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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第4章 バキラ
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97 補給船

 

 私を拘束した連中は、最初のうちは何度も「王子は何処だ?」と同じことを尋問していたが、私がその度に「国際問題だ。神殿に連絡すべし」と言い返していたら、次第に尋問をしなくなった。


 その代わり、ずっと拘束が続いていた。


 今も独房の中でいら立ちを解消するため壁を蹴ると、直ぐにグロウ様とモーフ様が念話を送って来た。


「なんじゃ、アリーちゃんここを脱出したいのなら、わらわが木を成長させて壁をつきやぶってやるぞ?」

「それよりも僕が螺旋水流で建物ごと粉砕してやった方が早いわよ」

「えっと、モーフ様、そのなんだか恐ろしそうな技は、このあたりが大変な事になりませんか?」

「大丈夫よ。ちょっと水浸しになるだけよ」


 神獣様の感覚は人間と違うので、そのちょっとだけがとんでもない事態になりそうな気がしてとても安心できません。


 やがて階段を降りて来る足音が聞こえると、直ぐに扉が開いた。


「おい、出ろ」

「また尋問ですか? それよりも神殿に連絡を取って下さい」

「いいから出ろ」


 私を呼びに来た兵士がいつもの者と違っていたので、目的を知る為に聞いてみたが、どうやら何も話したくないらしい。


 だが、男の不機嫌な顔に皺が寄ったのを見て、これ以上口を開いて余計な苛立ちを与えるのは良くないと判断して、大人しく出る事にした。


 窓の無い地下牢から上がると、今は夜中のようだ。


 そして建物の外に出されると、そこには護送馬車が待機していた。


「乗れ」


 そう促されたが、なんだか嫌な予感がして躊躇した。


「何処に行くのですか?」

「いいから乗れ、それとも手伝って欲しいか?」


 そう言った男の顔が歪んだので、抵抗すれば暴力を振るわれそうだ。


 仕方なく私は黙って護送馬車の中に入った。


 動き出した護送馬車の振動を体で感じていると、何度か曲がった後、ようやく停止した。


 外からは人の声が微かに聞こえてきたので、誰かが待っていたらしい事が推察された。


 やがて足音が聞こえると護送馬車の扉が開かれ、先ほどの男が顔をだした。


「出ろ」


 相変わらず口数の少ない男である。


 護送馬車を降りて周りを見ると、そこは来た時に見たチャンピの港だった。


 周囲は暗いのに桟橋に1隻の砂流船が停泊していて、明かりの中で荷物の積み込み作業が行われていた。


 私は背中を押されて積み込み作業をしている船の桟橋を歩かされると、その先に作業を見ている船長らしい服装をした人物が、手に持ったクリップボードを指し示している作業員と話をしていた。


 そして私達が近づいてきたのを見た船長は「はぁ」とため息をつくと、私を連れて来た男を見た。


「本当に小娘じゃないか」


 その言葉には非難が含まれていた。


「これは上からの命令だ。お前は従っていればいいんだ」


 それを聞いて私の頭に浮かんだのはあのいけすかない近衛隊長の顔だった。


「分かりました。それでは要塞の送る1つの荷物として取り扱います」


 私は荷物扱いなのかと不満を覚えたが、此処で脱走を試みても指名手配されて余計に行動の自由を奪われるだろうと考えて、成り行きを見守る事にした。


 そして促されるまま砂流船に乗ると、窓の無い狭い部屋に押し込まれた。


 わずかな時間だったが船の中を観察できたので、この船が貨物船だというのが分かった。


 成程、荷物の1つと言われた訳ね。


 慌ただしい積み込み作業が終わると、私が乗った砂流船は動き出した。


 +++++


 近衛隊長ドメニコ・バレージは、港から少し離れた場所でイーゼル要塞行きの補給船が出発するのを見守っていた。


「やれやれ、これで肩の荷が下りたぜ」


 最初、近衛隊の宿舎にオルダーニ侯爵家の者がやって来て、第3王子が誘拐されたと聞かされた時、その犯行に加担したのがアルドリット公爵家のシリルだと知らされて、これは王妃陛下への手柄になると喜んだのだ。


 そして犯人を乗せた船がチャンピ沖に現れたとの知らせがあった時、早速部隊を率いて捕縛に向かったのだ。


 最初は、簡単な仕事だと思っていた。


 犯人を捕まえて第3王子の居場所を吐かせて、救出に向かえばいいと。


 だが、予想に反して第3王子の行方は分からない。


 捕まえた共犯者は神殿関係者らしく、下手をすると国際問題になりそうだった。


 その上、王妃陛下からは一刻も早く第3王子を解放させるように何度も圧力を掛けられていた。


 ドメニコは、しびれを切らした王妃陛下に呼び出された時の事を思い出していた。


 指定されたサロンに行くと、そこには沢山の侍女を従えた陛下がイライラした様子で待ち構えていた。


 ドメニコは、少し離れた場所で立ち止まると片膝を突いて頭を下げた。


「王妃陛下、お呼びでしょうか?」

「バレージ伯爵、クレートは、我が息子の救出はどうなっているのですか?」


 クレート・エリア・ラッジ、この国の第3王子で正妃が産んだ唯一の男児だ。


 晩年に産んだ男児だった事もあり目に入れても痛くない程かわいがったせいで、かなりの俺様王子、こほん、中々活発な王子に育っていた。


「はい、宰相閣下が獣王国に対して外交官を差し向けているところだと思われます」

「それはルッジ卿から聞いています。材料はそろっているのでしょう? 何故、さっさと解放させないのですか?」


 ドメニコは自分が知っている部分を伝えたが、正妃は益々不機嫌になっていった。


「それに聞くところによるとアルドリット公爵と神殿が横やりを入れているそうではないか。万が一にも手駒を失うような事があってはならぬ」


 手駒とは、青髪の神官の事だろう。


「今の所、宰相閣下が外部からの圧力をはねのけているので大丈夫だと思われます」

「それは絶対か?」


 宰相も第3王子の解放を最優先しているので、アルドリット公爵や神殿からの圧力をはねのけているので正妃の心配は杞憂に思えるが、何事にも絶対はないのだ。


「私の口からはなんとも・・・」


 ドメニコがそう言った途端、正妃の方向から「バシン」という鋭い音が聞こえて、思わず背筋を伸ばした。


 音の元は、正妃が手に持っていた扇子で、相当強く叩きつけたようで折れ曲がっていた。


「それでは困るのです。バレージ伯爵、今すぐ手駒をアルドリット公爵や神殿の手が届かない場所に移動させるのです」


 そんな場所、今のチャンピにあるのか?


「えっと、王妃陛下、思い当たる場所がチャンピにはなさそうですが?」

「イーゼル要塞に連れて行けばいいでしょう」


 イーゼル要塞は、獣王国と国境を接するイーゼル平原にあるバキラ王国側の軍事拠点だ。


 あそここそアルドリット公爵家の影響力が強いんじゃないのか?


 だが、口答えをすることはご法度だった。


「分かりました。手配いたします」

「実施後、直ぐに報告に来なさい」

「はい」


 そして要塞に補給物資を送り届ける補給船の船長に荷物を1つ余計に詰む事を命じたのだ。


 受け取りは第3王子派の防衛隊長宛てだった。


 後は、宰相が外交ルートでの交渉が成功するのを祈るのみだ。


 ドメニコは再び「はあ」とため息をつくと、報告のため正妃の元に急ぐことにした。


 +++++


 船流船の窓の無い小部屋に閉じ込められた私は、船が動き出した振動を感じると、危険感知を発動した。


 チャンピの港を出た時は沢山の白い反応が現れていたが、船が熱流砂の中を進んで行くと次第に白い反応は消えていき、ときおり遠い場所に赤い反応が現れる程度になった。


 あの赤い反応は熱流砂に巣くう魔虫なのだろう。


 やがて扉が開き船員が顔をだすと、手に持った小さなバスケットを差し出してきた。


「ほら、あんたの飯だ」

「ありがとう」


 そう言って差し出されたバスケットを受け取ると、そこには黒パンと水が入った小瓶が入っていた。


「あの、この船、何処に向かっているのですか?」


 私がそう質問すると、船員は首を横に振った。


「あんたには何も知らせるなと言われているんだ。悪いな」


 そう言うと直ぐに扉を閉めて鍵をかけられた。


 まあ、食べ物を与えられているのならまあいいかと、早速パンをかじってみた。


 う~ん、ちょっと固いわね。


 私は蓋を兼ねたコップを取ると、水瓶から水を注いで飲んだ。


 そして食事を終えて再びやる事が無くなった私は、危険感知を発動して周囲の状況を確かめていると、船が進む方向に赤く輝く反応が現れた。


 直ぐに回避行動をとるのだろうと思っていたが、船はその赤い輝点に向けてまっすぐ進んでいた。


 気が付かないのか?


 それとも分かっていて態とそれに近づいているのか?


 その疑問への答えは、船がその赤い輝点と交差した時に分かった。


 突然、大きな音と共に船体が激しく揺れると床が傾きだした。


 そして船内が慌ただしくなるとともに船員達の怒鳴り声が聞こえて来た。


「砂賊だ。待ち伏せされたぞ」

「馬鹿野郎、見張りは何をしていたんだ」

「それが見えなかったらしい」


 え、危険感知にはあれだけはっきり見えていたのに、見張りは見えなかったの?


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