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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
87/94

87 たらい回し

 

 ロエルの最高権力者の邸宅はこの町にとって重要な港が見える小高い場所にそびえていた。


 私がこれから向かう場所を馬車の車窓から眺めていると、同乗しているギルマスが声をかけて来た。


「今朝、都市長に面会の予約をするため職員を送ったら、可及的速やかに来るようにと言われて困っていたのです。アリソンさんが早めに来てくれて本当に助かりました」


 そんな事を聞きながら都市長の館を見れば、窓を開けたらノームが消えている事は一目瞭然だっただろう。


 きっと、朝起きで窓を見たら、今まで見たことも無い青い海と青い空で、とても驚いただろう事は簡単に予想できた。


「ふうん、そうなのですね」


 馬車が滑り込んだ邸宅は立派な石造りで、正面玄関には警備兵と使用人が足踏みしながら待っていた。


 そんな場所に私達を乗せた馬車が滑り込むと、直ぐに馬車の扉を開けようと駆け寄って来た。


「都市長がお待ちです。急いでください」



 そして引っ張られるように連れてこられた豪華な部屋では、高価そうな服を纏った親子に見える2人の男性が待っていた。


「おお、ギルドマスターやっと来たか」

「都市長、遅れて申し訳ございません」

「いや、構わぬ。それよりもそこに座ってくれ」


 そう言って自分達と反対側にある椅子を手で指示していた。


 私とギルマスが椅子に座ると、待ち構えていた給仕係が私達の目の前にお茶と焼き菓子をおいてくれた」


 そして私とギルマスがお茶に手を付けたところで、年嵩の男性が口を開いた。


「私がロエルの都市長エクトル・サラビアだ」

「僕は息子のイバンだ。よろしくね」


 都市長とギルマスは知り合いのようで、2人とも私を見て挨拶してきた。


 なので、私もにっこり微笑んで自己紹介をした。


「私はアンスリウム大神殿所属のアリソン下級神官です」


 私が表向きの所属を口にすると、隣のギルマスが僅かに声を漏らすのが聞こえた。


 すみませんねぇ、この地にはカラスが居るのでリドル一族という事は秘密なのです。


「アマハヴァーラ教の神官がノームを消したのか?」

「いえ、私が消した訳ではなく、ノームが発生していた原因を取り除いたのです」

「そのノームが発生した原因とは何だ?」

「環境を悪化させたことです。環境悪化の原因と守らなければならない事項は隣に居るギルドマスターに伝えましたので、守って頂ければもうノームが発生することは無いと思います」

「う、うむ、そうか」


 都市長とギルマスが視線を合わせて頷いたので、後の事はこの2人で何とかしてくれそうね。


「ああ、それともう1つ重要な事があります」

「なんだろうか?」

「ロエルの町を覆っていたドライウォールの動力源は何でしょうか?」

「ああ、それなら疑神石だよ」


 私の質問に答えたのは息子の方だった。


「疑神石はモステラの環境を悪化させる主が原因になりますから、二度と使わないように地中深く埋めて下さい」

「使わないのはいいが、万が一の時のために保管しては駄目なのか?」

「今は使わないとしても、後世の人が再び使わないという保証は無いでしょう? ノームの脅威を再び発生させないためにも、誰も使えない状態にする方が良いのです」


 だが、目の前の2人の顔には明らかに不満が浮かんでいた。


「アマハヴァーラ教は今まで何もしなかったのに、今回、ノームを消したのは何か裏があるのではないのか?」


 ああ、成程、こちらの行動を疑っているのね。


 それなら船と少しばかりの旅費を請求した方がこの人達も安心しそうよね。


「ええ、勿論ただではありませんよ。カルテアまで船を出してもらう事と費用を」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 私がそこまで行ったところで、またしても手で制されてしまった。


 そんなに船を出す事が大変なのだろうか?


 そして中座する事を申し出てから、私を置いてギルマスを連れて部屋を出て行ってしまった。


 +++++


 アロンドラは、都市長親子に指示されて部屋を出て別室に移っていた。


「おいベルティ、あの神官がアンスリウムから派遣されたという事は、今回の件は国家プロジェクトなのだろう? いったいいくら請求されたのだ?」


 都市長が焦った顔でそう聞いてきたが、国全体を覆うノームを消した対価なんて天文学的な金額になる事は誰の目にも明らかだろう。


「恐ろしくて聞けませんでしたが、多分、国家予算規模だと思います」

「ふん、それは当然だろうな。私では手に負えん。ダルチェに行って陛下に請求してもらうしかないな」

「ええ、私もそう思います」

「では、出張経費を出すからダルチェまで送って来てくれんか?」

「いえ、私はアリソンさんに言われた環境保全の対応がありますので、都市長の方で対応してください」

「むっ、困ったな」

「では、私が連れて行きましょう」


 そう言ったのは都市長の息子イバン・サラビアだった。


「父上、せっかくノームが消えたのです。生まれてからこの方、白い靄しか見ていないのです、せっかくですから王都まで風景を楽しませてください」

「ふん、まあ、いいだろう」


 +++++


 私が1人部屋で待たされていると、ようやく都市長達が戻って来た。


「待たせてしまったね。今回の件は国家レベルの重大事案になるので、王都ダルチェに赴いて直接陛下に説明してほしいのだ」

「えっ?」


 思わず声が漏れてしまったが、カルテアまで船を出してもらう事がそんなに大事になってしまうのだろうか?


 あ、まあ、ダルチェでは元神殿長から母親が大神官と巡行に行った時の事を聞きだそうと思っていたので、無駄足ではないわね。


「分かりました。でも、私が行って、会ってもらえるのでしょうか?」

「ああ、それは問題ない。私が手紙を書くし、息子を同行させるからね」


 都市長の顔は都市長に会ってくれと言った時のギルマスと同じ表情をしていたので、なんだか厄介毎を他者に押し付けようとしている気がした。



 私は一旦商業ギルドに戻り、ダルチェで国王に面会することになったのをシリルとカーリーに報告すると、2人とも一緒に行く事になった。


 でもダルチェに行く馬車の中は私と都市長の息子であるイバン・サラビアだけだった。


 イバンが一緒に行く事を渋ったので、2人は別に手配した馬車で追従していた。


 そして同乗しているイバンはというと、先ほどから馬車の窓から外の景色を見ては、「おお」とか「へえ」とか言いながら、子供のようにはしゃいでいた。


 その姿を見て、シリル達が同乗するのを渋ったのは、この姿を見られたくないからじゃないかと勘繰っていた。


 私が醒めた顔をしていたのだろう、イバンが声をかけて来た。


「なんだ子供のくせに、旅は楽しくないのか?」

「いえ、私はアンスリウムからここまで旅をしてきましたので、一般的な風景は見慣れていますし、それにモステラの景色は海を除けばこれといった感動が湧かないと言うか」


 私は言葉を濁しながら言ったのだが、モステラは長い間ノームが覆っていたので、町を出るとどこもかしこも似たようなげ山ばかりで見飽きるのだ。


 逆に言うと、そんなはげ山ばかり見て感動できるイバンの方が興味深かったりしていた。


「な、それは俺がロエルからダルチェまで行く事を馬鹿にしているのか?」

「いえ、決してそのような事はありません」


 こんな男でも国王陛下に面会を申し込んでくれる相手なので、機嫌を取っておいて損はありませんからね。


 ノームや魔魚の影響で何日もかかったダルチェとロエルの間の道も、見通しが良くすいた道なら、それほどかからずにダルチェに到着する事ができた。



 先にやって来た時はアマハヴァーラ教の神殿しか立ち寄っていなかったので、今回は王城を見学できる事に少しだけ興味を持っていた。


 +++++


 王都ダルチェ到着後にアリソン達を宿に送り届けたイバンはその足で王城に向かった。


 そこで面会を求めたのが宰相のライムンド・エランだった。


 イバンの身分がロエル都市長の息子であり、案件がノーム消滅に関するものだったため、宰相は快く面会に応じてくれた。


 そして父親である都市長が作成した手紙を差し出し、要件を伝えた。


「宰相殿、この者がノームを消滅させ、魔魚を退治したのは事実のようです。そしてその成功報酬を求めています」

「ほう、これだけの功績をあげた者への褒美は当然だな」

「ええ、ただ求められている報酬に問題があるのです」

「問題?」


 イバンは宰相にだけ聞こえる声で、その問題点を話した。


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