83 神獣モーフ3
私は不貞腐れているようなモーフ様に声をかけた。
「えっと、申し訳ございません?」
「な、何故、疑問形なのだ? リドルの者が来なくなってから一体どれだけ経っていると思っている。職務怠慢だぞって、貴女初めて見る顔ね。何時も来ていた者達はどうしたの?」
ようやくこちらを見たモーフ様は、本人には絶対言えないが、とても可愛らしくちょっとほっこりしてしまった。
「えっと、分かりません」
「どういう意味?」
「私はアンスリウムでガイア様のお世話をしています」
私がそう言うとモーフ様は小首を傾げた。
「アンスリウム? では、モステラのリドル一族はどうして此処に来ないのだ?」
この地にカラス共が活動しているという事は、既にこの地にリドル一族は追い払われたか、あるいはもっと悲惨な目に遭っているのだろう。
「多分ですが、もう居ないのだと思います」
「どうして?」
「リドル一族を目の敵にする敵がいるのです」
私がそう言うと、モーフ様は目を見開いた。
「お前達は僕たちの世話をする高貴な者達ではないのか? 何故、命を狙われるのだ?」
そう質問されて、私が居た里がカラスに襲撃されたという話をお祖母ちゃんに聞いた時の事を思い出していた。
「この世界の理を否定し、自分達の教義を他人に押し付ける連中が居るのです」
つい声を荒げてしまった事で、モーフ様がちょっと驚いていた。
「そうだったの」
「あ、すみません。つい、熱くなってしまいました」
神獣様には関係ない人間同士のいざこざをぶつけてしまった事に私は反省した。
「それで、ガイアの面倒を見ているお前が、どうしてモステラまで来たのだ?」
「カルテアまで行く途中で立ち寄りました」
「え、たった1人でカルテアまで? 危険な連中も居る中、それは無謀なのではないのか?」
モーフ様は私が敵がいると言いながら、ここまでやって来た事に半ばあきれているようだった。
「ええ、私もそう思いますが、ガイア様とグロウ様が分身体をお貸し頂きましたので、途中、危険な場面もありましたが何とか切り抜ける事が出来ました」
「え、ガイアやグロウが分身体を貸し出したの?」
モーフ様が驚いているところから、神獣様達が分身体を貸し出すのは異例なのが分かった。
「はい、最初はガイア様に荷物持ちが居た方が旅が楽だろうといって貸していただきました。まあ、その分身体が喋ったり、ブレスを放ったりするのには驚きましたが」
「ああ、ガイアはそうところ説明を省きそうね」
「グロウ様は、多分ですが、自分の面倒を見る人間が居なくなるのが嫌だったからだと思います」
「うん、グロウならそうだろうね」
「はい、おかげで何とか此処まで辿り着けました」
モーフ様は尾ビレがふりふりと動いているので、本当はお2人の事を聞いてとても嬉しいのだと分かった。
「でも、お前1人でガイアとグロウの世話をするなんて、行き来だけでも大変じゃないのか?」
「ああ、それは問題ありません。グロウ様の神域にガイア様のリレークリスタルを置かせてもらいましたので移動は一瞬で済みます」
「えっ、グロウがガイアの気配がする物を自分の傍に置いたのか?」
モーフ様はとても嫌そうな顔をしていた。
「ええ、ちょっと嫌がっていましたが、リレークリスタルがあると一瞬で移動できるので、お世話ができますから許可して頂きました」
「そうか・・・あれ、ひょっとしてだけど、グロウからリレークリスタルを預かっていたりするの?」
モーフ様は会話の内容を聞いて、その可能性に思い至ったようだ。
「あ、お気付きになられましたか」
「ま、まさか、それを僕の神域に設置するつもりなの?」
「あ、駄目でしょうか?」
モーフ様は本当に嫌なようで、その瞳が揺れていた。
グロウ様が当たり前のようにリレークリスタルを用意したので、神域内の設置するのは割と簡単なのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
「僕の神域にリレークリスタルを置くということは、ユッカに帰るための手段という事かい?」
ああ、確かに私の都合で嫌なものを置きたくないわよね。
「はい、此処にグロウ様のリレークリスタルを置かせて頂ければ、ユッカとの間で移動が可能になります。まあ、グロウ様がガイア様のリレークリスタルを設置してもらえたのは、私がガイア様のお世話のついでにグロウ様のお世話も出来るという理由もあるのですが」
「ああ、成程、でも、グロウのリレークリスタルかぁ」
なんだろう、モーフ様はとても嫌そうな顔をしているわね。
神獣様同士はそれほど仲が良くないのでしょうか?
ああ、そう言えばガイア様とグロウ様の分身体はいつも口喧嘩をしていますね。
「あの、お嫌でしたら諦めますが?」
「え、ちょっと、待って、僕が断っても、お前は私の面倒を見てくれるのかい?」
「えっと、此処までくる手段がありませんので、流石にそれは難しいかと」
私がそう言うと、モーフ様はとても分かりやすくのけ反っていた。
「そ、それは駄目だ。分かった。リレークリスタルの設置を許可するから、僕の面倒も見てくれないかい?」
「あ、はい、確かにモーフ様にもそれなりのメリットが無いと、許可はいただけませんよね。分かりました。モーフ様のお世話もさせて頂きます」
「そうかい、じゃ、よろしく頼むよ」
「はい、分かりました。それでは持ってまいりますね」
「あ、その前にリドルの娘よ。個体名は何というのだ?」
モーフ様に指摘されて、私は自分の名前を言っていない事に初めて気が付いた。
「あ、これは失礼しました。私はアリソン・リドルと言います」
そして頭を下げてから、リレークリスタルを取に神域から出て行った。
神域の外ではガイア様とグロウ様が待っていたので、成功した事を示すため大きく頷いた。
「おお、良くやったぞ」
「流石はアリーちゃんね」
喜んでくれたお2人に、リレークリスタルの設置を許可してもらった事を告げて、ガイア様からグロウ様のリレークリスタルを出してもらった。
「モーフが簡単に許可するとは思わなかったぞ」
「はい、最初はモーフ様はグロウ様の気配がする物を傍に置くのをとても嫌がっていたのですが、私がモーフ様のお世話をすることで許可を頂きました」
そしてグロウ様のリレークリスタルを持って再びモーフ様の目の前にやって来た。
モーフ様は私が持っているリレークリスタルにグロウ様の気配を感じていた。
「うわっ、うっすらと緑色をしているわね。本当にグロウの気配を感じるわ」
「あのう、止めておきましょうか?」
「なっ、何を言っているの。大丈夫よ、さっそこ、そこに置くのよ」
少し慌てたモーフ様が、神域の端の方をゆびさしていた。
モーフ様に指定された場所にリレークリスタルを置いて振り返ると、そこには両手で水晶を持ったモーフ様が居た。
「あの、その手に持っておられるのは?」
「僕のリレークリスタルだよ。これからカルテアに行くのだろう。さっさと用事を済ませて僕の神域に戻って来れるようにと思ってね。それに僕もこうやって嫌な事を受け入れているんだからノブルの奴にも同じ目に遭ってもらわないとね」
うん、ノブルってまさか。
「あの、ノブル様とはもしかしてカルテアの神獣様のお名前なのでしょうか?」
「ああ、そうだよ」
そう言えばカルテアの事を何も知らなかったけど、船で行ける場所だと思って後でロエルの人達に聞けばいいかと思っていたけど、モーフ様に聞けばいいんじゃ?
「あの」
そしてモーフ様に声を掛けようとすると、いきなり抱きしめられた。
「アリソンの緑の髪と瞳はグロウみたいで癪に障るから、僕色に変えてあげるわね」
あ、これ、絶対にガイア様とグロウ様が不機嫌になる奴だ。
だが、この状態で私に拒否する事は無理なので大人しくされるがままになっていると、モーフ様の神力が私の中に流れ込んでくるのが感覚で分かった。
そしてモーフ様から解放された後で自分の髪の毛を摘まんで前に出すと、予想通り緑色だった髪の毛が青色に変っていた。
モーフ様の満足そうな顔を見れば、瞳の色も青に変わっているのは予想が付いた。
「モーフ様が元気になられましたので、もうノームは解消したのでしょうか?」
「ノームって何?」
ああっと、ノームというのはモステラの人達が命名した現象でしたね。
「ああ、これは失礼しました。モーフ様がお力を失っている間、モステラの地は濃密な霧のようなものが覆いつくされていました。その中には魔魚が生息していてとても危険な場所だったのです」
「ふうん、そうだったんだ。ちょっと待って」
モーフ様はそう言うと、目を瞑って何か探ってるよう様な感じだった。
そして目を開くと、にっこり微笑んだ。
「元通りになっているわよ」
「そうですか、ありがとうございます。ところでモーフ様はノブル様の事をご存じなのでしょうか?」
「う~ん、どうだろう? でもアドバイスはできるかもよ。左腕のブレスレットを見せてもらえる?」
「あ、はい」
モーフ様に左腕のブレスレットを見せると、そこについている神黄石と神緑石を見つめていた。




