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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
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86 お願い事

 

 森の造成を終えた私達がロエルの町にやってくると、ノームが消えた事で町の人達が騒いでいた。


 そんな人達の中にオラシオさん達が居たので軽く手をふると、凄い勢いでこちらにやって来た。


「ちょっとアリソンちゃん、って、あれ? アリソンちゃんだよね?」

「ええ、そうですよ」

「その髪の毛と瞳はどうしたの?」


 ここは本当の事を言っても混乱するだけよね。それなら。


「カラスの連中に目を付けられていますからね。こうやって変装しているのです」

「ふうん、そうなんだ。あ、いや、それよりもノームが消えたんだよ。これって、アリソンちゃんが何かしたんだよね?」


 オラシオさんは私が動いていたことを知っているので事情を知りたいようだが、声が大きかったので注目を集めていた。


 注目を集めるのは拙いわね。ここはちょっとはぐらかしておきましょう。


「良かったですね。これからは魔魚じゃなく、本当の魚を獲れるようになりますよ」

「え、魔魚も出なくなったの?」


 それを聞いた町の人達もざわつきだした。


「ええ、環境が元に戻りましたからね。でも、環境が悪化したらまたノームが発生するので注意してくださいね」

「ああ、分かったよ。おい、みんな、昔の豊かなモステラに戻ったぞ。今日はなんて素晴らしい日なんだ。皆で祝おうぜ」

「「「おおお」」」


 集まっていた人達の関心が私から祝い事に移ったので、商業ギルドに行くことにした。


 噂は瞬く間に街中に広まり、どこもかしこも家から出てきた人達で騒ぎになっていた。


 さて、私は商業ギルドに向かいますか。


 そして環境保全のための注意事項を飲んでもらう事や、カルテアまで船で送ってもらう事、そして少しばかりの旅費を出してもらえないか交渉するのだ。


 商業ギルドの前も人々が集まって騒いでいたので、人だかりを避けながらなんとか扉の前までやって来た。


 集まった人達の話題は当然ノームが消えた事だったので、多分中でもその話で持ちきりなのは予想がついた。


 扉を開け商業ギルドの中に入ると、わき目もふれず受付のカウンターまでやって来ると、そこにいた受付嬢の声をかけた。


「ギルドマスターに面会したいのですが?」

「えっと、失礼ですか?」


 ああ、名乗っていませんでしたね。


「私はアリソンです」


 私が名乗ると、目の前の受付嬢が一瞬驚いた顔になったが、直ぐに元の業務用の表情に戻っていた。


「お待ちしておりました。一緒に来てください」


 受付嬢に案内されては入った部屋はギルマスの執務室だった。


「えっと、アリソンさん?」


 疑問形なのは、私の髪と瞳の色が変わっているからだろう。


「はい、そうです」

「その髪と瞳の色はどうしたのですか?」


 う~ん、モーフ様に変えられたといっても余計ややこしくなりそうね。


 それなら。


「カラス共から逃れるための変装です」

「ああ、成程、いろいろ大変だったのでしょうね」


 ギルマスは何か理解したようで、私をソファに座らせると、直ぐにお茶と焼き菓子を用意してくれた。


 そして私が人心地付いた頃、ようやく本題に入った。


「さて、アリソンさん、事情を説明してもらえますか?」

「ええ、分かりました」


 私は、双子岩でカンカさん達との待ち合わせから聖なる島の行き問題を解決してきた事を語った。


「それでギルマスにお願いがあるのですが」


 私がそう言うと、ギルマスは真剣な表情に変わった。


「なんでしょうか?」

「今回は環境が元に戻りましたが、モステラの人達が環境を大事にしなければ、再びノームと魔魚の悪夢に逆戻りです。決して環境を破壊しないでくださいね」

「はい」

「それからロエルの町を流れる川があると思うのですが」

「ああ、ロエ川ですね。ノームが覆う前までは川沿いは緑豊かな大地でしたが、今はただの枯れた大地に枯れた川といった感じですね」


 あの小川に名前があったのね。


「そのロエ川の上流に神獣様が森を造られました」

「えっと、植樹でもしたのですか?」

「ええ、そうです」

「分かりました。ノームのせいで土地が痩せているでしょうから、木が育つまでかなりの年数が必要ですが、それまで面倒を見させてもらいますね」


 まあ神獣様達が一瞬で森を造ったのを見ていなければ、この反応が当たり前なのでしょうね。


「いいえ、もう森は出来上がっていますので、破壊しないでくださいという意味です」

「は? 森が出来ている?」

「はい、神獣様達にはそれだけの能力があるという事です」

「まあ」


 そりゃ驚くのは当然よね。


「その森はロエルの町に海の幸を齎す助けになります。決して破壊しないでくださいね」

「は、はい、分かりました」


 さて、これでロエルでやる事は全て終わったわね。


 では、カルテアに行くための協力をお願いしますか。


「それでギルマスにお願いがあるのですが」

「な、なんでしょうか?」


 私がそう言うと、ギルマスの顔がこわばったのが分かった。


「外洋に出る為の船と資金を」


 私がそこまで言うと、ギルマスが掌を突き出して「待った」をかけてきた。


「も、勿論分かっております。ですが、その前にロエルの都市長への報告に同行してもらえませんか?」


 やっぱりカルテアまで船で送ってほしいというのは、都合が良いお願いだったようね。


 それでも他に方法が無いのだから、なんとか都市長を説得して船を出してもらいましょう。


「分かりました」

「ありがとうございます。それでは馬車を用意するので別室でお待ちください」


 気のせいかギルマスがとても晴れやかな顔をしていた。


 +++++


 アロンドラは、これだけの事をやってもらった報酬が国家レベルの金額になるだろうことは簡単に予想が付いていた。


 そこでアリソンさんが報酬を口にしようとしたところで止めたのだ。


 モステラの環境を改善してもらった報酬なんて、一地方の商業ギルドで対応なんて出来るわけ無いのだ。


 ここはどうしても都市長から陛下に上申してもらわなければならないのだ。


 アロンドラは、報酬に関する責任を都市長と王家に押し付ける事に成功して、とても晴れやかな気分だった。


 +++++


 私が案内された部屋にはシリルとカーリーが居た。


「やあ、アリソン、ノームが消えた原因は君なんだろう?」

「アリソンちゃん、素晴らしい結果ですね」

「ええ、ありがとうございます。お2人にも手伝ってもらって助かりました」


 私が儀礼上そう言うと、シリルの眼が光ったのが分かった。


「そうか。そうだよな。俺達ちゃんと手伝ったんだから、アリソンも当然俺達に恩があるよな?」

「え、どういう意味ですか?」

「モステラやユッカの環境が戻ったのは、アリソンが何かしたからなのだろう?」


 私じゃなくて神獣様がしたことだけどね。


「まあ、私がしたというよりも、それが出来る方のお手伝いをしただけですけどね」

「それでも、そのとっかかりを作ったのはアリソンだろう?」

「ええ、まあ、そうなるのでしょうか」


 手伝ったのかと聞かれたら、それはそうよね。


「それでだ、アリソンのその力でバキラの地も元に戻してくれないか」


 そう言うとシリルは深々を私に頭を下げていた。


「え、バキラ? あの、私はこれから船に乗ってカルテアに行く事になっているのですが?」


 そのためこれからロエルの都市長に会って、船を出してもらえるようにお願いするのです。


「あの、私はアマハヴァーラ教の巡行中で1日も早くカルテアに行かなければならないのです。それに海路でカルテアに行く事はダルチェの神殿長に報告済なので、今更陸路で遠回りするなんて、よっぽどな理由が無ければ変更は難しいですよ」

「そこを何とか変更してもらえないか?」


 そんな横車を押すような事を言われましても、こちらも困るのです。


 それにこの巡行を成功させて再び大神殿でガイア様のお世話をするには、アマハヴァーラ教の連中に私の行動で疑念を抱かせるわけにはいかないのですよ。


「ですから、海路で向かうのは既定路線ですから変えられません」

「・・・そうか、これ以上は無理そうだな。それなら不測の事態が発生して迂回せざるお得なくなった場合は、俺達を助けてくれないか」


 まあ、気が変わる事はないと思いますが、バッサリ切り捨てるのも人としてどうかと思うわね。


「ええ、そうですね」



 そして馬車の用意が出来たそうなので、ギルマスと一緒に都市長の元に向かう事になった。


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