よし、俺達は中央の大型倉庫を制圧する。物資が積み上がった大型倉庫には隠れる場所が沢山あるから油断するなよ」

「「「おおお」」」


 全員が了解するのを見て、笑みを浮かべた。


「そして胆を冷やした敵兵は砂風呂に入って温まりたいだろうから、熱流砂の中に投げ込んでやれ」


 マッツオーラはそう言うと、何時もの事なので部下達がニヤリを口角を上げた。


「よし、前進」


 大型倉庫に入ると、予想通り補給物資が入った木箱が天井まで積み上げられていて、敵兵が潜んでいそうな隙間が無数にあった。


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