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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
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84 ロエルの森


「うん、僕もそこに付ける神青石をあげるよ」

「えっ」


 それって、分身体をお貸し頂けるという事でしょうか?


 そう言うと胸の前に両手を合わせるとその隙間が光り出し、やがてその光は1つの青色の石に変化した。


「これが僕の神青石だよ」


 そう言って渡された青色の石に触れると、モーフ様の分身体が現れた。


 それは大きな傘の下に触手が何本もある、何処からどう見てもあの浮遊魚だった。


「アリソンがカルテアに行ったら、僕の分身体が協力してあげられると思うよ。だから一刻も早く僕の元に帰って来てね」


 そしてモーフ様はこれで終わりとばかりに私に手を振っていた。


「それではリレークリスタルを持ってきます。御前、失礼いたします」


 モーフ様に暇乞いを告げてから神域を出ると、私の青髪、青眼を見たガイア様とグロウ様が途端に不機嫌になった。


「アリソン、またか」

「ちょっとアリーちゃん、どうしてモーフの色になっているの?」

「えっと、そう言われましても、いきなりだったので私としても何もできなかったのです」


 私がそう言うと後ろからそれを肯定する声が聞こえて来た。


「ふん、ここはモステラなのだから至極当然ではないか」


 振り返らなくてもそこにモーフ様の分身体が居るのが分かっていた。


「まさか、モーフの分身体か?」

「この気配、モーフで間違いないぞ」

「うっわっ、本当にガイアとグロウの分身体が居るじゃないか」


 モーフ様の分身体は口元を触手で押さえているような仕草をしているのだが、一体何処に口があるのかさっぱり分からなかった。


「おいモーフ、随分な言い草だな」

「そうじゃ、わらわを敬うのじゃ」

「お前達に興味ない。それよりもアリソンは僕の物な、これは決定だぞ」

「おい、ちょっと待て、アリソンは私の調力師だ。それは譲らん」

「何を言っている。アリーちゃんはわらわの物じゃ」


 すると神獣様達はお互い威嚇を始めていた。


 ああ、もう、神獣様が1柱増えたことで、めんどくささが更にパワーアップしているじゃないの。


 私は深いため息をついた。


「お3方、ここはそろそろ水没するのです。マーメイドのカンカさんにお願いして陸地まで送ってもらわなければなりません。そろそろ石に戻って頂けませんか?」


 私の言葉に何故かお3方とも慌てだしたが、今は時間が無いので直ぐに神石に戻ってもらった。


 そして地底湖の端でこちらに頭だけ出して様子を窺っているカンカさんに手を振った。


「カンカさん、モーフ様のお世話が終わりましたぁ」


 手をメガホンにして声をかけてから手を振ると、カンカさんがこちらに近づいてきた。


「アリソンさん、ひょっとしてもう魔魚は出ないのですか?」

「はい、モーフ様がお元気で恙なくお過ごしいただける間はもう魔魚はでません」


 それを聞いたカンカさんが大喜びした。


「とっても嬉しいです。それで、えっと、元に戻った環境を維持するには、石積の塔にお供え物でもすればいいのでしょうか?」

「いいえ、環境を悪化させたのは人間達ですので、これから注意してきます。カンカさん達は普通に暮らしてもらって大丈夫ですよ」

「それを聞いて安心しました」


 カンカさんは何もしなくてもいい事に胸をなでおろしていた。


「それではカンカさん、すみませんが、陸地まで送って頂けないでしょうか?」

「あ、分かりました。さ、どうぞ」


 そう言ってカンカさんが手を差し出してきたので、私がその手を握ると次の瞬間、もう海の中だった。


 カンカさんはよっぽど嬉しかったのか、物凄い速度で泳ぐので顔に当たる水流に根を上げそうになったところで、ようやく目的地に到着した。


「アリソンさん、双子岩に着きましたよ」

「はぁ、はぁ、ありがとうございます」


 水面から顔を出すと、そこにはもう白い靄が何処にもなく、海側は水平線が、陸側には双子岩が佇んでいた。


 そして頭上には青色の空に白い雲が浮かんでいた。


 カンカさんは、最後にもう一度お礼を言ってから里に戻って行った。 



 双子岩に上がった私は、左腕のブレスレットに触ってお3方を呼び出した。


「これからロエルの町に行って、環境を大事にしてもらえるようにお願いしてきます。様子を見たいのでしたらグロウ様は帽子に変化してもらえますか?」

「分かった」


 グロウ様は私の頭上で帽子に変化したのをみた、モーフ様が声を上げた。


「この姿だと駄目なの?」

「はい、そのお姿は人間達には魔魚に見えますので騒ぎになってしまいます」

「そうか、分かった。では、こうしよう」


 モーフ様は浮遊魚の姿のまま私を覆うと、ローブの形に変化していた。


「どう、これならいいだろう」


 突然私の頭の中にモーフ様の声が聞こえてきた。


「はい、これなら人間の町中でも目立たないですね」

「ふふ、せっかくだから人間の町を見ていたいわね」


 モーフ様の言動から、神獣様は分身体を通して外部の状況を把握する事が出来るようですね。


「はい、それではロエルの町に行きましょうか」


 私がそう言うと、モーフ様の声が聞こえて来た。


「近くに小川があるな。ちょっと見てみたい」

「あ、分かりました」


 そこはロエルの町に流れ込んでいる川だったが、今までずっとノームが覆っていたせいか上流は何もない土があるだけだった。


 するとモーフ様がガイア様とグロウ様に話しかけていた。


「ガイア、グロウ、この地の土壌を豊かにして森を作ってもらえないか?」

「急にどうしたんだ?」

「ああ、この川はロエルの町から海に流れ込んでいるだろう。此処に森を作れば栄養素が海に流れ込んで豊かな海の幸を人間やマーメイド達に提供してやれるだろう」

「ふっ、お前は環境を破壊した人間に施しをしてやるのか?」

「僕はそれほど狭量じゃないよ」

「じゃが、わらわ達を使おうとするようじゃの」

「大した苦労でもないだろう。少しくらいいいじゃないか」


 海が豊かになればオラシオさん達漁師の皆さまも生活が助かりそうね。


 それに魔魚が居なくなれば今度は海に出て魚を獲らなければならないのだし。


 だけど、ユッカでのグロウ様の発言を聞いていると、他の神獣様が自分の領域でお力を発揮するのは嫌がるのではないのでしょうか?


「あの、モーフ様、モステラの地でガイア様やグロウ様がお力を使うのは嫌なのではありませんか?」

「ふふ、アリソンは良く知っているね。確かにそうだけど、僕のせいでこんな状態になっているんだし、少しくらいはここで暮らす人達に恩恵を与えてあげたいんだよ」


 ああ、それは此処に住む人達もとても助かるでしょうね。


 分かりました。そう言う事でしたら私も頑張ります。


「ガイア様、グロウ様、私からもお願いします。モーフ様に協力してもらえないでしょうか?」

「うっ、アリソンの頼みでは仕方が無いな」

「そうねえ。とても面倒くさいけど手伝ってあげましょうか」

「ふふ、ガイア様、グロウ様、ありがとうございます」


 私がお礼をいうと、モーフ様が川上を指さした。


 私はガイア様に背中に揺られて川伝いに上流に上って行くと、モーフ様が声をかけた。


「アリソン、ここがよさそうだ」

「そうですか。ガイア様、下ろしていただけますか」

「分かった」


 モーフ様が指定したのは草木一本生えていない丘陵だった。


「ねえ、ガイア、ここの土壌改良をお願い」


 モーフ様がそう言ってもガイア様はなんだか不満そうな顔をしていたので、私からもお願いした。


「ガイア様、私からもお願いします」

「むむ、仕方がないなぁ」


 ガイア様が前足を上げてドンと地面を叩くと、痩せていた灰色の土地が黒色に変った。


「グロウ、お願い」


 モーフ様のぶっきらぼうなお願いが不満だったグロウ様は、そっぽを向いていた。


 もう、同じ神獣様同士なんだから、もう少し仲良くしてくださいよぉ。


 私はグロウ様の前まで行くと、両手を合わせてお願いした。


「グロウ様、ご不満でしょうが、ここは寛大なお心でお力をお貸しください」

「むう、アリーちゃんの頼みじゃしかたがないのう」


 グロウ様は両手を広げて種をばら撒くと、ゆりのつぼみのような先端を開いた。


 グロウ様から放たれた光が丘一面を照射すると、瞬く間に地面から木が成長していった。


 すると何も無かった丘がみるみるうちに森に変っていたのだ。


「グロウ様、前から思っていましたが、凄いお力ですね」

「ふふふ、当然じゃ。もっと褒めても良いのだぞ」


 ちょっと褒めると直ぐに機嫌がよくなるのは神獣様達共通なのだろうか?


 森が出来上がると、森全体にモーフ様が作った水が雨になって降り注ぎ、出来上がったばかりの木々を潤わせ、乾いた土にしみ込み、余った水が川に向かって流れだしていた。


 そして私には、出来栄えに満足したモーフ様が笑みを浮かべて頷いたように見えていた。


「モーフ様、ご満足いただけましたか?」

「うん、そうだね。この森から流れた栄養を含んだ水がやがて河口にあるロエルの町をとおって海に流れ込めば、そこで海の幸をはぐくむんだ」

「まあ、それはとても素晴らしいですね。では、この森は決して壊されないように町の人達にも注意しましょう」

「うん、そうだね。それじゃあ、町に行こうか」

「はい、分かりました」


 そして私達はロエルの町に向かう事にした。


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