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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
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91 新たな疑問


 王城でモステラ国王から船が無いと告げられた私は、この後の事を協議するため神殿に向かっていた。


 ダルチェ神殿の神殿長シーロ・ソルは、私がロエルの町で捕らえられていたマーメイド族を解放した事を伝えるととても喜んでくれた。


 まあ、ドン・ブラウドフットが亡くなった事は黙っていたけどね。


「アリソン下級神官、良くやってくれた。それからノームが消えたのだが、これも貴官がやってくれたのか?」


 目の前のシーロ・ソル上級神官はモステラ出身の神官だが、モステラの環境が戻った事を聞きつけたカラス共が理由を聞きにやってくるかもしれないので、本当の事は言えないなぁ。


 ここは濁しておきますか。


「はい、マーメイド族が崇める聖なる島という場所がありまして、そこに案内してもらい魔力の流れに不具合があったので、それを整えてきました」

「それでノームが消えたのか?」

「原因の1つを取り除いたのだと思います。それが環境を改善する良い方向に連鎖したようです」

「ふむ、成程なあ」


 神殿長が髭を扱きながらそんな事を言った。


「ところで神殿長、私はカルテアに巡行したいのですが船が無いのです」

「ふむ、それだとバキラからディフェンバキアを回りカルテアに入るか、一度アンスリウムに戻って命じた人間にどうするか聞いてみるしかないなぁ」


 ここでアンスリウムに戻ったりしたら、巡行失敗と見なされて大神殿から追放される危険があった。


 そうなると、もう遠回りしてでもカルテアに行くしか方法はなさそうだ。


「分かりました。それではバキラに行ってみますので費用面での協力をお願いします」

「ああ、分かった。準備しよう。それにしてもモステラはこれだけ貢献したのに報奨金も出さないのか?」


 神殿長は私が国王に面会してきたことを知っていて、その対応に不満を現した。


「モステラ側からはバキラまで馬車とそこまでの経費を出すとだけ言われました」

「それだけ?」

「はい、それだけです」

「まあ、今までノームの影響で経済が死んでいたからなぁ。手持ちが無いのかもしれないなぁ」


 まあ、今までノームのせいで国が滅びかけていたから仕方が無いのか。


「神殿もそれほど余裕があるわけではないが、出来るだけの協力はするぞ」

「ありがとうございます。それと、前任の神殿長に合わせて頂けますか?」

「ああ、そんな約束だったな。分かった」


 そして神殿長は事務机の中から1冊の本を取り出してページを開くと、何かを紙片に書き写した。


「これを」


 差し出された紙片を受け取ると、そこには住所と名前が記載されていた。


「このボリバル・クルスという方が前神殿長なのですね?」

「ああ、もういい年だが、ボケてないから問題ないだろう」

「分かりました」



 神殿長との面会を終えた私をシリル達が待っていた。


「やあ、アリソン、随分かかったようだな」

「え、私が神殿に居るってどうして分かったのですか?」

「何で驚くんだ? ダルチェの神殿に報告すると言っていただろう」


 ああ、そう言えばそんな事を言ったような気がしますね。


「それでカルテアにはどうやって行くんだ?」

「モステラにはカルテアまで行ける外洋船が無いらしいわ」

「へえ、それじゃあ、バキラからディフェンバキアを経由してカルテアに行くのか?」


 そう聞いてきたシリルの顔が妙に明るかったので、ひょっとしてモステラに行くための船が無い事を知っているのではないかと勘繰った。


「もしかしてですが、カルテアに行くための船が無い事を知っていました?」

「え、ああ、ロエルのギルマスがそう言っていたぞ。なんだ、アリソンは聞いていなかったのか?」


 え、私はそんな事聞いてなかったわよ?


「そんな、ギルマスはどうして私に教えてくれなかったのでしょうか?」

「ああ、きっと気まずくて言えなかったんじゃないか」

「気まずい?」

「アリソンにあれだけの事をしてもらったのに、お礼が何もできなかっただろう」


 ああ、そう言う事ね。


「それで、バキラ経由でカルテアに行くんだろう? 俺達が案内してやるぞ。何時、出発する?」

「そうです。バキラでの道案内は私達に任せて下さいね」


 カーリーも私がバキラに行くと思っているようね。


 まあ、ここは素直にお願いしてみますか。


「分かりました。道案内はお願いしますね」

「おお、問題無いぞ。それで、何時、出発する?」

「ああ、これから前神殿長に会う必要がるのです。少し待って下さいね」



 前神殿長と会えたのはシーロ・ソル神殿長と面会してから1週間後だった。


 石造りの平屋の前で木の扉をノックすると、白髪白髭の老人が現れた。


「誰じゃ?」


 私は老人にペコリと頭を下げた。


「私はアリソンと言います。シーロ・ソル神殿長に紹介してもらいました」

「おお、ソルから連絡があった娘さんか。それにしても随分若いな。儂に何か聞きたい事があるそうじゃの」

「はい、ベネディクト・アッシュベリー大神官がカルテアの巡行した時の事をお伺いしたいのです」


 白髪の老人は私の声に無反応だった。


 もしかして聞き取れなかったのかと思いもう一度言おうとすると、白髪の老人が口を開いた。


「あまりにも昔の話だから、一瞬何を言われたか分からなかったわ。ふぉ、ふぉ、ふぉ。まあ、中に入りなされ。当時の話をしてあげよう」

「ありがとうございます」


 老人の家は家具が少なく部屋の中央にある木製のテーブルに案内された。


 そして老人自らお茶を用意すると、ポットをテーブルの上に置いた。


 その手がぷるぷる震えていたので、思わず立ち上がった私がお椀に2人分のお茶を注いでいった。


「おお、すまんのう。最近はあちこち体が痛くてなぁ」

「いえ、お気になさらず」


 そして暖かい日差しの中お茶を飲んでいた。


「儂が生きているうちにノームが消えるとは思わなんだ。ひょっとしてお前さん、何かしたのか?」

「少しだけお手伝いしただけです」

「ほう、そうなのか。あの大神官も出来なかった事をなぁ」


 そう言ってちらりとこちらを見てからお茶を口に運んだ。


「それで、儂に何を聞きたいんじゃ?」

「ベネディクト・アッシュベリー大神官がカルテアに巡行した時、ダルチェの神殿に立ち寄ったのですか?」

「ああ、そうじゃな」


 そう言った老人は、当時の事を思い出しながら巡行の一行の規模とかどんな歓迎をしたとかをいろいろ話してくれた。


 そしてその話がひと段落したところで、口を開いた。


「カルテアへの巡行した一行の中に、リンジーという名の女性も居ましたか?」


 私の質問が意外だったのか、あごひげを扱きながらじっとこちらを見つめて来た。


「お前さん、あの女性と知り合いか?」

「娘です。一応」

「ああ道理で、どこかで見たことがあるような顔だと思ったはずだ」


 そう言って笑みを浮かべた顔には、悪い印象はなさそうだった。


「知っているという事は、母親も一緒だったのですね?」

「ああ、そうじゃな。大神官といつも一緒におったぞ。お互い信頼しているといった感じじゃったな」


 ああ、やっぱり。すると母親は大神官に協力していたのは確実ね。


「大神官はカルテアからの帰りもダルチェの神殿に立ち寄ったのですか?」

「ああ、立ち寄ったぞ」

「その時、母親も一緒でしたか?」

「いや、見かけなかったな」


 するとカルテアで何かあったという事よね。


 そしてそれを証明するかのように老人が口を開いた。


「そういえば、カルテアから帰って来た大神官は行く時と比べて、随分印象が変わったようじゃったな」


 え、それはカルテアで人が変わってしまうほどの何かがあったという事?


 仲間割れでも起こして殺し合いでもやったのかしら?


 だが、老人も大神官がカルテアで何をしたのかは教えてもらえなかったそうだ。


 やっぱり自分で行って、確かめてみるしかなさそうね。


 面会を終えた私は、シリル達が待っている宿に戻る事にした。



 シリルとカーリーは宿の1階にある食堂で酒を飲んでいた。


「2人とも、すっかり出来上がっているわね」

「そりゃそうだろう。アリソンがバキラに来てくれるんだから、これは前祝だよ」

「そうですねぇ、ユッカやモステラのようにバキラの環境も改善すると思うと、もう嬉しくてつい酒も進んでしまうというものです」


 2人共すっかり上機嫌になっていたが、私はバキラの事は何も知らないのだ。


「ところで、バキラってどんな土地なの?」

「熱いですよ」


 カーリーがそう言ったので、熱帯なのかもしれないわね。


「国境の町タインで砂流船の予約をしたから、バキラ王都であるチャンピまでまっすぐ行けるぞ」

「砂流船?」

「ああ、熱流砂帯を渡る船の事だ」

「えっ、それは一体何なの?」

「うん、知らないのか? バキラは砂漠地帯だぜ」


 ああ、そう言う意味で熱い土地なのね。


 アリソンは熱いと言う意味をようやく理解した。


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