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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第4章 バキラ
95/97

95 捕縛

 

 救助活動を終えて砂流船に戻ると、砂賊に対する警戒が厳重になっていた。


 そして見張りが何かの影を見つける度に回避行動を取るので、その度に行程に遅れが生じていた。


 そんな行動を疑問に感じた私はシリルに尋ねてみた。


「ねえ、この船に砂賊を撃退するための武器は無いの?」

「これは民間船だからな。そんな物を積むより人を多く乗せた方が儲かるだろう?」

「まあ、そう言われてしまえば確かにそうなんだけど、乗客の身の安全を守るのも仕事じゃないの?」


 私がそう言うと、シリルはふっと笑みを浮かべた。


「砂賊も同じ船を使っているんだ。見張りが見つけて回避すれば追いつけないし、問題は無いだろう」

「でもさっきの船は捕まったわよね?」


 私がそう指摘すると、シリルはちょっと考え込んだ。


「見張りをおろそかにしたか、罠に嵌められたとかかな?」


 まあ、危険がある航路を往復していても、何も無かったら次第に油断が生まれるのはままあることよね。


 長くなった航海中にシリルとカーリーはあの男について色々調べていたようで、3人で集まった時にその結果を教えてくれた。


 シリルはあの男の事を知っていたようで、オルダーニ侯爵家の3男でエジェオという名前だと教えてくれた。


「問題はここからなんだが、あの男は解任されていなかったら国の第3王子の護衛を兼ねた側近の筈なんだ」

「そう?」

「だが、あの船に第3王子は居なかっただろう?」


 そう言われると確かに守るべき主が居ないのは変だった。


「それじゃあ、解任されたんじゃないの?」

「それならいいんだが、そうじゃなかった場合が厄介なんだ」

「では、休暇であの船に乗っていたのでは?」


 私がもう1つの可能性を口にしてみたが、シリルは首を横に振った。


「私服だったらそうだともいえるが、あいつが着ていたのは公務時に着る制服だ。第3王子があの船に乗っていたら、意識が戻った時に真っ先に聞くのが王子の無事だろう? それが無いという事は何か隠していると思わないか?」


 確かにそう言われると変よね。


「それにあの船には、砂賊に襲われた痕跡があったでしょう?」


 カーリーの指摘に、王子が攫われたと言う可能性が出てきた。


「それで、どうして私を睨むのですか?」

「分からない。ひょっとして何処かで会っていて、恨みを買ったという事はないのか?」

「そんな筈ないでしょう」


 シリルのとんでもない指摘にムッとしたが、何だか嫌な予感がひしひしと感じていた。


 砂流船は見張り員が何か見つける度に航路を外れ何度も迂回したが、それが功を奏したのか敵に出くわすことも無くチャンピまで到着する事が出来た。


 その間、あの男と顔を合わせる事は無かった。


 砂流船がチャンピの港に到着すると、桟橋には多くの人達が集まっていた。


 その制服から船の運航会社の社員だと思うが、その中に混じって鎧と剣で武装した集団も居た。


「シリル、あれ、お仲間さん?」


 私がそう尋ねると、シリルは首を横に振った。

「あれは近衛の連中だ。俺達とは違うな」

「近衛という事は第3王子の件かしら?」

「多分、そうだろうなぁ。エジェオ・オルダーニに用があるだけならいいが、それ以外であそこにいるとしたら厄介事しか思い浮かばないな」

「そうですねぇ、オルダーニ家といえば保身には余念がないですからねぇ」


 カーリーがそう補足してきたので、更に嫌な予感がしていた。


 乗客達は予定の倍もかかってチャンピに到着した事もあって、既に下船する準備を整えて整列していた。


 やがて砂流船が完全に停止して後部が開き連絡橋が接続されると、行列を作っていた乗客が次々と下船していった。


「それじゃあ俺達も船を降りよう。ああ、アリソンは俺達と一緒に我が家に来てくれないか。歓迎するよ」

「ええ、分かりました」


 ギーザ様の情報を集めるのにシリルの実家が協力してくれるというのなら、素直にお力をお借りしましょう。


 そして降りる準備を整えて、下船していく乗客の列の後尾について行った。


 桟橋では船会社の人達が歓迎の拍手で迎えてくれた。


 その中を通って行くと、私達の行く手を遮るように鎧を着た連中が隊列を組んだ。


「アルドリット公爵家のシリル殿、騎士団のブレナン副隊長ですな?」

「ああ」

「ええ」


 2人が返事をすると、声をかけた騎士が頷いた。


「では、あちらで事情聴取に協力してもらいます」


 そして2人が何を言っても無視して連行していった。


 何が起こったのかと2人が連行されて行く後ろ姿を見送っていると、私の周りに鎧を着た騎士が集まって来た。


「そこの青髪、お前には第3王子誘拐犯の一味だとの嫌疑がかかっている。怪我をしたくなかったら抵抗するなよ」


 その言葉を合図にしたように私を取り囲んだ騎士が剣を抜いた。


 どうしたらそんな馬鹿馬鹿しい嫌疑をかけられるのかと思ったが、思い当たるふしとしてはあの男がある事無い事吹き込んだと直ぐ気が付いた。


 そこまでして自分の失態を他人に擦り付けたいのか。


 ここで抵抗しても怪我するだけだと思い、大人しく捕まる事にした。



 先ほどから念話でグロウ様とモーフ様が、ぶつぶつとあの連中への文句を口にしていた。


 それというのも、騎士達にこの地下牢まで連行されるまでの間、随分手荒な扱いを受けたからだ。


 あちこち擦りむいたので自分で治癒魔法を掛けていると、鎧を着た男がやって来た。


「おい、さっさと出ろ。これから尋問だ」


 男の傲慢な態度に直ぐにグロウ様とモーフ様が怒り出した。


「のう、アリーちゃん、あいつの処分はわらわに任せるのだ」

「何を言っているのよ。僕が水葬にしてやるのさ」


 拙い、ここで神獣様に本気をだされると余計ややこしくなりそう。


「グロウ様、モーフ様、ここで面倒を起こすとギーザ様の情報を得られません。暫く様子見でお願いします」

「むう、アリーちゃんがそう言うなら」

「そうね。ここはアリソンに任せましょう」


 私が前後を騎士に固められて階段を上って行くと、前を歩く騎士は廊下の先にある扉の前で止まった。


「隊長、連れてきました」

「入れ」


 アリソンが部屋に入ると、テーブルの向こう側に偉そうな恰好で椅子に座る男が居た。


 その目は獲物を狙うように細められ、左右に延びた口ひげは威厳を表そうとしているが、頭のてっぺんが禿げているのでその威厳も台無しだった。


「座れ」


 その男がそう言ってきたので、私は態と頭を下げて髪の毛を後ろに払ってやった。


 その動作に一瞬顔をこわばらせたが、私が対面の椅子に座るのをじっと待っていた。


「私は近衛隊長ドメニコ・バレージだ。お前の名前は?」


 私が椅子に座ると早速そう聞いてきたので、威厳たっぷりに返してやった。


「私はアンスリウム大神殿所属のアリソン下級神官です。このような扱いに対して抗議します」

「お前、アマハヴァーラ教の神官だったのか。だが、バキラの地ではお前達は嫌われていると知らないのか?」

「好き嫌いはどうでもいいでしょう。これは国際問題だと言っているのです」


 尋問室に沈黙が流れたが、先に動いたのは相手の方だった。


「何故、バキラに?」


 その口調がそれまでと違っていたので、これが国際問題になると分かっているようだ。


「カルテアへの巡行の途上です。モステラから船に乗れなかったので、バキラから陸路で向かう途中でした」

「だが、こちらには証人がいる。お前が獣人国に加担していると言っているぞ」

「それはその証人の妄想では? 私と同行していた2人に聞いてもらえれば分かると思いますが、私はバキラに来たのはこれが初めてです。元々バキラに来る予定も無かったのにどうやったら聞いたことも無い獣人国に加担出来ると言うのです?」


 私がそう疑問を口にしたが、目の前の隊長は何故か口角を上げたのだ。


「ほう、聞いたことも無い獣人国か。では、その国の連中がお前を知っているのは何故なんだ?」


 そんな事知るかっと怒鳴りたかったが、勿論そんな事は言わない。


「まるで理解できませんね」

「あくまでも白を切るか。まあ、時間はたっぷりあるからそれでもかまわないがな」


 ちょっと待て、それってこれから先もずっと拘束すると言っているの?


「チャンピのアマハヴァーラ教の神殿に連絡を取りたいのですが?」


 神殿に助けを求めるのは不本意だが、表向き私はアマハヴァーラ教の神官なのだから、ここはその立場を最大限に活用させてもらいましょう。


 目の前の男は心の中で葛藤しているのか、暫く黙ったままだったが、やがて「はぁ」とため息をつくと、首を縦に振った。


「こちらの尋問に素直に応じれば、神殿と連絡をとってやってもいいだろう」


 こいつ、そのつもりは全くないじゃないの。


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