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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第4章 バキラ
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94 擱座した船

 

 船の中では、擱座した砂流船の対応を巡って係員が慌ただしく動く中、シリルがカーリーに声をかけた。


「カーリー、騎士団員として協力しよう」

「はい、そうですね」


 そうか、この2人バキラでは騎士団に所属していたのね。


「あのう、私もこの地の環境調査のため協力したいのですが?」


 断られるかもしれないと思いながらもそう言ってみると、意外と2人とも頷いていた。


「ああ、よろしく頼む」

「そうですね。アリソンちゃんなら何か気付くかもしれませんし」


 シリルは船内を走り回る船員を捕まえて交渉すると、直ぐに戻って来た。


「連絡艇を使わせてくれることになった。船首に向かうぞ」


 私達が通路を船首に向かって進むと、下に降りる階段が見えてきた。


 先導していた船員がその階段を降りて行くと、シリル、カーリーとそれに続いたので、私も階段を降りて行った。


 1段下になった通路には床にハッチがあり、その1つが開けられていた。


「皆さん、ここから連絡艇に入って下さい」


 ハッチを覗くと下に降りるはしごがあったので、私は後ろ向きになって足からはしごを降りて行った。


 下に到着すると、先に降りていたシリルが操縦席のような場所に、カーリーはその隣に座っていた。


 この2人の行動を見ていると、連絡艇の操縦には慣れているように見えた。


「アリソンちゃんは後ろの椅子に座って腰のベルトを締めてね」

「はい、分かりました」


 カーリーに指定された場所には向かい合わせになった長椅子があった。


 私は言われた通りその椅子に座ると、椅子に取り付けられていたベルトで腰回りを固定した。


「ベルトを締めたわよ」


 私がそう言うと、シリルが「よし」と返事を返してきた。


 そしてカーリーが先ほど降りて来たハッチを閉めて座席に座ると、シリルの「出発」という言葉と同時に私の体が急降下した。


「ひえっ」


 突然だったので思わず声が漏れたが、直ぐに降下が止まった。


 何が起きたのかと窓の外を見ると、頭上に先ほどまで乗っていた砂流船があり、自分の視線がかなり下になっていた。


「アリソンちゃん、砂流船は船首下部に連絡艇を吊り下げているの」

「凄いですね。バキラがこんなに進んだ国だとは思いませんでした」


 私がバキラの技術力に感嘆していると、直ぐにカーリーが理由を教えてくれた。


「これは節足魔虫の体を利用しているの」

「節足魔虫?」

「ええ、バキラに出る魔物ね。節足魔虫は熱流砂の中を自由に歩き回る事ができるのよ。それを見たマジック・アイテム技師が節足魔虫の体を使って乗り物が作れないかと研究してね。その成果がこの砂流船なの」

「へえ、こんなに凄いのなら他国から買い付けに来そうだけど?」


 私がそう言うとカーリーもさも当然といった感じで頷いた。


「ええ、実際ユッカの商人が購入したんだけど、バキラからユッカに入った途端動かなかったって話よ」

「え、これってバキラでしか動かないんですか?」

「どうも、そうらしいの」


 私が帽子に擬態しているグロウ様に念話を送った。


「魔物の体を使って乗り物を造る事なんて出来るんですか?」

「ギーザなら、そんな遊びを考えてもおかしくないぞ」

「それがユッカで使えないのは何故なのですか?」

「簡単じゃ。わらわの土地にギーザの力は及ばないからな」


 ああ、そう言う事なのですね。


 私は連絡艇が向かっている擱座した砂流船を見た。


「熱流砂を動ける砂流船が擱座したとなると、これは砂嵐の中、移動を強硬したことによる事故ですかね?」

「いや、あれを見るかぎり襲撃されたな」


 シリルが指さす方向を見ると、擱座した船の後部に穴が開いていた。


「魔物ですか?」

「いや、あれは、砂賊だな」


 砂賊ってタインの町で隣の客が言っていた獣人の盗賊のことよね。


「砂賊って、砂漠の地面を走って来るのですか?」

「いや、連中も砂流船を使っているんだ。しかも改造してな」

「改造って何です?」


 私が疑問を口にすると、シリルが擱座した船の穴を指さした。


「連中の船には衝角が付いているんだ」

「衝角?」

「ああ、ぶつけて穴を開ける武器で、相手船に穴を開けて、そこから乗り込んで来るんだよ」

「接近戦は獣人に分がありますからね。乗り込まれたらお終いなのよ」


 シリルの話にカーリーが補足をしてくれた。


「獣人ってみんな砂賊なんですか?」

「いや、そんな事もないんだ。獣王がならず者達に人間の船は襲って良いと許可を出しているんだよ」

「ええ、連中はそれを私掠船免状なんて呼んでいますね」


 カーリーはそう言って不満そうに唇をすぼめていた。


「それって、獣人の国との間で緊張が高まっているという事ですか?」

「ああ、そうだな」

「何度も、こんな事は止めて欲しいと使者を送っているけど、完全に無視されているの」


 バキラで環境が悪化しているというのに争いまで起こっているなんて、これどうすればいいの。


 ユッカでもモステラでも、神獣様の居場所を教えてくれたのは亜人達なのよ。


 それでも一縷の望みをかけてシリルに質問してみた。


「ねえ、バキラの地で立ち入り禁止になっている場所とか、崇められているような場所ってあるの?」

「聞いた事ないな」


 やっぱり駄目か。


 では獣人に聞けるかというと、敵対していてはそれも難しそうだ。


 そんな事を考えていると、連絡艇は擱座した砂流船に到着していた。


「あの破孔から中に入ってみよう」

「生存者、居ますかねぇ?」


 カーリーのその質問にシリルは厳しい顔になった。


「望みは持つべきだ」


 私達は天井のハッチを開けて外に出ると、擱座した船に開けられた破孔を見た。


 破孔には焼け焦げた跡もなく、何か固いものが突き破ったように内側に向けてひしゃげたような感じだった。


 私はシリルの助けも借りて破孔から船内に入ると、直ぐに違和感を覚えた。


「船体が傾いているので、なんだか気持ち悪いですね」


「ああ、影響が出る前に手早く船内をしらべてしまおう」


 傾いた船内を歩くのは想像以上に困難で、そのうえ平衡感覚もおかしくなっていた。


 それでも客室がある場所まで移動したが、そこには誰も居なかった。


「誰も居ないわね」

「連絡艇で脱出したか、連れ去られたか、それとも殺されて熱流砂に落とされたか」


 シリルが不吉な事を口にしたが、今確かめられるのは連絡艇が残っているかどうかだった。


「船首の方も調べてみましょう」

「ああ、そうだな」


 そして斜めになった通路を苦労しながら進むと、ようやく階段が現れた。


 その階段の先に連絡艇のハッチがある筈なので、傾いた階段を苦労しながら潜って行くとそこにはハッチが2つ並んでいた。


「連絡艇が使われた形跡は無いわね」

「ああ、そうだな。最後にもう一度見回ってから戻ろう」

「分かったわ」


 そして連絡艇に戻る前にシリルが大声を上げた。


「我々はバキラ王国騎士団だ。誰か残っているか?」


 すると、どこかから物音が聞こえて来た。


「シリル」


 私が注意を促すと、シリルも頷いた。


「何処に居る。居場所を知らせろ」


 すると船体が傾いたことでゴミが集まった場所から、何やら音が聞こえて来た。


 シリルは一瞬嫌な顔をしたが、諦めたのかそのゴミの山に向かうとゴミをどけ始めた。


 そしてシリルがゴミの中から大怪我をした男を引っ張り出した。


「アリソン、怪我の治療を頼めないか」

「ええ、分かったわ」


 男は重傷だったので、私は瞳の色を見られないようにゴーグルをつけると、神眼を開いてから治癒魔法をかけた。


 治癒魔法が効いてくると、ぐったりしていた男の中に生気が戻ってきた。


 やがて目が開き、かがみ込んでいる私の顔を見た男が目を見開いた。


「俺に触るな」

「きゃっ」


 手で払いのけられた私が床に倒れると、後ろに居たカーリーが助け起こしてくれた。


「ちょっと、命の恩人になんてことするのよ」

「お前達は何者だ?」

「擱座した砂流船を見つけたから救助に来たのよ」


 男はそう言ったカーリーを見つめていた。


「お前、バキラ人だな。何故、こんな女と一緒に居るのだ?」

「俺が招待したんだよ。これから一緒にチャンピに行くんだ」


 そう答えたシリルを見た男が目を見開いた。


「まさか、公爵家の者か?」

「ああ、俺はシリル・アルドリットだ」

「その女を招待したのは、公爵家の総意なのか?」

「いや、俺の判断だ」

「そうか。では、俺もチャンピまで送ってくれないか」

「元々俺達が乗って来きた砂流船はチャンピ行きだ。その船に救助されたのだから自然とお前もチャンピまで連れて行ってもらえるだろう」

「そうか」


 そう言ったきり男は黙り込んだ。


 帰りの連絡艇の中では、カーリーが気を利かせて座席の場所を変わってくれたが、私の後頭部にあの男の冷たい視線が突き刺さっているように感じていた。


 あの男とは初対面の筈なのに、なんでこんなに敵意を向けられるのだろう?


 まさか、顔を覗き込んだ時に神眼を見られたのだろうか?


 もし、そうだとするとこの男はカラスの関係者という事になるので、警戒しておいた方が良さそうね。


 連絡艇が砂流船に戻ると、救助した男はそこで待っていた船長を捕まえてどこかに行ってしまった。


 私達は残った船員に擱座した船にはあの男以外生存者がいなかった事を伝えた。


 まあ、あの男以外誰も居なかったんだけどね。


 私達が客室に戻った頃には、もう砂流船はチャンピに向けて動き出していた。


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