90 捜索隊2
今シーモア達の目の前には門番の1隊が入口を塞いでいた。
それはどう見ても私達を警戒しているような雰囲気であり、こちらが下手な対応をしたら騒動が起きそうなほど緊迫していた。
シーモアはその理由が分からずに混乱していると、警備隊の中から偉そうな男が一歩前に出て来た。
「その神官服は、神国から来られたアマハヴァーラ教の皆さんですね?」
その質問にはこの中で一番階級が高いソザートン上級神官補佐が答えた。
「そうだ。大神殿所属のコーディ・ソザートン上級神官だ。それよりも随分物騒な対応じゃないか」
ソザートンは態と背筋を伸ばすと、真正面から相手を見てその行動を非難していた。
まあ、こんな状況だから1つ上の階級を示して、威嚇するのは正解かもね。
だが、それを聞いた相手は一瞬眉を顰めていた。
「ようこそバシュラールへ、それで訪問の目的をお伺いしても?」
「アリソンという名の神官の行方調査だ」
「アリソン? それなら追い出したぞ」
「アンスリウム大神殿所属の神官だぞ。対応が乱暴ではないか?」
ソザートンが憤慨してそう言ったが、門番は平然としていた。
「アリソンと名乗る神官がやって来たからバシュラールの神殿に人物照会したが、そのような者は居ないと言われたのでな。偽物を王都に入れるはずがないだろう?」
「む、分かった。事情を確かめるから神殿に行ってみたい。ここを通してもらおう」
「ああ、それならいいぜ」
入口でひと悶着あったが、ユッカ側は中に入れてくれたので街中の様子を窺いながら神殿まで向かった。
「おかしいぞ。神殿長からは町に来ていないと報告してきたのに、実際は追い出しているではないか」
「一体どうなっているのでしょうか?」
「それを確かめるため神殿長に面会を求めるのだ」
バシュラールにあるアマハヴァーラ教の神殿までやって来ると、1人の下級神官が出迎えてくれた
「ようこそお越しくださいました。私はエミール・オダン下級神官です」
「そうか、私はアンスリウム大神殿所属のコーディ・ソザートン上級神官補佐だ。神殿長に挨拶したい」
「それでは神殿長の準備が整うまで部屋を用意しますので、長旅でお疲れでしょうはっ、から暫くお寛ぎ下さい」
「うむ、分かった」
そして案内された部屋に入ると、オダン下級神官が声を開けてきた。
「今回の来訪は、視察でしょうか?」
「いや、違う。アリソンという名のカルテアへ巡行中の神官についてだ」
「分かりました」
ソザートンの声色がかなりきつかったのでオダン下級神官は目を見開いて驚いていた。
ソザートンが威圧したせいか、それともアリソンを追い返したからかは、その顔色からはうかがえなかった。
まあ、追い返されるようなとんでもない事をしていたと見た方がいいわね。
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バシュラール神殿の神殿長であるカール・エマースト上級神官は、アンスリウム大神殿から派遣されてきた神官達がアリソンについてと聞いて嫌な顔になった。
拙いな。
あの神官を手違いで追い返した事がバレているかもしれないぞ。
まあ最悪、連中に非難されたら、オダンのせいにすればよいか。
目の前の男はアンスリウム大神殿に所属している事を鼻にかけるいけ好かない男だった。
こんな奴に頭を下げるくらいなら、何も知らせない方がまだましだとそう感じていた。
「それで、アリソンはどうしたのだ?」
こいつ上級神官補佐のくせに、俺は上級神官だぞ。
分かっていて態と言っているのか?
「ソザートン上級神官補佐よ、言葉が乱暴すぎないか?」
「私はセンシブル特級神官の命により、ここまでアリソン下級神官を捜索するという特命を受けて此処に来ている。いわば、私の言葉はセンシブル特級神官の言葉と同じだ」
この糞野郎が、そんなに偉いなら勝手に自分達だけで対応すればいいだろう。
「私が知っているのは、ユッカ国王が捕らえたという事実を知って解放を要求したが、王都から追放したという回答を得ただけだ」
「それは、お前達がアリソンの人物照会で下手を打ったからだろう?」
くそっ、やっぱり知っていたか。
「部下が私に報告せずに勝手にやった事だ。後で、その報告を受けてユッカ王家に行ったが、既に追放された後だったのだ。これ以上どうしろと?」
エマーストがそう言い放つと、ソザートンの顔がさっと赤くなった。
「職務怠慢なのではないか?」
「出来るだけの事はやった。その非難にはあたらないな」
暫く睨み合ったが、最初に視線を外したのはソザートンの方だった。
「分かった。それでは王国に聞いてみよう。ところで、メラニー・シーモア下級神官は此処を訪ねて来たか?」
「いや、知らないな」
「そうか」
会談はこれで終わりだった。
ソザートンが出て行ったので、ようやくエマーストはそれまで止めていた息を大きく吐き出した。
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憮然とした表情で戻って来たソザートンに、シーモアは嫌な予感がしていた。
「全く、アンスリウムから落ちると、高位の神官も腐るのだな」
落ちる。
それはアンスリウムから他国の神殿に異動させられた神官を馬鹿にする言葉だった。
「それでアリソンの行方は分かったのでしょうか?」
「あの娘は此処まで辿り着いていたようだが、町に入れなかったようだ」
「でも、アンスリウムからバシュラールまでの道中では、その亡骸を見つけられませんでしたよ」
「ああ、まさかとは思うが、まだ巡行を続けている可能性が出て来たな」
「え、では、モステラに向かうのですか?」
「ああ、だが、その前に国王に会って、偽メラニー・シーモアの話でも聞こうじゃないか」
そして許可を得た当日、シーモアはソザートンに生きた証人として同行することになった。
謁見の間に入って行くと、そこには国王と宰相それに護衛と思われる将軍が待っていた。
ソザートンは、ややなおざりなアマハヴァーラ教の礼をすると、直ぐに国王に話しかけた。
「陛下、アンスリウムからカルテアに巡行中だったアリソン下級神官を追い返したそうですが、その後どうなったかご存じですか?」
「いや、知らぬ。アンスリウムに戻ったのではないのか?」
「いえ、戻っていないので、我々が捜索にやって来たのです」
「ほう、それは気の毒にな。隣国のよしみで少しは手伝っても良いぞ」
「ありがとうございます。ところで、私の隣に居るのが大神殿所属のメラニー・シーモア下級神官です」
ソザートンがそう言って私を紹介してきたので、一歩前に出てアマハヴァーラ教の礼を行った。
「大神殿所属のメラニー・シーモア下級神官です」
「はて、初めて見る顔だな。面会に来たメラニー・シーモアと名乗る神官は、緑髪に緑眼の若い女性だったぞ」
「ほう、それでは陛下は偽神官に騙されたという事になりますね。我々に対してその偽物がしでかした犯罪の賠償を求めるのは、筋違いという事でよろしいでしょうな?」
「む」
ソザートンがそう言うと、国王は一瞬眉を顰めた。
「それとユッカの環境が改善したそうですが、何をしたのかお伺いしても?」
「其方は何も聞いていないのか?」
「えっ?」
ソザートンは態ととぼけているが、アリソンが特級神具を使った事を公に認める訳にはいかないから、これは仕方が無いのだ。
だが、我々が何も知らないと察した国王がにやりと笑ったのには腹が立った。
「いや、何でもない。それでは神国に請求した賠償は取り下げよう、その代わり貴国もユッカの環境が改善した事について何も聞かない、これで良いな?」
国王はアンスリウムに聞かれたくない事があると示唆しているが、それはこちらも同じなので、お互い暗黙の了解をしていた。
我々にとっては、センシブルに不興を買うほうが嫌なので、ユッカ側が訴訟を取り下げると言いうのならそれは願っても無い事なのだ。
「分かりました。では、そのようにいたしましょう」
謁見が終わった後、予想通りソザートンからはモステラに行くと言われた。
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ユッカ国王との面会を終えたシーモアは、控室で待っていた2人の見習いに声をかけた。
「私達はこれからモステラに向かうわよ」
「えっ、なんで、ですか?」
「私達はユッカでアリソンの死体確認をするだけと言われたのです。それがどうしてモステラなのですか?」
若い2人はアンスリウムへ帰りたくて仕方がないようだが、これはどうしようもないのだ。
「仕方がないでしょう。アリソンはユッカを抜けてモステラに行ってしまったのだから」
「そんなぁ~、もうアンスリウムに帰りたいですぅ」
「シーモアさんは、ユッカにアリソンの死体を探しに行くと言われたのです。もう、これ以上遠くに行きたくないです」
シーモアは不貞腐れる2人の見習いに厳しい視線を送った。
「貴女達もアマハヴァーラ教の神官になるのだから、巡行の訓練だとでも思いなさい」
そうは言っては見たが、シーモア自身もアンスリウムに帰りたくて仕方が無かったと言う本音は隠していた。
そしてどこまで私に迷惑をかけるのだと、心の中で毒づいた。




