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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
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92 大裂孔越え

 

 バキラに向けて出発する日、モステラ王家から送られてきた馬車隊が宿の前にやって来た。


「アリソン殿御一行様をバキラとの国境まで送らせていただきます。私は馬車隊の隊長セグロラです。短い間ですが、よろしくお願いします」


 王都ダルチェを出発した馬車隊は、ノームが消え見通しが良くなった道を軽快に飛ばしていた。


 馬車の窓から外を眺めていると、シリルが声をかけて来た。


「来た時とは雲泥の差だな」

「ええ、ノームが消えて魔魚も出なくなりましたからね。まさに観光旅行って感じでとてもいいですね」

「ああ、環境が良くなった土地を旅するのはとても気分がいいな。これからバキラもこうなると思うと、期待で胸が膨らむよ」


 シリルは私がバキラの環境を整えてくれると、信じているようね。


 でも、私はバキラの事を何も知らなかった。


 そこでローブに擬態しているモーフ様に念話を送ってみた。


「モーフ様、モステラに船が無く海路でカルテアに行けなくなったので、陸路でバキラに向かっています」

「バキラ? ギーザの土地ね」

「えっと、ギーザ様というのがバキラの神獣様なのですか?」

「ええ、変わり者で、いたずら好きで、他人に迷惑をかける事を何とも思わない厄介者よ」

「えっ、神獣様がそんな性格でいいのですか?」

「環境さえ整えていれば、性格なんてどうでもいいでしょう?」


 ま、まあ、確かにお世話する私達にとっては大変だけど、その土地に住んでいる人達は環境が整っていれば問題ないわね。


 すると今度は帽子に擬態しているグロウ様の念話が聞こえてきた。


「アリーちゃん、今のバキラは熱いわよ」

「ふふふ、グロウは熱に弱いから、あの土地なら僕に任せておけばいいのさ」

「あのう、熱いって、砂漠だからという事ですよね?」

「ええ、熱砂が吹き荒れているわね」


 グロウ様が嫌そうな声でそう言ってきた。


 熱砂が吹き荒れるって、砂漠の砂が風で舞い上がるような感じですか?


 私があれこれ思いを巡らせていると、護衛の騎馬が馬車に寄って来た。


「お客様方、そろそろ国境である大裂孔です」


 私はそう言われて、ユッカとの国境には大裂孔に橋とその傍に詰め所があったが、バキラとの国境にもあるのだろうかと窓の外を覗いてみた。


「何も見えないわね」


 私の呟きを聞いたのか、シリルが直ぐに返事を返してきた。


「橋はないぞ」

「えっ、それじゃ、どうやってバキラに行くのですか?」

「ああ、これはこれを使うんだ」


 そしてシリルが私に見せてきたのは、細長い棒状のものだった。


「これは?」

「飛行魔法のマジック・アイテムだよ」

「えっ、まさか、あの大裂孔を飛び越えるのですか?」

「ああ、何回もやっているから大丈夫だ」


 いや、それは貴方方は慣れているでしょうが、私は初めてですよ。


 そこで私は帽子に擬態しているグロウ様に念話を送った。


「グロウ様、ユッカからモステラに渡った時みたいに、植物の種で橋を作ってもらえませんか?」

「それは構わぬが、ここはモステラの地じゃからのう。モーフが何て言うか」


 ああ、そうか、神獣様は自分の縄張りに他の神獣様が力を発揮するのを嫌がるのでしたね。


「えっと、モーフ様?」

「僕に任せるのだ。アリソンにも楽しんでもらいたいから、いい物を作ってあげるよ」


 なんだか不安を感じるけど、せっかくモーフ様がやる気になっているのだからここはお任せしましょう。


「分かりました。モーフ様、期待しておりますね」

「ふふふ、きっと楽しんでくれると思うよ」








 国境である大裂孔の手前で降ろされた私達は、「良い旅を」といって戻って行く馬車隊に手を振った。


 大裂孔からバキラの方向を眺めると、なんだが赤い靄がかかっているように見えた。


 モステラに来た時が白い靄で、バキラは赤い靄ですか。


 なんだか厄介毎が待っている気しかしないわね。


 馬車隊が視界から消えると、シリルが声をかけて来た。


「アリソン殿、それではこのマジック・アイテムを使ってください」


 そして棒状のものを差し出してきたので、私が直ぐに首を横に振った。


「私には他に方法がありますから、それは必要ありません」


 私がそう言って断ると、カーリーが話しかけてきた。


「アリソンちゃん、他に何か良い方法があるの? それなら私もそれを使わせてほしいわ」

「あ、おい、カーリー、なんてことを言うんだ?」

「え、だって、あれ、結構怖いんですよ。アリソンちゃんが他に方法がると言うのなら、その方が良いんじゃないかと思うんですけど」


 2人が言い争いを始めたので、私は深いため息をついた。


「シリル、それではそのマジック・アイテムで先にバキラに行ってください。私達も直ぐに追いつきますので」


 シリルは何かいいたそうな顔をしていたが、先にタインに行って、王都に行く準備をするため手に持ったマジック・アイテムを使っていた。


 するとシリルの広げた両腕と腰にあたりに掛けて布のようなものが現れた。


 そして一気に跳躍すると、大裂孔から吹き上がる気流を利用して反対側まで飛んでいったのだ。


 あの姿を見て、大裂孔に吹く気流を読まなければ危ないので、素人にはとても無理だと感じた。


「アリソンちゃん、それでどうやって大裂孔を渡るのですか?」


 カーリーのその質問にまずはモーフ様の分身体を魔物と勘違いしないように注意する必要がった。


「カーリーさん、これから大裂孔を渡る為の助っ人を呼び出します。浮遊魚みたいな外見をしていますが、決して魔魚ではないので、攻撃しないでくださいね」

「えっ、魔魚みたいな助っ人?」

「いいですね?」


 私が念を押してようやく頷いてくれたので、ブレスレットの神青石に手を触れた。


 私の目の前に見た目が浮遊魚のモーフ様が現れると、カーリーは「あっ」と声を漏らしたが、念押ししていたこともあって攻撃はしてこなかった。


「アリソンちゃん、これ、大丈夫なのよね?」

「はい、味方ですよ」


 私は呼び出したモーフ様の分身体に声をかけた。


「モーフ様、よろしくお願いします」

「うん、分かったよ」


 カーリーはモーフ様が喋った事にも驚いたようだが、それよりもこれから何が起こるのかの方に興味が向いているようだった。


 モーフ様は大裂孔の端まで浮遊していくと、そこで沢山ある足を動かすと、水が噴き出した。

 その水が反対側にまで達すると、瞬く間に凍ったのだ。


「モーフ様、これは氷の橋ですね」

「正確には、氷の滑り台だね。この氷の板に乗って上まで行くと、後は反対側まで滑るだけよ。ね、楽しそうでしょう?」


 確かに氷の橋を滑らないように注意しながら歩くよりは、よっぽどいいわね。


「流石です。モーフ様」

「ふふふ、もっと褒めていいんだよ」


 なんだか神獣様達は、褒められるのがよほどうれしいらしい。


 そしてモーフ様が満足するまで褒めた後で、カーリーと一緒に氷の板に乗ると、モーフ様のお力でそのまま氷の橋の頂上まで上昇していった。


 頂上からは大裂孔の反対側まで伸びる滑り台があり、両側がせり上がっていて大裂孔に落ちないようになっていた。


 そして溝になった滑り台には抵抗を軽くするように水が流れていた。


「それじゃあ、この氷の箱に入って足を先にして仰向けになってね」


 モーフ様にそう言われて箱の中に入ろうとすると、カーリーに止められた。


「アリソンちゃん、ちょっと待って、ここは年長者優先よね」


 そう言うとカーリーが氷の箱に入った途端、その箱が反対側に向けて滑り出した。


 カーリーは絶唱を残して、大裂孔の反対側に向けて滑って行った。


 その速さが尋常では無かったので、不安になった私はモーフ様に質問した。


「モーフ様、これって反対側でちゃんと止まるのでしょうか?」

「ああ、溝を流れている水が反対側で溜まっているから、氷の箱は水の抵抗で止まれるわよ」


 それはもしかしなくても、ずぶぬれになるのでしょうか?


 そして私もモーフ様がさっさと乗れと手で合図されたので、覚悟を決めて氷の箱に乗り込んだ。


 氷の箱が滑り台の上を滑り始めると、モーフ様は氷の箱に触手をくっ付けて私の後ろを浮かびながら付いてきていた。


 その表情は読めないが、なんだかとても楽しんでいるように見えた。


 滑っていると背筋が冷たくなってきたが、それは箱が氷で出来ているからというよりも顔に当たる風が冷たく体温を奪っているからだった。


 大裂孔はかなりの幅があったはずだが、瞬く間に氷の箱は反対側の終点に近づいていた。


 冷たい風に抗い目を開けて終点地点を見ると、モーフ様が言われた通り滑り台を流れた水が終点に溜まっていてその水の中に氷の箱が入ると、激しい水しぶきが舞い上がった。


 確かに無事バキラ側に入る事は出来たが、私は予想通りずぶぬれになっていた。


 でもそこには先行していたカーリーが待っていて、私がずぶぬれになるのが分かっていたようで直ぐに私の服を魔法で乾かしてくれた。


「アリソンちゃん、大丈夫?」

「はい、ありがとうございます」


 早鐘を打っていた心臓がようやく正常に戻った頃、ローブに擬態していたモーフ様から念話がきた。


「どう、とても楽しかったでしょう?」


 いえ、死ぬかと思いましたとは言えなかったし、モーフ様を褒めておいた方が後々面倒が減るだろうと判断した私は、その言葉に同意することにした。


「はい、モーフ様のお陰でこんなに早くバキラに来る事が出来ました。本当にありがとうございます」

「うん、うん、やっぱりそうだよねぇ」


 そしてモーフ様が触手を振ると、それまで大裂孔の上にあった氷の滑り台がふっと消えていた。


 改めて思うが、神獣様のお力とは凄いものである。


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