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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
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88 アンスリウムの神官


 モステラ国王エフラインの元に宰相のライムンド・エランがやって来た。


「陛下、今回のノーム消失は、どうやらアマハヴァーラ教が絡んでいるようです」


 エフラインは部下からの報告でアマハヴァーラ教の連中が、海に住まうマーメイド族が原因だと言っていたのを思い出した。


「マーメイド族の絶滅に成功したのか?」

「いえ、それがどうも沖にある島に問題があったようで、その元凶を取り除いたらノームが消えたようです」

「ほう、そんな事があったのか」

「はい、それでロエルの都市長がその者への褒美を授与してほしいと王都に連れて来たようです」


 長年この国をむしばんできたノームを消してくれたのだ、こんなうれしい事は無い。


「この国に未来を与えてくれたのだ。褒美は当然だな」


 エフラインがそう言うと、宰相が渋い顔になった。


「問題はこの人物がアンスリウムから来たアマハヴァーラ教の神官だという事です」


 エフラインもアマハヴァーラ教の神官にはあった事があった。


 1人はダルチェの神殿長でシーロ・ソルというモステラ出身の男で、この男は温厚で話の通じる男だったが、もう1人、強制懲罰部隊の隊長というドン・ブラウドフットという男はアンスリウム出身のモステラを見下す嫌な男だった。


 そのアンスリウム出身の神官がこんな偉業を果たしたとなると、どれだけ傲慢な態度で多額の請求をさせるか分からなかった。


 エフラインはその光景を思って、深いため息をついた。


「王家の宝物庫を開けるしかないな。王妃よ、そなたの宝飾品も手を付けねばならぬやもしれぬ。すまぬな」

「いいえ、モステラが豊になれば、何時でも買い戻せます。今はその投資だと思いますわ」


 感動したエフラインは、王妃の手を掴んで見つめ合った。


 やがて宰相の咳払いで我に返ると、宰相に顔を向けた。


「それでいくら要求しているのだ?」

「国家予算規模の褒美としか聞いておりません」

「まあ、そうだろうな」

「はい、アマハヴァーラ教の神官という事は、神国の意向のはずですからね」

「うむ、分かった」


 エフラインが話が終わっと思って下がらせようとすると、宰相は首を横に振った。


「なんだ、まだ要求があるのか?」

「はい、神官はカルテアまでの船旅を要求しています」


 エフラインは、ノームの白い靄の中、船を出したという事を聞いた事が無かった。


「船? そんな物まだ残っていたのか?」

「いえ、魔魚に襲われて沈んだか、港で朽ち果てたかのどちらかですね」

「無いものは提供できないが、どうするのだ?」

「正直に言って、納得してもらうしかないですね」


 宰相は俺に嫌な役をやらせたいらしい。


「それを私に言えと?」

「はい、陛下のお言葉なら相手も信じるでしょう」


 宰相の澄ました顔を思わず殴りたくなったが、ぐっとこらえた。


「仕方がない、私が言おう」



 そして神官と面会する日、謁見の間で王妃と宰相の3人で待っていると、ロエルの都市長の息子に連れられて、モステラでは一般的な青髪、青眼の若い女性が入って来た。


 その姿を見たエフラインはこんな小娘がノームを消す偉業が出来たのかと疑問が生まれたが、逆にこの若さで既に下級神官になっている事に思い至った。


 それは大神官に見出された将来有望な神官という事だ。


 だが、アンスリウムから来たにしては、その青い髪と瞳は逆にモステラ人ではないかと思えてならなかった。


 ロエル都市長の息子は定位置まで来ると片膝を突き頭を下げたが、神官はアマハヴァーラ教の挨拶である両手を結び額に当てた状態で軽く膝を折っていた。


「良く参ったな。ロエル都市長の子息イバンよ、ご苦労であった」

「はっ」

「そしてアマハヴァーラ教のアリソン神官、此度の働きは誠に見事であった。礼を申すぞ」

「ありがとうございます」


 神官の声は、あのドン・ブラウドフットのような傲慢な響きは感じなかった。


「それで、どのようにしてあのノームを消したのか教えてもらえぬか?」


 エフラインが興味を持ってそう聞いてみると、神官は簡単には教えてくれないらしい。


「陛下、ノームが発生したのは環境が悪化したからです」

「環境?」


 エフラインとしては生まれてから既に空はノームの白い靄だったので、環境がどうのという認識は全くなかった。


「はい、過剰な森林伐採、水質汚濁、汚物、廃棄物の放置など環境に負担をかける行為を続けると、環境が悪化してノームが発生するのです。今回はもっとも悪化した場所の浄化を行いましたので、環境の負荷が軽くなってノームが消えたのです。ですが、同じことを繰り返せば再びノームが発生しますので環境保護には十分注意下さいませ」


 神官の口からはエフラインが思ったことも無い事項が次々と吐き出されて、思わず気圧されていた。


「う、うむ、そうか」


 今の話が理解できたか宰相の顔を見るとそこには理解の色があったので、後は宰相に任せる事にした。


「うむ、分かった。それで褒美の件じゃが」


 エフラインは国家予算規模としか聞いていなかった具体的な金額を、ここで確かめる事にした。


「はい、私はアンスリウム大神殿の命でカルテアまで巡行中です。つきましては旅費を少しばかりとカルテアまで船で送って頂きたいのです」


 は、旅費って何だ?


 国家予算規模の褒美はどこへいった?


 話が違うと思ったエフラインは、思わず隣に立つ宰相に小声で話しかけた。


「おい、聞いていた話と違うぞ」

「えっと、いえ、私もロエル都市長からそう聞いていたので、驚いています。ですが、これは好都合ではありませんか。相手の言葉尻を捕らえて、旅費でごまかしてしまいましょう」

「う、うむ、そうか?」


 そしてエフラインは神官に目を向けた。


 なんだがモステラの地を心配する心根の優しい神官を騙しているようで嫌な気分になったが、国王としてこの国の事を最優先に考えなければならないと考え直した。


「旅費か、分かった。それは我々が提供しよう。だが、船が無いのじゃ」

「え? モステラは海で栄えた国ではないのですか」

「そうなのじゃが、ノームと魔魚のせいで船が無くなってしまったのじゃ」

「では、カルテアへはどうやって行くのですか?」

「今は行けぬ。すまぬな」


 エフラインがそう言うと、神官の顔が驚きの表情で固まっていた。


 どうやら船が無いのを知らなかったようだ。


 エフラインが宰相を見ると、直ぐに説明を加えてくれた。


「モステラでは長い間ノームが蔓延し魔魚が発生したため、殆どの船が沈められるか港で朽ち果ててしまったのだ。船が出せないのに船を造る者は居ないから、船大工も皆仕事を変えてしまったのだ。小型船ならともかく、カルテアまで行ける外洋船を造るのは暫く無理だろうな」


 神官は宰相の話を聞くと、じっと黙ってしまった。


 不安になったエフラインは声をかけた。


「アリソン殿、大丈夫かの? カルテアまで船で送ってやれないが、隣国までなら馬車で送らせよう。我々が出来るのはそこまでなのだ。理解してもらえるな」


  エフラインがそう言うと、神官は暫く考えていたがやがて頷いた。


「分かりました。それでお願いします。ああ、それとこの国にある疑神石は国で管理されていますか?」


 疑神石はドライウォールを稼働させるため、商人から高額で購入した国宝だ。


「高価な品だからな。当然管理している」

「疑神石は、モステラの環境を著しく悪化させます。環境が元に戻ったのでもうドライウォールを稼働させる必要はありませんよね? 疑神石は二度と使えないように地中深く埋めて下さい」

「疑神石は非常に高価だし、他にも使い道がある。そう簡単に手放せない」


 エフラインが答える前に、宰相が不満そうな口調でそう言い放った。


 宰相は神官と睨み合っていた。


 おい、あまり神国の神官を怒らせて、法外な報酬を要求されたらどうする。


「疑神石を使えば、再びノームが発生し魔魚の脅威に晒されます。愚か者には二度と手を差し伸べませんよ」


 エフラインは神官の辛辣な言葉にびくついたが、宰相が再び暴言を放つ前に口をはさんだ。


「アリソン殿、忠告は真摯に受け入れる。それとこちらの提案を受け入れてくれて感謝するぞ」


 エフラインがそう言うと、神官はこちらをじっと見つめたがやがてにっこり微笑んでくれた。


 その微笑みは、小娘には見えない程輝いていた。


 神官が最後にもう一度アマハヴァーラ教の挨拶をして謁見の間から出て行くと、エフラインは王妃アデルミナに声をかけた。


「王妃、あのアマハヴァーラ教の神官が大人しく帰って行ったが大丈夫だと思うか?」

「さあ、どうでしょう。私が大神官なら、ここまでの事をしてやったのに謝礼の一つも出さないのかと苦言を呈しますね」

「やはりそうか。宰相」

「はっ」


 エフラインは先ほどから脇に立っている宰相に声をかけた。


「疑神石は使ってはならぬぞ。生まれて初めて見た綺麗な景色を失うくらいなら、疑神石の購入費なんてただみたいなものだ」

「分かりました。誰も使えないように回収し封印いたします」

「うむ、ところで王妃よ」

「はい、なんでしょう?」

「外の景色がとても綺麗だから、視察を兼ねてロエルにある別荘に旅行に行ってみないか?」

「まあ、それは素晴らしい考えですわ。さっそく準備をいたしますわ」


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